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悪役令嬢として転生

2.乙女ゲーム1

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 「オルブライトに咲く白百合」という乙女ゲームは、エンディングを迎えた後に相手を変えると、すぐその場で、ゲームオーバーとなってしまう。途中、攻略相手をいくら変更しても、ゲームオーバーにならないのに、相手を選び、その相手からも選ばれてからは、いわゆるほかの相手を探す行為は、不義になり、浮気したことと同様に解釈され、ゲームオーバーになってしまう。

 だからもう男爵令嬢のリリアーヌは、王太子殿下以外の男性を選べない。目の前で、悪役令嬢たるジャクリーン・アナザーライトが各国の来賓からプロポーズされているのをいくら悔しがっても、リリアーヌには届かない存在であることは間違いない。

 そういうゲーム仕様になっているのだから、文句を言うなら制作会社に言いなさいと言いたいところだ。

 攻略対象は、全部で5人。
 エドモンド・オルブライト王太子殿下
 アルフレッド・レバトリー宰相の次男
 モーガン・ストラッカー魔術師団長の次男
 カーネル・ブラウデン筆頭公爵の次男
 ニコラス・マキャベリ騎士団長の三男

 こうしてみると、いかにもニッポン的なゲームだとつくづく思う。王太子だけが長男で、その他は、次男や三男揃いであるというところ。

 おそらくニッポンの住宅事情から、嫁姑同居を想定して、長男の嫁の苦労がわかっているのか、はたまた姑と別居することが結婚の条件となっているということか、は定かではない。

 最後のニコラス・マキャベリを除いて、全員が公爵以上の爵位だから、どうしても筋肉オタク?以外は、玉の輿になってしまうところも少女向けの乙女ゲームたる所以かもしれない。

 でも高校生ぐらいの少女でも、スポーツを愛好しているものにとっては、体育系のノリで騎士団長の三男は十分アリなのだろう。胸板の厚い男の人って、かっこいいよね。守られている感が半端なくある。

 それで今のところだけど、別に隣国やほかの外国にお嫁に行きたいとは、思っていない。たぶんジャクリーンの性格から見て、前世の記憶を思い出す前であるのなら、おそらく間違いなく隣国の第1王子様の手を取っていたであろう。

 5人の攻略者よりも、ズバ抜けてイケメンだから。だから、リリアーヌに睨まれてしまったぐらいなのだ。悪役令嬢のクセに、ときっと思っているはず。

 でも今は、市井で暮らしてみたい気持ちが半分以上ある。だいたい前世金沢さくらの頃から、自由へのあこがれは十分すぎるほどあったのだから。

 金沢さくらは、行かず後家だったわけではない。若い頃に親が進める見合い相手と一度は結婚したが、お相手とは、ハネムーンの夜に一度しただけで、帰国後、レスになってしまったのだ。相手も童貞だったみたいで、処女と童貞だったから、うまくいかず、その後、自然とレスになってしまう。

 そうこうしているうちに、相手は交通事故であえなく死亡してしまい、残された生命保険金で自宅マンションを買い、相手の姓を名乗らず、実家の旧姓を名乗り、大学病院で勤務し続けた。

 金沢さくらには、双子の兄がいたけど、兄も同じ大学の医学部に進学して、さくらは学者の道に、兄は開業医へと、成長するにつれ、進路が分かれていく。

 兄の名前は、金沢大輔。若い歯科医なので、けっこうモテていたと思う。歯科衛生士の女性がいつも違う人だったような気がする。

 さくらは結婚に失敗したので、兄の大輔には幸せになってもらいたいと思っていたのだ。

 ただ離婚したわけでもなく、浮気されたわけでもないから、失敗と言えるかどうかはわからない。

 その後も何度か見合い話、縁談には事欠かなかったけど、もうめんどくさいということが先に立ち、それから恋愛もしていない。だから恋愛初心者にとっての擬似恋愛体験ができる乙女ゲームは面白かったのだ。

 でも、さくらにとっては、本当にただの暇つぶし程度しかやっていない。たまたま悪役令嬢と同じ名前だったから、アレ?と思っただけのこと。

 もし、リリアーヌが別の攻略対象者を選んでいたのなら、絶対に気づかなかったと思う。

 アナザーライトのタウンハウスの前まで来ると、もうはクリーンへの婚約申し込みの行列ができていたのだ。早いわね。ジャクリーンの方が先にパーティ会場を後にしたというのに。パーティ会場から、出てきてすぐに、関係者とあいさつをしていたからか、ジャクリーンの方が後から来る格好になってしまったのだ。

 それにしても、わが侯爵家の家令は見事なもので。ジャクリーンが何の説明もしていないのに、王太子との婚約が破棄されたことを前提として、受付をしている。

 国名、王位継承権の順位、絵姿の有無などを一枚の用紙にそれぞれ書かせている。

 今朝、王太子からの迎えの馬車が来なかったことから、想像したのに違いない。

 エドモンドは、本当に頭の程度が低い。こんなことで、ジャクリーンやアナザーライトを排除できると思っているところが、考えが至らないというべきか、浅はかというべきか、短慮というべきか、単純というべきか、のうちのどれかには違いない。

 今にきっと、吠え面を描くことになる。
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