ようこそ肉体ブティックへ~肉体は魂の容れ物、滅んでも新しい肉体で一発逆転人生をどうぞ

青の雀

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異世界からやってきた聖女様

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 深尾妙子ことカトレーヌ・ベンジャミンは、急に女神様からの呼び出しに怪訝な思いをするも、転移魔法を使い肉体ブティックへ行く。

 そこには女神様のほかに、異世界人がいる!明らかに異世界人もしくは外国人?と思われるような若い女性の姿があったのだ。

 「ああ、ちょうどいいところに来てくれたわね。アナタを呼んだのは、他でもないこの子にニッポンで生活に困らないように基本的な調理法を教えてあげてくれない?アナタの作るお料理は何でも美味しかったから、またあのマンションの部屋を出してくれたら嬉しいんだけどね。」

 「うーん。何ができる?お湯ぐらい沸かせるわよね。ニッポンで暮らすならお湯ぐらい沸かせないと、お湯さえ沸かせれば、カップラーメンが食べられるから飢え死にすることはない。それにお米を研ぐことも、最低限誰でもできることよ。」

 「かっぷ……らぁめん?、おこめ?とぐ?」

 「あーだめだこりゃ。」

 「でしょう?だから、アナタを呼んだの。」

 カトレーヌは、いったんベンジャミン家へ戻り、クローゼットの中の前世使っていたマンションを異空間に仕舞い、そして再び女神様のところへ行き、勝手口の三途の川の手前にマンションを出す。

 「あ!ダメよ、そんなとこに出しちゃ。」

 「え?どうして?」

 「だって、この子、三途の川を渡りたがっているんだもん。」

 仕方なく、またマンションをしまい、どこに出すかを思案する。あまり女神様の私室になるようなところへは、出したくない。その時、向かい側を何気なく見ると、まだ妙子の母と幼馴染が争っているのが見える。

 まだ三途の川を渡らせてもらえないようだ。働くことをとことん嫌い楽することばかりを考えている人たちだから、仕方がないのかも?もう、あれから10年は経っているというのに。

 結局、ベンジャミン家の元のクローゼットの中を選び、マンションの押し入れかメーターボックスに異空間通路を設けることにしたのである。

 どうみても、そこにいる異世界人の聖女様は、ベンジャミン家へ連れて行った方がしっくりくる。でも、旦那に浮気されないか心配だから。夜はマンションの鍵をかけて、マンションの部屋に閉じ込めよう。

 マンションの間取りは2LDK、35年ローンを組んで購入した物件である。南側に面している部分はLDKがあり、バルコニーに出られる窓がある。寝室と書斎が別についている。とりあえず、最近使っていない書斎に新しいベッドを入れ、そこを聖女様に使ってもらおう。そういえば、聖女様の名前を聞いていなかったわ。呼びにくくて仕方がない。

 バルコニーに一応出られるが、以前の景色と違う。当り前だ。だから、窓に異空間通路を仕掛けることにして、肉体ブティックの入り口に……いや、修業がつらくて逃げ出すかもしれないから、入り口はダメでも、肉体がぶら下がっているクローゼットは気持ち悪い。

 いったん、肉体ブティックへ飛んで、どこに異空間の入り口を作るかを女神様と相談することにしよう。そしたら、また女神様ったら、あの異世界人聖女相手に食べてる!

 「ちょっとぉ、人がせっかくマンションの部屋を出してあげているのに、そしてこの娘さんのためにベッドまで買ったのに、何、食べてサボってんのよ?」

 「違う。違うわよ。これはニッポンの文化や習慣を教えてあげているのよ、ね、そうでしょう?」

 女神様は、ウィンクをして異世界聖女様に言っているけど、本当かなぁ。

 結局、物置小屋の扉が異空間への出入り口となり、扉を開けてマンションのバルコニーへ行く。バルコニーで靴を脱いでもらい、裸足で部屋に入ってもらうことにしたのである。

 「ねぇ、聖女様、あなた名前なんて言うの?わたくしは、カトレーヌ・ベンジャミン、商会経営者の妻で聖女をやっています。前世、ニッポンからお酒などの商品を仕入れ、それに聖女の力をこめて『聖女リキュール』と名付け、販売しています。」

