オフ会から始まるワンダフルライフ 人生を彩るのはオンラインゲーム!?

佐藤哲太

文字の大きさ
46 / 166
第2章

食欲に負けるのは自然なことかもしれない

しおりを挟む
 日曜日の夜20時。
 少し遅めの時間だが、俺は神田駅を訪れていた。
 まさかの1週間で2度目の神田だ。
 もはや神田好きと言ってもいいレベルだろう。

 ってそんなわけあるか!

「おまたせっ、えへへ、ご飯の約束、予定より早くできちゃったねっ」

 マスクに黒ぶち眼鏡をかけた、紫色のパーカーワンピース姿の女性が改札付近に立っていた俺のそばにやってくる。これがこいつなりの変装なんだろう。
 というか、ワンピースは俺が好きな女性の服装の一つなのだが、こいつまさか、覚えてやがったか?

「いや、俺もさっき来たとこだよ」
「そこはさー、今きたとこ、でしょ?」
「倫理教師なんで、嘘はつけません」
「うわ、でたそれー」

 眼鏡の奥の目が、楽しそうに笑っている。
 自分でもまさかこんなに早くこいつと飯にいくとは思っていなかった。
 だがまぁ、今回は俺のせいじゃない。

「このくだり、昔もやったねっ」
「あー、同じ家から出てったくせにな」
「そうそう、待ち合わせの雰囲気だけ味わいたくてっ」

 そう言ってはしゃぐ彼女は、亜衣菜は無邪気に笑う。

「あのときもりんりん、さっき来たとこって言ってたしっ」
「あー、そうだっけか?」
「そうですー。あたしは覚えてますー」

 やっぱこいつ、笑った時の目可愛いな。
 とりあえず立ち話もなんなので、俺たちは改札前から移動する。
 じんわりと浮かび上がる、あの頃の感覚。

「個室で予約できたのこの時間からでさー、遅くてごめんね」
「いや、個室優先はしょうがないよ」
「あは、ありがとっ」

 ちなみに今ここで待ち合わせしているのには、ちゃんと理由がある。
 そう、昼過ぎのスキル上げパーティを解散したあと、亜衣菜が俺に言ってきた。

〈Cecil〉『何か、食べたいものはありませんか』

 奇しくもその時俺の頭の中に浮かんだ単語は一つ。

〈Cecil〉『焼き肉、食べたいよね』

 そう、俺はこいつと会いたくて今ここに来たわけではない。
 「奢るよ」の言葉と、頭に浮かんで離れない単語に引かれて、ここに来ただけなのだ。
 全てはYakinikuさんがもたらしたサブリミナル効果のせいなのである。

 俺も亜衣菜も、彼のプレイヤーネームに洗脳された。

 だって、2時間近くずっとYakinikuって言葉が目の前にあったんだぜ?
 そりゃ、食いたくなるだろ。
 やきにくさんおそるべし。

 え? Daikonもよく見てるだろって?
 馬鹿だなぁ。目の前に大根って言葉があって、あ! 食いたい! ってなるか?
 それを調理した何かならまだしも、素材そのものだぞ?
 だいとやきにくさんではわけが違う。

 ……ここで違う意味で食べたいとか思わないのか、って思ったやつは反省してろ。

「今日は、山下さんはいないのか?」
「さすがにあたしのプライベートにまではついてこないよー」
「そ、そうか」

 よかった!
 どっかで見られててもおかしくないような子だったけど、さすがにそこまで無粋な性格じゃなかったか。
 俺もう、ほんとあの子が怖くてしょうがないよ……。

「りんりんと二人で外食って、いつぶりだろうねー」
「あー、お前がLAハマってから、ずっと家ご飯だったしな」
「その節はお世話になりました」
「はいはい」

 わざとらしく手を合わせて礼を言う亜衣菜に苦笑いを浮かべつつ、俺は亜衣菜の先導で駅から少し離れ、路地の方へ向かう。
 あたりはすっかり暗くなってるし、オフィス街が多いこの辺を歩く人はあまりいるようには見えなかった。

「そういえば、この前だいと何話してたの?」
「あ、菜月ちゃんと?」
「お、おう、そう」
「言うわけないじゃ~ん」
「えー」
「秘密のある女の方が、燃えるでしょ?」
「はぁ、そうですか」

 くそう、亜衣菜なら何か教えてくれるかと思ったが、そう簡単にはいかなかったか!
 しかし仲良くなったのは明らかだし……気になる……。

「あ、ここだよー」
「おおう、高そうな……」
「んー。まぁお金は気にしなくていいよ」
「俺もそんな言葉言ってみたいわ……」

 店の前には【牛膳ぎゅうぜん】という看板のみ。
 ぱっと見一見さんお断り感のある、いかにも、な焼肉屋だった。
 たぶん和牛しかおいてないとか、そういう店なんだろうな。

 しかし亜衣菜のやつ、どれくらい稼いでるんだろうか?
 『月間MMO』からの収入とか、想像つかねぇな。
 といってもあれか、足りなきゃ足りないで、実家からの仕送りもあるんだろうな。
 今日は、お言葉に甘えるとしよう。

