前世記憶持ちの悪役令嬢は聖女様呼ばわりされることが嫌で嫌で仕方がない~乙女ゲームのヒロインにゲームクリアしてもらうために奮闘する

青の雀

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新しい出会い

52.ツアコン

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 翌朝は、ホテルのビュッフェコーナーで朝食を摂る。使用人もそれぞれ自分の好きなものを好きなだけ、皿に載せている。

 飲み物も牛乳からオレンジジュースまで、コーヒー、紅茶、日本茶まで好きなものが飲み放題、さすがに酒類はないが、満足してくれているようでよかった。

 ホテルからデズニーまで送迎バスを出してくれて、全員でそのバスに乗り向かうことになった。今夜もこのホテルで宿泊するので、荷物は部屋に置いていても大丈夫だと言っているのに、全員、異世界で盗難に遭ったら泣くに泣けないからと、大きなスーツケース持参で行くみたい。

 異世界は異世界でも、ニッポンは世界有数の安全で、治安がいいのよ。だから、お部屋に置いておく方がより安全と説明しても誰も聞いてくれない。

 困り果てていたら、シャルマン様が一言注意してくださり、いっぺんに部屋に荷物を置いて出かけることになったのだ。

 デズニーはメリケン資本の遊園地で、遊園地というよりはリゾート地と言った方がいいぐらいの規模で同じ敷地内にホテルも構えている。

 その面では次の日に行こうと予定しているハウステンボスも同じで、オランダの風景を模したテーマパークなのだが、同じように敷地内にホテルの墓、別荘地や住宅まである。

 ニッポン人から見れば、我々こそが異世界人で、外国人なのだから少しは元居た世界に近い人種がいるところの方が落ち着くだろうと思っただけ。

 今からこんな状態では、先が思いやられる。

 シャルマン様は大丈夫だと言わんばかりにジャクリーンの手を握ってくださるが、いっそのこと、こいつらを置き去りにしてやろうかとも思う。

 昨夜は、ホテルに着いてからというもの、侍女の仕事もしないで、部屋割りで盛り上がり、さっさと自分の部屋が決まれば、その部屋から一歩も出ないで過ごしていた。

 新婚旅行に勝手についてきたのだから、自分の仕事ぐらいちゃんとやりなさいよ!と言いたい。

 だから今日一日は自由行動とさせてもらう。帰りのバスの時刻だけ伝えて、後は好きになさったらどう?

 できたらシャルマン様もどうぞ、ご勝手になさいまし。

 せっかくの異世界に来たのだから、わたくしも久しぶりに自由行動がしたくてよ。機嫌を損ね、一人でブツブツ言っていると、さすがにシャルマン様は心配そうに顔を覗き込まれるが、もう知らない。今日は、自由行動の日よ。あなた方好きなところへどうぞ、ご勝手に行かれませ。

 地下ッとさえ買えば、乗り物はすべてタダなのだから、好きに遊びに行けばいいじゃないの。わたくしのことなど、ほっといて。

 バスの車番は、「0005」だからわかりやすい。この番号を見て、乗ってくださいね。乗らなかった場合は、置いていきますからね。

 バスを降りてから、一通り説明して、この場で解散とします。でもシャルマン様は、ジャクリーンの傍から一歩も離れようとなさらない。「ここで解散です。お好きなところへ行ってください。」

 「そんなこと言っても、無理だ。みんなジャッキーを道しるべとしているのだから、ジャッキーが動かなければ、この地に留まるしか術はないよ。」

 「では、そうなされば?わたくしは、今日は疲れましたので、ホテルに戻り、休みますから、皆さんは思う存分、デズニーを堪能してください。」

 「通訳がいないのだよ。ここの世界の言葉を話せるのはジャクリーンだけで、ジャクリーンがホテルで休みたいと言えば、全員、ホテルに向かうしかないのだよ。」

 「は?ついに、本音が出ましたわねシャルマン様。」

 「わたくしは、通訳だけしか価値がないので、ございますね?もう、わかりましたわ。では、新婚旅行はこれにて打ち切りといたしましょう。このまま地下鉄に乗って、レバトリー家へ帰りましょうよ。わたくしもわざわざ異世界に行ってまで、気を遣いたくございませんわ。」

 「おいおい。ちょっと待てよ。昨日から、あんなに大騒ぎして、デズニーの門の前でけんかしている場合ではないだろ?何が気に入らないんだ?昨夜、侍女が身の回りの世話をしに来なかったからか?あの時は、みんなアルコールが入っていたから、先に休んでいいと、俺が行ったんだ。だから来なかったのだよ。それにジャクリーンは、侍女の世話にならなくても、自分のことは自分でできる自立した女性だろ?」

 へー。そうだったの。ジャクリーンに一言の相談もなく、勝手に決めていたのね。

 「だったら、今日は自由時間としましょう。とにかく、入った。入った。」

 手でせかすように前に歩けと示すと、困惑した表情のまま、ゲートをくぐっていく。

 やっぱり、この結婚は無理だったのかもしれない。とふと、その時一抹の不安を覚えたのだ。

 乙女ゲームの世界の人たちは、ジャクリーンを聖女様と持ち上げときながら、ツアコンか、通訳のようにしか思っていなかったと、その時感じてしまったから。

 何が聖女様よ!たまたま、あの地下室への階段を見つけたばかりに……。デビュタントで落ち着いた雰囲気のシャルマン様に声をかけられ、有頂天になってしまったバカのように思える。

 確か、大検の試験は8月と11月にあったはず。今から出願すれば、8月のが落ちても、11月に再トライできるから、2回チャンスがあるはず。今日は、みんながデズニーで遊んでいる最中に、こっそり願書をもらいに行ってこよう。

 まだ配布前かもしれないが、なんとか情報だけでも手に入れたい。

 アナザーライト家の侍女は、片時もジャクリーンから離れようとしない。シャルマン様は、自由時間、解散と言ってから、他の護衛や侍女と共に園内に姿を消されたというのに。

 「いいのよ。アナタたちも好きに遊びに行きなさい。」

 「いいえ。わたくしたちは、決して、お嬢様から離れません。アナザーライトの旦那様から、キツク申し付かっております。」

 「そう。残念ね。わたくし、こっそり行きたいところがあるのだけど、このことは旦那様にも秘密にして、頂戴。」

 「はい。わかりました。」

 「では、まずシンデレラ城から行きましょうか?」

 「しんでれら?」

 「灰かぶり姫のことよ。」
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