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前日、雨が降ったせいか、採取する土地はぬかるんでいて、歩きづらく、ちょっとでも気を抜けばすぐ足を取られてしまうところにあった。
昨日の夜、思い付きで発言したことを後悔するスカーレットだったが、天気のことはさすがにどうしようもない。
いつも、みんなはこんな状態でも文句も言わず薬草を採取して来てくれるということを知り、改めて、皆に感謝をする。
そこでスカーレットは聖女様の力を遣い、泥んこ状態の土地を一面、乾いた状態にした。乾かしたと言ってもカラカラではなく、程よい湿り気がある程度に乾かしていく。
草花についた水滴が陽の光を帯びて、反射してキラキラと光り、綺麗。
雨が降ったせいか、通り抜ける風が涼やかで気持ちがいい。
スカーレットは、持ち前の鑑定魔法を使い欲しい薬草の在処を探していくことにする。グリコール酸、サリチル酸は紫色に光って見え、トラネキサム酸の薬草は、なんとなく赤く光って見えるような気がする。
夢中になってかがんで採取し始める。時折、立ち上がり腰をトントンとするが、それ以外は、中腰のような姿勢で作業を続けるしかない。
採取した薬草は、次から次へと亜空間の中にしまい込んでいく。本当は、洗ってから仕舞い込みたいところだが、薬草にサッと清浄魔法をかけただけのものを入れていかなければ、帰りの荷物が大変になる。
聖女様は持たされるわけではないが、採取班としての荷物が増えてしまうのは嫌だから。
夢中で採取していると、いつの間にか、他の採取班の人たちとずいぶん離れてしまったことに気づく。気が付けば、周りに誰もいなくなっていて、スカーレット一人が木立の中に取り残されてしまった。
このあたりの光っているものすべてを取り終えたら、みんなのところに合流するつもりで、再度、作業を始めようとしたところ、前方の方から「グルルルルゥ」という獣の唸り声が聞こえる。
え!?これって、ヤバイやつ?結界も張らずに作業していたせいで、かなり接近されるまで気づかなかった。
ど、どうしよう?転移魔法陣がギリで間に合うかどうか微妙。それよりも何よりも足がすくんでしまって、人生最大の危機ではないか?いや、前世の毒を盛られて死ぬときも、かなり危機的状況だったから、それに匹敵するぐらい……のはず。
ちょっとピクニックするつもりで、浮かれていたから、罰が当たったと思った。
辺りを見回してみるとオオカミの群れに囲まれている。遅ればせながらだけど、自分に結界を張って、間に合うかどうかわからないが、やれることはすべてやろうと決心をする。
スカーレットが両手を上に上げたことで、オオカミたちは、それが合図になったかのように一斉にとびかかってくる。
その時、どこからか黒い影がオオカミとスカーレットの間に遮るように入ってくる。その影は、スカーレットをお姫様抱っこにしたまま、木の上に飛びあがる。
「聖女様は、ここでお待ちを」
それだけ言い残して、再びオオカミの群れに飛び込んでいく。
オオカミを一刀両断に切り伏せていく様は、前々世のTVで見ていたヒーローものそのもので、かっこいい。
思わず木の上にも関わらず、大はしゃぎして手を叩いてしまう。だって、さっきまで誰もいなかったんだもん。いつ、どこから現れた相手かもわからないのに、無邪気に手を叩いて、思わず声援までしている。
スカーレットは、昔から身を挺して守ってくれることを期待しているし、そういう人が現れたら、すべてを捧げてしまいたいという願望がある。
そうこうしているうちに、別行動していた他の採取班の人が気付き、スカーレットを呼ぶ声がしてくる。
「ここよ。みんなは無事だった?」
「ええ。ええ。聖女様、ご無事で何よりです」
スカーレットはまだ木の上にいて、降りられない。馬車の幌の上に飛び降りたら?などと案を出されるが、そもそも、馬車が通れる道ではない。
困っていると、また黒い影さんが、木の上まで跳ねて飛んできて、スカーレットを抱きかかえ、無事に着地ができた。
「助けていただいて、ありがとう存じます」
「護衛として、当然のことをしたまでです」
なぜか、スカーレットは、その護衛と一面識もないが、懐かしいような気がする。それに、熱があるのか、その護衛さんは、耳まで赤い。
小首をかしげていると、安心したのか、お腹が鳴り出す。
それで急いで、野っ原ところまで戻り、お弁当を広げることにしたのだ。
スカーレットは、御礼に、と先ほどの護衛さんの手を取り、同じ敷物に招待する。二人とも、なぜか意識してか、ほとんど無口で、会話ができない。スカーレットも、こんなに緊張したことは、今までなかったというぐらいに緊張して、手に汗をかいている。それでも、どうにかこうにか、名前を聞くことができた。
「ジャック・モーガンと申します。アビゲイル国の侯爵家の三男坊です」
「あら、以前、どこかでお会いしたかしら?なんだか、とても懐かしいような気持ちになるのですよ」
その時、初めて、スカーレットはジャックの眼をマジマジと見つめ、思わず、息をのむ。
ジャックの顔は、前々世の夫である陽介の顔と面影が重なって見えた。それはジャックも同じだったようで、ポツリとジャックが「会いたかった」と漏らすと、スカーレットも大きく頷き返す。
