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悪役令嬢として転生
5.シスコン
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「お兄様!歯医者って、まさか敗者復活戦をなさろうというのでございますか?」
「ブフッ。そんなわけではなかろう。そうか……。ジャッキーは普通の飯屋をやるつもりなのだな。もういい。邪魔した。」
「デンタルクリニックの方でございますか?」
「!」
エルモアはカッと目を見開いて、驚いている。
「やっぱり双子なのですね。大輔、いつから前世の記憶を……?わたくしは、あの婚約破棄のショックで、気がついたら、市井であろうがなかろうがどこでもやってやろうじゃないかという気になりまして。」
「俺もだ。さくら。あの卒業パーティのさなか、突如として、前世の記憶がなだれ込んできたのだ。そして、この世界で偶然にも俺が双子であり、ひょっとすれば、ジャッキーもさくらなのかもしれないと思い始めたところに、ジャッキーがレストラン開業に向けて奮闘していると聞いたので。さくらなら、レストランの横にでもクリニックを出せないかと思ったのだが……。いいだろうか?」
「お兄様、もしかして、わたくしに何か隠し事がおありなのでは?デンタルクリニックをいきなりやるにも、診察台が必要で、それにレントゲンはどうなさるおつもりで……?」
「うむ。それが不思議なことに、前世の記憶を取り戻したときに、診療所がついてきたのだ。ほら、駅前で開業していた時の診療所が中身ごとついてきた。信じられないかもしれないが。ジャッキーはどうせ薬膳のようなものを提供するつもりだろうから、その隣で歯医者をさせてもらえないかと思ってね。」
「ふーん。やっぱりね。お兄様、いいことを教えて差し上げますわ。この世界って、お兄様の患者さんで乙女ゲームの忘れ物をされた方がいらっしゃいましたわよね?」
「ああ、山田由紀子さんのことか?それがどうした?」
「この世界が、その忘れ物の乙女ゲームの世界みたいですの。」
「はぁ?どういうことだ?」
「山田さんの忘れ物の乙女ゲームを少し遊んだだけなので、違うかもしれないけれど、この国の名前のオルブライト、王太子殿下の名前エドモンド、エドモンドの婚約者ジャクリーン・アナザーライト、他の攻略対象者の名前と爵位がすべて一致しているのよ。それに、王太子ルートを選ばれたら、わたくしが悪役令嬢になるという筋書きも、断罪されるシーンもそのままだったから、間違いはないと思うわ。」
「はぁ……、実は俺もさくらに渡す前に、世に言う乙女ゲームというものを一度やってみたのだが、途中でバカらしくなって、やめてしまったのだが、王太子ルートに悪役令嬢に双子の兄がいたという設定はなかったと思う。だから、この世界が乙女ゲームの世界だなんて、と言われても……?」
「それはお兄様がモブだからよ。」
「モブ?なんだそれは?」
「その他大勢ってことよ。ま、どっちでもいいけど、それよりコレ見てよ。いいもの見せてあげる。」
「?」
ジャクリーンは、大輔の手を取り、部屋のクローゼットの前に立つ。そしておもむろにクローゼットの扉を開けると、そこにはもう一つのドアがあった。
「じゃじゃーん!」
ジャクリーンは、見せびらかすかのように、両手をマンションのドアに向けて差し出すような恰好をしている。
{?なにこれ?まさか、さくらも何かチートアイテムを持ってきたのか?}
「いいから、ドアにカギはかけていないから、開けてみてよ。言っとくけど、土禁だからね。」
大輔はおそるおそるドアノブに手をかけてみて引っ張ると……、そこには普通の3LDKが存在している。
ただし、前世の3LDKクラスのもの。
「すげえ!俺の診療所もたいがいだと思ったけど、さくらのマンションの方がいい!」
大輔にとっても、さくらのマンションは懐かしい。
