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聖女マーガレット
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女神ゴールデニアは、苦悩していた。
あれは義理の母ビクトリアに987人目が生まれるときであったと思う。その頃に、また人間界で聖女が誕生した気配を察したのである。今度こそ、アルキメデスの息子サルトルの嫁にしなければ。また父アマテラスに取られてしまう。
アマテラスの最初の王子も、早、987歳そろそろ嫁が欲しい年ごろだから、
「お父様、いつまでも腰を振っていないで、そろそろまた人間界に聖女様が誕生しそうなので、人間界の馬鹿王子と結婚する前に、こちらへ連れてきたいのですが。わたくしいつまで産婆をすればよろしいのでしょうか?」
「うむ。それでは早速迎えに行けばよかろう。ああ、もうすぐまたビッキーに子供が生まれるのだ。生まれてから、行けばいいであろう?」
「お父様が次から次へとお義母様に子種を送るから、なかなか手が離せないのでございますわよ。いい加減になさってくださいませ。」
「だって、ビッキーといると、儂はどんどん若返るのだから仕方ないんだもん♡ビッキーと結婚する前までは、夜は寝つきが悪いし、朝になると痰がからんでのぉ。それが今や目覚めもスッキリ、夜もグッスリなのだ。」
「はぁ……。」
「お前だって、毎回、同じ男に抱かれにいっていたではないか?それと同じだ。儂はビッキーと出会って、真実の愛に目覚めたのだ。そういえば、あの男、あれから何度か転生しておるようじゃぞ。毎回違う人間と結婚出来て、喜んでおるようじゃが?少しは、女神もお床上手を磨けばよかろう。……そう思っただけで、ビッキーが恋しいのぉ。ああ、夜になるのが待ち遠しい。」
「な、なんですって!? レオナルド一世様の魂を持つ者が、あれから何度も転生していたというの!転生の神からは、何も聞いていないわ。どうして、教えてくれなかったの?酷いわっ!お父様は、ご自分だけ満足なされて。」
早速、ゴールデニアは、転生の神のところへ怒鳴り込んだ。
すると、レオナルド一世様の魂を持つものは、あれから4度転生されて、先ほど他界されたばかりという。
「今度、生まれ変わられたら、必ず、わたくしに知らせてくださいませ。きっとですよ。」
念を押そうとしたら、「女性に転生してもですか?」
「へ?」
「今までの4回は、すべて女性に転生されてきたので、黙っていました。」
ゴールデニアに百合の趣味はない。
「ああ、それならいたし方ございませんわね。女性の場合は、けっこうですわ。」
とぼとぼと自室に引き返したのであった。お義母様に聞いて、本気でお床上手を勉強しようかしらって、何を勉強すればいいのよ。
そんなこと、いくら女神の立場を利用しても聞けない。お父様に聞こうにも、モジモジ顔を赤らめられるだけで、何も教えてくださらない。いったい、どこが男性にとって、イイのだろうか?
一度、隠蔽魔法を使って、人間界の娼館に潜り込んでみようか?でも、そんな不埒な真似がバレたら、女神の魔法や地位を剥奪されるかもしれない。第一、出歯亀の趣味はない。
今度、レオナルド一世様の魂を持つ方と結婚して、閨を共にすることがあったら、聞いてみよう。
それからしばらくは、産婆と義弟・義妹たちの養育に明け暮れるゴールデニアである。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
その頃、人間界の北の果て、ノースリバー国では、開けても暮れても、お妃教育にうんざりしている一人の公爵令嬢がいたのである。
