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プロローグ
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北前あきらは東京帝国大学の工学部の3年生で、いつものように美女狩りと称して、キャンパスを学友と共に歩いている。
自分のお目当ての美女を探すために……、北前あきらは、日本人でありながら彫りの深い整った美形をしていて、いわゆる濃い顔というところ。
そのため美女狩りなどしなくても、女の方から見た目だけで寄ってくるほどのイケメンなのだが、美女狩りのターゲットがお目当ての美女以外だった場合、そのすべてを味見もせずに学友にくれてやる。
はた目からすれば、ただ、落ちるまでを楽しんでいるように見えるプレイボーイなのだ。
そのプレイボーイは、東京帝国大学限定での美女狩りで、他大学の美人女子学生には、一切興味がないのは、どういうわけか、誰も知らない。
そんなある日。
前から歩いて来た美女、白い肌に黒いロングストレートの髪が印象的、六法全書を重そうに抱えている。
「おい、噂に名高いアレが今年のミス東帝大の呼び声が高い水島由紀子が来たぞ。1年生だそうだ。あきら、声をかけろよ。俺は一度でいいから、あんないい女とシたい。」
「おお、お、俺もお下がりでいいから食いたい。早くあきら、声をかけろよ。何を戸惑っているんだ。お前なら声をかければ、あんなオンナ一発で股を開くぜ。」
あきらは、そのオンナに釘付けになっている。学友たちがせかすも、学友の声などもはや聞こえない。
声をかけようとしたタイミングで、教員と思しきおっさんから呼び止められ、何やら話し込まれているので、そのままスルーして次の機会を待つことにした。
それから半年後のこと、またチャンスが巡ってきた。半年前と同じようにマスクはしているが、美人オーラがめいっぱい漂い、そのオンナの周りだけ輝いて見えるほど。
「あきら、今度こそ声をかけろよ。」
北前あきらは、また金縛りにあったような感覚で、そのオンナの一挙手一動を注目している。
そして、そのオンナとすれ違いざまに、ついに……
「しずく!」
そのオンナは、なんと立ち止まって、あきらの方を見た。
学友たちは、やった!とばかりに、水島由紀子のカラダを舐めまわすように見ている。
北前あきらと水島由紀子は、何も言わずにただ見つめ合っているだけで
北前あきらは、頭をボリボリ掻いて、言いづらそうに
「お茶でもしませんか?あ、イヤならいいですけど……。」
絞り出すように、やっとのことで口を開く。
「ええ。お茶ぐらいなら、いいですわ。」
なんと、気高い水島由紀子は、今まで学内でどれだけナンパされても一度も靡かなかったというのに、その時だけは、頷いた。
「あ、重いでしょう。その本、お持ちしますよ。」
「大丈夫ですわ。これぐらい……。」
「キミたち、悪いが先に行ってくれたまえ。」
北前は、学友を追い返し、水島由紀子と二人だけになり学内カフェに入る。
学友たちは、「チっ!」と言いつつ、帰ったふりをして、こっそり二人の後を追う。カフェの中の観葉植物の陰から、二人の様子を伺っていると、いつものようなナンパではないことに薄々気づく。
あきらは真剣な表情をしている。あいつが今まで、あんな表情をしているところを見たことがない。
注文した飲み物が運ばれてきても、なお二人は黙って見つめ合い続けている。
水島由紀子は、そんなあきらの態度を見て憤慨したかのように伝票をもって立ち上がろうとしたとき、たまたまあきらの手と触れ、どういうわけかそのまま再び座りなおして、今度は水島由紀子の方から、あきらの手を握りしめる。
そして、二人は何もしゃべらないまま、何時間も過ごす。
水島由紀子の表情は見えない位置にいる。
5講義目が終わり、閉店時間になっても、まだそのままの状態でいる二人。
店員にラストオーダーを促され、そのままあきらが伝票を持ち、カフェを後にした。
入るときと様子が違うところと言えば、あきらが水島由紀子の腰に手を回し、抱き寄せるようにしているところと、水島由紀子自身もあきらに身を任せ、しなだれかかっているところだ。
ロクに会話がない二人に何があったのか、誰も知る由がない。
「アレ、ナンパが成功したのか?」
「どうだろう?でも、あのオンナ嫌がるそぶりもせずに、あきらに腰を抱かれ、夢心地になっているぜ?」
「俺たちに、抱かせてくれないのかな?」
「さぁ、今度ばかりは、あきら自身が抱きたいのかもしれないな。いつも女がその気になれば、誰かがあきらのかわりに抱いていたのだからな。」
「お下がりが回ってくるだろうか?」
「あきらが、あのオンナに飽きてからだろう。」
「それまで指をくわえて、我慢するか。」
「そうだな、それも仕方がない。今まで、さんざん、あきらには世話になってきたのだからな。」
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
二人が赤門を後にし、無言のまま、お茶の水に差し掛かった時、不意に由紀子の腰を抱いていた彼の手に力が入り、抱き寄せられてしまう。
「会いたかった。しずく。」
「私もよ。サイゴンちゃん。」
二人は人目もはばからず熱い口づけを交わす。
「しずく!」
「サイゴンちゃん!」
見つめ合ったまま、微動だにしない。
世間はちょうどクリスマスシーズン。
