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クリスマス・イヴ2
1運命の輪
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「いらっしゃいませ。ようこそ肉体ブティックへ。」
ここは三途の川の一歩手前にある神様直営の店、肉体ブティックである。
死者でこの店が現れる人は、幼くして両親から虐待され、死亡した赤ちゃんや子供、若くして死病にかかった人、事件事故に巻き込まれて、本来は幸せな人生を送れるはずだった人が第三者の手によりゆがめられた運命の持ち主の前にしか出現しない。いわば、幻の店なのである。
店内にあるすべての商品(肉体)は、たったの六文で買えるのである。ただし、頭脳系、芸術系、何かの才能系は別途割増料金が必要とするが、前世の成績次第で無料になる場合もある。
お試し期間は1週間で、この間は無料で交換ができる。買った商品のカラダが気に入らないとか、人間関係が嫌だとか、理由の如何を問わず、すぐに返品交換が聞くのである。
なぜこんな店があるかと言うと、不幸な死に方をした人の三途の川は、普通の天寿を全うした人に比べ、赤ん坊でもハイハイしながらすぐに渡り切ってしまえるぐらい川幅が狭い。
川幅10センチ水深2センチほどなので、気がつかないうちに渡り切って、成仏してしまうのである。
成仏すればいいではないか?と思われるかもしれないが、そうなれば天国は満員になって、あふれかえってしまう。
最近は、少子高齢化がすすみ、合計特殊出生率が厚労省の調べでは1.36(2019年)まで落ち込んでいるから、天国から地上へ魂が下りないのである。
では、六文銭がない場合の人は、どうするかと言えば、一般の渡し船が出ているところでは、その分、働いて稼ぎ、船頭に渡し賃を支払って乗船するのだが、たいていは葬儀屋が六文銭と杖をセットにして持ってくるから心配はいらないのである。
天災などで大勢の人が亡くなった時は、掃除など軽微な仕事をしてもらって、六文銭の代わりになる。
不慮の死の人が死んだときは、葬儀屋さんがどうこういう前に死んだ途端に六文銭が自動的に付与される。だから、死の直後でも肉体ブティックへ来れるのである。あと、どこかに埋められている人、沈められている人も、ご遺体が発見されていなくても、肉体ブティックへ直行できる仕組みになっている。
死亡数がこれも厚労省の調べで約114万人(2008年)、出生数87万人(2019年)に比べても、死んだ人の数が多いことがうかがわれる。老衰と自殺の死者数が7万人弱、死亡診断書を書くとき、医者は何かしら病名を付けるから、皆が皆病死とは限らないので、不慮の事故死、事件に巻き込まれて死んだ人の数は把握できない。なお、死因のトップは悪性腫瘍であることに変わりはない。
お話に戻ります。今日のお客様も、悪性腫瘍で亡くなられましたが、若干20歳という若さのため、肉体ブティックのお客様として来られたわけです。
「いらっしゃいませ。肉体ブティックへようこそ。」
「は?」
「今日は楽しいクリスマス・イヴだから、どーんとサービスしちゃいますわよ?」
「あの……私、やっぱり助からなかったのですね?」
「そうね。悲しいことだけど、運命だから仕方がないのよ。でも、今日は年に一度の神様だけのパーティがあるのよ。だから特別にタロットカードで占ってあげるわね。さ、どれか一枚直感で選んでみてね。」
おそるおそる手を伸ばし、選ぶ。
神様の顔がビックリしたような顔をされて、「運命の輪」だったらしい。
「運命の輪」は、めったに当たらない非常にまれなカードだったのである。運命が大きく好転することを意味している。宝くじを買えば、間違いなく1等賞が当たるというぐらい珍しいカードを引き当てたのだ。
「うーん、これはあれね。ラッキーチャンスにしよう。昨年に引き続き、久々の大ヒット!だもんね。昨年みたいに大事故が起こって、たくさんのお客様が見えられると困るけど、今年は今のところ、大丈夫そうだからね。よっしゃ、決まった。」
「?」
女神様は、どこからか安物の粗品で渡されるようなボールペンを持ってきて
「これはね、魔法の不思議なペンよ。昨年もあなたと同じように渡したんだけど、ちゃんと使ってくれなくて……でも、幸せを掴んだからいいようなものだけどね。この不思議なペンで、自分の願い事を書くと、3回まではどんなことでもなんでも神様が叶えてくださるのよ。他人のことを願うと無制限に願いが叶うから、自分のことを書いてね。では、今度こそ素晴らしい幸せな人生を送ってね。」
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
気づけば、ICUのベッドの上にいた。なんとなく三途の川で返品されたような気がする。気のせいだろうか?