「予約した武田でーす」
「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」

 店内に入ると、和服を着た女性が案内をしてくれた。
 薄暗い店内を進み、完全個室となっている一室に通され、俺と亜衣菜は向かい合って座る。
 掘りごたつか、足しびれないからありがたいなぁ。

「お飲み物はいかがしますか?」
「あ、俺ビールで」
「あたしも同じで」
「かしこまりました」
「あ、あとお任せコース二人でおねがいしまーす」
「かしこまりました」

 おしぼりを渡されると同時に、飲み物のオーダーしたのだが、続けて亜衣菜が言った言葉に俺はきょとんとしてしまった。
 なんだお任せコースって。
 メニュー見ながら頼んだりとか、え、しないの?

「あ、食べたいのあったら、そこのメニュー見ていいからね」
「お、おう……亜衣菜は、よく来るのか?」
「えー、よくってほどじゃないけど、焼肉食べたくなったらここかなー。お兄ちゃんに紹介されたんだけど、札幌の焼き肉屋の東京店なんだって。完全個室だし、いいかなって」
「そ、そうか」

 ルチアーノさんの紹介って、それって、つまり、あれだろ?
 金持ちが行く店ってことだろ?
 うわー、別世界やーーーー。

「じゃ、かんぱーいっ」
「か、かんぱーい」
 
 笑顔の亜衣菜が差し出してきたビールグラスに俺のを軽く当てて乾杯する。
 俺の方のグラスを少しだけ下にしたのは、もはや無意識だったかもしれない。

「んー、美味しいっ」

 俺はちょっとした緊張感でそれどころではなかったのだが、ビールを口にした亜衣菜は幸せそうな顔をしていた。
 てかこいつ、ビール飲むようなったのか。
 LAを始めるまでは一緒にお酒を飲むこともあったのだが、あんまりビール飲んでるイメージはなかった。
 そんな思い出との違いに、時の流れを感じるな。

「付き合いで飲みにいったりとかはあるけどさ、やっぱりんりんと飲むのが一番美味しいかもっ」
「はぁ?」
「なんていうか、気持ち的に?」
「そうかそうか、よかったな」
「むぅ。言っとくけど、あたしりんりんと別れてから誰とも付き合ってないからね!」
「そりゃ、あんだけLAやってたらそうだろうよ」
「それは、そうだけど。むー、そうじゃなく!」
「なんだよ、ちゃんと言えよ」

 うちの生徒か! というツッコミは控えつつ、俺は唇を尖らせた亜衣菜を見て軽く笑っていた。
 今日はちゃんと用意してきたのか、全体的にちゃんとメイクをしているようだ。
 とはいっても、素がいいからな。いわゆるナチュラルメイクってやつだろう。
 薄ピンクに塗られたリップが、ちょっとだけ色っぽいけど。

「……あたしたちも、大人になったよね~」
「見た目の話?」
「うん。あの頃は何もしなくてもぴちぴちだったけど、今はやまちゃんがあれしろこれしろってさー」
「あぁ、女の子って大変だなぁ」
「うんー、一応、見られる仕事してるし、さ?」
「そうなぁ。俺も疲れは抜けにくくなったなぁ」
「りんりんおじさんくさーい」
「うるせえ、俺がおじさんならお前はおばさんじゃ」
「えー、ひどー」

 大した会話をしたわけじゃないのに、いつのまにか二人して大笑い。
 あー、懐かしい。
 たしかに見た目は俺もこいつも大人になったと思うけど、こうしてるとあの頃と同じような、中身は同じなんじゃないかなって思うなー。

 そうやって笑ってると、皿にもられた肉が届く。
 一種類2枚ずつくらいで、色々説明された気がするけど、正直全然覚えられなかった。
 分かることは一つ。

「うわ、うまっ! なにこれ!」
「でしょ~?」

 亜衣菜が焼きたいから、と焼いてくれた肉を頬張ると、めちゃくちゃ美味い。
 今まで行ってたチェーン店でも焼肉は美味いと思ってたが、なんかもう別次元だ。
 これが、高級焼肉店か……! すさまじいぞ。
 亜衣菜のドヤ顔も、今ばかりは認めざるを得ないな。

「こっちも食べてみてー」
「おう、どれどれ」

 なぁんて、俺が食べてるのを見てる亜衣菜はなんだか楽しそうに見えたな。

 そして俺と亜衣菜は、その後も楽しくその時間を過ごした。
 俺と亜衣菜の間にあった空白の時間を補い合うように、これまでのことを色々話しながら、その時間は、過ぎていくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編7が完結しました!(2026.1.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密

まさき
青春
 俺は今、東大院生の実験対象になっている。  ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。  「家庭教師です。住まわせてください」  突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。  桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。  偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。  咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。  距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。  「データじゃなくて、私がそう思っています」  嘘をついているような顔じゃなかった。  偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。  不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。

処理中です...