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3度目の正直
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「おめでとうございます。計算が合いました。」
支店長がおもむろに言われると、皆一斉に手を、止め帰り支度を始める。
営業室を出て、ロッカー室に向かっている途中、同期の恒夫が
「腹減ったな、帰りにメシでも食いに行くか?」
恒夫とは同期入行らしいけど、どう見てものぞみの、いえスカーレットのタイプではない。でもいい大学を出ているらしく、態度が横柄で「自分は将来、頭取になる。」と周りに吹聴しているところが癪に障る。
でも確かに残業でお腹は空いているので、割り勘は嫌だけど、おごってくれるのならと恒夫と一緒に食事に行くことにする。
恒夫はそういうところは気前が良く、というかそもそも銀行OLの基本給は低い。恒夫のような幹部候補生は最初から基本給が倍近くある。
普通の一般大学の出身者と違い、渉外を経験することもなく、ずっと内勤なのだ。
だから「将来、頭取になる。」なんて大風呂敷を広げられる。
いつも行くところは、銀行の近くの居酒屋なのに、その日はなぜか給料日前だというのにホテルの中に出店しているイタリアンレストランを恒夫は予約していたのだ。
のぞみがロッカールームから私服に着替えて出てきたら、もう通用口を出たところで待っている恒夫がいた。
いつもは無駄口ばかり叩く恒夫は、今夜に限っては無口なところが少々気になる。
ひょっとして、食後になり会計の時が来たら、「割り勘に」と言われるのではないかと心配したので、安いものばかりを注文する。
恒夫はのぞみの心配をよそに、高いワインを注文してテイスティングをし終わった後、食事が来るまでの間、急に真面目な顔をする。
「のぞみちゃん、俺と結婚してくれないか?子供ができるまでは今まで通り銀行員として仕事は続けてほしい。子供が生まれたら、できれば専業主婦になってほしい。時代錯誤なのは重々承知しているが、俺は将来、頭取になるつもりだからのぞみちゃんとどうしても結婚したいのだ。入行式の時から、のぞみちゃんとは運命を感じていた。心から愛しています。」
そう。銀行員は25歳までに結婚しないと将来の出世はない。それも男が出世するためには、どうしても美人の嫁さんが必要になる。出世すると、一緒にパーティに出席するためだ。美人の嫁は上からの引きがあるが、ブスでは相手にもされない。いくら頑張っても、ブスのバカは玉の輿に乗れない仕組みがある。
世の中にはトロフィーワイフと呼ばれる女性がいるが、モデルや女優などで一般人は手が出せない。
男が出世のために、そういう女性と結婚する。
のぞみは恒夫のことを好きではないが、嫌いでもない。だから一緒に食事をしている程度のお友達感覚なのである。
「急に言われても……、恒夫くんとは同期のお友達だと思っていたから。」
「すぐ返事はいらないよ。ただ結婚を前提としたお付き合いはしてほしい。これはいいね?今までとそう変わらない関係性だからね。時々一緒に食事してくれればいいし、休みの日に会って、映画を観て食事に付き合ってくれるだけだから。いいだろ?」
恒夫はわざとデートと言う言葉を飲む。錯誤させるため。デートと言えば、キスやセックスが伴うから、警戒されやすい。
「うん。まぁそんなことでいいのなら、いいわよ。難しく考える必要がないなら、お付き合いします。」
のぞみは前世スカーレットの記憶から、婚約者というものを経験しているが、お妃教育を強いられることとジャガーと週に一度のお茶会ぐらいの付き合いしかしてこなかったので、そんなものだとタカをくくる。
それからは食事の最中でも何かあれば、「愛しているよ。」という言葉を連発する。「かわいい、愛しているよ、のぞみちゃん。」を言われるたびにだんだんその気になってくるのぞみ。
のぞみの前世スカーレットは、飲み物と言えば紅茶とシャンパン、ワインといった軽めのお酒しか口にしなかったので、けっこうこのニッポンに来てから、お酒には強い方だという自負があったのだが、この日はどういうわけか早くまわる。
