比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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感傷の先


「んあーっ、今のナシっ」

 また思い出してしまい、手すりに額を押しつけた。

「あー、なんか星が綺麗すぎて感傷的になったみたい。って、ガラじゃないけどさ」
「私といる時は、無理をするな」

 明るく笑おうとする風真ふうまを、アールの腕がきつく抱きしめる。

「無理に笑うな。真正面から怒りをぶつけてきた時のように、素直なままで良い」
「アール……」
「私は、ユアンやトキのように言葉で慰める事は出来ない。だが、聞く事は出来る。返答を求めない独り言を吐き出す場所には、最適だと思うのだが」

 自虐のような事を言い、腕の力を少しだけ緩めた。

「何を聞いたところで、お互いに最初の印象が最悪だったおかげで幻滅する事もないだろう?」
「ふはっ、それもそうだな」

 お互いに。それなら、後は上がるしかない。
 ユアンやトキには返答に困るだろうと思い言えない事も、アールになら言える。そんな気になってしまったから不思議だ。
 これは独り言。空を見上げ、そっと息を吐いた。


「そうだなぁ……。この間は、悲しいとか苦しいとか憎いとか、いろんな感情がぐちゃぐちゃになって、泣くしか出来なかったんだ」

 言葉にすると、あの時はそれで精一杯だったと思える。
 元々頭で考えるのは得意ではない。感情も許容量を越えてしまった。だから、ケイに対して配慮が出来なかった。あの時は精一杯だったのだと……そう思ってしまえた。

(次に会ったら、謝れるかな)

 ぽつりぽつりと言葉にすると、ケイへの感情は罪悪感に変わっていく。
 ケイはただ、同じ境遇の者がこの世界で幸せになれたと思っていただけ。ゲームを知っていれば、家族のいる者が召喚されたとは考えもしないだろう。それでも。

「この世界にきたのは仕方ないことだった……なんて、それだけは、今でも思えないけど……。今からみんなのいない世界で生きるのは、正直、もう無理なんだよな……」

 もしも、誰の事も選べなくても。アールたちが他の誰かと結ばれる事になっても。例え独りになったとしても、彼らが生きているこの世界を、現実にしていたい。


「この世界を選んだこと、姉ちゃんなら理解して、応援してくれる。でも俺は、……俺は、姉ちゃんのことを……捨てたんだ」

 大事な家族より、この世界を選んだ。それは、そういう事だ。

「こんなこと言ったら余計に悲しませるって分かってるし、すごい怒られるだろうけどさ」

 どこにいても幸せを願っていると言ってくれた。離れていても一緒にいる。大切に想い合っている。この世界を選んだ事を、捨てられたと思うような人ではないと、分かっている。

(選ぶ、のは……苦しい)

 じわりと視界が滲む。大切なものを秤にかけるのは、悲しい。
 アールたちの事も、どちらかを選べば、どちらかの気持ちを捨てる事になる。きっと、悲しませる。それが、苦しい。

(俺には、選べない……)

 その気持ちが、感情に蓋をしている。好きになる事を拒んでいる。誰か一人を特別にしたくない。

「……姉ちゃんに、会いたいよ」

 会いたい。顔を見たい。話をしたい。この空の先が、あの世界に繋がっていたら良いのに……。


 みんな、大切にしたい。


 ぎゅっと目を閉じ、ゆっくりと開ける。
 見上げれば広い空。遠くに輝く星には、こちらも同じように見えているのだろうか。
 無数の星々の一つ。この悩みも、自分の存在も、広い宇宙に比べればちっぽけなものに感じられた。

「空って、広いよな……」

 今だけは、全て些細なものだと錯覚していたい。大切なものを見落とさないように、視野を狭めないように。

「ありがと。吐き出したらすっきりした」

 振り返り笑ってみせると、そうか、とだけ言って頬を擦り寄せられた。
 そのくすぐったさが、暖かさが、心に染み渡る。何も言わずただ寄り添うだけ。それがあまりにも暖かかった。


