比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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伝わっているなら


「大変お騒がせしました。見えるようになりました」

 扉を開け、ぺこりと頭を下げる。

「本当に見えているか?」
「見えてる見えてる、近い」

 顔を近付けられ、ぐいぐいと押し返した。その手を逆に取られ、手のひらにキスをされる。
 唖然としている間に腕を引っ張られ、今度はソファに座らされた。

(あ……アールが、すごい王子様になってる……)

 私が育てました、と頭の中でツッコミが返る。だが腕を鷲掴みして引っ張るところはまだまだアールだ。
 このまま完璧な王様になって欲しいような、今のままでいて欲しいような。複雑な気分だ。


「フウマ」
「っ! えっ、なにっ?」
「トキのお祓いを受けていなかったのか?」
「いや、受けてたけど、時々遠隔で討伐できる時があって」
「遠隔だと?」

 焦ってうっかり口を滑らせた。しまった、……が、トキのお祓いは効いていたと主張するには、説明が必要だった。

「その、さ。騎士さんたちが苦戦してる時に目の前に光景が現れて、そのまま討伐できるんだけど、距離が遠いからちょっと多めに力使うみたい」
「二度と使うな」
「えっ、無理っ」
「またを飲まされたいのか?」
「みんなを助けられるなら、いくらでも飲むよ」

 あっさりとそう答えた。

「俺がもっと頭と体を鍛えれば、そんなに邪気溜まらなくなるかもだし。力があるなら出し惜しみしたくない。アールたちには迷惑かけるけど、ごめん」

 助けないという選択肢はない。神子としての役目が果たせるうちは、出来れば死ぬまで、皆の力になりたい。


「……そうか」

 風真ふうまの意志は固い。ここで頷かせたところできっと、力を使う事をやめないだろう。アールは早々に折れ、深く息を吐いた。

「遠隔で討伐した後は、すぐに私を呼べ」
「アール……」
「ユアンは呼ぶな。お前は私のものだけ咥えていろ」
「お、おお、言い方な」

 素直な分、ストレートに伝え過ぎる。アールの良いところであり、要改善なところだ。

「えっと、俺の目のこと、トキさんには言わないで欲しい。お祓いが効いてなかったかって誤解させるから」
「ああ、分かっている。トキが仕損じる事がないともな」

 一定量溜まる前なら、トキに祓えない邪気はない。だからこそ若くしてあの地位に登り詰めた。
 トキの力を認めているアールに、風真は嬉しそうに頬を緩めた。


「訊きたかった事がある」
「ん?」
「何故、ユアンを選んだ?」
「えっ……ええっと、トキさんはさっき言った理由で、アールは俺が熱出した時にすごい心配してくれただろ? だから、……と」

 言わない方が良いかと悩むが、これではユアンは心配してくれないと思っているようだと唸る。それに、後々何かしらの誤解が生まれても困る。

「それと、二人は俺の目を早く治してくれようとして、ちょっと……焦って無茶しそうだなって。……ごめん」

 伝われと思いつつ、言葉をぼかして言う。視線を逸らし気まずそうにする風真に、アールは正しく察した。

「確かに私とトキは、この件を協議する前は、下からの摂取しか頭になかった」
「協議したのっ?」
「話の流れでな。出したものを飲ませるというのは、ユアンが提案した事だ。……あの野郎」

(アールが俗っぽい言い方をっ)

 怒った表情も今までで一番人間らしい。だがすぐに息を吐き、元通りの涼しげな顔に戻った。

「選んだのではなく、選択肢がユアンしかなかったのか」
「……消去法じゃなくて、ユアンさんなら、答えを出さない状態でお願いする理由を、冷静に理解してくれると思ったんだ」

 黙っていれば良いことを、黙っていられない。消去法だと思わせた方が、アールには良いのに。


「……フウマ」
「っ……」

 視界がグラリと揺れ、ソファへと押し倒される。痛いほどに肩を掴まれ、アール、と名を呼ぼうとして、……出来なかった。

「ユアンが、好きか? 私では、駄目なのか?」

 真っ直ぐに見下ろす空色の瞳。苛立ちと怒りを浮かべた表情。アールの手が、風真の顎を掴んだ。

「心が手に入らないなら、体だけでも……」

 静かに紡がれる言葉。押し殺した感情が、風真の背筋を震わせる。
 ……だが、何故だろう。今のアールなら、しないという確信があった。

「アール……」

 今度こそ名を呼び、アールの背にそっと腕を回す。これが正しい方法か分からない。それでも、今のアールを突き離す事が出来なかった。

「っ……、お前には、分かっているのだな……」

 顎を掴む手が離れ、肩を掴む手は縋るように風真を抱きしめた。
 体だけでもと、それを実行するにはもう、風真の心を大切に想い過ぎている。心を傷付けてまで手に入れたいものなど、もう何一つなかった。


「伝わっているのなら……いや、伝わっているというのに、何故私を選ばない? どうすればお前は、私を好きになる? 何を与えれば、ユアンではなく私を……」

 抱きしめる腕が震える。風真を傷付けないようにと、衝動を、感情を堪えた。

「ごめん……俺、まだ……」

 分からない。こんなにも大切に想われているのに、応えられない。
 選べば、傷付ける。どちらも、大切なのに。
 どちらも好きで、どちらかを選ぶなんて……。

(選ばなければ、今のままでいられる……?)

 どちらも選ばない。それが、最善なのでは。

「ぁ……、俺……」

 例えバッドエンドになっても、……バッドエンド、三人と一緒にいられる。
 二人の想いから逃げる選択をしても、ずっと一緒にいられるなら……。


「馬鹿な事を考えるな」
「っ……」
「お前の考えくらい分かる」

 アールはそっと息を吐き、風真を抱き起こす。そして宥めるように風真の頭を撫でた。

「すまない。取り乱した」

 慣れない感情から、焦りから、風真を追い詰めた。泣き出しそうに顔を歪め、本意ではない答えを口にさせようとした。
 そうなればもう、二度と心からの笑顔を見られなくなる。取り返しのつかない事を、するところだった。

「これだけは言っておきたい。どちらを選ぼうと、もう一方が離れていくなどない。トキを見ろ。諦めたと言いながら、当然のようにお前に手を出す」

 わざと呆れたように息を吐いた。

「私もユアンも同じだ。選ばれずに傍にいるのはつらいが、お前と離れる方がつらい。それに、私たちを選ばず、どこの馬の骨とも知れない奴を選ばれでもしたらたまったものではない。ユアンならまだ諦めもつく、……万が一にもユアンを選んだらの話だが」

 アールがライバルと認めているのはユアンとトキだけだ。風真を任せられるのも、二人だけ。

「……そうだな。お前がどちらを選ぼうと、私は変わらず傍にいる。だから、選ばない選択をするな」

 そっと頬を撫でられ、優しい瞳が風真を見つめた。

「うん……。ごめんなさい……」
「私の方こそ、急いてすまなかった」
「……アール、すごい優しくなったし謝るようになったよな」
「お前にだけだ」

 愛しげに目を細められ、額にキスをされる。
 この暖かさが自分にだけ向けられていると思うと、こんな状況だというのに、心がきゅうっとなり涙が出そうだった。

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