一見くんと壱村くん。

樹 ゆき

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高校最後の想い出

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 それから卒業まではあっという間だった。
 長かった三年間も、終わってみると一瞬の事にも思えて。卒業式でボロ泣きする友人や弐虎にこを宥めながらも、自分もウルッときてしまった。

 思えば、一見いちみが現れてから人生が変わった。
 一見がいなければ、進む大学も違い、家を出る決断をする事もなかった。
 この外見も、内面も、以前よりも好きになれた。
 そして何より、誰かを好きになる事を知って。向けられる想いを、疑わずに受けとめられるようになった。
 それはとても貴重な事だと思う。



 そんな高校最後の想い出に、これはどうだろう? とは思ったのだが。
 まだいけるかと、以前約束をしていた通りに女装をしてデートをする事にした。

 姉も気合いが入ったらしく、綺麗に巻かれた腰までのロングのエクステは、黒から淡い茶色へのグラデーションカラーになっていた。
 メイクも以前より華やかで、何よりリップはツヤツヤに見えて触っても何しても落ちないようにしたわ! と力強く主張された。いや、何をさせるつもりなのか。

 呆れ混じりの溜め息をついてしまったが、姉の技術はやはり最高で、どう見ても美少女にしか見えない。
 春らしい明るい色合いのふわりとした素材の服も、姉の本気が表れていた。

 一見もとても気に入ったらしく、可愛い、と言ってあまりに甘い笑みを浮かべるものだから、周り中の女性の視線を集めてしまった。


 そんな事も気にせず、壱村いちむらの手を取り“ベタ惚れです”という顔で店へと入っていく。
 今日は熊グッズの店を見て……今回はきちんと郵送をして、昼食後は海に行く予定だ。


 春色仕様の熊グッズたちは一見の家へと送り、お揃いのストラップをスマホに付けていた時、突然一見の背後から聞き覚えのある声がした。

「えっ……!? 一見が、浮気っ……!?」

 まさか、と唖然としているのは、やはり一番仲が良く一番騒がしい友人。

「お前……壱村のことはどうすんだよ……」

 唖然とした中に怒りが見えて、こいつ本当にいい奴だな、と壱村は感動する。とても良い友人である。

「あっ、おにいちゃんのお友達ですか? 兄がいつもお世話になってます~」

 壱村はそう言って一見の陰から顔を出し、コテン、と首を傾けにっこりと笑ってみせた。すると。

「えっ……、浮気じゃなかった!? 壱村の妹なの!? うそっ、可愛い!」

 あっさりと信じてパッと明るい顔をした。 隣でもう一人の友人はまだ少し疑う顔をしていて、この二人は本当に良いコンビだなと思う。大学でも馬鹿正直な友人が悪い奴に騙されないように守ってやって欲しい。

「わあ~、ありがとうございます~。ははっ、残念だったな。俺だよ」

 愛らしい声から、半オクターブ低い声へ。
 相変わらず見事な切り替えに、一見が隣で得意気な顔をした。


 彼女自慢……? 頭がついていかず、友人は首を傾げる。

 だが、一見がこんな反応をする相手は、……ただ一人。

「…………………………壱、村……?」
「おー」
「…………マジ……?」
「はぁい、まじです~。お前の友達の壱村君だよ」

 声を切り替えながら、ニヤリと笑った。

「ンッ……、う、うあーーーー!! 騙された!!」

 教科書にでも載りそうな見事な地団駄を踏みながら悔しがる。

「なんでそんな面白いことになってんの!? 俺も呼んでよ!?」
「お前ってほんと偏見なさすぎていい友達だよな」
「ありがとな! 笑えすぎていっそ笑えない!」

 似合いすぎ! と壱村をマジマジと見る。見れば見るほど笑えない。ただの美少女だ。

「壱村は悪戯好きだから」
「こいつが面白い反応するのは分かってたからな」
「あまりいじめたら駄目だよ?」
「ちょっとそこイチャイチャしないでくれます!?」

 傍目を気にせずにいられる姿なのを良い事に、友人の前で手を取り合いにっこりと笑った。
 そんな二人の指に、キラリと輝く物が。

「………………あれ……? 結婚、した……?」

 ただのペアリングだろ、と隣でもう一人の友人が呆れた顔をする。
 そんな二人に、一見は幸せいっぱいという顔をして。

「まだ保留にされてるけど、俺はそのつもりだよ」

 そう、言い切った。
 壱村は無言だが、満更でもないような顔をしている。

「っ……おめでとう!? リア充爆発しろ!! 良かったな!!」
「お、おお。ありがとな。いつもより情緒不安定だけど大丈夫か?」
「こいつ、昨日フラれたばかりだから優しくしてやってくれ」
「情報漏洩やめて!」

 ウッ、と両手で顔を覆う。今日も彼が元気そうで良かった。

「悪かったな。お詫びに何か奢るからさ」
「俺も奢るよ。ごめん」
「憐れむなー! 余計に虚しくなる!」


 ……と騒ぎながらも、しっかりとセットメニューを奢って貰う友人だった。

 壱村としても男三人に囲まれる小悪魔美少女の気分が堪能出来て、なかなか楽しかった。
 周りの誰も男だとは気付いていないようで少し複雑だが、きっと一見がイケメン過ぎるせいだろう。一見と並ぶと25cmも差があるのだから。

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