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16出会い
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予約してもらっていたカフェは「ノイエブリーゼ」という名前のところ、ドイツ語で新風だったか?
住宅街の奥に、平屋建てて、ひっそりと建っている。
「予約していた佐藤です。」
中庭を通り抜け、奥の個室に案内されると、さっきのポリスマンが座っていた。
えー!ここで、事情聴取?じゃないですよね?まさか?
怪訝な顔をしながら、着席する。
「すみませんね。こんなところまで、お呼び立てして。」
なんだ、この男。親切ごかししときながら、やっぱり職務優先じゃないのか?嫌な男。
「純粋に、ご親切していただいたものだとばかり、思っておりましたわ。」
「いやぁ、下心があるのをバレてしまいましたが、ここぐらいなのですよ。制服を着ても入れるカフェは。別にここで、事情聴取なんて、しませんから、ご安心ください。」
「本当かしらね。」
「本当ですとも、ただ今は、休憩中なもので、ご勘弁くださいな。」
こんな若くして、偉そうな制服を着ているということは、この人もキャリア官僚なのね。
紗々は、思わず左手の薬指を見る。指輪はしていないようだから、独身か?そんなことどうでもいいのに、今までの習性から、つい見てしまった。
紗々とおばあちゃんは、注文を済ませ、待っていると、運ばれてきたケーキを見て
「女性はいいですよね。男だというだけで、スイーツなものは注文できませんからね。」
紗々が、聞こえないふりをして、おばあちゃんに自分のケーキを半分切り渡す。おばあちゃんも当然のように、半分切って、紗々に渡してくれる。
「桜ちゃんのケーキのほうが美味しかったわね。」
「そう?まだ食べてないけど?だったら、もう半分もおばあちゃんにあげる。」
「え?いいわよ。桜ちゃんもたくさん食べて大きくならないとね。」
「私はいつでも食べられるから、おばあちゃんが食べてね。」
ささは、お店の人を呼び、桜が頼んだケーキをテイクアウトしてもらう。もし、ホールがあれば、ホールケーキもテイクアウトとして、包んでもらう。
ホールは自宅用、カットケーキは実家用にお土産にするつもり。
「サトウサクラさんと仰るのですか?申し遅れました私は、小田原博と申します。そこの桜田署で署長をしております。」
「……。」
「まぁまぁ、お若いのに、もう署長さんなのですか?きっといい大学を出ていらっしゃるのでしょうね。ウチの孫も帝国大学を卒業しておりますのよ。きっと、アナタの後輩になるのかしらね。」
よせばいいものを、おばあちゃんときたら、やけに愛想がいい。
「あ!そうなのですか?何年にご卒業なのでしょうか?専攻は?どの先生のゼミにいらしたのでしょうか?」
「根掘り葉掘り聞かれるのは、イヤなのです。これは尋問では、ありませんわよね?」
「ごめんなさい。つい、嬉しくて。ウチの大学って、女子学生が少ないから、珍しいというかなんというか、たまにお目にかかるとすべて彼氏がいるから。」
「いいわよ。もう。」
そう桜も大学時代は、裕介と言う彼氏がいた。入学当初から、付き合いだして、裕介が就職すると同時に結婚したのだ。
あれは一種の嫁さん候補の青田買いだったのかもしれない。絶対数が少ないのだから、ブスでもモテる。
どうしても、嫁さんが帝国大学卒業の肩書が必要な男性にとっては、そういうことだったのかもしれない。
「赤薔薇女子大学など、いくらでもお相手となる女子大生がいらっしゃったはずですわ。学内で調達なさらずとも、よろしいのではありませんか?」
「いやぁ、親父が帝国大卒でなければ、とうるさくてね。ウチは一族みんな帝大卒なもので。佐藤さんのところは、どうなのですか?」
「そういえば、ウチも一族揃って、帝大卒ですわ。でも、私の相手に帝大卒を望んでいません。好きな男性と結婚するように、と言われていますもの。」
「好きな方がいらっしゃるのですね?」
