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新しい出会い
61.目覚め
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急いで着替えて、手を洗い診療所の方へ走る。
今度の患者さんは、なんとキャサリン殿下。エルモアが正常な判断ができずオロオロしている。
それだけエルモアに取り、キャサリン王女は家族以上の関係になったということだろう。
医者は赤の他人の患者に対しては、冷酷なほどに冷静な判断ができるものだが、こと家族や身内のことになると、まるでダメになってしまうもの。特に外科医はその傾向が強いと言われている。
「どうしたの?何があったの?」
「キャサリンが、キャサリンが……。」
エルモアは、額に両手を置いたまま、うつむいて、固まってしまっている。
「お兄様、落ち着いてください。状況がわからなければ、対処しようがありません。」
お兄様のいうことでは、埒が明かないので、その場にいる女官長、女官、侍女等から話を聞くと、キャサリン王女は、自ら服毒自殺を図ったということがわかる。
そうとなれば、胃の洗浄しか手がない。
この世界には、胃の洗浄ができる装置は一つもないから、また異世界ネットショッピングで洗浄液、蒸留水、排出のための注射器などが必要となるが、それらを選んで買っている時間が惜しい。
茫然自失となっている兄は、役に立たない。
ああ。神様、同化わたくしに神の手を拝借させていただけないでしょうか?この時は、ネットショッピングの画面を見ながら、ふと、そんな途方もないことを考えたのだ。
そうだ。手当というぐらいだから、案外手を当てると何かいいことをひらめくかもしれないという科学者らしからぬことを考えてしまう。
ジャクリーンは、キャサリン王女の腹部に手をかざす。実際に触れてみないと手当とは言わない。それで、キャサリンの腹を触るつもりで、手をかざしたら、なぜか自分の手のひらから光が発せられていることに気づく。
え?なんで?
こんなバカなことがあるわけがないと思っているのに、手のひらの光はどんどん強さを増していき、キャサリン王女のカラダ全体を輝きに包むほどの光があふれだしてくる。
ここで、解毒を試してみればどうなるかな?一瞬、バカげた思考だが、その時はなぜかそれが実現可能であるかのように感じた。
そして、実行に移すことにし、手のひらに全神経を集中させる。すでに超音波で見ているかのように、キャサリン王女の毒の移り具合が手に取るように見えている。
粘膜を通じ、全身の毛細血管、毛細神経を脅かし、毒は胃から小腸にまで達し始めている。
信じられないという思いと同時に、早くしなければ、手遅れになるという危惧がジャクリーンを焦らす。「解毒!」
強く念じ、言葉にも出してみると、不思議なことにウズウズしい毒が消えていくことがわかる。
ハァハァと荒かった呼吸も、すっかり落ち着いた寝息へと変わっている。
「聖女様、ありがとうございます。」
いやいや、わたくしは聖女様などではございません。女医です。いつもならキッパリと否定するところだが、今、わが身に起こったことを魔法ということ以外はうまく説明できない自分がいる。
これが治癒魔法というものなのかしら?
今度、レバトリー家の図書室でしっかり勉強しなければ、と改めて強く思う。
ふらふらとした足取りで、お兄様の診療室に入り、そこから学園の女子寮についたときは、もうすっかり夜のとばりが下りているところだった。
そして、なぜかブルオード王城にいた王族方も、ジャクリーンの後を追い、ぞろぞろと女子寮の一室に入ってきてしまっている。そのことにさえ、気づかず急激に大量の魔力を使ったあおりで、ぐったりしている。早く横になりたいという気持ちだけで、女子寮に戻ってきてしまったのだ。
そして白衣を着たまま寝室のベッドに倒れこむように横になる。
王族方は、そのベッドの周りを取り囲むかのように、眠っているジャクリーンの顔をひたすら見続けている。
まるで釈迦涅槃図のように。
そこへあまりに帰りが遅いので、様子を見に来たシャルマンは、寝室の異常な光景にギョッとする。
「そこで何をしている!」
「私の妻に何をした?」
「……。」
ヴィンセント殿下がすっと立ち上がり、シャルマンの横まで来て、