まだ、聖女様として、覚醒する前のこと、5歳の頃、王太子殿下の当時は、まだ第1王子様のリチャード・フォン・ノースリバー様の婚約者として、指名されてから、ずっとである。
当時、公爵令嬢のマーガレット・ミラーボーンは、くるくるとした大きな瞳が印象的な愛らしい娘であったことから、リチャードに一目惚れされてしまい、婚約に至ったのである。
それからは寝ても覚めても、お妃教育で、心身ともに疲れ果てているのだ。学園に入ってからは、最初の頃は、王太子殿下の溺愛で毎日、同じ馬車で通学し、一線は超えていないものの王太子に体中をまさぐられたのである。学校に着く前に一度、下着を替えなければならないほどに開発されていたのです。
その頃の王太子は閨ごとに興味があり、他の女子生徒相手にいろいろ浮気もされているようだったが、
「マーガレットの最初は、僕だよ。愛している。」
口の中を蹂躙されるキスを何度もしてくださいました。もうそれだけで、カラダの芯が熱くなり、しびれてきて、わたくしは満足してましたの。
ところが、2年生の夏休みが終わった頃から、ピタリと王太子は、よそよそしくなったのである。
もうあんな熱烈なキスもしてくださらなくなり、通学も別々の馬車となりました。正直、とても寂しかったのです。
理由は、薄々感じていました。夏の終わりごろ、男爵令嬢のリリアーヌ様が転校なさってきたのです。
それから学園内でも、リチャード様とリリアーヌ様は一緒にいられることが増えたのです。わたくしは、すっかり蔑ろにされて、ずいぶん腹を立てましたわ。
わたくしのお友達もそれは同感だったみたいで、わたくしのかわりにリリアーヌ様の靴箱にイタズラなさっていたみたいでしたけど、もうわたくしは見て見ぬふりを決め込んでいましたのよ。
だって、そうでしょ?泥棒猫のごとく、リチャード様の気持ちをかっさらっていったのですから。その時は、まだ気持ちだけ、心だけをかっさらっていると信じていましたが、実際はそうではありませんでした。
リチャード様とリリアーヌ様は男女の仲でしたの。知りませんでしたわ。いくら男女の仲とはいえ、結婚するのは、わたくしが相手だと信じておりましたから。
それが卒業式の日、午前中は卒業証書の授与があり、午後からは、教職員の方との謝恩会を兼ねた茶話会がある。そして、夕方からは学園長、父兄を交えた記念祝賀パーティが開催されるのであるが、いくら公爵邸で待っていても、リチャード様のお迎えがない。
おかしいと首をひねりつつも、そうこうしているうちに定刻になってしまうので、仕方なしに馬車に乗り、一人で会場に向かう。
マーガレットが会場に着くなり、学園長の挨拶が始まったのである。ギリギリで間に合ったのだ。
乾杯の音頭が終わり、拍手のうちに歓談が始まる。
ふと見ると、リチャード様が怖い顔をして、リリアーヌ嬢を伴い、マーガレットのほうへ向かってくる。
「公爵令嬢マーガレット・ミラーボーン、貴様との婚約は、今宵をもって破棄するものとする。貴様は我が愛する男爵令嬢リリアーヌを学園内で、さんざん虐めぬいてきた。よって、将来の国母となる令嬢を虐めてきた咎で、国外追放とする。」
「ええ?わたくしは、虐めなど致しておりませんわ。それはリリアーヌ様と殿下が仲睦まじくしていらっしゃるのは、腹立たしく見てまいりましたが、虐めなど致しておりません。」
「問答無用である。衛兵!この女を、国境に捨てよ!」
マーガレットは、衛兵の手により、後ろ手にくくられ、罪人用の馬車に乗せられる。
そして、国境付近の砦の前まで、来たところで、乱暴に引きずりおろされたのである。
そして、砦の一室に寝転がらされた。
え?国外追放って、何する気?
国境の兵士たちの野卑た顔が不気味で、これから何が行われるというのだろうか?