「いえ、そういうわけではありません。若いうちに、やりたいことをやらなければ、一瞬のうちに人生が決まってしまいますから。」
「はぁ、どこか達観していらっしゃるようで。あの……、もしよろしければ、これからも会っていただけませんか?こう見えても、強いのです。アナタを先ほどのようなチンピラや掏摸からお守りいたします。」
「お断りします。そんなこと、初対面の人間に言うことではないでしょう?職権乱用ですわ。」
「アハハ。そりゃ、確かにそうだ。でも、近いうちに絶対、また会いますよ。これは私の勘です。けっこう当たるのですから。」
「はい。そうですか。それではその時に改めて、お断りを申し上げる所存でございます。」
帰り道、おばあちゃんは、「佐倉さんよりはマシな、いい男だと思うよ。」
「でも、ダメなものはダメなの。結局、小田原さんだっけ?小田原さんも私の見た目だけを重視しているのよ。中身が合うかどうか、わかろうともしないで。」
「でもね。桜ちゃん、結婚って、合わない二人が努力して、寄り添うものだと思うわ。」
さすが、おばあちゃん。年の功が言わせる言葉だとは、思うけど、もう失敗したくないから、慎重にならざるを得ない。
「馬には乗ってみよ。人には添うてみよ。というじゃない?」
「わかったわ。忠告ありがとう。前向きに検討します。」
「本当よ。今度お会いすることがあれば、丁重にね。」
だんだん、めんどくさくなってきたから、適当に返事すると、おばあちゃんが急に後ろを振り返って、大声で。
「今度、お会いしたら、デートに誘ってくださいね!」
さっきの署長さんが、後ろから送ってくれていたみたい。
「ちょ、ちょっと、おばあちゃん。何、勝手なことを言っているの!」
「うふふ。いいじゃない。チャンスの神様は前髪にしかないって、言うしね。出会いは大切にしなきゃね。今度こそ、幸せになってほしいのよ。」
実家に帰り、お土産を置いて、すぐ、自宅へ戻る。昨夜、外泊したから、お父さんが怒っているかも?と恐る恐る玄関ドアを開ける。
機嫌は普通で、いつも通り「おかえり」と言ってくれたので、ホッと胸をなでおろし、お土産を渡すと、破顔して喜んでくれる。
今のお父さんも大好きだ。
住宅街の奥に、平屋建てて、ひっそりと建っている。
「予約していた佐藤です。」
中庭を通り抜け、奥の個室に案内されると、さっきのポリスマンが座っていた。
えー!ここで、事情聴取?じゃないですよね?まさか?
怪訝な顔をしながら、着席する。
「すみませんね。こんなところまで、お呼び立てして。」
なんだ、この男。親切ごかししときながら、やっぱり職務優先じゃないのか?嫌な男。
「純粋に、ご親切していただいたものだとばかり、思っておりましたわ。」
「いやぁ、下心があるのをバレてしまいましたが、ここぐらいなのですよ。制服を着ても入れるカフェは。別にここで、事情聴取なんて、しませんから、ご安心ください。」
「本当かしらね。」
「本当ですとも、ただ今は、休憩中なもので、ご勘弁くださいな。」
こんな若くして、偉そうな制服を着ているということは、この人もキャリア官僚なのね。
紗々は、思わず左手の薬指を見る。指輪はしていないようだから、独身か?そんなことどうでもいいのに、今までの習性から、つい見てしまった。
紗々とおばあちゃんは、注文を済ませ、待っていると、運ばれてきたケーキを見て
「女性はいいですよね。男だというだけで、スイーツなものは注文できませんからね。」
紗々が、聞こえないふりをして、おばあちゃんに自分のケーキを半分切り渡す。おばあちゃんも当然のように、半分切って、紗々に渡してくれる。
「桜ちゃんのケーキのほうが美味しかったわね。」
「そう?まだ食べてないけど?だったら、もう半分もおばあちゃんにあげる。」
「え?いいわよ。桜ちゃんもたくさん食べて大きくならないとね。」
「私はいつでも食べられるから、おばあちゃんが食べてね。」
ささは、お店の人を呼び、桜が頼んだケーキをテイクアウトしてもらう。もし、ホールがあれば、ホールケーキもテイクアウトとして、包んでもらう。
ホールは自宅用、カットケーキは実家用にお土産にするつもり。
