異世界転移したけれど、今までの世界と比べて平和でした。

犬宰要

文字の大きさ
36 / 64

36

しおりを挟む
「ねぇ、レンツ・・・海って知ってる?」
 
「この世界のか? それとも俺たちがいた世界のか?」
 
「両方かな」
 
「俺たちがいた世界の海は任務で行くこともないし、サイボーグの俺にとっては割と近寄りたくない場所という認識だったな」
 
「感想を聞いてるわけじゃないんだけど」
 
「湖よりも大きくて、塩が取れる場所という認識しかない」
 
「そうよねぇ、私もその認識なんだけど・・・この都市ってどうしてこんなに栄えてるのかしら?」
 
「さぁ・・・?」
 
 どこまでも続く透き通った海水が広がっていた。俺が知ってる海というのは大分濁っていたり、場所によっては汚染されてたり、知識だけでは海の底がわかるくらい透き通ってるというのは初めて知った。湖はもっと濁っていたりしたからだ。
 
 そして、海上に大きな都市があり、それが海の下にも都市が続いていた。
 
 都市マモンから数週間移動し、村や小さな都市を転々とし着いた先は都市レヴァイアサンだった。陸地が計画的に繰り抜かれたような階段状になっている都市で、海の底まで都市が続いていた。今、俺たちは外側の高いところから都市を見下ろしていた。
 
 この都市レヴァイアサンは今までいた都市と比べて騒がしく感じた。
 
「風にのって、なんか歌が聞こえてくるわね」
 
 騒音的なものではなく歌だった。
 
 解析、魔力と音波による歌であり種族によっては何かしらの人体および精神状態の変化があります。
 
 鼓舞するだけはなく、実際にブーストかけたり相手に何か阻害効果与えたりするわけか・・・。
 
「とりあえず、都市に入って宿泊所探そう」
 
「そうね」
 
 俺たちは車に乗り、都市に向かった。都市マモンでゴブリンたちが一度は訪れたいと言わしめていた都市だった為、試しに行ってみることになった。筋肉を鍛えることに夢中になっていたゴブリンたちが訪れたいと言っていたのはどういう事なのか、俺とナミは気になっていた。
 
 彼らの話を聞いても、夢心地になれるらしいとしきりに言っていた。都市アスモデウスとどう違うんだと聞いたら全然違う、と言っていたが要領を得ない回答でよくわからなかった。
 
 都市に近づくにつれ、外から聞こえる音が段々と明確になってきた。
 
 それは音楽であり、歌だった。
 
 初めて聞く歌が俺とナミを不思議な気持ちにさせた。
 
「見て、空を飛びながら歌ってる」
 
「あっちにも歌ってる人もいるぞ」
 
 解析完了、魔力による精神汚染を感知しました。対有害音防御フィールドデータを卵と連携します。
 
 ピシィと小さな音がするとさっきまで聞こえていた歌がひどく簡素な心にあまり響かないものと変わった。
 
「ねぇ、卵から念話が入ったのだけど・・・」
 
「ナビのデータ連携で有害音と認識したっぽいぞ」
 
「「はぁ」」
 
 俺たちは軽いため息をついた。さっき感じた不思議な気持ちは、魔力によって誘導されたものであり歌唱力そのものの力でない事に、残念さを感じたからだ。
 前の世界では、部隊対抗の歌唱コンテストがあったり、大規模作戦前や作戦中に兵士を鼓舞させるために歌兵士がいたりした。投薬をしないで脳が自発的に脳内麻薬を分泌するため、兵士の戦闘能力がかなり上がった。
 
 つまり、俺とナミは耳が肥えていた。
 
「5点」
 
「審査落ち」
 
「わかるわ、それね」
 
「「はぁ」」
 
「歌に魔力をのせて、か・・・確かにゴブリンたちには癒されるから一度は来たいってことなのね」
 
「都市アスモデウスは魔力を吸われるから別ってことか」
 
 俺とナミはゴブリンが一度は来たいという意味がなんとなくわかったのだった。都市の中心部に近づくに連れて、路上で歌う者や窓を開けて歌っているものなどがそこら中で歌っていた。
 宿泊所を見つけ、空いていることを確認するとそこに泊ることにした。部屋からは海の方が一面に見える部屋で見晴らしがいい部屋ですと案内された。部屋の中に入り、窓の外から歌声が聞こえてきて、レンツはそっと窓を閉めるものの、歌声は聞こえ続けた。
 
「防音フィールドをこの部屋に常時展開」
 
 ナミが卵型の武具に命令すると、外の音が聞こえなくなった。
 
「その卵型の武具、なんなの?」
 
「私もよくわからないのよね、でもなんかいろいろ出来るって感じる」
 
「感じる・・・?」
 
「そ、感じる」
 
 特に明確に求めている答えを得られなさそうだったので、考えるのをやめた。定期的に自称神から貰った卵型の武具の事が気になるが、ナミに聞いてもよくわからなかった。そういえば、自分のこのサイボーグのスペックも最新型であることしかわかってなかった。ナビの具体的な仕様や支援幅も把握してなかったな・・・。
 
 機密事項に抵触する恐れがあるため、黙秘します。
 
 おい、うっそだろ!?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...