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3 揚げ出し豆腐、オニオングラタンスープ
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ある夜、キャロラインは妙に生々しい夢を見たのである。たぶん前世の夢だとは、思うのだが、それは京都で過ごしていた日々、京都では6歳の6月6日から、お稽古事を行うと上達すると昔から言われているので、キャロラインもご多分に漏れず、茶道の家元のところへお稽古に行かされた。
最初は、お水屋での、茶巾のたたみ方から教わる。ついで、お茶室の入り方、障子の開け方などを教わる。畳のヘリを踏まないように歩かなければならない。先生にご挨拶するときは、扇子を自分の目の前に出し、「お稽古お願いします。」とお辞儀をする。お稽古が終わった後も、同じように扇子を目の前に出し、「お稽古ありがとうございました。」と言わなければならない。
わけのわからない6歳の子供に教えるほうも習うほうも、なかなかに大変である。
また、幼い頃は行事が大変なのである。お中元、お歳暮はもちろんのことながら、壷切りの茶の時は、おぜんざいが出るのだが、いちいち先生にお礼を言わなければならない。
お初釜の時もしかり、ことあるごとに先生にお礼とお金とお品物を渡す。これを6歳からやらされるわけだから、京都で何かサービスをしてもらったら、お礼をしないと、という気持ちがはやる。おかげで社会人になってからは、何も困ることはなかったのだが、主人と知り合ったのも、お茶のお稽古がきっかけであったのだ。
顔ははっきりわからない。だが、大きな背中が頼もしかった。お初釜かお茶事が最初に知り合ったきっかけだったと思う。お家元さんから熱心に縁談を勧められて、またお礼をしないといけないと気が重かったけど、出会ってからというもの、旦那さんになる人もかなり世間知らずだったことを覚えている。
旦那さんは、千利休の時代からある老舗の茶懐石料理屋の跡取り息子であったのである。小さい時から、満足のいく普通の家庭料理を食べたことがなく、いつも卵焼きの切れ端、かまぼこの端っこ部分、昆布の切れ端など店に出せない料理を小さい時から食べさせられ、そうやって舌で味を覚えさせられていたそうだったのだ。
初めてのデートの時、普通におにぎりをこしらえ、しぐれ煮をお弁当箱に詰めていったときは、感激して泣かれた記憶がある。
「こんなうまい家庭料理は、初めて食べた。」って言ってくれたわ。
一応、花嫁修業として、料理学校に通い、伯母が高台寺で料理旅館をやっていたことから、実務経験を偽り、調理師免許を取ったんだっけ。
最初の試験は、桂剥きだったなぁ。大根を包丁を滑らせながら、薄く剥く。リンゴの皮むきと似ているが、これはお茶のお稽古をしている人には、有利であった左手の動きができるから、お棗、お茶入れを帛紗で拭く動作と全く同じであった。
難なくクリアして、調理師免許を獲得したのよ。それからは釣書きに調理師免許と書けば、たいていのお見合いは、すぐ会いたいと言われたっけ。
主人と知り合ったのも、調理師免許のおかげです。
家元のところに、縁談が来て、「どなたかイイお嬢様を」に当てはまったかどうかはわからないが、年恰好だけで、たぶん選ばれたと思ったんだけど、調理師資格がたぶんに影響したのだろう。
目が覚めたら、妙に懐かしく、今日は揚げ出し豆腐を作りたくなったのである。オニオングラタンスープもいいなぁ、全然違うものだけど。
オニオングラタンスープは、玉ねぎをあめ色に炒め、パイ生地で蓋をして、オーブンで焼くだけ。スープはブイヨンですぐできる。
揚げ出し豆腐のポイントは、まな板の上で、木綿豆腐をどれだけ水切りができるかにかかる。お豆腐を片栗粉、昨日やりましたね。白扇揚げにして、お出汁とおネギとしょうがでいただきます。
懐かしい前世の旦那の夢を見た次の日、案の定、旦那さんだと思う年配の日本人のような男性が、テーブルにつかれました。
「みゆき、会いたかったよ。やっと会えたね。最後にみゆきが作ってくれた揚げ出し豆腐とオニオングラタンスープがどうしても食べたくて、異世界まで来てしまったよ。」
「え?わたくし、みゆきという名前だったのですか?今はキャロラインと申しますのよ。」
そうか。前世は、みゆきだったのか?自分の名前も思い出せないぐらい。はるか昔のことなのだろう。
たまたま、夢見で揚げ出し豆腐とオニオングラタンスープを今日の献立メニューにしていたので、難なく出せる。
「わたくし、なんで死んだんでしょう?」
「おぼえていないのかい?大輔を庇って、トラックにはねられて死んだんだよ。」
「だいすけ?」
そうだ。前世、キャロライン?みゆきには子供がいたのだ。男の子のような名前。
「俺も大輔も、君のことが忘れられず、あのまま俺は独身で過ごしたよ。大輔にママと同じオムライスを作ってくれとせがまれたけど、俺にはできなかったよ。今度、あいつが来たら作ってやってほしい。」
「今度って?もう死んじゃったの?」