しばらくすると、ノックの音がして、リチャード様がそこにおられました。
「マーガレット、いいざまだな。リリアーヌを虐めるからだぞ、ま、お前は直接手出しをしていないことはわかっているがな。」
リチャード様も他の兵士共々野卑た笑みを浮かべている。
「ああ、お前たちは、ここで見物してろ。この女は、昔、後一歩というところまで俺が開発してやった女なのだ。」
「マーガレット、約束通り、俺が一番最初にお前を抱いてやる。その後は、ここにいる兵士どもの慰み者になれ、その後、素っ裸で国境線に放置してやる。野犬に食われるか、盗賊どもに犯されるかは、お前の運しだいだ。」
今から抱かれるという言葉にカラダは濡れてくるが、今は恐怖心のほうが先に来る。みんなが見ている前で犯されるのだ。
そして、リチャードは、マーガレットの着ているドレスに手をかけようとした瞬間、
「痛っ!!!」
何が起こったか、わからないほどの激痛が走ったのだ。
一瞬金色の閃光がしたかと思えば、そこには背中から羽根を生やした女神様がマーガレットの前に立ちはだかり、マーガレットを庇うようにしている。
「無礼者!聖女様に触るではない!」
リチャードは、自分の両腕が、肘から下、抜け落ちていることに気づく。
「わ、わ、わ、俺の腕がない!」
「そのような汚らわしい腕、なくともよいだろう。」
周りにいる兵士たちは、唖然とするものの、女神様の姿と金色に光り輝いているマーガレットの姿をみて、一様に頭を垂れ跪いている。
「ここにいる令嬢をどなたと心得る。恐れ多くも人間界で1000年ぶりに誕生されたマーガレット聖女様なるぞ。頭が高い。控えおろう。」
「ははー。」
「兵士どもよ。王都に立ち返り、このことを国王に言うのだ。その腕ナシは牢屋にでも、放り込んでおけ!」
「え?わたくしが聖女様?」
「そうだ、マーガレット聖女よ、その方、これから我とともに神界へ参るか?それとも両親と挨拶してからにするか?なんなら、両親もろとも、我が用意している国へ引っ越されてはいかがかな?」
「はい、今は混乱しておりますゆえ、一度、王都の公爵邸に帰りとう存じます。」
「うむ。それがよかろう。」
気が付くと、いつもの公爵邸の自室で寝ていたのである。女神様が転移魔法を使って、マーガレットを送り届けてくれたのである。
マーガレットは、とにかく疲れたので寝ていたいが、両親に事の顛末を話してからでないと、寝られないのである。
豪華なドレスを脱ぎ、私服のワンピースに着替え、両親が待つ書斎へと向かう。
そして、事の顛末を告げるのである。
一方、その頃、早馬を乗り継ぎ、砦の兵士は、すでに王城に着いていた。
マーガレットが聖女様として、覚醒されたこと、そのマーガレット様を抱こうとされたリチャード様が女神様の怒りに触れ、両腕をもがれ、今は砦の牢の中に休んでおられることなどを告げる。
王城は当然のごとく騒然となる。
「聖女様はいずこに?ご無事か?」
誰も両腕がなくなったリチャードのことなど心配していない。
「すぐに8頭立ての馬車を仕立てて、御迎えに上がらねば。」
「宝石にドレス、花束も必要だろうか?」
「ミラーボーン公爵に連絡を取るのだ。」
「聖女様は卒業パーティのさなかに連れ去られたのだ。お腹が空いていらっしゃるだろうから、何か簡単につまめるものを持って行って差し上げるべきだ。」
「暖かいスープのようなものがいいだろうか?」
ごった返しているところに、ミラーボーン公爵から連絡が入り、女神様がマーガレット聖女を公爵邸まで、送り届けてくれたと知らされる。
国境砦への準備を止め、今度は、夜遅いにも関わらず、ミラーボーン公爵邸詣である。
ミラーボーン公爵邸では、「今日はもう遅いので、明日にでも。」と断りを入れている。
「聖女様はお疲れになっておられます。どうぞ、お引き取りを。」と言われれば、非常識な行いをしているのは、王家なのだから、引っ込むしかない。
そして、翌朝になればノースリバー国では、地上に現れた1000年ぶりの聖女誕生に、国民は湧いたのである。
王都のあちらこちらで、いやノースリバー国の至る所で
「聖女様万歳!ミラーボーン万歳!」