「ね!これがあれば、市井に落とされても生きていける。」
大輔は無言でコクコクと頷いている。そして部屋の中を見て回り、パソコンが4台も置いてあることに気づく。
「お!いいなぁ。パソコンまでそのまま置いてあるじゃん。それに風呂と洗面所とトイレまで……前世は豊かな暮らしをしていたと思うよ。この世界は冷蔵庫も洗濯機もテレビも掃除機もない生活だから、どんなものでもありがたいと思う。」
そういいながらリビングのソファにどっかりと座り、テレビをつける。映らないはずのテレビは、なぜか大輔が来てから移るようになった。不思議だと小首をかしげながら、コーヒーメーカーでマグカップにコーヒーを注ぎ、大輔の前に出す。
「本当、ここは前世さながらに何でもそろっているね。美味いコーヒーに快適な暮らし。これに美女がいれば、言うことなしだが、兄妹でナニをするわけにもいかないからさ。
「冗談はやめて。似た遺伝子同士が交わるなんてこと、遭ってはならないことだわ。」
「さすが元医者だけのことはあるな。そんじょそこらの令嬢とは言うことが違う。」
「そんじゃ、次に生まれ変わってくるとしたら、さくらとは他人の遺伝子で生まれ変わってきてやるよ。それなら問題なかろう?」
「本気なの?」
「俺はいつだって、本気さ。前世でさくらが正弘さんとこへ嫁にいったときなんか一晩中枕を涙で濡らしたよ。王太子と婚約したときは、何も感じなかったけどさ。」
「本当、男運がないったら、ありゃしない。」
「え?王太子とのことは、俺でも男運がないと思うけどさ。正弘さんとは、うまくやっていたんじゃないの?それとも浮気やDVだったとか?」
「ううん。そのどっちでもないけど……。なんか、ずっとすれ違いばかりで……。」
「ふーん。男女間のこと、特に夫婦間のことは謎だね。」
大輔は自他ともに認めるシスコンだったわけだが、さくらが結婚してからというもの、ヤケになって、それまでの堅物路線から手当たり次第路線に代わっていく。
だから、エドモンドとの婚約が破棄された今、まだずっと堅物路線を引き継いでいるというわけだ。
「ブフッ。そんなわけではなかろう。そうか……。ジャッキーは普通の飯屋をやるつもりなのだな。もういい。邪魔した。」
「デンタルクリニックの方でございますか?」
「!」
エルモアはカッと目を見開いて、驚いている。
「やっぱり双子なのですね。大輔、いつから前世の記憶を……?わたくしは、あの婚約破棄のショックで、気がついたら、市井であろうがなかろうがどこでもやってやろうじゃないかという気になりまして。」
「俺もだ。さくら。あの卒業パーティのさなか、突如として、前世の記憶がなだれ込んできたのだ。そして、この世界で偶然にも俺が双子であり、ひょっとすれば、ジャッキーもさくらなのかもしれないと思い始めたところに、ジャッキーがレストラン開業に向けて奮闘していると聞いたので。さくらなら、レストランの横にでもクリニックを出せないかと思ったのだが……。いいだろうか?」
「お兄様、もしかして、わたくしに何か隠し事がおありなのでは?デンタルクリニックをいきなりやるにも、診察台が必要で、それにレントゲンはどうなさるおつもりで……?」
「うむ。それが不思議なことに、前世の記憶を取り戻したときに、診療所がついてきたのだ。ほら、駅前で開業していた時の診療所が中身ごとついてきた。信じられないかもしれないが。ジャッキーはどうせ薬膳のようなものを提供するつもりだろうから、その隣で歯医者をさせてもらえないかと思ってね。」
「ふーん。やっぱりね。お兄様、いいことを教えて差し上げますわ。この世界って、お兄様の患者さんで乙女ゲームの忘れ物をされた方がいらっしゃいましたわよね?」
「ああ、山田由紀子さんのことか?それがどうした?」
「この世界が、その忘れ物の乙女ゲームの世界みたいですの。」
「はぁ?どういうことだ?」
