9ライブズナイフ

犬宰要

文字の大きさ
39 / 82

39

しおりを挟む
 爆発音が不規則に鳴り、地面や空気を通して震動していた。一番近くにいるベェスチティが僕たちよりも遠くの爆発に気を取られている隙にその場から離れる事にした。僕とムッツーを先頭にその後ろにはマナチ、ハルミンを背負ったタッツー、一番後ろはツバサとジュリの順で移動を始めた。
 
 ポキポキポキ――
 
 ベェスチティが動く際に出る音、それは骨を鳴らしたような音がした。僕たちが動くのに気づいた、と思ったのだがどうやら遠くで起きている爆発が何なのか、見ようと立ち上がっていた。横に長い胴体を直立させた姿は、縦に伸びると胴が気味悪く伸びているが縦にそのまま立っている姿は短足なキリンのようにも見えた。だが下半身は蟻や蜘蛛のような異形らしさから気持ち悪く気味が悪い。
 
 爆発の音がさらに増えていくとそのベェスチティの頭部の部分が震えだした。
 
 ゴキボキッゴキボキッ――
 
 頭部付近から聞こえる音は先ほどの音よりも骨を鳴らすというよりも骨を折った時のような音だった。
「何か様子が変だ、急いでこの一帯から抜け出そう」
 ムッツーが言うが、タッツーはハルミンを背負っているのもあり、走るに走れない状態だ。近くのベェスチティが震え終わると、後ろについていた顔の目が僕たちを見ていた。
 ムッツーとタッツーは頭痛に襲われたのか、歩みを一時的に止めていた。
「くっ……」
「い、いたっ……」
 僕は何が起きているのか察知し、ベェスチティの方を向き頭部に向けてクリスベクターカスタムブレイクスルーを構えた。僕は一瞬だけ、引き金を引く事に躊躇した。それはほんの一瞬であり、すぐに引き金を引き絞った。
 
 スススッ!
 
 僕が持つクリスベクターカスタムブレイクスルーは、高性能のサイレンサーが装着されており、発射音は失敗した口笛のような音しか出なかった。ベェスチティの頭部は削れていくようにはじけていき、頭部だった部分が無くなった。
 
 僕はムッツーに対して、撃つ覚悟があるのか確かめた事に少しばかり恥じた。だけど今、ベェスチティを倒した事によって。恥じた事ではなく、行動として示せたと思った。
 ベェスチティはゆっくりと横たわるようにポキポキと音を鳴らしながら倒れた。頭部の肉片は発射した方向の建物や地面にまき散らされるように飛び散っていた。ベェスチティの消えた頭部からは赤い汁のようなものが出ていた。血とは違う透明感があるものだった。
 
「ふぅ・・ふぅ……はぁー」
 
 僕は初めて生物を殺したことで、心臓の鼓動が一気に早くなっていた。それを落ち着かせるように深呼吸をしたものの、なかなか落ち着かなかった。
 ベェスチティが倒されたことでムッツーとタッツーの状態は回復したようだった。
「あ、ありがとう」
「助かったわ」
 
 僕は洗脳のことを、二人に話してない事を思い出し、またベェスチティが同じことをしてきた場合は洗脳されてしまう。
「二人とも聞いてくれ、ベェスチティは洗脳をしてくる。そして、アビリティ・スキルの検疫で私たちを守ってくれる。その頭痛はあれが洗脳してきている状態だ」
「け、検疫?」
 タッツーは僕が言ってることがわからなかった。
「どういうことだ?」
 ムッツーも理解できていなかった。
「この検疫というアビリティ・スキルは相手が自分たちに何をしてきてるのか知ることで無効化できるっぽいんだ。だから、今言ったことを覚えておいてくれれば、大丈夫なはずだ」
 僕は自信はなかったが、これで予防にはなると思った。
 
「僕とマナチ、ツバサ、ジュリで話していた時にムッツーは洗脳されていても話は聞いていたろ?」
「いや、そうなんだが……」
「受け入れがたいかもしれないが、そういう仕組みで僕たちは生き延びられているんだ。理解しようと知っていこう」
 ムッツーとタッツーは僕が言ったことに頷いてくれた。
 
 光りがある方向へ僕たちは進むことを再開した。ベェスチティの死体をそのままにし、歩き始めた僕たちは向かう方向にもベェスチティの巣とも言える建物があるのが視界に入っていた。その建物から身を乗り出しているベェスチティたちが僕たちを見ていた。
 
「やれるか?」
 僕は誰に言うわけでもなく、口にしていた。
「私、やるよ。ヨーちゃんの力になりたいしね」
 マナチは力強く答えてくれた。彼女の方を見ると、顔は強張っており、がんばって強気でいようしているのがわかった。
「わ、私もやります」
 ツバサもマナチと同じような表情をしていた。ただ違ったのは、今までのツバサと違って声が大きかった。
「私もやってやるです」
 ジュリは鼻息を荒くしていた。きっと不意にベェスチティが近寄ってきても対応してくれそうな感じがした。
「ヨーちゃん、私もやる。やるよ」
 最後にムッツーが答えた。彼女は生徒会長をやってそうな、かっこいいお姉さんな雰囲気をまとっており、頼れそうだと感じた。
 
「生き延びよう」
 
 僕は行く手を阻むやつを容赦なく打ち殺すという気持ちで一歩一歩と進み始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...