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5 ドミニク視点
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テーラー国で卒業記念パーティから1年が過ぎようとしていた。再び卒業祝賀パーティ後貴族の令嬢令息の結婚式があるため、司祭様は、今日も今日とて、卒業パーティに出席なさっている。いまだなお聖女様の行方はわかっていない。
私の名前は、ドミニク・アントレ、テーラー国でアマテラス神殿の司祭を務めている。68歳独身である。神様に生涯を捧げたので、いまだ童貞でもある。
エリザベス聖女様にお会いしたのは、今から14年前、寒い冬の朝に先代の聖女様が身罷られたので、次の聖女様を認定前にいち早く見つけることが先決問題であったのだ。
そして出会えた。それは第1王子であるロバート様のお妃選定会でのこと。他の令嬢は、ロバート様の気を惹こうとやっきになって、自分をアピールしているのに、エリザベス様だけは違った。
庭園の地面に何やら、絵を描いて遊んでいらした姿が忘れられない。お妃選定会で聖女認定をすることが難しいと判断が下される直前、エリザベス様がとことこと水晶玉の前まで来られ、見事、水晶玉を輝かせられたのである。
その彼女は、ブルーフォード公爵様の一人娘で名前は、エリザベス様と仰る。美しいブロンドに碧眼が印象的である。
それからは、ひたすら聖女様と行動を共にするのである。聖女様とはいえ、相手はまだ5歳の幼子である。いろいろご教授せねばならないことがある。それからは口やかましく、聖女様の在り方について、いちいち注意をしたものだった。結果として、それが聖女様から疎まれる原因になったとは、つゆほども思わなかったのである。
一年前の婚約破棄、断罪騒動の後、聖女様は私に一言もなく出奔されてしまった。水臭いではないか!13年もの長きに渡り、聖女様と行動を共にしてきた私に対して、あまりの仕打ちに唇から、血がにじむまで噛みしめたものだ。
ドミニクは、肝心なことを忘れている。エリザベスは、出奔したのではなく、国外追放処分に従っただけなのである。
王家をはじめとして、神殿までもが、出奔という認識では困る。
とにかく出奔されるのであれば、私にも一言欲しかったのである。そうしたら、私はアマテラス神殿を捨ててでも、聖女様と一緒に行動をしたものを。なぜ、一言言ってくださらなかったのか?いまだに謎です。
自分の存在が鬱陶しいと思われていたとは、考えずエリザベスに対して、恨み言の限りをつぶやく。
その後、王家より問い合わせが来るも、まったくもって心当たりがない。
王家からは役立たずと罵られるも、そもそも王太子殿下が聖女様を追放してしまったのではないか!と反論すれば、アマテラス神殿など不要の長物であると言われ、国家予算を削られたのである。
これが原因で、アマテラス神は怒り、現在もまだ雨が降り続いている。聖女様さえいらっしゃれば、こんなことにはならない。
作物は根腐れを起こし、収穫できるものはひとつもない。我が国は食物を自給していたのに、他国から輸入しなければ、国民は飢えるばかりである。
そもそも王政とは何か?ということに国民は、疑問を持ち始めたのだ。
せっかくの聖女様をバカな王太子が浮気した挙句、国外追放処分にしてしまったのだから。王政など必要ない。聖女様さえいらっしゃれば、民衆は幸せに暮らせたのだ。
国王も貴族も必要なものではない。民衆は次第にそう考えるようになったのである。そして、国を捨てるものが街道沿いにあふれかえるようになってきた。国境さえ超えれば、そこは晴天なのだから。
ドミニクもこっそり、神殿を捨てる用意をしているのだが、アマテラスに見つかり、大目玉をくらいいまは神殿の地下牢に繋がれている。
だが、今日は卒業記念パーティである。この日を逃したら、二度とあの地下牢からは出られない。そう決意をして、パーティ会場にいる。
外では民衆が決起して、パーティ会場を襲おうとしていることなど、夢にも思っていないのだ。
すべては一年前のこのパーティ会場から起こったのだ。
聖女様を王太子の婚約者としておきながら、当の王太子は聖女様を蔑ろにして、自分は浮気して、その浮気相手と結婚したいために、聖女様と婚約破棄をして、聖女様を国外から追放しようと企てたばかりか、国境線で聖女様を切り殺そうと企んだことが、すべて露見したのである。
そして、聖女様は、そんな王国に対し、愛想を尽かされ、テーラー国を捨てた、という認識は全国民の共通のものとなったのである。
王立学園の卒業生は、そんなことも考えられず貴族としての権利を享受しているのだ。
会場内の至る所で、婚約破棄の断罪劇が行われているのである。
「公爵令嬢シルヴィア・レスキュー、貴様との婚約は今この時をもって破棄するものとする!」
高らかに宣言されているのは、第2王子のエドモンド様である。ここの王家は学習するということを知らないのか?エリザベス聖女様の後継者と目されるシルヴィア聖女候補様に対して、また婚約破棄を宣っているのだ。
