裏口診療所 ～貧乏医者、現代医療で成り上がり

江戸時代編

12.AED

  江戸時代の京に太陽光パネルを設置した俺は、医者らしく、次にＡＥＤを設置することにした。自動体外式除細動器と言われるもので、急な心臓発作を起こした時、かなりの確率で助かる優れものである。現代では、駅など公共的な場に設置されている。

　これを発電機の横に備え付けた。それぞれに使い方を説明した。
　江戸時代の人が、心臓病で死ぬリスクが減った。

　いつの間にか、裏口診療所に弟子入り志願者が増えた。現代医学や現代知識を学びたいという若者であふれた。一応、全寮制にした。入院施設があるから、百聞は一見にしかず。だ。
　ただし、いつ裏口が塞がってしまうかわからない旨を説明し、それでもかまわないという者だけを受け入れた。

　江戸時代の若者から見れば、異世界へ留学するのとなんら変わらないようだ。着るもの、食べるもの、学ぶもの、生活様式すべてが初めてで戸惑いを隠せないでいる。

　妻は、まるっきり寮母のようになり、中学生か高校生ぐらいの息子がいっぺんに増えたようだから、張り切って甲斐甲斐しく世話を焼いている。
　全員に、スエットジャージを買い与え、頭に帽子をかぶせ、今日は、全員を連れてお買い物だ。

　信号は赤が止まれであおが進めだ、という基本的なことを教えた。さて、出かけようとしたら、そこで問題が起きた。足元が全員、下駄か草履だ。まず、足の裏のサイズを測った。
　家じゅうのあるだけの男者の靴下を集めたが、江戸時代の人は皆、小柄で妻の靴下でも十分間に合った。

　とにかく出かけた。皆、異世界現代を楽しみにしているだろうから、通りに出た。車が通るたびに質問攻め、自転車やバイクもしかりだ。今度の日曜日、自転車講習会を開くことにした。一人１台ずつ、自転車とヘルメットを買ってやろう。自転車なら、江戸時代へ戻った時でも十分役立つだろう。

　靴屋に到着した。全員分のスニーカーを買った。ネットでもスニーカーは買えるが、靴は直接、試着したほうがいい。店で履き替えて、さらに散歩だ。
　氏神様と言えば、八坂神社だ。通称「祇園さん」と呼ばれる神社で、素戔嗚尊を祀っている。まずは、その祇園さんへお参りに行こうとした。
　
　江戸時代にあった八坂神社と、似ているそうだ。そらそうだ。でも、現代八坂神社のほうが賑やかで活気があるらしい。
　昼飯は、東側の「いもぼう」で食べた。
　店の造りは、ほとんど江戸時代と変わらないが、少々辛かった。と言っていた。いや、実際、俺も辛いと思った。

　その後、知恩院、青蓮院とまわって帰った。

　帰宅して、感想を聞いたら、排ガスで臭かったと言った。
　なるほど、そうかもしれないと思ったが、そこは辛抱してもらわないと大気汚染のことまで、俺には何もできない。

　明日から、いよいよ勉強だ。ただし、俺の診察があるとき以外でな。