恒夫は、食事の後、ホテルのバーにのぞみを誘う。もうすっかり出来上がっている状態ののぞみは、その誘いを必死に固辞するものの
「さっき、結婚を前提としたお付き合いを承諾しますって、言ったろ?あれはウソだったの?」
かぶりをふって否定するのぞみは、頭を大きく揺らしたことでさらに酔いがまわる。
それから後のことは覚えていない。気づけば朝で、恒夫が横に寝ていた。
「え?うそ?」
「やぁ!おはよう。昨日はお疲れさまでした。」
恒夫は、昨夜のホテルに連れ込んだのだ。
のぞみが処女だとわかって、ご満悦のご様子。
「あの……?」
「うん。昨夜は愛し合ったよ。君が何度も求めるから、けっこう疲れたけどさ。何なら、もう一度する?」
そういえば、下腹あたりが何やら重く痛む。
「いいえ、結構です!」素っ裸のまま、バスルームに駆け込む。
それを後からニヤつきながら、追いかけ、またもバスルームの中で襲われるのぞみ。
「きゃー助けてー!やめてー!」
狭いバスルームでは逃げ場がない。
「嘘ばっかり言ってる。昨日はあんなに気持ちいいって言ってたのに。ほら、ここをこうすれば……いいだろう。君はここが感じるんだね。」
抵抗するも実際に感じるものだから、腰砕けになり、恒夫のされるままの姿で何度も貫かれる。自分では、信じられないような声を出しながら、正真正銘恒夫が言う結婚を前提としたお付き合いが始まる。
もうのぞみは、すぐにでも結婚したかったのに、恒夫はなかなかしてくれない。デートのたびに「早く結婚してください。」とお願いしているのを嬉しそうに黙って聞いているだけなのだ。
「のぞみちゃん愛しているよ。でもまだ俺好みの女に成り切ってないからね。もう少しだ。頑張れ。」
そんなこと言われても、どうすれば恒夫好みの女に成れるのかわからない。
銀行帰り、毎晩抱かれるようになったけど、休日も女の子の日以外はいつも恒夫と一緒。恒夫は女の子の日でも銀行の帰りは容赦がなく、バスルームでされる。
結局、恒夫が結婚式を決めたのは、のぞみが妊娠してからのことで、周囲はデキ婚に驚いた様子。それは恒夫がのぞみを他の男に盗られたくない一心で結婚を焦らしていた成果でもある。
のぞみの気持ちをいつまでも自分に向けさせておくための賜物と言ったほうがいいか。
支店長がおもむろに言われると、皆一斉に手を、止め帰り支度を始める。
営業室を出て、ロッカー室に向かっている途中、同期の恒夫が
「腹減ったな、帰りにメシでも食いに行くか?」
恒夫とは同期入行らしいけど、どう見てものぞみの、いえスカーレットのタイプではない。でもいい大学を出ているらしく、態度が横柄で「自分は将来、頭取になる。」と周りに吹聴しているところが癪に障る。
でも確かに残業でお腹は空いているので、割り勘は嫌だけど、おごってくれるのならと恒夫と一緒に食事に行くことにする。
恒夫はそういうところは気前が良く、というかそもそも銀行OLの基本給は低い。恒夫のような幹部候補生は最初から基本給が倍近くある。
普通の一般大学の出身者と違い、渉外を経験することもなく、ずっと内勤なのだ。
だから「将来、頭取になる。」なんて大風呂敷を広げられる。
いつも行くところは、銀行の近くの居酒屋なのに、その日はなぜか給料日前だというのにホテルの中に出店しているイタリアンレストランを恒夫は予約していたのだ。
のぞみがロッカールームから私服に着替えて出てきたら、もう通用口を出たところで待っている恒夫がいた。
いつもは無駄口ばかり叩く恒夫は、今夜に限っては無口なところが少々気になる。
ひょっとして、食後になり会計の時が来たら、「割り勘に」と言われるのではないかと心配したので、安いものばかりを注文する。
恒夫はのぞみの心配をよそに、高いワインを注文してテイスティングをし終わった後、食事が来るまでの間、急に真面目な顔をする。
「のぞみちゃん、俺と結婚してくれないか?子供ができるまでは今まで通り銀行員として仕事は続けてほしい。子供が生まれたら、できれば専業主婦になってほしい。時代錯誤なのは重々承知しているが、俺は将来、頭取になるつもりだからのぞみちゃんとどうしても結婚したいのだ。入行式の時から、のぞみちゃんとは運命を感じていた。心から愛しています。」
