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35バニラサンデー

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 オリヴィアは、あまりにも国王陛下がアイスクリームをお気に召したために、エアコンと冷蔵庫の構造説明をしたけど、案の定、陛下は話についていけず、

 「涼しい。」「美味い。」

 連呼され、話は終わった。

 でも、ついでだから、日曜日にだけ「サンデー」という名でアイスクリームを売ることにしたのだ。

 確か、前世でチョコレートサンデーと言うのは、そういう意味があったと思う。

 アイスクリームの基本は、誰が何と言おうとバニラだ。これだけは譲れない!

だからバニラサンデー!

 クレープ風のコーンにバニラアイスを詰め込み、コーン丸ごと全部食べられるようにした。これで銀貨1枚。

 ちょっと高めだけど、用意した1000個は、あっという間に完売する。金貨100枚の売り上げにホクホク顔をしているオリヴィア。

 これなら毎週売ってもいいかも?と思える数字に満足している。

 昨夜、作りためて、良かった。アイスクリームは冷やしながら、空気を入れるため、何度も冷蔵庫から出し、混ぜる。混ぜて、混ぜて、空気を入れないとアイスクリームというよりアイスバーのようにカチンコチンになってしまう。

 ちょっと腕が痛くなってしまうぐらい、混ぜないと美味しいアイスクリームはできない。

 来週からは、料理長にも手伝ってもらって、作ることにしよう。

 昨夜、料理長が手伝うと言ってくれたのだけど、

 「これはお薬だから、医者が監修しないと……。」と断っちゃったのよ。

 なんで、あんなバカなこと言ってしまったのかしら。もっと、たくさん作れば、もっと儲かって、冷蔵庫にエアコンを増設して、もっと涼しくなったものを。

 ああ、バカだ。俺はなんて、バカなことを。医者は算術に弱い。それも金儲けの算術には、特に弱い。

 だから、前世では、医療コンサルタントなる者が暗躍する。そいつらが、銀行の借り入れから、医療器械の購入まで、何でも手配してくれるから、医者はそれに乗っかり、手数料を支払うだけで、開業できると思っているのだが、開業したら最後、地獄へ真っ逆さまに墜ちる。

 医者は儲からない商売だということを知らない。それで破産していく医者が年間、どれだけいるか。何億円もかけて購入した医療器械を、二束三文で買いたたかれる現実がある。銀行とブローカーが暗躍していて、代々の家屋敷まで担保に取られ、最後は破産の運命が待っている。

 だから、医者は、勤務医で居続けなければならない。どんなにブラック残業、サービス残業を強いられても。患者からの袖の下をアテにはできないから、持ってくる奴ばかりとは、限らない。患者にうっかり強要でもしてしまって、バレたら、即クビの現実がある。

 そうだ!商売のことは、ジェシードに相談すればいいのでは?マルコスは、どこにいる?

 この前、あった時にマンゴーにパイナップルを大量に仕入れて、売ってくると言っていた。来週までには、帰ってきてほしい。

 まぁ、今日のアイスは完売したのだから、よし。としなければ、罰が当たるか?

いやいや、今日のことが口コミに乗れば、来週はもっと稼げるはずさ、すべては、来週にかける。今日は宣伝費みたいなものでいいか。

 ひとりで百面相をしながら、後片付けをしていると、妙に身なりがいい若い男性が目の前に立っていた。

 「あの……、バニラサンデーを買いに来たのですが……。」

 「もう、全部売り切れてしまいましたわ。もともと、お薬として作っていたものを、国王陛下が大変、お気に召されて、それで……、一般の方にもお譲りしようとしただけですもの。」

 「おじいちゃんが言ってた。アナタが聖女ドクターのオリヴィア嬢でございますか?会いたかったです。私は、おじいちゃんの孫で、アールスハイド・フォン・アデセルと申します。今日は、バニラサンデーも欲しかったのですが、オリヴィア嬢にお会いしたくて参りました。」

 「はぁ……。こんなところで立ち話も何でございますから、どうぞ、中へ。」

 オリヴィアは仕方なくアールスハイド殿下を屋敷の中に入れ、レストランに座らせる。

 「ステキなお店ですね。この下に敷いているモノは、サイジアの絨毯ですか?」

 「よくご存知で、アデセル国に来る前に立ち寄り、買ってきましたのよ。」
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