前世調理師の婚約破棄された公爵令嬢料理人録 B級グルメで王太子殿下の胃袋を掴めるように頑張ります!

青の雀

文字の大きさ
1 / 18

1 釜揚げうどん

しおりを挟む
 王都にある王立魔法学院の今日は卒業式、朝から卒業生に父兄でごった返しているが、物語のヒロイン公爵令嬢のミルフィーユ・マドレーヌは、熱を出して寝込んでいる。名代として、1歳年上の姉のショコラティエがかわりに出席している。パーティは欠席しても差しさわりがないであろうが、卒業式は名代を立てたとしても出席しといたほうがいいだろうと学園側の配慮でそれを認めたのである。

 そして、卒業パーティ、ショコラティエは自分は欠席するつもりでいたが、自分の旦那様で王太子殿下ブライアンが国王陛下の名代として出席されるので、王太子妃としてエスコートしたいとの申し出があり、これも妹の名代として出席することになったのである。

 学園側は国王陛下の名代として、ブライアン様の妻としての出席は歓迎すると言われてしまったのであるから、出ないわけにもいかなくなり、渋々、出ることに、主賓は卒業生なので、ブライアン様の陰に隠れ、なるべく目立たないようにしていたのだが

 「公爵令嬢ミルフィーユ・マドレーヌ!」

 呼びかけられたが、妹は高熱で寝込んでいる。

 「無視するな!公爵令嬢ミルフィーユ・マドレーヌ!貴様とは、今宵をもって婚約を破棄するものとする。」

 高らかに宣言されているのは、妹の婚約者である第2王子殿下のウィリアム様である。腕には、頭の悪そうなピンク色の髪の毛をした令嬢をぶら下げている。

 そして王太子殿下の腕にぶら下がっているショコラティエに向かって、何やら叫んでいるようだが、ショコラティエには、なんのことやらさっぱりで。

 妹のミルフィーユもこんな婚約者がいて、大変ね。と思っていたら、ショコラティエの左腕を掴んで引っ張られたので、そちらに転びそうになった時、旦那様のブライアン様が異変に気付いて助けてくださいました。

 「ウィリアム!何をする!」

 「へ?兄上、そこの女が男爵令嬢のリリアーヌを学園内で虐めぬいていたから婚約破棄を言い渡していたところです。」

 ショコラティエを指さして、ウィリアム様が叫んでいる。
 男爵令嬢のリリアーヌも、同じくショコラティエを指さして

 「そうですわっ!私も確かにこの女性に教科書を破られたり、噴水に突き落とされたり致しましてよ。」

 「ほう、それは奇怪な?ウィリアムもそこの令嬢も、確かに俺の隣にいるこの女性にやられたと申すのだな?誰か人違いをしているのではないのか?」

 「「間違いなく、この亜麻色の髪の女です。」」

 「無礼者!この女性は、俺の妻でショコラティエ王太子妃殿下であるぞ!」

 「へ?でも、卒業式の時は、ミルフィーユとして卒業証書を授与されていたではないか?」

 「あれは、妹の名代で、妹は一週間前から高熱を出して寝込んでおりますから。」

 「ウィリアム!お前は、婚約者殿の顔もろくすっぽ覚えていないのか?」

 「へ?でもリリアーヌが逃げていくときの亜麻色の髪の毛を確かに見たと言っていたから。」

 「リリアーヌとやら、虐められた時の状況を詳しく言ってみなさい。だれか証人がいるのか?」

 「いいえ。証人はいませんが、確かに……亜麻色の髪の毛をした女性が逃げていく後ろ姿を見ましてでございます。」

 「それは、いつのことだろうか?」

 「一週間前と3日前です。」

 「では、犯人は、ミルフィーユ嬢ではない。ミルフィーユ嬢は一週間前から原因不明の高熱で寝込んでいて学園を休んでいる。第一ミルフィーユ嬢は、プラチナブロンドヘアである。」