なにか、さっきよりは呼吸が落ち着いているようになり、ずいぶんとカラダの調子が良い。
医務室では、先生方がクリスマスパーティをしていらっしゃるみたい。誘われたけど、「どうぞ、楽しんでください。」って、お断りしたのよね。
私、大原朱里は20歳で末期がんの患者なのである。職業はナースで、准看護師から正看護師の資格を取り、職場の健康診断で癌が見つかったのである。
もうスキルス性の癌で、見つかってから、あっという間に身体中に転移したのである。もう手の施しようがなく、ただ死ぬのを待つ状態であったのだ。
それが神様のところで、返品されてから、やたら体調がいいのだ。ひょっとして、神様が癌細胞を持って行ってくれた?ってことないよね。でも、そうとしか思えないぐらい、元気なころの朱里に戻っているのだ。
ICUで、警報ブザーが鳴ったような気がしたので、急いで女性看護師が行ってみると、なぜか死にかけの大原朱里さんと、ふと目が合った。
「大原さん!私の声が聞こえる?」
返事をしようにも、呼吸器が喉の奥まで入っていて、声が出せない。首を上下に動かし聞こえているという意思表示をしたのである。
「信じられない!」
さっきまで血圧・脈拍・意識レベルの低下が見られ、もう今晩もつかどうかの患者さんだった。確かに警報ブザーが聞こえた気がしたけど、あれは空耳だったのか!?
その姿を見て、看護師さんは慌ててICUを飛び出していく。主治医の先生を呼びに行ったみたい。すぐに先生が来てくれた。先生はモニターを見ながら絶句している。
呼吸数も脈拍も心電図も異常なしの正常値に戻っているから。
「……クリスマスの奇跡だ。」
先生がそうおっしゃると、さっきの看護師さんも頷いている。
それから、日に日に朱里の体調は良くなっていく。エコーで調べたら、癌細胞が消えているようにしかみえないらしい。
血液検査で調べても、がんの数値は見当たらない。あまり具体的には、書きません。血液検査結果表で見たら、誰でもわかるところなので、ショックを受けられたら困るということで、ご理解ください。
完全に癌細胞が消えたことが確認されてから、大原朱里は退院したのだ。
大原朱里は孤児で、クリスマス・イヴに病院の赤ちゃんポストの中に捨てられていたのである。その病院名は地域の名前から大原病院であったことから、大原と言う名前になったのである。朱里と言う名前はおくるみに朱里と書かれたメモが挟んであったことから、そのまま名付けられたのである。
一応、生年月日らしきものが書かれたメモも一緒だったが、朱里にとっては、拾われた日が誕生日みたいなものだったのだ。
看護師長が母親代わりとなり、朱里を育ててくれたのだが、師長はいつも朱里に
「あなたは捨てられたわけではありません。いつかあなたの本当のお母さんが迎えに来てくださいますよ。」
いつも、そう言ってくれていたから、朱里はずっとその言葉を信じて、毎年クリスマス・イヴを楽しみに待っていたのである。
少し大きくなると、孤児院に育った。大原病院の看護師長さんが、お母さん代わりとなって、いろいろお世話をしてくださったが、その方も過労が原因で早くにやめられ、地元へ帰って行かれてからは音信不通となったのである。
孤児院から学校に通い、中学を卒業してから看護師の道を志したのも、あのお母さん代わりとなった看護師長さんへの恩返しのつもりであったのだ。
もう本当の母親が迎えに来ることなんてないと諦めたのも、ちょうどこの頃であったのだ。
最初、准看護師になり看護学校へ行きながら、昼間は准看護師として働き、夜は看護学校へ行き、正看護師の国家試験に合格した。
新しい職場も決まり、お給料は10万円ぐらい跳ねあがって意気揚々としていた頃に職場の健康診断で引っかかり、末期がんと診断されたのである。
だから、朱里はクリスマス・イヴが大嫌いであったのだ。
この日に捨てられたから、神様のクリスマスの奇跡なんて、誰より信じていない。いくら主治医の先生が言おうとも、朱里のところへサンタクロースは来てくれないのだ。
ここは三途の川の一歩手前にある神様直営の店、肉体ブティックである。
死者でこの店が現れる人は、幼くして両親から虐待され、死亡した赤ちゃんや子供、若くして死病にかかった人、事件事故に巻き込まれて、本来は幸せな人生を送れるはずだった人が第三者の手によりゆがめられた運命の持ち主の前にしか出現しない。いわば、幻の店なのである。