「いや、まだ生きているはずだ。そのうち来たら、という意味だよ。」
それを最後に前世の主人は消えていく。名残惜しそうに、しながら。今度生まれ変わったら、この世界に生まれてきてよ。そしたら、会えるから。
最初は、お水屋での、茶巾のたたみ方から教わる。ついで、お茶室の入り方、障子の開け方などを教わる。畳のヘリを踏まないように歩かなければならない。先生にご挨拶するときは、扇子を自分の目の前に出し、「お稽古お願いします。」とお辞儀をする。お稽古が終わった後も、同じように扇子を目の前に出し、「お稽古ありがとうございました。」と言わなければならない。
わけのわからない6歳の子供に教えるほうも習うほうも、なかなかに大変である。
また、幼い頃は行事が大変なのである。お中元、お歳暮はもちろんのことながら、壷切りの茶の時は、おぜんざいが出るのだが、いちいち先生にお礼を言わなければならない。
お初釜の時もしかり、ことあるごとに先生にお礼とお金とお品物を渡す。これを6歳からやらされるわけだから、京都で何かサービスをしてもらったら、お礼をしないと、という気持ちがはやる。おかげで社会人になってからは、何も困ることはなかったのだが、主人と知り合ったのも、お茶のお稽古がきっかけであったのだ。
顔ははっきりわからない。だが、大きな背中が頼もしかった。お初釜かお茶事が最初に知り合ったきっかけだったと思う。お家元さんから熱心に縁談を勧められて、またお礼をしないといけないと気が重かったけど、出会ってからというもの、旦那さんになる人もかなり世間知らずだったことを覚えている。
旦那さんは、千利休の時代からある老舗の茶懐石料理屋の跡取り息子であったのである。小さい時から、満足のいく普通の家庭料理を食べたことがなく、いつも卵焼きの切れ端、かまぼこの端っこ部分、昆布の切れ端など店に出せない料理を小さい時から食べさせられ、そうやって舌で味を覚えさせられていたそうだったのだ。
初めてのデートの時、普通におにぎりをこしらえ、しぐれ煮をお弁当箱に詰めていったときは、感激して泣かれた記憶がある。
「こんなうまい家庭料理は、初めて食べた。」って言ってくれたわ。
一応、花嫁修業として、料理学校に通い、伯母が高台寺で料理旅館をやっていたことから、実務経験を偽り、調理師免許を取ったんだっけ。
最初の試験は、桂剥きだったなぁ。大根を包丁を滑らせながら、薄く剥く。リンゴの皮むきと似ているが、これはお茶のお稽古をしている人には、有利であった左手の動きができるから、お棗、お茶入れを帛紗で拭く動作と全く同じであった。
難なくクリアして、調理師免許を獲得したのよ。それからは釣書きに調理師免許と書けば、たいていのお見合いは、すぐ会いたいと言われたっけ。
主人と知り合ったのも、調理師免許のおかげです。
家元のところに、縁談が来て、「どなたかイイお嬢様を」に当てはまったかどうかはわからないが、年恰好だけで、たぶん選ばれたと思ったんだけど、調理師資格がたぶんに影響したのだろう。
目が覚めたら、妙に懐かしく、今日は揚げ出し豆腐を作りたくなったのである。オニオングラタンスープもいいなぁ、全然違うものだけど。
オニオングラタンスープは、玉ねぎをあめ色に炒め、パイ生地で蓋をして、オーブンで焼くだけ。スープはブイヨンですぐできる。
揚げ出し豆腐のポイントは、まな板の上で、木綿豆腐をどれだけ水切りができるかにかかる。お豆腐を片栗粉、昨日やりましたね。白扇揚げにして、お出汁とおネギとしょうがでいただきます。
懐かしい前世の旦那の夢を見た次の日、案の定、旦那さんだと思う年配の日本人のような男性が、テーブルにつかれました。
「みゆき、会いたかったよ。やっと会えたね。最後にみゆきが作ってくれた揚げ出し豆腐とオニオングラタンスープがどうしても食べたくて、異世界まで来てしまったよ。」
「え?わたくし、みゆきという名前だったのですか?今はキャロラインと申しますのよ。」
そうか。前世は、みゆきだったのか?自分の名前も思い出せないぐらい。はるか昔のことなのだろう。
たまたま、夢見で揚げ出し豆腐とオニオングラタンスープを今日の献立メニューにしていたので、難なく出せる。
「わたくし、なんで死んだんでしょう?」
「おぼえていないのかい?大輔を庇って、トラックにはねられて死んだんだよ。」
「だいすけ?」
そうだ。前世、キャロライン?みゆきには子供がいたのだ。男の子のような名前。
「俺も大輔も、君のことが忘れられず、あのまま俺は独身で過ごしたよ。大輔にママと同じオムライスを作ってくれとせがまれたけど、俺にはできなかったよ。今度、あいつが来たら作ってやってほしい。」
「今度って?もう死んじゃったの?」
「いや、まだ生きているはずだ。そのうち来たら、という意味だよ。」
それを最後に前世の主人は消えていく。名残惜しそうに、しながら。今度生まれ変わったら、この世界に生まれてきてよ。そしたら、会えるから。
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