赤、青、黄、緑と色とりどりのネオンが光る。クリスマスソングがBGMとして流れる中、二人は寄り添いながら愛を確かめる。
自分のお目当ての美女を探すために……、北前あきらは、日本人でありながら彫りの深い整った美形をしていて、いわゆる濃い顔というところ。
そのため美女狩りなどしなくても、女の方から見た目だけで寄ってくるほどのイケメンなのだが、美女狩りのターゲットがお目当ての美女以外だった場合、そのすべてを味見もせずに学友にくれてやる。
はた目からすれば、ただ、落ちるまでを楽しんでいるように見えるプレイボーイなのだ。
そのプレイボーイは、東京帝国大学限定での美女狩りで、他大学の美人女子学生には、一切興味がないのは、どういうわけか、誰も知らない。
そんなある日。
前から歩いて来た美女、白い肌に黒いロングストレートの髪が印象的、六法全書を重そうに抱えている。
「おい、噂に名高いアレが今年のミス東帝大の呼び声が高い水島由紀子が来たぞ。1年生だそうだ。あきら、声をかけろよ。俺は一度でいいから、あんないい女とシたい。」
「おお、お、俺もお下がりでいいから食いたい。早くあきら、声をかけろよ。何を戸惑っているんだ。お前なら声をかければ、あんなオンナ一発で股を開くぜ。」
あきらは、そのオンナに釘付けになっている。学友たちがせかすも、学友の声などもはや聞こえない。
声をかけようとしたタイミングで、教員と思しきおっさんから呼び止められ、何やら話し込まれているので、そのままスルーして次の機会を待つことにした。
それから半年後のこと、またチャンスが巡ってきた。半年前と同じようにマスクはしているが、美人オーラがめいっぱい漂い、そのオンナの周りだけ輝いて見えるほど。
「あきら、今度こそ声をかけろよ。」
北前あきらは、また金縛りにあったような感覚で、そのオンナの一挙手一動を注目している。
そして、そのオンナとすれ違いざまに、ついに……
「しずく!」
そのオンナは、なんと立ち止まって、あきらの方を見た。
学友たちは、やった!とばかりに、水島由紀子のカラダを舐めまわすように見ている。
北前あきらと水島由紀子は、何も言わずにただ見つめ合っているだけで
北前あきらは、頭をボリボリ掻いて、言いづらそうに
「お茶でもしませんか?あ、イヤならいいですけど……。」
絞り出すように、やっとのことで口を開く。
「ええ。お茶ぐらいなら、いいですわ。」
なんと、気高い水島由紀子は、今まで学内でどれだけナンパされても一度も靡かなかったというのに、その時だけは、頷いた。
「あ、重いでしょう。その本、お持ちしますよ。」
「大丈夫ですわ。これぐらい……。」
「キミたち、悪いが先に行ってくれたまえ。」
北前は、学友を追い返し、水島由紀子と二人だけになり学内カフェに入る。
学友たちは、「チっ!」と言いつつ、帰ったふりをして、こっそり二人の後を追う。カフェの中の観葉植物の陰から、二人の様子を伺っていると、いつものようなナンパではないことに薄々気づく。
あきらは真剣な表情をしている。あいつが今まで、あんな表情をしているところを見たことがない。
注文した飲み物が運ばれてきても、なお二人は黙って見つめ合い続けている。
水島由紀子は、そんなあきらの態度を見て憤慨したかのように伝票をもって立ち上がろうとしたとき、たまたまあきらの手と触れ、どういうわけかそのまま再び座りなおして、今度は水島由紀子の方から、あきらの手を握りしめる。
そして、二人は何もしゃべらないまま、何時間も過ごす。
水島由紀子の表情は見えない位置にいる。
5講義目が終わり、閉店時間になっても、まだそのままの状態でいる二人。
店員にラストオーダーを促され、そのままあきらが伝票を持ち、カフェを後にした。
入るときと様子が違うところと言えば、あきらが水島由紀子の腰に手を回し、抱き寄せるようにしているところと、水島由紀子自身もあきらに身を任せ、しなだれかかっているところだ。
ロクに会話がない二人に何があったのか、誰も知る由がない。
「アレ、ナンパが成功したのか?」
「どうだろう?でも、あのオンナ嫌がるそぶりもせずに、あきらに腰を抱かれ、夢心地になっているぜ?」
「俺たちに、抱かせてくれないのかな?」
「さぁ、今度ばかりは、あきら自身が抱きたいのかもしれないな。いつも女がその気になれば、誰かがあきらのかわりに抱いていたのだからな。」
「お下がりが回ってくるだろうか?」
「あきらが、あのオンナに飽きてからだろう。」
「それまで指をくわえて、我慢するか。」
「そうだな、それも仕方がない。今まで、さんざん、あきらには世話になってきたのだからな。」
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二人が赤門を後にし、無言のまま、お茶の水に差し掛かった時、不意に由紀子の腰を抱いていた彼の手に力が入り、抱き寄せられてしまう。
「会いたかった。しずく。」
「私もよ。サイゴンちゃん。」
二人は人目もはばからず熱い口づけを交わす。
「しずく!」
「サイゴンちゃん!」
見つめ合ったまま、微動だにしない。
世間はちょうどクリスマスシーズン。
赤、青、黄、緑と色とりどりのネオンが光る。クリスマスソングがBGMとして流れる中、二人は寄り添いながら愛を確かめる。
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