 「はじめまして、わたくしはセレンティーヌと申しまして元は公爵令嬢でしたが、侯爵の夫とは白い結婚で、修道院に行ってから聖女覚醒しましたの。」

 「そっか、公爵令嬢って、幸せな結婚ができないものなのね。わたくしもそうなのよ、というかこのカラダの本来の持ち主は公爵令嬢だったのよ。親から虐待されていたらしいんだけどね、そのあたりの記憶が全くないのよ。別人だから。」

 カトレーヌは、喋りながら、お風呂やトイレの使い方を説明していく。書斎のドアを開け

 「ここがセレンティーヌの部屋よ。特訓する前に、ウチの家族や従業員に紹介するわね。万が一、クローゼットの中を覗かないとも限らないしね。え……と、実家のジャネット公爵家の使用人も今は、ウチの従業員だから、そうね。セレンティーヌは、教会で知り合った聖女様と言うことにしておくか?旅に出る前に聖女としてのあれこれを指導するため、ウチに連れてきた。とでも言っておくわ。」

 二人はバルコニーで脱いだ靴を再び持ってきて、マンションの玄関に置く。

 「ニッポンでは、土足厳禁なのよね、ホテルや銀行、デパートなど外に立っている公共的なものは靴を履いたままでもいいけど、家の中では、みんな靴を脱ぐのが当たり前なのよ。」

 その時、バルコニーの窓が開く。女神様が様子見に来たのである。

 「ちょっと待ったぁ!我が家は土禁ですから、履物はバルコニーで脱いでくださいませ。」

 ベンジャミン家の面々に紹介する前に、また女神様にもマンションの説明をしていく。

 女神様は初めて見るバス・トイレが珍しいらしく、なかなかその場から離れない。

 「なんなら、入って行けば?百聞は一見にしかずよ。」

 「え?いいの?じゃ、お言葉に甘えて、あ!着替え持ってこなくちゃ。」

 肉体ブティックへ帰って行き、すぐそのあと着替えやバスタオルを抱えてやってくる。

 その間にカトレーヌは、バスタブにお湯を張り、シャンプー・リンス、ボディソープを出す。

 「見ちゃ、いやよ。」

 そそくさと女神様は、お風呂場へ消えていく。

 女神様が来られたことにより紹介することが遅れてしまい、先にお湯の沸かし方やお米のとぎ方を教えていくことにする。

 「ご飯は一人一合が目安ね。計量カップがあるから、これですりきり一杯が一合の目安よ。」

 お風呂場からは、女神様の鼻歌と思われる声が聞こえてくる。

 異世界通販でメニューを選び、材料を買いそろえていく。今日のメニューはハンバーグ定食にすることにする。

 ご飯に味噌汁、ハンバーグ、温野菜を添えて、供するつもり。お出汁の取り方も教えられるし、腹持ちがいいので一石二鳥かな?

 玉ねぎは、外の茶色い皮をむき、良く洗い上と下のヘタを切る。

 セレンティーヌにまな板と包丁を渡し、そこで玉ねぎのみじん切りの仕方をおしえていく。

 「最後まで全部切らないで切り込みを入れる感じで……それから反対方向に玉ねぎを向け今度は最後まで切ると、……ほら。」

 あいびきミンチを買う、豚肉から甘さが出るから。それに塩と卵、炒めた玉ねぎのみじん切り、コショウ、パン粉と牛乳を手早く混ぜこねる。

 叩きながら空気を抜き、形を整え、真ん中をくぼませる。

 フライパンで両面焦げ目がつくまで焼き、水を加え、蓋をして蒸し焼きにする。竹串などを指し、煮汁が透明であれば、蓋を外して水分を飛ばし、お好みのソースをかける。

 簡単でしょ?