 心地よい沈黙が流れ、ふと、アールが口を開く。

「寝室に、何を飾ろうかと考えている」

 腕の力が緩み、元のように風真を腕の内に入れたまま手すりに手を付いた。

「お前なら、何を飾る?」
「俺? そうだなぁ。寝る前に見て幸せな気持ちになれるのがいいよな。アールの部屋なら……あ、ベッドに座った時に見える壁に、絵を飾るとかは?」
「絵か。私もそれは考えた」

 風真に寝室があったらの話だったが、この部屋に飾るものを考えてくれるのも嬉しかった。

「お前の肖像画を飾ろうと考えたが」
「えっ」
「お前を描くなど、お前を創った神にしか無理だろう?」
「んん?」

 冗談かと思えば、アールの声は至って真剣だ。

「人間ごときに、お前の魅力を描けるとは思えない」

(アールが神目線になってきた……)

「神子が神の子とは良く言ったものだな」
「多分アールが思ってるのと違うと思う」

 神の子供ではなく、神が選んだだけだ。

「いっそのこと、部屋にお前を置いておきたい」
「んっ、んー……それはちょっと」

 一緒に暮らそうと言っているようなもの。アールにそんな気はないと思いつつ、勘違いしてしまう。


「私が好きなものは、お前だけだ。そのお前が好きなものを飾りたい。そうすればいつでもお前を思い出せるだろう?」

(無自覚デレこわいっ……)

「……今度、仕立屋を呼ぶ」
「へ? そっか?」
「私の服を、お前に選んで貰いたい」
「ンッ、……俺、センスないけど」
「絵の中から選ぶだけだ」
「あ、それならいけそう」
「日程が決まり次第伝える」
「おー」

(……あれ?)

 アールの服を選ぶ事が決まってしまった。そっと振り向くと、引っかかったという顔を……。

(いや、めちゃくちゃ嬉しそうな顔してる)

 そんな顔をされたら、何も言えない。風真は顔を前に戻し、遠くの空を見つめた。


「また来てもいい?」
「ああ。いつでも来い」
「ありがと。次は夕焼けが見たいんだよな」
「そうか。外には出ずに待っていろ」
「大丈夫だって、落ちないから」

 本当に心配性になったよな、と苦笑する。

「お前と一緒に夕焼けを見たいからだ」
「っ、……あ、そういう、ですか……」

 さらりと甘い事を言われては、途端に照れてしまう。じわじわと紅くなる頬に掠めるだけのキスをして、アールは風真から離れた。

「衛兵が化け物でも見た顔をしているな」
「えっ、……ほんとだ」

 風真が視線を向けるとハッとして顔を逸らされたが、遠くからでも分かるほど驚愕の表情で震えていた。

「今までのアールなら絶対こんなことしないもんな」
「今もお前以外にはしない」
「う、うん、そうだよな。ってか、部下の人たちにこんな姿見せて、威厳とか色々大丈夫?」

 以前、風真の部屋に入るまでは横暴なふりをしていた。てっきり威厳がなくなるからだと思っていたのだが。

「威厳? 誰に物を言っている?」
「あっ、なんかすごい安心した」
「心配なら、私は威厳を持って、お前は私のものだとしっかりと見せつけておこう」
「はっ? いやいや、必要ないって。ほら、あっちの人とか槍? 落としちゃったし」
「減給ものだな」
「アールのせいだからっ」

 そう言っても、ぎゅうぎゅうと抱きしめて髪に唇を押し付ける。別の衛兵がまた槍を落とした。

(あれっ? 身動き取れなくないっ?)

 教えて貰った護身術が、全く使えない。ぴったりと密着して、肘を引く事も出来なかった。
 アールやトキに使う予定はなかったが、次はこういう場面に抜け出す対処法を教えて貰おうと決め、視線を逸らす衛兵を遠い目で見つめた。

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