「山田さんの忘れ物の乙女ゲームを少し遊んだだけなので、違うかもしれないけれど、この国の名前のオルブライト、王太子殿下の名前エドモンド、エドモンドの婚約者ジャクリーン・アナザーライト、他の攻略対象者の名前と爵位がすべて一致しているのよ。それに、王太子ルートを選ばれたら、わたくしが悪役令嬢になるという筋書きも、断罪されるシーンもそのままだったから、間違いはないと思うわ。」
「はぁ……、実は俺もさくらに渡す前に、世に言う乙女ゲームというものを一度やってみたのだが、途中でバカらしくなって、やめてしまったのだが、王太子ルートに悪役令嬢に双子の兄がいたという設定はなかったと思う。だから、この世界が乙女ゲームの世界だなんて、と言われても……?」
「それはお兄様がモブだからよ。」
「モブ?なんだそれは?」
「その他大勢ってことよ。ま、どっちでもいいけど、それよりコレ見てよ。いいもの見せてあげる。」
「?」
ジャクリーンは、大輔の手を取り、部屋のクローゼットの前に立つ。そしておもむろにクローゼットの扉を開けると、そこにはもう一つのドアがあった。
「じゃじゃーん!」
ジャクリーンは、見せびらかすかのように、両手をマンションのドアに向けて差し出すような恰好をしている。
{?なにこれ?まさか、さくらも何かチートアイテムを持ってきたのか?}
「いいから、ドアにカギはかけていないから、開けてみてよ。言っとくけど、土禁だからね。」
大輔はおそるおそるドアノブに手をかけてみて引っ張ると……、そこには普通の3LDKが存在している。
ただし、前世の3LDKクラスのもの。
「すげえ!俺の診療所もたいがいだと思ったけど、さくらのマンションの方がいい!」
大輔にとっても、さくらのマンションは懐かしい。
「ね!これがあれば、市井に落とされても生きていける。」
大輔は無言でコクコクと頷いている。そして部屋の中を見て回り、パソコンが4台も置いてあることに気づく。
「お!いいなぁ。パソコンまでそのまま置いてあるじゃん。それに風呂と洗面所とトイレまで……前世は豊かな暮らしをしていたと思うよ。この世界は冷蔵庫も洗濯機もテレビも掃除機もない生活だから、どんなものでもありがたいと思う。」
そういいながらリビングのソファにどっかりと座り、テレビをつける。映らないはずのテレビは、なぜか大輔が来てから移るようになった。不思議だと小首をかしげながら、コーヒーメーカーでマグカップにコーヒーを注ぎ、大輔の前に出す。
「本当、ここは前世さながらに何でもそろっているね。美味いコーヒーに快適な暮らし。これに美女がいれば、言うことなしだが、兄妹でナニをするわけにもいかないからさ。
「冗談はやめて。似た遺伝子同士が交わるなんてこと、遭ってはならないことだわ。」
「さすが元医者だけのことはあるな。そんじょそこらの令嬢とは言うことが違う。」
「そんじゃ、次に生まれ変わってくるとしたら、さくらとは他人の遺伝子で生まれ変わってきてやるよ。それなら問題なかろう?」
「本気なの?」
「俺はいつだって、本気さ。前世でさくらが正弘さんとこへ嫁にいったときなんか一晩中枕を涙で濡らしたよ。王太子と婚約したときは、何も感じなかったけどさ。」
「本当、男運がないったら、ありゃしない。」
「え?王太子とのことは、俺でも男運がないと思うけどさ。正弘さんとは、うまくやっていたんじゃないの?それとも浮気やDVだったとか?」
「ううん。そのどっちでもないけど……。なんか、ずっとすれ違いばかりで……。」
「ふーん。男女間のこと、特に夫婦間のことは謎だね。」
大輔は自他ともに認めるシスコンだったわけだが、さくらが結婚してからというもの、ヤケになって、それまでの堅物路線から手当たり次第路線に代わっていく。
だから、エドモンドとの婚約が破棄された今、まだずっと堅物路線を引き継いでいるというわけだ。
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