店内にあるすべての商品(肉体)は、たったの六文で買えるのである。ただし、頭脳系、芸術系、何かの才能系は別途割増料金が必要とするが、前世の成績次第で無料になる場合もある。
お試し期間は1週間で、この間は無料で交換ができる。買った商品のカラダが気に入らないとか、人間関係が嫌だとか、理由の如何を問わず、すぐに返品交換が聞くのである。
なぜこんな店があるかと言うと、不幸な死に方をした人の三途の川は、普通の天寿を全うした人に比べ、赤ん坊でもハイハイしながらすぐに渡り切ってしまえるぐらい川幅が狭い。
川幅10センチ水深2センチほどなので、気がつかないうちに渡り切って、成仏してしまうのである。
成仏すればいいではないか?と思われるかもしれないが、そうなれば天国は満員になって、あふれかえってしまう。
最近は、少子高齢化がすすみ、合計特殊出生率が厚労省の調べでは1.36(2019年)まで落ち込んでいるから、天国から地上へ魂が下りないのである。
では、六文銭がない場合の人は、どうするかと言えば、一般の渡し船が出ているところでは、その分、働いて稼ぎ、船頭に渡し賃を支払って乗船するのだが、たいていは葬儀屋が六文銭と杖をセットにして持ってくるから心配はいらないのである。
天災などで大勢の人が亡くなった時は、掃除など軽微な仕事をしてもらって、六文銭の代わりになる。
不慮の死の人が死んだときは、葬儀屋さんがどうこういう前に死んだ途端に六文銭が自動的に付与される。だから、死の直後でも肉体ブティックへ来れるのである。あと、どこかに埋められている人、沈められている人も、ご遺体が発見されていなくても、肉体ブティックへ直行できる仕組みになっている。
死亡数がこれも厚労省の調べで約114万人(2008年)、出生数87万人(2019年)に比べても、死んだ人の数が多いことがうかがわれる。老衰と自殺の死者数が7万人弱、死亡診断書を書くとき、医者は何かしら病名を付けるから、皆が皆病死とは限らないので、不慮の事故死、事件に巻き込まれて死んだ人の数は把握できない。なお、死因のトップは悪性腫瘍であることに変わりはない。
お話に戻ります。今日のお客様も、悪性腫瘍で亡くなられましたが、若干20歳という若さのため、肉体ブティックのお客様として来られたわけです。
「いらっしゃいませ。肉体ブティックへようこそ。」
「は?」
「今日は楽しいクリスマス・イヴだから、どーんとサービスしちゃいますわよ?」
「あの……私、やっぱり助からなかったのですね?」
「そうね。悲しいことだけど、運命だから仕方がないのよ。でも、今日は年に一度の神様だけのパーティがあるのよ。だから特別にタロットカードで占ってあげるわね。さ、どれか一枚直感で選んでみてね。」
おそるおそる手を伸ばし、選ぶ。
神様の顔がビックリしたような顔をされて、「運命の輪」だったらしい。
「運命の輪」は、めったに当たらない非常にまれなカードだったのである。運命が大きく好転することを意味している。宝くじを買えば、間違いなく1等賞が当たるというぐらい珍しいカードを引き当てたのだ。
「うーん、これはあれね。ラッキーチャンスにしよう。昨年に引き続き、久々の大ヒット!だもんね。昨年みたいに大事故が起こって、たくさんのお客様が見えられると困るけど、今年は今のところ、大丈夫そうだからね。よっしゃ、決まった。」
「?」
女神様は、どこからか安物の粗品で渡されるようなボールペンを持ってきて
「これはね、魔法の不思議なペンよ。昨年もあなたと同じように渡したんだけど、ちゃんと使ってくれなくて……でも、幸せを掴んだからいいようなものだけどね。この不思議なペンで、自分の願い事を書くと、3回まではどんなことでもなんでも神様が叶えてくださるのよ。他人のことを願うと無制限に願いが叶うから、自分のことを書いてね。では、今度こそ素晴らしい幸せな人生を送ってね。」
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
気づけば、ICUのベッドの上にいた。なんとなく三途の川で返品されたような気がする。気のせいだろうか?
