魔女と呼ばれ処刑された聖女は、死に戻り悪女となる

青の雀

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死に戻り2

31.インポ騎士団

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リンデルシュの街を後にして、馬車は次の宿場町を目指している。

次の宿場町は、副騎士団長のポール・マックィーンの父伯爵が領主を務める。ポールの父は、普段は領地に引きこもってばかりで、王都の情勢を知らずにいる。

今回のルートを決定するにあたり、たまには、親父さんに顔でも見せてやれという配慮から、2番目の宿泊地候補となる。

リンデルシュの後、2日間ほど、野宿を経て、マックイーン領へ来たもので、久々の入浴と、まともな食事に、安堵のため息を盛らす。

野宿では、どうしても簡素な食事になりがちなのだ。

いくら野営用のテントを張っても、寝ずの番は必要で、少しの物音でも緊張が走る。それが2日間も続いたのだから、今夜は、手足を伸ばして、ゆっくり休みたいところ。

それなのに、事件は起こってしまった。
国王ご夫妻歓迎セレモニーが終わり、それぞれが部屋に戻った時、マックイーン伯爵が、晩酌の相手にポールを呼び、その席で

「ポールよ、いつになったら身を固める気でいるのだ?」

ネチネチと終わりのない嫌味と説教に、ポールがついにキレた!

父親の喉元に剣先を突き付けた。幸いにも、傷は軽傷で大事に至らなかったのだが、怒った父親はポールを勘当してしまう。

勘当されたからと言って、職業を失うわけではない。だから、ポール自身は、痛くもかゆくもない。

それがさらにマックイーン伯爵の怒りに火に油を注ぐ。事態の収拾にエリオットが動くも、エリオットもまた独身者で、説得力はない。

「嫁さんの来てもないような半人前など、男ではない!」

何気に放ったマックイーン伯爵の一言が、騎士団の反感を買う。

単純な父子喧嘩が発端とはなったものの、 今やマックイーン家VS近衛騎士団の諍いに代わり、不穏な空気は拭い去れない。

伯爵は、倅のポールがインポであることを知らない。単に、まだ女遊びがやめられないので、身を固めたくないと思っているのだ。

翌朝、陛下が「ウチの近衛は全員がインポで、その話はご法度になっている」と言うまで、収拾はつかなかった。

「へ!?なぜです。女の味を知らない者ばかりが近衛なのですか?」

「そうさなぁ、そういうことになるか。いっそのこと、近衛改めインポ騎士団に改名してはどうかと思うときがある」

陛下の言葉に近衛騎士団全員が、俯く。

「廃嫡にするか、勘当にするかは、マックイーンの自由だが、俺はこのまま子が生せぬのであれば、改易が相当だと思う」

これには、エリオットも目を剥く!今まで、陛下から具体的なことは何も言われてなかった。それが爵位を捨て、平民に堕ちるなど考えてもみなかったこと。

「私たちは、王国のため、国王陛下のため、務めに勤しんでおります。それを子が生せないという理由だけで、改易とは、あまりではございませんか?」

「しかし考えてみろ?王国とはいえ、民があってこそのものだ。貴族が特権意識を捨て、平民になりさえすれば、暮らしやすい国になるとは思わんのか?それに、この話をするかどうか悩んだのだが……、以前、平民で飲んだくれの男がいたそうだ。しかし、ある時、悪夢を何日か続けて見てな、それ以降は、人が変わったように生真面目な男になったそうだ。エリオットの悪夢と関係ないかもしれんが、平民でも変われるのなら、優秀な貴族教育を受けてきたお主らはどうか、と聞いておる」

「インポ騎士団なんて、絶対、受け入れません!しかし、王妃様が結界を張られるまでの間、考えさせていただきたく存じます」

それから、エリオットやポールは生真面目人間にはなれなかった。もともと生真面目だからこそ、リリアーヌの呪いにも簡単に引っかかり、その後の神の呪いにも……。

というより、翌日から、下痢と嘔吐に苛まれ、馬に乗れず、粗相をし尽くしたことで、自ら辞職願を出し、騎士団を去って行った。

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