 「へ?では、ミルフィーユは、俺とリリアーヌの仲を嫉妬して誰かに頼んだのではないか?」

 「誰かとは、誰だ?その女が都合よく亜麻色の髪の毛だったのか?」

 「嘘ではありません。私は確かに亜麻色の髪の毛をした女性に突き飛ばされたのです。信じてくださいませ。」

 リリアーヌは瞳を潤ませながら上目遣いで見てくる。

 「では、証拠を拝見するとしようか?」

 「は?証拠も証人もおりません。と先ほど申し上げましたが……。」

 「ここは魔法学院なるぞ?この学院はいたるところに監視カメラが備え付けてあり、リアルタイムで映像が保存しているのである。」

 「もしその映像になかった場合、国家反逆罪で拘束させてもらおう。仮にもミルフィーユ嬢は義理の妹になるのでな。」

 リリアーヌは、青ざめ目が泳いでいる。
 そこへ映像が保管されている魔道具が運び込まれてきたのである。

 「最初は一週間前であったな。教科書を破られたと申していたから、教室での映像だな。」

 その映像の中身は、誰もいない教室でリリアーヌが机の中から教科書を取り出し、破りながら「ミルフィーユ様、何をなさいます!」と大声で叫んでいるところ。

 「次は3日前の噴水前の映像は、……おお!これだ。」

 誰もいない噴水前で、悲鳴を上げながら噴水に飛び込むリリアーヌが映っているだけであったのだ。

 「リリアーヌ!貴様、嘘を吐いていたのか!なぜだ?愛していると言ってくれていたではないか?なぜ、嘘を吐く必要があったのだ?」

 「だって……ウィリアムがなかなかミルフィーユと婚約破棄してくれないから。王家が決めた婚約を簡単に破棄できないって。それでも虐めたなどの瑕疵がある場合は、できるって言ったじゃない。」

 リリアーヌは泣きながら騎士に連れていかれた。

 「ウィリアム、お前は追って、父上の沙汰を待つがよい。しばらくは謹慎いたせ。」

 ウィリアムは、おとなしく騎士に連れていかれることになったのである。ウィリアムとミルフィーユの婚約は白紙に戻ったのである。

 ショコラティエは、父マドレーヌ公爵にパーティでの仔細を話すが、まだミルフィーユの熱は下がらない。

 卒業式の翌日、ようやく熱が下がり目覚めたミルフィーユは、なんと!前世の記憶を思い出してしまったのである。

 前世はニッポンの料理人だったのだ。京都の有名な茶懐石の店に嫁いで、今度小学生になる男の子が一人いたのである。小さい時から、料理が好きでお茶が好きで、茶道の家元でお稽古しているときに、お家元さんの勧めもあって主人と知り合い結婚したのである。なんで死んだのか?よく覚えていないが、料理を作る楽しさだけは鮮明に覚えている。

 目覚めてから、ミルフィーユは、公爵邸の厨房に入らせてもらい、あれこれ料理を作っては家人にふるまっている。

 みな、見たこともない珍しいお料理に舌鼓を打ちながら、美味しいと口々に言ってくれる。

 「わたくし料理屋さん(レストランと言わないところがミソ)をやりたいわ。」とポツリとこぼしたら、父が店を持たせてくれた。厨房仕様もミルフィーユの好み通りになり、使いやすさ抜群である。

 お箸を使って食べる料理、なんだけどこの世界の人は不器用だからお箸を使いこなせないでいる。それで、よく子供に作ってやったオムライスやハンバーグ、お好み焼きにホットケーキを中心に提供することにする。

 あとは、シュークリームにプリン、ウチの子の名前は憶えていないけど、プリンやシュークリームが好物だったことは、覚えている。旦那の好物は覚えていない。

 王都での店の名前は「マドレーヌ亭」お菓子屋さんかラーメン屋みたいな名前だけど、この世界の常識は、家名を店名にするところが多い。

 今日は、何を作ろうかしら。朝から実は、釜揚げうどんが食べたいのである。自分用の賄いに、出汁をたっぷりとって、さっさと作ってみた昆布とかつおだしの匂いが食欲をそそる。おうどんをパスタの要領で切り、湯がいてお出汁と一緒に煮る。かまぼこがあれば言うことないけど、ないからねぎを刻んで上にまぶして、すすっていたら、通りすがりのお客さんが自分にもそれをくれ、とオーダーが入ったので試しに一杯ごちそうしたら、行列ができちゃったわ。

 ミルフィーユは、釜揚げうどんを正式なメニューに加えることにする。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

処理中です...