 出来上がった頃を見計らい?女神様がお風呂から出てこられる。

 「ああ、いい匂い。食欲をそそるわ。それにお風呂の中にあったシャンプー・リンスも艶々で髪しっとり、お肌しっとりになったわ。ニッポンではこんなイイものが手に入るなら、わたくしもニッポンとやらに転生したいものよ。」

 「お気に召したのなら、差し上げますよ。」

 異世界通販で、カトレーヌはシャンプー・リンスとボディソープを買い、女神様に差し出す。

 「わ、わ、なんか催促しちゃったみたいで、ごめんね。それにしてもこの匂いは?」

 「さ、試食タイムと行きましょうよ。女神様も座って。」

 「いいの?わたくしまでご馳走になってしまっても?」

 「ちょうど、3人分作ったから、どうぞ。」

 「美味しいわ。本当、アナタが作るものは何でも美味しい。あなたこの人に見習って、何でも作れるようになりなさい。」

 「はい。」

 こうして奇妙な3人の共同生活が始まる。共同と言っても、女神様は勅滋時にだけ現れ、ご飯を食べていくだけなのだ。

 寝泊まりは別々で、相変わらずお風呂はカトレーヌの出したマンションの中で入っていく。だったら、シャンプー・リンス、ボディソープ返しなさいよ。と言いたいところだが辛抱する。三途の川で奪衣婆や他の神様に自慢しているかもしれないから。

 カトレーヌはセレンティーヌに言っていないが、一度作ったことがある、もしくは食べたことがある料理は再現できる魔法を習得しているのだ。でも、それを教えてしまったら自分では作らない。だからあえて言わないのである。

 その日の夜のご飯は、ハンバーグにしたのである。もう子供たちは大きくなって、「おかわり」の声が何度もかかる。

 ご飯と味噌汁ではなく、パンとスープにすれば異世界風になる。

 夫のクラークも舅のロッキーさんも、ハンバーグがいたくお気に召したようで、何度もお代わりをしてくる。

 その度にいちいち焼いていられないから、料理再現魔法でパっと出す。

 「甘くてやわらかくて、それでいて肉のうまみがたっぷりでジューシーで実に美味い。」

 カトレーヌは、まだセレンティーヌのことを紹介していないのである。セレンティーヌは今頃、マンションでお風呂に入っているかしら。それともテレビの付け方を教えたから、現代ニッポンを勉強しているのかわからない。

 明日は魚の煮つけでもやろうか?牛を捌くことはできないけど、魚は捌けるにこしたことがない。

 一週間みっちり特訓し、何とか身の回りのことは自分でできるようになったセレンティーヌと、いよいよお別れの日がやってくる。

 「寂しくなるわね。いつでも遊びにいらっしゃい、と言いたいところだけど、そうはいかないわよね?これからはニッポン人のパティシエとして生きるのだからね。そうだ、卒業祝いに、最後にひとついい魔法を教えてあげる。これさえあれば、きっと役に立つわよ。」

 それは、料理再現魔法のこと。いつかパティシエになり受注量ができそうもないぐらい増えてしまったら、この魔法を使えば一瞬で失敗なくできる。これに聖女様の力を混ぜて、作ればこのケーキを食べた人、誰でもがほんの少し幸せになれたり、少し運をもらえたり軽い体調不良が治ったりということになるから、という言葉を添える。

 カトレーヌは、セレンティー部とともに再び肉体ブティックを訪れ、最後の別れをしてセレンティーヌは現代ニッポンへ旅立っていく。

 ふと向かい側を見ると、まだ妙子の母と同級生たちが、泥んこになって喧嘩しているみたい。いつになったら成仏できるのかしらね。と思って、帰ろうとするとなぜか女神様もついてくる。

 「一仕事終えたから、アナタのところでひとっ風呂浴びさせてもらうとするわ。」

 「だって、まだ朝よ。」

 「いいの、いいの。堅いこと言わない。」

 カトレーヌは最近、女神様のために温泉の素など入浴剤を買っておいている。それをまた女神様は気に入って

 「今日は、どのお風呂にしましょうか♪」

 ご機嫌で選んでいるのだ。

 そのうち、マンションに泊りたいなんて、言うんじゃないでしょうね?と心配している。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 「ん……ん。」

