前世記憶持ちの悪役令嬢は聖女様呼ばわりされることが嫌で嫌で仕方がない～乙女ゲームのヒロインにゲームクリアしてもらうために奮闘する

悪役令嬢として転生

1.婚約破棄

　今日は、オルブライト王立学園の卒業記念祝賀パーティでのこと。

　ジャクリーンは、大好きな王太子殿下がいつも男爵令嬢のリリアーヌにばかり、かまってジャクリーンのことを冷めた目で見て、邪険にするから、でも侯爵位の方が、男爵位より位が上なのだから、それをかさに着ていじめて、どこが悪い？

　一年前に男爵の庶子のリリアーヌ嬢が学園に転入してきてからというもの、王太子殿下のわたくしに対する扱いが一段と酷いものになってくる。

　わたくしことジャクリーン・アナザーライト侯爵令嬢は、１２歳の頃よりお妃選定会で、親の都合だけで第１王子様のエドモンド様の婚約者になってしまったのだ。

　でも、その後の顔合わせで、悔しいことにエドモンド様の見目麗しいお姿に胸を撃ち抜かれてしまい、学園の卒業式を楽しみにするようになったというのに。

　「ジャクリーン・アナザーライト！貴様との婚約は、今をもって破棄させてもらおう。貴様は、さんざんわが愛する麗しの男爵令嬢のリリアーヌに対して、数々の嫌がらせをしてきたことの咎により、アナザーライト家の侯爵位をはく奪し、市井へ落ちるがよい。」

　高らかに、エドモンド・オルブライト王太子殿下が宣言されるが、そもそも爵位返上やはく奪といった行為は、王太子の一存では決められない事案。元老院に諮り国王陛下の裁可が必要だというのに、そのことには一切触れていないことから、独断で決められたご様子。

　「はぁ？……！ここは、どこ？」

　その時、婚約破棄をされたショックから、前世の記憶が雪崩のように脳内に押し寄せてくる。

　この世界は、前世、金沢さくらが仕事の合間に暇を見つけて遊んでいた乙女ゲーム「オルブライトに咲く白百合」の一場面にそっくりなのだ。

　もともとは、この乙女ゲームは、兄の患者さんの忘れ物だったのだけど、その患者さんは、遠くへ引っ越されたため、届けようがなく、興味本位で遊んでいたもので、攻略対象の誰を選ぶかによって、結末が変わってくる。つまりは、王太子ルートを選ぶと、ジャクリーン・アナザーライトが悪役令嬢となり、断罪されるというもの。

　アルフレッド・レバトリーを攻略対象に選ぶと、アルフレッド様の婚約者の方が悪役令嬢になるという仕組みで、どのルートを選択するかにより、悪役令嬢の役どころがズレていく。悪役令嬢固定のゲームではないから、王太子ルートの攻略を失敗しても、他の攻略対象者をうまく攻略できれば、ゲームが終了してハッピーエンドで成功するというもの。

　だから乙女ゲーム初心者でも、わかりやすく失敗することがないゲームとして、人気を博していたらしい。

　我がアナザーライト家は、容姿端麗な血筋だけで、侯爵家に上り詰めた家柄で、ちょうどペットの血統書付きのようなもの。誰でもブサイクな子供は産みたくない。また、ブサイクな相手と結婚したくない。

　そういうときのために我が家は存在する。

　いいですよ？爵位返上しても、我が家はいっこうに困りません。創国の時の王妃が我が家のご先祖様ですから、今でも外国から縁談が舞い込みますもの。

　「承知いたしましたわ。それでは、ごきげんよう。」

　そこへ卒業パーティの会場の奥の方にいらした方が前に進み出て、

　「待ってください。ジャクリーン嬢、私は……、隣国のブルオード国の第１王子のヴィンセントと申す若輩者でございます。できましたら、どうか私の妻になってはいただけないでしょうか？これから市井に身を落とされるぐらいでしたら、私の国に来てください。もちろん、ご家族もご一緒に。決して、今までよりも不自由な暮らしはさせませんことをお誓い申し上げます。どうか……。私と共に……。」

　それが皮切りになったかのごとく、次から次へと各国の来賓が前に進み出て、ジャクリーンの足元に跪きながら、同じような愛の囁きやプロポーズをなさるので、卒業パーティというよりは、「ねるとん」のような雰囲気になってくる。

　先ほどまで、エドモンドの腕にぶら下がっていたリリアーヌ嬢は、勝ち誇った顔をやめ、怒り狂っているありさま。

　それにしても、よく見るとブサイクな顔。典型的なニッポン人特有の平べったい顔に開いているのか瞑っているのかわからない眼、低い鼻に黄色い肌をしている。

　いくらゲームとはいえ、その顔で乙女ゲームなんてしてはダメですわ。

　男爵令嬢ごときのブスがお気に召したのであれば、エドモンド様も相当、変わったご趣味がおありなのだろう。

　でも、結果的に見て、市井に堕ちるのは、どちらの方でしょうかね？あれ？ゲームで、こんな設定遭ったかしら？

　首をかしげながら、帰路につく。

　早く家に帰らなければ、先ほど、わたくしにプロポーズなさった方の受付ができませんわ。

　それにもし爵位を返上しても、今なら市井で暮らしていく自信がある。

　なんせ、金沢さくらは、前世大学病院で医師をしていて、専攻は糖尿病内科だけど、管理栄養士の資格も持つ栄養学の権威だったから。

　市井でレストランか医者でもやれば、十分、一人で生きていける。