ようこそ肉体ブティックへ~肉体は魂の容れ物、滅んでも新しい肉体で一発逆転人生をどうぞ

青の雀

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3度目の正直

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 恒夫のことを本当に好きだったかどうかは別として、のぞみは結婚して専業主婦になった。だが、毎日ヒマを持て余している。

 「ヒマは幸せか?」

 自問自答をする。結果、幸せでないとの結論を得る。

 もう、クーリングオフの期限は過ぎている。

 子育ては、シッターがしてくれる。家事はお手伝いさんがしてくれる。恒夫はのぞみの手が荒れることを嫌がり何もさせてくれない。

 「君は綺麗なままでいてくれ。」

 のぞみは悩む。自分は人形ではない。

 恒夫が帰ってきたら、ただ恒夫の慰み者のような生活。恒夫の欲を受け止めるだけのカラダにうんざりする。

 新婚の頃は、「愛している」と言ってくれ、入念な愛撫があったのに、今やいきなり裸にされ、濡れてもいないのにズボっと入れて、自分だけが満足して離れていき、さっさと寝てしまわれる。

 こんな生活が幸せだと思えと言うほうがおかしい。

 銀行員にかかわらず、いわゆるエリートコースというものは離婚がNGなのよ。離婚すると出世にひびき、コースから脱落してしまうから。

 だから絶対、恒夫は離婚してくれない。一生籠の鳥のままで飼い殺しになる運命、特に女神様のところで希望を出さなかったから、こういうことになったんだと思うと悔しい。

 もっとカトレーヌ様のところでテレビを観て、勉強しとけばよかったとつくづく後悔する。

 そんなある日、いつものように不満タラタラで居間にいるとき、急に眠気がさしてきたのだ。

 おかしい。さっきコーヒーを飲んだばかりだというのに……。

 襲ってくる眠気は容赦がない。しばらくベッドへ横たわりウトウトすることに。

 夢の中でカトレーヌ様が出てこられる。

 「どうしたの?何かあったの?なんとなくスカーレットちゃんから呼ばれたような気がして、来てみたのよ。」

 のぞみはビックリするも、どうせこれは夢なんだからと思いのたけをぶつける。

 「要するに時間を持て余しているってことね?それなら公爵令嬢としてのたしなみをすればどう?たとえば刺繍やレース編みなんかいいのでは、ニッポンではものすごく高く売れるよ。旦那さんが商売に反対なら、出来上がった作品をウチの商会で売ってもいいわ。」

 いつの間にか、カトレーヌ聖女様と部屋の中を歩く。何かを探しておられるような?

 「このバルコニー、旦那と出ることがある?」

 「いいえ、旦那はわたくしを抱くことしか興味がないみたい。」

 「でも外から丸見えよね?それも困るわ。このドレッサーの裏側に扉を作りましょう。」

 「え?」

 「それとも書棚にする?いやいや、旦那が何の気なしに開けるかもしれないからね。ウチの亭主はそんなことしないけど、前世の兄貴が何するかわからない人だったからね。クローゼットの中に作りましょう。いくら旦那や家政婦さんでもクローゼットの奥までは行かないでしょ?」

 カトレーヌ様は、そう言いながらウォークインクローゼットの一番奥まで行かれる。一瞬ピカリと光ったと思ったら、扉ができていた。

 「一緒に来て。」

 言われるままにカトレーヌ様についていくと知らない間にそこには空間ができていたのだ。

 2~3歩行ったところで、カトレーヌ様のマンションの居間に来てしまったようだ。見慣れた昔懐かしいテレビが置いてある。

 「ここで作業をしてもいいよ。もし旦那が何も言わないようなら、家でやってもいいと思うけどね。」

 「刺繍や手芸、ハンドメイドはコンテストがあったと思うから、それに応募したらいいよ。なんなら応募作品に聖女の祈りを付けてあげる。そうすれば優勝間違いなしになると思うわ。旦那さんだって、奥様の作品が優勝すれば鼻高々になるんじゃないの?今は手芸と言えば、お金持ちの奥様の道楽よ。昔の内職とはイメージが違うからね。」

 「刺繍やレース編みなら、得意ですわ。前世お妃教育でさんざんやらされましたもの。」

 「そうと決まったら、道具を買うわね。と言ってもよくわからないわね。ニッポンへ戻ろう。手芸屋さんで相談しながら買うといいよ。同じものなら、わたくしにも手に入ると思うから最初はニッポンで買おうよ。」

 そして、クローゼットの中に戻ってくる。

 のぞみは、お手伝いさんに「買い物に行ってきます。」と言い、外出する。

 カトレーヌ様は入り口を出たところで待っていてくださっている。どういうわけか和服を着ていらっしゃったけど、ニッポン人には見えない。

 久しぶりの外出に心躍るのぞみ。手芸屋さんでは、あれやこれや選ぶことに夢中になる。絹糸で刺繍をしようと思っていたのに今はアクリル糸という化繊糸がある。色がきれいで丈夫らしい。

 お裁縫セットとレース編み用のかぎ針を買って帰る。

 帰宅したらどういうわけか、恒夫がもう帰宅していて、「どこへ行った?」とうるさく聞かれる。

 「これからは趣味で手芸をしたいと思いますので、その材料を買いに行きました。」

 正直に言うと、意外にも「そうか。」と一言だけ言い、その後は黙認されることになった。

 美容院と病院へぐらいしか外出を許されていないけれど、手芸はアリなのか?やっぱりカトレーヌ様が言われるように、手芸はお金持ちの奥様の道楽としているのか?

 よくわからないけど、それから、昼間はずっと自室で刺繍にレース編みを興じることになったのだが、これが本当に楽しい。一目一目編んでいくと嫌なこと辛いことが嘘のように忘れられる。

 刺繍もまたしかりである。一針一針、刺すたびに気持ちが綺麗になっていく。

 恒夫はどういうわけか集中して手芸に勤しんでいるのぞみが気に入っている。前みたいに鬱陶しい顔で出迎えられるより、ずっといい。

 手芸をしているときの横顔は、美しく惚れ直した気分だ。のぞみが手芸に夢中になるにつれて、また二人目が欲しいと思うようになる。

 夜も以前のように、ただ己の欲を吐き出すためでなく、心から愛しいと思えるようになった。新婚時代はただ美人の嫁さんが欲しいだけで、抱いていたのだが。

 そんな時、のぞみが手芸コンテストで優勝した。優勝してからは、上司の奥様や取引先の奥様から、のぞみの作品を買いたいと申し出られるようになり、恒夫は鼻高々。

 都内の画廊で個展も決まり、即売会もされることになったのだ。のぞみは自分の作品を手放したくないような様子だったが、恒夫は自分の仕事に利用できると思い、のぞみに強く勧める。

 
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