上 下
38 / 79
現世:新たなる旅立ち

38.夢

しおりを挟む
 ナンパされたからか、なんだか寝覚めが悪い。それに変な夢を見た。ものすごく長い夢のようだったが、内容はほとんど覚えていない。リアリティがあるような夢のようで、その実、何も思い出せないという気持ちの悪さ。

 懸命に夢の続きを考えるも、ああ、ダメだ。やっぱり何も思い出せない。とりあえず、顔を洗って、店の表を掃除しようとしたら、もうジェニファーが掃除を始めている。

「おはよう。ジェニファー早いわね」

「ええ。女将代行ですからね。さっき、妙な男が、昨日の娘がどうしたとか?と聞きに来ていましたよ。あれがナンパ男というものですか?」

「そうよ。それでどうしたの?」

「私がこの店の女将です。と言ったら、逃げるように去って行ったわ」

「ふふふ。ありがとう。助かったわ。これからもよろしくお願いします」

「どういたしまして」

 二人で掃除を始めたら、あっという間に終わる。それで厨房に入り、賄の朝ごはんの支度をし始めると、デイジーたちが起きてきた。

 かまどに火入れをして、今朝の賄メニューは、焼き鮭となめこのみそ汁、香の物に炊き込みご飯と和食メニューにしてみた。今朝の夢がまだ尾を引いていて、気持ち悪くて仕方がない。

「どうしたんですか?オーナー、顔色が良くありませんよ」

「なんかね、いやな夢見ちゃったみたいなんだけど、内容を覚えていなくて、でも嫌な夢だったことは確かよ」

「どんな夢でしたか?」

「長い、長い夢よ。誰かに殺されてしまう夢」

「それは、ここと似たような世界ですか?それとも黒髪の世界ですか?」

「え……とね、わたくしが王女殿下になった夢を見て、留学して、それから……ああ、ダメだ。思い出せない」

「誰かと愛し合った夢でしょうか?」

「うーん。そんなこともあったのかも?イヤダ。夢の話にデイジーが付き合ってくれるなんて……デイジーも変な夢でも見た?」

「私は、いつも変な夢ばかりですよ」

「そういえば、夢の中で、シンリーとかなんとか、呼んでいたような気がする」

「オーナーそれって、アレですよ」

「アレって?」

「つまり欲求不満じゃないですかね?」

「ヤダ!嫁入り前なのに、なんてことを言うのよ!」

「シンリーだなんて、シンイーならわかるけど……?ひょっとして、シンイーのことが気になり過ぎて、夢の中で、少し名前違いで現れてきたってとこですか?」

「や、やめてよ」

 アイリーンは、急に恥ずかしくなってくる。知らず知らずのうちにシンイーのことを意識していたなんて……あり得なくもない?いやいや、食事中なのに、大きくかぶりを振ってしまう。お行儀が悪いことをした自覚に、呆然としてしまい、残りのご飯をかっ込んだ。

 それをサファイアとデイジーが、アイコンタクトを取って、頷きあっていることなど、知る由もない。

 ああ、ヤダやだ。嫌な夢を見たばかりか、デイジーに揶揄われてしまって気分が悪い。

 それにあんなこと言われた後では、シンイーの顔をまともに見られないことに気づいてしまう。

 人は生まれてから死ぬまでの間に、次の世代に命を繋いでいくという絶対的な使命があるはずなのに、それを忘れてしまえるほど、何か困難なことでもあったのだろうか?

 誰かに殺される夢と言うのは、つまりそういうことよね?その使命を果たせないまま、殺されてしまうということ。

 よほど、罪深いことをしてきたのかしら?と首をひねる。

 でも、深層心理で言えば、まったくお門違いの見解である。人に殺される夢は吉夢で、後味感は悪いが、その多くはお金が入ってくる前兆であったり、何か新しいことをする前触れである場合が多い。

 死とは、再生を意味するから、決して悪い夢ではないが、どうしても、この手の夢を見ると不吉を思い浮かべてしまいがちになる。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】待ってください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,698pt お気に入り:44

異世界転生令嬢、出奔する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:26,277pt お気に入り:13,937

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,473pt お気に入り:2,919

離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:16,530pt お気に入り:684

王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:603pt お気に入り:276

処理中です...