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二年目 恋よ、愛てにとって不足はない
39 ただの口実
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ユウヴィーはまたサロンの個室にいた。今回はサンウォーカー国の王太子、アラインに呼ばれての事だった。エリーレイドと喧嘩したことが王太子に伝わっており、ユウヴィーはその件で呼ばれてたのだった。
「あの、アライン殿下……今日は……」
推しの相手という事もあり、ユウヴィーは緊張していた。時候の挨拶さえまともにできなくなっていたのだった。
「堅苦しい挨拶はいいよ。いや、先日私の婚約者のエリーレイドと喧嘩したって聞いてね。それが気になったというのもあって、そのあまりいじめないでくれ」
ユウヴィーからみた彼の表情は恋をしているのが一目瞭然だった。前髪をいじりながら、目線は斜め下で頬を少しだけ赤めている。口元はすこし突き出しており、自身の恥じらいが出ているのを必死に抑え込もうとしているものの、見る人によってはモロバレの表情だった。
(やべぇ推せる)
「はい、心得ました」
「もちろん、二人でじゃれ合ってるだけだって知ってるけれどね」
「え」
「ふふ、そう畏まらなくてもいいさ。今は二人だけだ、そのなんだ……」
アラインはユウヴィーの連れている使い魔のスナギモの方をチラチラと見ていた。それが何を意味するのか時折、使い魔のスナギモと遊んでいる時に、王太子がうらやましそうに見ている事があったのを思い出す。
「触ります?」
「え、いいのかい?」
「どうぞどうぞ」
アラインにもふもふの毛並みをされるがままに堪能される使い魔のスナギモであった。ユウヴィーがどうぞと言い終えた瞬間にアラインは即座に席を立ち、流れるようにスナギモの方に行った。スナギモはその速さに反応できなかった。
あまりの速さにスナギモの主人であるユウヴィーは一瞬だけ何が起きたか理解できなかった。
(ん、あれ? アライン王太子ってこういうキャラだっけ?)
前世の記憶が曖昧であったが、本来であれば聖鳥と戯れている描写があり、それが印象的に残っていた。だが、どの描写も「自分が聖鳥になりたい」と思わせるくらいなものだった。記憶が曖昧ではあるものの、ユウヴィーはそういう認識を持っていた。
目の前でおこなわれているのは、草の根をかき分けて落とし物を探しているのかという毛の一本一本を入念に堪能している姿だった。
(あれ、スナギモにもうノミとかダニとかはついてないよね?)
ハマト国の瘴気問題を解決したとはいえ、いまだに根本的な解決には遠いのもあり、アラインはその事でスナギモを直々に調査しているのかもしれないと考えた。
「それにしても、毛並みが整ってないけれども、ユウヴィーはブラッシングをしていないのかい?」
「ブラッシング? いいえ、していません」
「それはいけない」
(もしかしてブラッシングしないと瘴気を吸い寄せるとかそういう情報があるのだろうか、図書館で使い魔と瘴気について調べた時にはそんな情報はなかった。もしかして、王族の使い魔たちの毛並みがいいのは瘴気対策として常識なのかしら?)
「せっかくのスナギモの良さが台無しになる」
どこからか取り出したブラシをすでに右手に持ち、スナギモは入念にブラッシングされていっていた。
「このブラシを君に渡す、最低でも朝、夜の二回はすることだ。いいね?」
「え、あ、ひゃい」
顔を彼女の方に向け、強い目をし大きく頷くアライン。それに思わず鼓動が早まるユウヴィーは思わず返事をしてしまうのだった。
一時間にわたるブラッシングにより、スナギモの毛並みは気品あふれる風格へと変貌させたが眼は死んでいた。
ただひたすらブラッシングし、どういう風にブラッシングをするのか、どのくらいの力加減で行うのか、ユウヴィーはレクチャーされていた。時折、聞いているのかと叱責されながら、その一時間を過ごし、ようやくブラッシングが終わる頃にアラインの様子が何かおかしいと気づくユウヴィーだった。
死んだ目をしたスナギモから発せられる助けてという視線、しかし王族には逆らえないため、遠回しに瘴気についての勉強もあるのでとお開きにしようとするのだった。
「アライン殿下、そろそろ私は瘴気の勉強をおこなうため、図書館に行こうかと考えていますので……そのそろそろ」
ブラッシングを終えたスナギモを撫でまわすアラインに言うが、聞こえていないのか反応がなかった。
「あのアライン殿下?」
「ここに必要な本を持ってこさせればいい、ここで勉強すれば事が済むだろう?」
憂いた目をスナギモに向け、口元にはやさしい笑みを浮かべていた。これが相手が使い魔ではなく異性だったらコロッと一目惚れになるだろうと彼女は思っていた。再度、スナギモから助けてという目を向けられるものの、どう切り返したものか答えが出ずだった。
「え、あ、そうなんですね。知らなかったです」
「そうか、なら明日から勉強道具を持って来ればいい。あとこのあと図書館に行き、ここに持ってくる本を司書員に伝えておくんだ。私の名前を出せば、問題ない」