 「おお!意識が戻ったみたい。早く、先生を呼んできて。」

 扉を開け閉めする音が聞こえる。

 今は個室に入院していても、面会をお断りしている病院が多いが、意識不明の重症患者だったので、両親が付きっ切りで側にいてくれている。

 セレンティーヌは、ふと目を開ける。見たこともない部屋、平べったい顔が覗き込んで嬉しそうな表情を浮かべている。

 「ここは、どこ?……わたくしは誰?」

 女神様から言われた言葉をそのまま述べるセレンティーヌ

 瞬間、病室は氷点下にまで下がる。

 平べったい顔はみるみるうちに悲し気な表情へ変わっていく。何か悪いことをしているみたいな気分だけど、本当にここがどこで自分が誰かがわからないので、女神様の言う通りにしなければならないセレンティーヌ。

 「やっぱり、記憶はダメだったか。でもカラダさえじょうぬになれば、また元の生活に戻れるさ。」

 肩を落としている平べったい顔。

 その人はどうやら父親らしい。

 「かわいそうに、よっぽど怖い思いをしたのね。だから、こんな……。」

 この人が母親みたい?しくしくと泣いている。その背中をセレンティーヌは優しく撫でる。

 ふと、驚いて顔を上げ泣き止む女性。

 「やっぱり優しいままの彩也子ちゃんだわ。たとえ、記憶がなくても、この娘は確かに私の娘の彩也子です。」

 いいえ。違いますわよ、お母様とは言えない。

 意識が戻ったのだからと、強引に退院させられるセレンティーヌ、自分がどこの誰かは誰も教えてくれない。大丈夫だろうか?

 そして帰りがけ、自分の姿を見て、驚く。なんてブサイクな平べったい顔をしているの?それに肌の色も少し、赤身?黄身が買っているように思える。セレンティーヌ時代のすらりとした手足はなく、むっちりとした太ももに愕然とする。

 これは一週間後返品しようか?それとも>とにかく、カトレーヌの元へ飛ぶことにしよう。ただ、今は周囲の目があるから辛抱するけど、退院してから落ち着き先が決まってからでもよい。

 このカラダの持ち主は、正木彩也子ちゃん、高校1年生である。学校帰り痴漢に追いかけまわされ、携帯電話で助けを求めるも警官の到着が遅れ、押し倒された際に頭を強く打ってしまう。

 痴漢は婦女暴行未遂と傷害の現行犯で逮捕されたのである。

 正木製菓の社長令嬢であったのだ。

 自分の素性を知らないセレンティーヌは、田園調布の自宅に帰り、自室からカトレーヌのマンションを目指して飛んだ。

 田園調布では、やはり靴を脱いで上がったから、靴を脱いだままスリッパで飛ぶ。

 カトレーヌのマンションに着くも今は誰もいないようだ。仕方なく書斎へ行くともうそこは、セレンティーヌの居場所はなく、ベッドは片づけられたままになっていた。

 リビングでテレビをつけるとワイドショーで社長令嬢失踪事件がやっていて、その社長令嬢と言うのは、まぎれもなくセレンティーヌのことを報じていたのだ。

 え?たった今、出てきたばかりなのに、10分も経っていないのに、失踪ってどういうこと?

 そこへ女神様とカトレーヌがそろって、バルコニーから戻ってきたのだ。

 「あの……、今テレビを付けたら、わたくしの失踪事件と言うのがやっていて……まだ家を出てから10分しか経っていないというのに……。」

 「ああ、これね。未来テレビなのよ。なぜだかわからないけど、近未来のことを予知して移すテレビになってしまったのよ。」

 「あなた、そのカラダが嫌で家を飛び出してきたのでしょう。このまま返品すると、社長令嬢失踪になっちゃうってことなのよ。でも、辛抱してそのカラダに戻れば、この放送は亡くなってしまうってわけ。で、どうする?」

 迷うセレンティーヌ、だって、あの両親をまた悲しませることになるから。

 そこへカトレーヌが割り込んで入ってきた。

 「その体型が気に入らないの?大根足が嫌なの?うーんとね、ニッポンの女の子は化けるわよ。もう3年もすれば、綺麗にすっきり痩せるわ。今は、カラダの基礎を作るのに大切な時期だから、なんでも残さず食べなさい。」

 まるで母親が娘を諭すように言うと、セレンティーヌは静かに耳を傾ける。そして納得したように、そのまま転移して田園調布の自宅へ戻り、それからは出されたものは、すべて好き嫌いなく食べる頭にしたのだ。

 人が代わったような娘の食生活に両親は、ホッと胸を撫でおろす。
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