そう。銀行員は25歳までに結婚しないと将来の出世はない。それも男が出世するためには、どうしても美人の嫁さんが必要になる。出世すると、一緒にパーティに出席するためだ。美人の嫁は上からの引きがあるが、ブスでは相手にもされない。いくら頑張っても、ブスのバカは玉の輿に乗れない仕組みがある。
世の中にはトロフィーワイフと呼ばれる女性がいるが、モデルや女優などで一般人は手が出せない。
男が出世のために、そういう女性と結婚する。
のぞみは恒夫のことを好きではないが、嫌いでもない。だから一緒に食事をしている程度のお友達感覚なのである。
「急に言われても……、恒夫くんとは同期のお友達だと思っていたから。」
「すぐ返事はいらないよ。ただ結婚を前提としたお付き合いはしてほしい。これはいいね?今までとそう変わらない関係性だからね。時々一緒に食事してくれればいいし、休みの日に会って、映画を観て食事に付き合ってくれるだけだから。いいだろ?」
恒夫はわざとデートと言う言葉を飲む。錯誤させるため。デートと言えば、キスやセックスが伴うから、警戒されやすい。
「うん。まぁそんなことでいいのなら、いいわよ。難しく考える必要がないなら、お付き合いします。」
のぞみは前世スカーレットの記憶から、婚約者というものを経験しているが、お妃教育を強いられることとジャガーと週に一度のお茶会ぐらいの付き合いしかしてこなかったので、そんなものだとタカをくくる。
それからは食事の最中でも何かあれば、「愛しているよ。」という言葉を連発する。「かわいい、愛しているよ、のぞみちゃん。」を言われるたびにだんだんその気になってくるのぞみ。
のぞみの前世スカーレットは、飲み物と言えば紅茶とシャンパン、ワインといった軽めのお酒しか口にしなかったので、けっこうこのニッポンに来てから、お酒には強い方だという自負があったのだが、この日はどういうわけか早くまわる。
恒夫は、食事の後、ホテルのバーにのぞみを誘う。もうすっかり出来上がっている状態ののぞみは、その誘いを必死に固辞するものの
「さっき、結婚を前提としたお付き合いを承諾しますって、言ったろ?あれはウソだったの?」
かぶりをふって否定するのぞみは、頭を大きく揺らしたことでさらに酔いがまわる。
それから後のことは覚えていない。気づけば朝で、恒夫が横に寝ていた。
「え?うそ?」
「やぁ!おはよう。昨日はお疲れさまでした。」
恒夫は、昨夜のホテルに連れ込んだのだ。
のぞみが処女だとわかって、ご満悦のご様子。
「あの……?」
「うん。昨夜は愛し合ったよ。君が何度も求めるから、けっこう疲れたけどさ。何なら、もう一度する?」
そういえば、下腹あたりが何やら重く痛む。
「いいえ、結構です!」素っ裸のまま、バスルームに駆け込む。
それを後からニヤつきながら、追いかけ、またもバスルームの中で襲われるのぞみ。
「きゃー助けてー!やめてー!」
狭いバスルームでは逃げ場がない。
「嘘ばっかり言ってる。昨日はあんなに気持ちいいって言ってたのに。ほら、ここをこうすれば……いいだろう。君はここが感じるんだね。」
抵抗するも実際に感じるものだから、腰砕けになり、恒夫のされるままの姿で何度も貫かれる。自分では、信じられないような声を出しながら、正真正銘恒夫が言う結婚を前提としたお付き合いが始まる。
もうのぞみは、すぐにでも結婚したかったのに、恒夫はなかなかしてくれない。デートのたびに「早く結婚してください。」とお願いしているのを嬉しそうに黙って聞いているだけなのだ。
「のぞみちゃん愛しているよ。でもまだ俺好みの女に成り切ってないからね。もう少しだ。頑張れ。」
そんなこと言われても、どうすれば恒夫好みの女に成れるのかわからない。
銀行帰り、毎晩抱かれるようになったけど、休日も女の子の日以外はいつも恒夫と一緒。恒夫は女の子の日でも銀行の帰りは容赦がなく、バスルームでされる。
結局、恒夫が結婚式を決めたのは、のぞみが妊娠してからのことで、周囲はデキ婚に驚いた様子。それは恒夫がのぞみを他の男に盗られたくない一心で結婚を焦らしていた成果でもある。
のぞみの気持ちをいつまでも自分に向けさせておくための賜物と言ったほうがいいか。
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