シルヴィア嬢は泣きながら
「なぜでございますか?それなら、わたくしもエリザベス様のところへ参りますわよ。」
「なに?その方、聖女様の行方は知らないと言っておきながら、聖女様の行方を知っておるというのか?国家反逆罪で処刑する!」
「聖女様の行方など存じませんわ。でも小さい時から仲良くしてくださっているから、わたくしが呼べば、きっと来てくださると信じておりますだけですわ。わたくしの難儀にきっと駆けつけてくださいます。」
「そうか、それが本当のことかどうか、シルヴィアをおとりにしてやろうぞ。衛兵、この女を牢に入れろ!」
さすがに衛兵も躊躇したのだ。もし、そんなことして本当に聖女様が現れた時は、全員皆殺しになるからである。ただでさえアマテラス神を怒らせているというのに。
テーラー国王も、困惑している。なんというバカ息子だ。
シルヴィア嬢は、レスキュー公爵の胸に顔をうずめてずっと泣いている。
「エリザベス姉さま、どうかわたくしを姉さまのお傍に連れて行ってくださいませ。」
とそこへ、金色の一閃の光がさしたと思ったら、アマテラスの娘、背中に羽根を生やした女神様が現れシルヴィア嬢とレスキュー公爵夫妻をエリザベス聖女のところへ送ったのである。
「シルヴィア嬢とやら、そなたの願いを聞き届けた。」
エリザベスとシルヴィア嬢は再会を喜び、抱き合うのであった。レスキュー公爵は、このことでより一層、アマテラス神を信じることになったのである。
突如として現れた女神様に平伏する間もなく、女神様はシルヴィアとレスキュー公爵らとともに消え失せたのである。
おお!ドミニクは感嘆した。ならば、我も聖女様のところへ。と願ったが、いくら願ってもその希望通りにはいかなかったのである。
そうこうしている間に、パーティ会場に民衆がなだれ込んできたのだ。たちまち武器を持った民衆に占拠されてしまい、会場は、真っ暗になる。皆、身に着けている宝石類や高価なアクセサリー王冠などを略取され、地下牢に放り込まれる。
呑気にパーティや婚約破棄、断罪劇などしている暇はなかったのである。降り続く止まない雨のため、民衆は疲弊しきっていたのだ。自分たち貴族だけが贅沢三昧をして、食料も水も財産も好き放題に湯水のごとく浪費してきたツケを支払ってもらう番である。
王都にいる主だった貴族、国王陛下が一堂に集まるこの日に狙いをつけられたのである。
卒業記念パーティの日が、テーラー国滅亡の日であり、テーラー国卒業の日となったのである。
その隙に乗じて、ドミニクはまんまと逃げだせたのである。
目指すは、どこでもいい国境線、そこからは必死になって聖女様の足取りを探すことにしたのである。
これから聖女様探しという終わりのない旅が始まるのである。
私の名前は、ドミニク・アントレ、テーラー国でアマテラス神殿の司祭を務めている。68歳独身である。神様に生涯を捧げたので、いまだ童貞でもある。
エリザベス聖女様にお会いしたのは、今から14年前、寒い冬の朝に先代の聖女様が身罷られたので、次の聖女様を認定前にいち早く見つけることが先決問題であったのだ。
そして出会えた。それは第1王子であるロバート様のお妃選定会でのこと。他の令嬢は、ロバート様の気を惹こうとやっきになって、自分をアピールしているのに、エリザベス様だけは違った。
庭園の地面に何やら、絵を描いて遊んでいらした姿が忘れられない。お妃選定会で聖女認定をすることが難しいと判断が下される直前、エリザベス様がとことこと水晶玉の前まで来られ、見事、水晶玉を輝かせられたのである。
その彼女は、ブルーフォード公爵様の一人娘で名前は、エリザベス様と仰る。美しいブロンドに碧眼が印象的である。
それからは、ひたすら聖女様と行動を共にするのである。聖女様とはいえ、相手はまだ5歳の幼子である。いろいろご教授せねばならないことがある。それからは口やかましく、聖女様の在り方について、いちいち注意をしたものだった。結果として、それが聖女様から疎まれる原因になったとは、つゆほども思わなかったのである。
一年前の婚約破棄、断罪騒動の後、聖女様は私に一言もなく出奔されてしまった。水臭いではないか!13年もの長きに渡り、聖女様と行動を共にしてきた私に対して、あまりの仕打ちに唇から、血がにじむまで噛みしめたものだ。
ドミニクは、肝心なことを忘れている。エリザベスは、出奔したのではなく、国外追放処分に従っただけなのである。
王家をはじめとして、神殿までもが、出奔という認識では困る。
とにかく出奔されるのであれば、私にも一言欲しかったのである。そうしたら、私はアマテラス神殿を捨ててでも、聖女様と一緒に行動をしたものを。なぜ、一言言ってくださらなかったのか?いまだに謎です。
自分の存在が鬱陶しいと思われていたとは、考えずエリザベスに対して、恨み言の限りをつぶやく。
その後、王家より問い合わせが来るも、まったくもって心当たりがない。
王家からは役立たずと罵られるも、そもそも王太子殿下が聖女様を追放してしまったのではないか!と反論すれば、アマテラス神殿など不要の長物であると言われ、国家予算を削られたのである。