それからは、ジャックはスカーレット専属の護衛に選ばれ、失っていた時を取り戻すかのように、親交を深めていく。
昨日の夜、思い付きで発言したことを後悔するスカーレットだったが、天気のことはさすがにどうしようもない。
いつも、みんなはこんな状態でも文句も言わず薬草を採取して来てくれるということを知り、改めて、皆に感謝をする。
そこでスカーレットは聖女様の力を遣い、泥んこ状態の土地を一面、乾いた状態にした。乾かしたと言ってもカラカラではなく、程よい湿り気がある程度に乾かしていく。
草花についた水滴が陽の光を帯びて、反射してキラキラと光り、綺麗。
雨が降ったせいか、通り抜ける風が涼やかで気持ちがいい。
スカーレットは、持ち前の鑑定魔法を使い欲しい薬草の在処を探していくことにする。グリコール酸、サリチル酸は紫色に光って見え、トラネキサム酸の薬草は、なんとなく赤く光って見えるような気がする。
夢中になってかがんで採取し始める。時折、立ち上がり腰をトントンとするが、それ以外は、中腰のような姿勢で作業を続けるしかない。
採取した薬草は、次から次へと亜空間の中にしまい込んでいく。本当は、洗ってから仕舞い込みたいところだが、薬草にサッと清浄魔法をかけただけのものを入れていかなければ、帰りの荷物が大変になる。
聖女様は持たされるわけではないが、採取班としての荷物が増えてしまうのは嫌だから。
夢中で採取していると、いつの間にか、他の採取班の人たちとずいぶん離れてしまったことに気づく。気が付けば、周りに誰もいなくなっていて、スカーレット一人が木立の中に取り残されてしまった。
このあたりの光っているものすべてを取り終えたら、みんなのところに合流するつもりで、再度、作業を始めようとしたところ、前方の方から「グルルルルゥ」という獣の唸り声が聞こえる。
え!?これって、ヤバイやつ?結界も張らずに作業していたせいで、かなり接近されるまで気づかなかった。
ど、どうしよう?転移魔法陣がギリで間に合うかどうか微妙。それよりも何よりも足がすくんでしまって、人生最大の危機ではないか?いや、前世の毒を盛られて死ぬときも、かなり危機的状況だったから、それに匹敵するぐらい……のはず。
ちょっとピクニックするつもりで、浮かれていたから、罰が当たったと思った。
辺りを見回してみるとオオカミの群れに囲まれている。遅ればせながらだけど、自分に結界を張って、間に合うかどうかわからないが、やれることはすべてやろうと決心をする。
スカーレットが両手を上に上げたことで、オオカミたちは、それが合図になったかのように一斉にとびかかってくる。
その時、どこからか黒い影がオオカミとスカーレットの間に遮るように入ってくる。その影は、スカーレットをお姫様抱っこにしたまま、木の上に飛びあがる。
「聖女様は、ここでお待ちを」
それだけ言い残して、再びオオカミの群れに飛び込んでいく。
オオカミを一刀両断に切り伏せていく様は、前々世のTVで見ていたヒーローものそのもので、かっこいい。
思わず木の上にも関わらず、大はしゃぎして手を叩いてしまう。だって、さっきまで誰もいなかったんだもん。いつ、どこから現れた相手かもわからないのに、無邪気に手を叩いて、思わず声援までしている。
スカーレットは、昔から身を挺して守ってくれることを期待しているし、そういう人が現れたら、すべてを捧げてしまいたいという願望がある。
そうこうしているうちに、別行動していた他の採取班の人が気付き、スカーレットを呼ぶ声がしてくる。
「ここよ。みんなは無事だった?」
「ええ。ええ。聖女様、ご無事で何よりです」
スカーレットはまだ木の上にいて、降りられない。馬車の幌の上に飛び降りたら?などと案を出されるが、そもそも、馬車が通れる道ではない。
困っていると、また黒い影さんが、木の上まで跳ねて飛んできて、スカーレットを抱きかかえ、無事に着地ができた。
「助けていただいて、ありがとう存じます」
「護衛として、当然のことをしたまでです」
なぜか、スカーレットは、その護衛と一面識もないが、懐かしいような気がする。それに、熱があるのか、その護衛さんは、耳まで赤い。
小首をかしげていると、安心したのか、お腹が鳴り出す。
それで急いで、野っ原ところまで戻り、お弁当を広げることにしたのだ。
スカーレットは、御礼に、と先ほどの護衛さんの手を取り、同じ敷物に招待する。二人とも、なぜか意識してか、ほとんど無口で、会話ができない。スカーレットも、こんなに緊張したことは、今までなかったというぐらいに緊張して、手に汗をかいている。それでも、どうにかこうにか、名前を聞くことができた。
「ジャック・モーガンと申します。アビゲイル国の侯爵家の三男坊です」
「あら、以前、どこかでお会いしたかしら?なんだか、とても懐かしいような気持ちになるのですよ」
その時、初めて、スカーレットはジャックの眼をマジマジと見つめ、思わず、息をのむ。
ジャックの顔は、前々世の夫である陽介の顔と面影が重なって見えた。それはジャックも同じだったようで、ポツリとジャックが「会いたかった」と漏らすと、スカーレットも大きく頷き返す。
それからは、ジャックはスカーレット専属の護衛に選ばれ、失っていた時を取り戻すかのように、親交を深めていく。
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