「サトウサクラさんと仰るのですか?申し遅れました私は、小田原博と申します。そこの桜田署で署長をしております。」
「……。」
「まぁまぁ、お若いのに、もう署長さんなのですか?きっといい大学を出ていらっしゃるのでしょうね。ウチの孫も帝国大学を卒業しておりますのよ。きっと、アナタの後輩になるのかしらね。」
よせばいいものを、おばあちゃんときたら、やけに愛想がいい。
「あ!そうなのですか?何年にご卒業なのでしょうか?専攻は?どの先生のゼミにいらしたのでしょうか?」
「根掘り葉掘り聞かれるのは、イヤなのです。これは尋問では、ありませんわよね?」
「ごめんなさい。つい、嬉しくて。ウチの大学って、女子学生が少ないから、珍しいというかなんというか、たまにお目にかかるとすべて彼氏がいるから。」
「いいわよ。もう。」
そう桜も大学時代は、裕介と言う彼氏がいた。入学当初から、付き合いだして、裕介が就職すると同時に結婚したのだ。
あれは一種の嫁さん候補の青田買いだったのかもしれない。絶対数が少ないのだから、ブスでもモテる。
どうしても、嫁さんが帝国大学卒業の肩書が必要な男性にとっては、そういうことだったのかもしれない。
「赤薔薇女子大学など、いくらでもお相手となる女子大生がいらっしゃったはずですわ。学内で調達なさらずとも、よろしいのではありませんか?」
「いやぁ、親父が帝国大卒でなければ、とうるさくてね。ウチは一族みんな帝大卒なもので。佐藤さんのところは、どうなのですか?」
「そういえば、ウチも一族揃って、帝大卒ですわ。でも、私の相手に帝大卒を望んでいません。好きな男性と結婚するように、と言われていますもの。」
「好きな方がいらっしゃるのですね?」
「いえ、そういうわけではありません。若いうちに、やりたいことをやらなければ、一瞬のうちに人生が決まってしまいますから。」
「はぁ、どこか達観していらっしゃるようで。あの……、もしよろしければ、これからも会っていただけませんか?こう見えても、強いのです。アナタを先ほどのようなチンピラや掏摸からお守りいたします。」
「お断りします。そんなこと、初対面の人間に言うことではないでしょう?職権乱用ですわ。」
「アハハ。そりゃ、確かにそうだ。でも、近いうちに絶対、また会いますよ。これは私の勘です。けっこう当たるのですから。」
「はい。そうですか。それではその時に改めて、お断りを申し上げる所存でございます。」
帰り道、おばあちゃんは、「佐倉さんよりはマシな、いい男だと思うよ。」
「でも、ダメなものはダメなの。結局、小田原さんだっけ?小田原さんも私の見た目だけを重視しているのよ。中身が合うかどうか、わかろうともしないで。」
「でもね。桜ちゃん、結婚って、合わない二人が努力して、寄り添うものだと思うわ。」
さすが、おばあちゃん。年の功が言わせる言葉だとは、思うけど、もう失敗したくないから、慎重にならざるを得ない。
「馬には乗ってみよ。人には添うてみよ。というじゃない?」
「わかったわ。忠告ありがとう。前向きに検討します。」
「本当よ。今度お会いすることがあれば、丁重にね。」
だんだん、めんどくさくなってきたから、適当に返事すると、おばあちゃんが急に後ろを振り返って、大声で。
「今度、お会いしたら、デートに誘ってくださいね!」
さっきの署長さんが、後ろから送ってくれていたみたい。
「ちょ、ちょっと、おばあちゃん。何、勝手なことを言っているの!」
「うふふ。いいじゃない。チャンスの神様は前髪にしかないって、言うしね。出会いは大切にしなきゃね。今度こそ、幸せになってほしいのよ。」
実家に帰り、お土産を置いて、すぐ、自宅へ戻る。昨夜、外泊したから、お父さんが怒っているかも?と恐る恐る玄関ドアを開ける。
機嫌は普通で、いつも通り「おかえり」と言ってくれたので、ホッと胸をなでおろし、お土産を渡すと、破顔して喜んでくれる。
今のお父さんも大好きだ。
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