比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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三者会談


 風真ふうまの瞼の腫れが引くまでと言って、三人は傍にいた。
 どんな子供だったのか問う風真に、ユアンが「アールは子供の頃からだったよ」と含ませた言い方をし、アールは「ユアンは女に追いかけられて怖くて泣いていた事が」と暴露した。
 そんな事もありましたね、と肯定するトキに、「本気で怒ったトキの方が怖かったけどね」と肩を竦めた。

 何だかんだ言いながら、仲が良かったんじゃないか。その事が嬉しくてにこにこと見つめる風真に、今度は君の事が知りたいとユアンが微笑んだ。

 過去の話をしながら、互いを知っていく。その穏やかな時間が心地よくて、嬉しくて。胸を刺す小さな痛みさえも、優しく包み込むようだった。





 夜には四人での夕食を終え、眠るまで見守ろうとした三人は、余計に眠れないと苦笑した風真に追い出されてしまった。
 丁寧にお礼を言いもう大丈夫だと笑う風真に、何も言えずに……三人は今、談話室にいる。


「トキ。神子の手のは、治療の必要はないのか?」
「はい。一部出血があったようですが、既に塞がっていました。その他の鬱血も、明日にはもう消えているかと」

 その言葉に、アールはそっと息を吐く。
 風真の両手のひらに付いた傷に、三人は気付きながらも敢えて触れなかった。きっと、触れられたくない心の傷だから。
 三人が昼食を全て食べさせたのも、風真自身が傷を見ないようにする為だった。

「神子君を傷付けたのは、彼かな……」

 重く低い声が零れる。
 皮膚を裂くほどに、風真は何かに堪えていた。そんなものを付けさせた相手を、憎まずにいられない。

「……俺が彼を憎めば、神子君を余計に傷付ける、か」
「そうですね……。私たちが憎めば、もしフウマさんご自身が憤っておられても、あの方は悪くないと言って庇われるのでしょう」

 そして、許してしまう。誰かを嫌う事の出来ない風真だから。
 ユアンとトキは視線を伏せ、重々しく息を吐いた。


「何があったか定かではないが、私たちは、ケイに非があるという考えに傾いているのではないか?」

 アールが、静かに呟く。

「神子は、ケイを大切に送り届けるようにと言った。ならばケイは、少なくとも意図的に神子を傷付けたのではないだろう」
「……アールは、ケイの味方か?」
「全面的に神子の味方だが?」

 何を馬鹿な事を、と呆れた顔でユアンを見た。

「先入観は瞳を曇らせる。神子が理由を話さないうちは、私たちはただ神子が笑っていられるように努めるべきだと言っている」

 表情も変えずに淡々と諭すアールに、ユアンとトキは目を見開く。

「……アール、だよな?」
「何を言っている?」
「殿下に諭される日が来るとは……」
「お前たちが私に諭させる日が来るとはな」

 感情の制御が上手いユアンも、今は形無しだ。それに、言い争う暇があるなら風真を笑顔にする方法を考えろと言ったのはトキだ。

 風真の傷に心を痛めていたアールが、至極冷静に言葉を紡ぐ。ユアンとトキは顔を見合わせ、そっと息を吐いた。

「アールのおかげで頭が冷えたよ。そうだな……ひとまず、神子君が元気になって良かったよ」
「そうですね。ですが原因は分かりませんでしたので、これからもフウマさんのご様子は注視していきましょう」

 いつまた思い出して心を痛めるか分からない。無理に原因を訊く事はせずに、暖かく見守ろうと三人は頷いた。

「ケイと顔を合わせなければ良いのだろうが、……神子の負担が減る利点を考えると、簡単には切れない相手だ」
「第一部隊に任せてくれたらいいんだけどね。神子君は俺たちが傷付く方がつらいみたいだし、……冷静に考えれば、あの炎の力は欲しいな」
「お一人で討伐されて、討伐中に一定量以上の邪気を取り込まれたら、お祓いも効果がありませんしね」

 シン、と静まり返る。


「……今のフウマさんなら、受け入れてくださるのでは?」
「……その前に、私たちが揉めるだろう」
「……そうですね。諦めた私でも、治療ならば立候補します」
「トキ。愛のない行為は相手を傷つけるだけだぞ」
「殿下から愛を語られる日が来るなど、明日は嵐でしょうか」

 にっこりと笑うトキに、アールは一瞬怯む。だが、ここで引く訳にはいかない。
 そんな二人を、呆れと罪悪感をもって見つめた。

「二人とも。下からの摂取で考えてる?」

 そう考えたのは、以前のユアンも同じだ。

「摂取なら、口からでもいいんじゃないか? 俺たちが自分で出したのを舐めて貰うくらいなら、神子君も苦い薬と思って我慢してくれるんじゃないかな」

 その方法を思いついたのは、口からの直接摂取を終えた後だ。やった後で言うのも卑怯だが、二人には限りなく薬に近い方法で摂取させたい。
 それに二人の今の言動から、どちらかを選んでいたら、風真の貞操が失われていた可能性がある。二人はわりと周りが見えなくなる時があるのだ。あの時風真が選んだのが自分で良かったと、ユアンはしみじみと思った。


「ユアン……。お前、やったな?」
「ん?」
「対抗して来ないうえに、やけに具体的な提案をしてくる。私たちにそうさせたいからだろう?」
「それはまあね。二人とも邪気の溜まった神子君を前にしたら、早く治したくて無理矢理襲いそうだから」
「そんな事はっ」
「……口から、という選択肢もあるのですよね」

 トキがぽつりと呟く。するとアールも眉間に皺を寄せた。

「だが……。……ユアン、神子に摂取させたのか?」
「トキのお祓いを毎回受けてるって言ってたのに、そこまで邪気が溜まる事ないでしょ」

 ユアンは肩を竦めた。

「俺がしたのは、二人の前でするような悪戯だけだよ」

 ただ触れただけ。ユアンはサラリと嘘をつく。真実を言っては、何故ユアンを選んだのかと風真に問い詰めに行ってしまいそうだ。


「飲ませるだけだと、フウマさんの泣き顔は見られない……」
「トキ。神子君に何をしたのか懺悔して?」
「え? あっ」

 口に出していた。トキにしては分かりやすく動揺して視線を逸らした。
 三人でいる時、トキが風真を喘がせてイかせた事がある。あれはその場だけの事だと思っていた。だが、今の口振りは、今までも風真を泣かせる何かを日常的にしていたという事だ。

「トキ?」
「…………ユアン様のように、着衣のまま触れただけです」
「どんな状況で?」
「これ以上は、フウマさんを辱める事になりますので」
「そう。それほどの何かをしたんだ?」

 責める声。まさか自分が懺悔をする側になるなど。トキはそっと冷や汗を流した。

「二人とも、今後一切神子に近付くな」
「そう言うアールも、何かしたんだろ?」
「私はしていない。お前たちのように、悪戯など」

 そこで、気付く。
 彼らのような悪戯はしていない。だが、感情に任せて酷い虐げ方をしてしまった。それも、何度も。

「……私は、神子を大切に想っている。神子の意志に反する事はしない」

 もう二度と、傷付けない。
 そっと息を吐き、もう寝ると言って部屋を出た。


「殿下は、フウマさんに相当酷い事をしたのでしょうか」
「どうだろ。最近のアールは今までと違うからな」
「フウマさんは何でも許してしまわれますし、やりすぎてしまう気持ちは分かりますが……」
「そうだね。ひとまずトキは、神子君と二人きりにならないでくれるかな?」

 笑顔で本気の牽制をされ、トキは苦笑するしかなかった。

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