なにか、さっきよりは呼吸が落ち着いているようになり、ずいぶんとカラダの調子が良い。
医務室では、先生方がクリスマスパーティをしていらっしゃるみたい。誘われたけど、「どうぞ、楽しんでください。」って、お断りしたのよね。
私、大原朱里は20歳で末期がんの患者なのである。職業はナースで、准看護師から正看護師の資格を取り、職場の健康診断で癌が見つかったのである。
もうスキルス性の癌で、見つかってから、あっという間に身体中に転移したのである。もう手の施しようがなく、ただ死ぬのを待つ状態であったのだ。
それが神様のところで、返品されてから、やたら体調がいいのだ。ひょっとして、神様が癌細胞を持って行ってくれた?ってことないよね。でも、そうとしか思えないぐらい、元気なころの朱里に戻っているのだ。
ICUで、警報ブザーが鳴ったような気がしたので、急いで女性看護師が行ってみると、なぜか死にかけの大原朱里さんと、ふと目が合った。
「大原さん!私の声が聞こえる?」
返事をしようにも、呼吸器が喉の奥まで入っていて、声が出せない。首を上下に動かし聞こえているという意思表示をしたのである。
「信じられない!」
さっきまで血圧・脈拍・意識レベルの低下が見られ、もう今晩もつかどうかの患者さんだった。確かに警報ブザーが聞こえた気がしたけど、あれは空耳だったのか!?
その姿を見て、看護師さんは慌ててICUを飛び出していく。主治医の先生を呼びに行ったみたい。すぐに先生が来てくれた。先生はモニターを見ながら絶句している。
呼吸数も脈拍も心電図も異常なしの正常値に戻っているから。
「……クリスマスの奇跡だ。」
先生がそうおっしゃると、さっきの看護師さんも頷いている。
それから、日に日に朱里の体調は良くなっていく。エコーで調べたら、癌細胞が消えているようにしかみえないらしい。
血液検査で調べても、がんの数値は見当たらない。あまり具体的には、書きません。血液検査結果表で見たら、誰でもわかるところなので、ショックを受けられたら困るということで、ご理解ください。
完全に癌細胞が消えたことが確認されてから、大原朱里は退院したのだ。
大原朱里は孤児で、クリスマス・イヴに病院の赤ちゃんポストの中に捨てられていたのである。その病院名は地域の名前から大原病院であったことから、大原と言う名前になったのである。朱里と言う名前はおくるみに朱里と書かれたメモが挟んであったことから、そのまま名付けられたのである。
一応、生年月日らしきものが書かれたメモも一緒だったが、朱里にとっては、拾われた日が誕生日みたいなものだったのだ。
看護師長が母親代わりとなり、朱里を育ててくれたのだが、師長はいつも朱里に
「あなたは捨てられたわけではありません。いつかあなたの本当のお母さんが迎えに来てくださいますよ。」
いつも、そう言ってくれていたから、朱里はずっとその言葉を信じて、毎年クリスマス・イヴを楽しみに待っていたのである。
少し大きくなると、孤児院に育った。大原病院の看護師長さんが、お母さん代わりとなって、いろいろお世話をしてくださったが、その方も過労が原因で早くにやめられ、地元へ帰って行かれてからは音信不通となったのである。
孤児院から学校に通い、中学を卒業してから看護師の道を志したのも、あのお母さん代わりとなった看護師長さんへの恩返しのつもりであったのだ。
もう本当の母親が迎えに来ることなんてないと諦めたのも、ちょうどこの頃であったのだ。
最初、准看護師になり看護学校へ行きながら、昼間は准看護師として働き、夜は看護学校へ行き、正看護師の国家試験に合格した。
新しい職場も決まり、お給料は10万円ぐらい跳ねあがって意気揚々としていた頃に職場の健康診断で引っかかり、末期がんと診断されたのである。
だから、朱里はクリスマス・イヴが大嫌いであったのだ。
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