まだ、リチャード王太子は砦の牢の中でうずくまっている。
「そんな……、マーガレットが聖女だなんて、俺は何ということを……。」
腕を失った悲しみよりも、マーガレットを失ってしまった悲しみのほうが大きい。こんな体になってしまったから、もうマーガレットとは、二度と結ばれない。
リリアーヌとさえ無理だろうな。俺は廃嫡され、処刑される運命なのだ。いっそのこと自害をしようにも腕がないので、何もできない。
こんなことなら、リリアーヌなんかにちょっかい出さなければ、よかった。マーガレットはリリアーヌに比べれば、100倍、いや1000倍はイイ女だというのに。
幼い日に初めて、マーガレットの姿を見た時、心臓を撃ち抜かれるような衝撃を覚えたのだ。くるくると大きな瞳、愛らしい表情、可愛かったなぁ。
「聖女様と結婚した賢王になれるはずだったのにな。……マーガレット愛している。」
それがリチャードの最後の言葉となったのである。砦の牢のことはいつの間にか忘れ去られ、食事も与えられずに、餓死したのである。享年18歳。
あれは義理の母ビクトリアに987人目が生まれるときであったと思う。その頃に、また人間界で聖女が誕生した気配を察したのである。今度こそ、アルキメデスの息子サルトルの嫁にしなければ。また父アマテラスに取られてしまう。
アマテラスの最初の王子も、早、987歳そろそろ嫁が欲しい年ごろだから、
「お父様、いつまでも腰を振っていないで、そろそろまた人間界に聖女様が誕生しそうなので、人間界の馬鹿王子と結婚する前に、こちらへ連れてきたいのですが。わたくしいつまで産婆をすればよろしいのでしょうか?」
「うむ。それでは早速迎えに行けばよかろう。ああ、もうすぐまたビッキーに子供が生まれるのだ。生まれてから、行けばいいであろう?」
「お父様が次から次へとお義母様に子種を送るから、なかなか手が離せないのでございますわよ。いい加減になさってくださいませ。」
「だって、ビッキーといると、儂はどんどん若返るのだから仕方ないんだもん♡ビッキーと結婚する前までは、夜は寝つきが悪いし、朝になると痰がからんでのぉ。それが今や目覚めもスッキリ、夜もグッスリなのだ。」
「はぁ……。」
「お前だって、毎回、同じ男に抱かれにいっていたではないか?それと同じだ。儂はビッキーと出会って、真実の愛に目覚めたのだ。そういえば、あの男、あれから何度か転生しておるようじゃぞ。毎回違う人間と結婚出来て、喜んでおるようじゃが?少しは、女神もお床上手を磨けばよかろう。……そう思っただけで、ビッキーが恋しいのぉ。ああ、夜になるのが待ち遠しい。」
「な、なんですって!? レオナルド一世様の魂を持つ者が、あれから何度も転生していたというの!転生の神からは、何も聞いていないわ。どうして、教えてくれなかったの?酷いわっ!お父様は、ご自分だけ満足なされて。」
早速、ゴールデニアは、転生の神のところへ怒鳴り込んだ。
すると、レオナルド一世様の魂を持つものは、あれから4度転生されて、先ほど他界されたばかりという。
「今度、生まれ変わられたら、必ず、わたくしに知らせてくださいませ。きっとですよ。」
念を押そうとしたら、「女性に転生してもですか?」
「へ?」
「今までの4回は、すべて女性に転生されてきたので、黙っていました。」
ゴールデニアに百合の趣味はない。
「ああ、それならいたし方ございませんわね。女性の場合は、けっこうですわ。」
とぼとぼと自室に引き返したのであった。お義母様に聞いて、本気でお床上手を勉強しようかしらって、何を勉強すればいいのよ。
そんなこと、いくら女神の立場を利用しても聞けない。お父様に聞こうにも、モジモジ顔を赤らめられるだけで、何も教えてくださらない。いったい、どこが男性にとって、イイのだろうか?
一度、隠蔽魔法を使って、人間界の娼館に潜り込んでみようか?でも、そんな不埒な真似がバレたら、女神の魔法や地位を剥奪されるかもしれない。第一、出歯亀の趣味はない。
今度、レオナルド一世様の魂を持つ方と結婚して、閨を共にすることがあったら、聞いてみよう。