明日の予定を入れられたユウヴィーは、スナギモからの必死な視線に対して心の中で謝罪をしつつ、落ち着いてここで勉強できないだろうなぁという思いも湧いていたのだった。
「あの、アライン殿下……今日は……」
推しの相手という事もあり、ユウヴィーは緊張していた。時候の挨拶さえまともにできなくなっていたのだった。
「堅苦しい挨拶はいいよ。いや、先日私の婚約者のエリーレイドと喧嘩したって聞いてね。それが気になったというのもあって、そのあまりいじめないでくれ」
ユウヴィーからみた彼の表情は恋をしているのが一目瞭然だった。前髪をいじりながら、目線は斜め下で頬を少しだけ赤めている。口元はすこし突き出しており、自身の恥じらいが出ているのを必死に抑え込もうとしているものの、見る人によってはモロバレの表情だった。
(やべぇ推せる)
「はい、心得ました」
「もちろん、二人でじゃれ合ってるだけだって知ってるけれどね」
「え」
「ふふ、そう畏まらなくてもいいさ。今は二人だけだ、そのなんだ……」
アラインはユウヴィーの連れている使い魔のスナギモの方をチラチラと見ていた。それが何を意味するのか時折、使い魔のスナギモと遊んでいる時に、王太子がうらやましそうに見ている事があったのを思い出す。
「触ります?」
「え、いいのかい?」
「どうぞどうぞ」
アラインにもふもふの毛並みをされるがままに堪能される使い魔のスナギモであった。ユウヴィーがどうぞと言い終えた瞬間にアラインは即座に席を立ち、流れるようにスナギモの方に行った。スナギモはその速さに反応できなかった。
あまりの速さにスナギモの主人であるユウヴィーは一瞬だけ何が起きたか理解できなかった。
(ん、あれ? アライン王太子ってこういうキャラだっけ?)
前世の記憶が曖昧であったが、本来であれば聖鳥と戯れている描写があり、それが印象的に残っていた。だが、どの描写も「自分が聖鳥になりたい」と思わせるくらいなものだった。記憶が曖昧ではあるものの、ユウヴィーはそういう認識を持っていた。
目の前でおこなわれているのは、草の根をかき分けて落とし物を探しているのかという毛の一本一本を入念に堪能している姿だった。
(あれ、スナギモにもうノミとかダニとかはついてないよね?)
ハマト国の瘴気問題を解決したとはいえ、いまだに根本的な解決には遠いのもあり、アラインはその事でスナギモを直々に調査しているのかもしれないと考えた。
「それにしても、毛並みが整ってないけれども、ユウヴィーはブラッシングをしていないのかい?」
「ブラッシング? いいえ、していません」
「それはいけない」
(もしかしてブラッシングしないと瘴気を吸い寄せるとかそういう情報があるのだろうか、図書館で使い魔と瘴気について調べた時にはそんな情報はなかった。もしかして、王族の使い魔たちの毛並みがいいのは瘴気対策として常識なのかしら?)
「せっかくのスナギモの良さが台無しになる」
どこからか取り出したブラシをすでに右手に持ち、スナギモは入念にブラッシングされていっていた。
「このブラシを君に渡す、最低でも朝、夜の二回はすることだ。いいね?」
「え、あ、ひゃい」
顔を彼女の方に向け、強い目をし大きく頷くアライン。それに思わず鼓動が早まるユウヴィーは思わず返事をしてしまうのだった。
一時間にわたるブラッシングにより、スナギモの毛並みは気品あふれる風格へと変貌させたが眼は死んでいた。
ただひたすらブラッシングし、どういう風にブラッシングをするのか、どのくらいの力加減で行うのか、ユウヴィーはレクチャーされていた。時折、聞いているのかと叱責されながら、その一時間を過ごし、ようやくブラッシングが終わる頃にアラインの様子が何かおかしいと気づくユウヴィーだった。
死んだ目をしたスナギモから発せられる助けてという視線、しかし王族には逆らえないため、遠回しに瘴気についての勉強もあるのでとお開きにしようとするのだった。
「アライン殿下、そろそろ私は瘴気の勉強をおこなうため、図書館に行こうかと考えていますので……そのそろそろ」
ブラッシングを終えたスナギモを撫でまわすアラインに言うが、聞こえていないのか反応がなかった。
「あのアライン殿下?」
「ここに必要な本を持ってこさせればいい、ここで勉強すれば事が済むだろう?」
憂いた目をスナギモに向け、口元にはやさしい笑みを浮かべていた。これが相手が使い魔ではなく異性だったらコロッと一目惚れになるだろうと彼女は思っていた。再度、スナギモから助けてという目を向けられるものの、どう切り返したものか答えが出ずだった。
「え、あ、そうなんですね。知らなかったです」
「そうか、なら明日から勉強道具を持って来ればいい。あとこのあと図書館に行き、ここに持ってくる本を司書員に伝えておくんだ。私の名前を出せば、問題ない」
明日の予定を入れられたユウヴィーは、スナギモからの必死な視線に対して心の中で謝罪をしつつ、落ち着いてここで勉強できないだろうなぁという思いも湧いていたのだった。
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