これが原因で、アマテラス神は怒り、現在もまだ雨が降り続いている。聖女様さえいらっしゃれば、こんなことにはならない。
作物は根腐れを起こし、収穫できるものはひとつもない。我が国は食物を自給していたのに、他国から輸入しなければ、国民は飢えるばかりである。
そもそも王政とは何か?ということに国民は、疑問を持ち始めたのだ。
せっかくの聖女様をバカな王太子が浮気した挙句、国外追放処分にしてしまったのだから。王政など必要ない。聖女様さえいらっしゃれば、民衆は幸せに暮らせたのだ。
国王も貴族も必要なものではない。民衆は次第にそう考えるようになったのである。そして、国を捨てるものが街道沿いにあふれかえるようになってきた。国境さえ超えれば、そこは晴天なのだから。
ドミニクもこっそり、神殿を捨てる用意をしているのだが、アマテラスに見つかり、大目玉をくらいいまは神殿の地下牢に繋がれている。
だが、今日は卒業記念パーティである。この日を逃したら、二度とあの地下牢からは出られない。そう決意をして、パーティ会場にいる。
外では民衆が決起して、パーティ会場を襲おうとしていることなど、夢にも思っていないのだ。
すべては一年前のこのパーティ会場から起こったのだ。
聖女様を王太子の婚約者としておきながら、当の王太子は聖女様を蔑ろにして、自分は浮気して、その浮気相手と結婚したいために、聖女様と婚約破棄をして、聖女様を国外から追放しようと企てたばかりか、国境線で聖女様を切り殺そうと企んだことが、すべて露見したのである。
そして、聖女様は、そんな王国に対し、愛想を尽かされ、テーラー国を捨てた、という認識は全国民の共通のものとなったのである。
王立学園の卒業生は、そんなことも考えられず貴族としての権利を享受しているのだ。
会場内の至る所で、婚約破棄の断罪劇が行われているのである。
「公爵令嬢シルヴィア・レスキュー、貴様との婚約は今この時をもって破棄するものとする!」
高らかに宣言されているのは、第2王子のエドモンド様である。ここの王家は学習するということを知らないのか?エリザベス聖女様の後継者と目されるシルヴィア聖女候補様に対して、また婚約破棄を宣っているのだ。
シルヴィア嬢は泣きながら
「なぜでございますか?それなら、わたくしもエリザベス様のところへ参りますわよ。」
「なに?その方、聖女様の行方は知らないと言っておきながら、聖女様の行方を知っておるというのか?国家反逆罪で処刑する!」
「聖女様の行方など存じませんわ。でも小さい時から仲良くしてくださっているから、わたくしが呼べば、きっと来てくださると信じておりますだけですわ。わたくしの難儀にきっと駆けつけてくださいます。」
「そうか、それが本当のことかどうか、シルヴィアをおとりにしてやろうぞ。衛兵、この女を牢に入れろ!」
さすがに衛兵も躊躇したのだ。もし、そんなことして本当に聖女様が現れた時は、全員皆殺しになるからである。ただでさえアマテラス神を怒らせているというのに。
テーラー国王も、困惑している。なんというバカ息子だ。
シルヴィア嬢は、レスキュー公爵の胸に顔をうずめてずっと泣いている。
「エリザベス姉さま、どうかわたくしを姉さまのお傍に連れて行ってくださいませ。」
とそこへ、金色の一閃の光がさしたと思ったら、アマテラスの娘、背中に羽根を生やした女神様が現れシルヴィア嬢とレスキュー公爵夫妻をエリザベス聖女のところへ送ったのである。
「シルヴィア嬢とやら、そなたの願いを聞き届けた。」
エリザベスとシルヴィア嬢は再会を喜び、抱き合うのであった。レスキュー公爵は、このことでより一層、アマテラス神を信じることになったのである。
突如として現れた女神様に平伏する間もなく、女神様はシルヴィアとレスキュー公爵らとともに消え失せたのである。
おお!ドミニクは感嘆した。ならば、我も聖女様のところへ。と願ったが、いくら願ってもその希望通りにはいかなかったのである。
そうこうしている間に、パーティ会場に民衆がなだれ込んできたのだ。たちまち武器を持った民衆に占拠されてしまい、会場は、真っ暗になる。皆、身に着けている宝石類や高価なアクセサリー王冠などを略取され、地下牢に放り込まれる。
呑気にパーティや婚約破棄、断罪劇などしている暇はなかったのである。降り続く止まない雨のため、民衆は疲弊しきっていたのだ。自分たち貴族だけが贅沢三昧をして、食料も水も財産も好き放題に湯水のごとく浪費してきたツケを支払ってもらう番である。
王都にいる主だった貴族、国王陛下が一堂に集まるこの日に狙いをつけられたのである。
卒業記念パーティの日が、テーラー国滅亡の日であり、テーラー国卒業の日となったのである。
その隙に乗じて、ドミニクはまんまと逃げだせたのである。
目指すは、どこでもいい国境線、そこからは必死になって聖女様の足取りを探すことにしたのである。
これから聖女様探しという終わりのない旅が始まるのである。
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