それからしばらくは、産婆と義弟・義妹たちの養育に明け暮れるゴールデニアである。
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その頃、人間界の北の果て、ノースリバー国では、開けても暮れても、お妃教育にうんざりしている一人の公爵令嬢がいたのである。
まだ、聖女様として、覚醒する前のこと、5歳の頃、王太子殿下の当時は、まだ第1王子様のリチャード・フォン・ノースリバー様の婚約者として、指名されてから、ずっとである。
当時、公爵令嬢のマーガレット・ミラーボーンは、くるくるとした大きな瞳が印象的な愛らしい娘であったことから、リチャードに一目惚れされてしまい、婚約に至ったのである。
それからは寝ても覚めても、お妃教育で、心身ともに疲れ果てているのだ。学園に入ってからは、最初の頃は、王太子殿下の溺愛で毎日、同じ馬車で通学し、一線は超えていないものの王太子に体中をまさぐられたのである。学校に着く前に一度、下着を替えなければならないほどに開発されていたのです。
その頃の王太子は閨ごとに興味があり、他の女子生徒相手にいろいろ浮気もされているようだったが、
「マーガレットの最初は、僕だよ。愛している。」
口の中を蹂躙されるキスを何度もしてくださいました。もうそれだけで、カラダの芯が熱くなり、しびれてきて、わたくしは満足してましたの。
ところが、2年生の夏休みが終わった頃から、ピタリと王太子は、よそよそしくなったのである。
もうあんな熱烈なキスもしてくださらなくなり、通学も別々の馬車となりました。正直、とても寂しかったのです。
理由は、薄々感じていました。夏の終わりごろ、男爵令嬢のリリアーヌ様が転校なさってきたのです。
それから学園内でも、リチャード様とリリアーヌ様は一緒にいられることが増えたのです。わたくしは、すっかり蔑ろにされて、ずいぶん腹を立てましたわ。
わたくしのお友達もそれは同感だったみたいで、わたくしのかわりにリリアーヌ様の靴箱にイタズラなさっていたみたいでしたけど、もうわたくしは見て見ぬふりを決め込んでいましたのよ。
だって、そうでしょ?泥棒猫のごとく、リチャード様の気持ちをかっさらっていったのですから。その時は、まだ気持ちだけ、心だけをかっさらっていると信じていましたが、実際はそうではありませんでした。
リチャード様とリリアーヌ様は男女の仲でしたの。知りませんでしたわ。いくら男女の仲とはいえ、結婚するのは、わたくしが相手だと信じておりましたから。
それが卒業式の日、午前中は卒業証書の授与があり、午後からは、教職員の方との謝恩会を兼ねた茶話会がある。そして、夕方からは学園長、父兄を交えた記念祝賀パーティが開催されるのであるが、いくら公爵邸で待っていても、リチャード様のお迎えがない。
おかしいと首をひねりつつも、そうこうしているうちに定刻になってしまうので、仕方なしに馬車に乗り、一人で会場に向かう。
マーガレットが会場に着くなり、学園長の挨拶が始まったのである。ギリギリで間に合ったのだ。
乾杯の音頭が終わり、拍手のうちに歓談が始まる。
ふと見ると、リチャード様が怖い顔をして、リリアーヌ嬢を伴い、マーガレットのほうへ向かってくる。
「公爵令嬢マーガレット・ミラーボーン、貴様との婚約は、今宵をもって破棄するものとする。貴様は我が愛する男爵令嬢リリアーヌを学園内で、さんざん虐めぬいてきた。よって、将来の国母となる令嬢を虐めてきた咎で、国外追放とする。」
「ええ?わたくしは、虐めなど致しておりませんわ。それはリリアーヌ様と殿下が仲睦まじくしていらっしゃるのは、腹立たしく見てまいりましたが、虐めなど致しておりません。」
「問答無用である。衛兵!この女を、国境に捨てよ!」
マーガレットは、衛兵の手により、後ろ手にくくられ、罪人用の馬車に乗せられる。
そして、国境付近の砦の前まで、来たところで、乱暴に引きずりおろされたのである。
そして、砦の一室に寝転がらされた。
え?国外追放って、何する気?
国境の兵士たちの野卑た顔が不気味で、これから何が行われるというのだろうか?
しばらくすると、ノックの音がして、リチャード様がそこにおられました。
「マーガレット、いいざまだな。リリアーヌを虐めるからだぞ、ま、お前は直接手出しをしていないことはわかっているがな。」
リチャード様も他の兵士共々野卑た笑みを浮かべている。
「ああ、お前たちは、ここで見物してろ。この女は、昔、後一歩というところまで俺が開発してやった女なのだ。」
「マーガレット、約束通り、俺が一番最初にお前を抱いてやる。その後は、ここにいる兵士どもの慰み者になれ、その後、素っ裸で国境線に放置してやる。野犬に食われるか、盗賊どもに犯されるかは、お前の運しだいだ。」
今から抱かれるという言葉にカラダは濡れてくるが、今は恐怖心のほうが先に来る。みんなが見ている前で犯されるのだ。
そして、リチャードは、マーガレットの着ているドレスに手をかけようとした瞬間、
「痛っ!!!」
何が起こったか、わからないほどの激痛が走ったのだ。
一瞬金色の閃光がしたかと思えば、そこには背中から羽根を生やした女神様がマーガレットの前に立ちはだかり、マーガレットを庇うようにしている。
「無礼者!聖女様に触るではない!」
リチャードは、自分の両腕が、肘から下、抜け落ちていることに気づく。
「わ、わ、わ、俺の腕がない!」
「そのような汚らわしい腕、なくともよいだろう。」
周りにいる兵士たちは、唖然とするものの、女神様の姿と金色に光り輝いているマーガレットの姿をみて、一様に頭を垂れ跪いている。
「ここにいる令嬢をどなたと心得る。恐れ多くも人間界で1000年ぶりに誕生されたマーガレット聖女様なるぞ。頭が高い。控えおろう。」
「ははー。」
「兵士どもよ。王都に立ち返り、このことを国王に言うのだ。その腕ナシは牢屋にでも、放り込んでおけ!」
「え?わたくしが聖女様?」
「そうだ、マーガレット聖女よ、その方、これから我とともに神界へ参るか?それとも両親と挨拶してからにするか?なんなら、両親もろとも、我が用意している国へ引っ越されてはいかがかな?」
「はい、今は混乱しておりますゆえ、一度、王都の公爵邸に帰りとう存じます。」
「うむ。それがよかろう。」
気が付くと、いつもの公爵邸の自室で寝ていたのである。女神様が転移魔法を使って、マーガレットを送り届けてくれたのである。
マーガレットは、とにかく疲れたので寝ていたいが、両親に事の顛末を話してからでないと、寝られないのである。
豪華なドレスを脱ぎ、私服のワンピースに着替え、両親が待つ書斎へと向かう。
そして、事の顛末を告げるのである。
一方、その頃、早馬を乗り継ぎ、砦の兵士は、すでに王城に着いていた。
マーガレットが聖女様として、覚醒されたこと、そのマーガレット様を抱こうとされたリチャード様が女神様の怒りに触れ、両腕をもがれ、今は砦の牢の中に休んでおられることなどを告げる。
王城は当然のごとく騒然となる。
「聖女様はいずこに?ご無事か?」
誰も両腕がなくなったリチャードのことなど心配していない。
「すぐに8頭立ての馬車を仕立てて、御迎えに上がらねば。」
「宝石にドレス、花束も必要だろうか?」
「ミラーボーン公爵に連絡を取るのだ。」
「聖女様は卒業パーティのさなかに連れ去られたのだ。お腹が空いていらっしゃるだろうから、何か簡単につまめるものを持って行って差し上げるべきだ。」
「暖かいスープのようなものがいいだろうか?」
ごった返しているところに、ミラーボーン公爵から連絡が入り、女神様がマーガレット聖女を公爵邸まで、送り届けてくれたと知らされる。
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ミラーボーン公爵邸では、「今日はもう遅いので、明日にでも。」と断りを入れている。
「聖女様はお疲れになっておられます。どうぞ、お引き取りを。」と言われれば、非常識な行いをしているのは、王家なのだから、引っ込むしかない。
そして、翌朝になればノースリバー国では、地上に現れた1000年ぶりの聖女誕生に、国民は湧いたのである。
王都のあちらこちらで、いやノースリバー国の至る所で
「聖女様万歳!ミラーボーン万歳!」
まだ、リチャード王太子は砦の牢の中でうずくまっている。
「そんな……、マーガレットが聖女だなんて、俺は何ということを……。」
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リリアーヌとさえ無理だろうな。俺は廃嫡され、処刑される運命なのだ。いっそのこと自害をしようにも腕がないので、何もできない。
こんなことなら、リリアーヌなんかにちょっかい出さなければ、よかった。マーガレットはリリアーヌに比べれば、100倍、いや1000倍はイイ女だというのに。
幼い日に初めて、マーガレットの姿を見た時、心臓を撃ち抜かれるような衝撃を覚えたのだ。くるくると大きな瞳、愛らしい表情、可愛かったなぁ。
「聖女様と結婚した賢王になれるはずだったのにな。……マーガレット愛している。」
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表紙イラスト:リルドア様(https://coconala.com/users/791723)
【完結】本編63話+外伝11話、2021/01/19
【複数掲載】アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアップ+
2021/12 異世界恋愛小説コンテスト 一次審査通過
2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
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