「聖女様は、我が妹キャサリンの命を救ってくださいました。その際、魔力のほとんどを遣われてしまったようで、気を失っておいでなのです。我々は、聖女様が目覚められたとき、一番にお礼を言わなければブルオ-ドの恥になりますゆえに、こうして聖女様が気づかれるのを待っているのです。」
「そうか、ジャクリーンを目覚めさせればよいのだな?」
シャルマンはいつものように、ジャクリーンに馬乗りになり、ジャクリーンの頬をペチペチと叩き始める。
「ほら、起きろ。皆さんが待っておられるぞ。」
「しゃ、シャルマン様そこまでしてもらわなくても、我々はお目覚めになるまで、ずっと待っておりますゆえに。」
「大丈夫ですよ、すぐ起きますから。」
「ん……ん……いやん。」
一瞬にして、静まり返ってしまう。
男性王族は、聖女様の艶めかしい声にハッとするも、その声の響きが……アノ時の声だとわかり、恥ずかしくも思いながらも、つい聖女様のあられもない姿を想像してしまい、しばらく、その声が耳から離れなくなってしまったのだ。
今度の患者さんは、なんとキャサリン殿下。エルモアが正常な判断ができずオロオロしている。
それだけエルモアに取り、キャサリン王女は家族以上の関係になったということだろう。
医者は赤の他人の患者に対しては、冷酷なほどに冷静な判断ができるものだが、こと家族や身内のことになると、まるでダメになってしまうもの。特に外科医はその傾向が強いと言われている。
「どうしたの?何があったの?」
「キャサリンが、キャサリンが……。」
エルモアは、額に両手を置いたまま、うつむいて、固まってしまっている。
「お兄様、落ち着いてください。状況がわからなければ、対処しようがありません。」
お兄様のいうことでは、埒が明かないので、その場にいる女官長、女官、侍女等から話を聞くと、キャサリン王女は、自ら服毒自殺を図ったということがわかる。
そうとなれば、胃の洗浄しか手がない。
この世界には、胃の洗浄ができる装置は一つもないから、また異世界ネットショッピングで洗浄液、蒸留水、排出のための注射器などが必要となるが、それらを選んで買っている時間が惜しい。
茫然自失となっている兄は、役に立たない。
ああ。神様、同化わたくしに神の手を拝借させていただけないでしょうか?この時は、ネットショッピングの画面を見ながら、ふと、そんな途方もないことを考えたのだ。
そうだ。手当というぐらいだから、案外手を当てると何かいいことをひらめくかもしれないという科学者らしからぬことを考えてしまう。
ジャクリーンは、キャサリン王女の腹部に手をかざす。実際に触れてみないと手当とは言わない。それで、キャサリンの腹を触るつもりで、手をかざしたら、なぜか自分の手のひらから光が発せられていることに気づく。
え?なんで?
こんなバカなことがあるわけがないと思っているのに、手のひらの光はどんどん強さを増していき、キャサリン王女のカラダ全体を輝きに包むほどの光があふれだしてくる。
ここで、解毒を試してみればどうなるかな?一瞬、バカげた思考だが、その時はなぜかそれが実現可能であるかのように感じた。
そして、実行に移すことにし、手のひらに全神経を集中させる。すでに超音波で見ているかのように、キャサリン王女の毒の移り具合が手に取るように見えている。
粘膜を通じ、全身の毛細血管、毛細神経を脅かし、毒は胃から小腸にまで達し始めている。
信じられないという思いと同時に、早くしなければ、手遅れになるという危惧がジャクリーンを焦らす。「解毒!」
強く念じ、言葉にも出してみると、不思議なことにウズウズしい毒が消えていくことがわかる。
ハァハァと荒かった呼吸も、すっかり落ち着いた寝息へと変わっている。
「聖女様、ありがとうございます。」
いやいや、わたくしは聖女様などではございません。女医です。いつもならキッパリと否定するところだが、今、わが身に起こったことを魔法ということ以外はうまく説明できない自分がいる。
これが治癒魔法というものなのかしら?
今度、レバトリー家の図書室でしっかり勉強しなければ、と改めて強く思う。
ふらふらとした足取りで、お兄様の診療室に入り、そこから学園の女子寮についたときは、もうすっかり夜のとばりが下りているところだった。
そして、なぜかブルオード王城にいた王族方も、ジャクリーンの後を追い、ぞろぞろと女子寮の一室に入ってきてしまっている。そのことにさえ、気づかず急激に大量の魔力を使ったあおりで、ぐったりしている。早く横になりたいという気持ちだけで、女子寮に戻ってきてしまったのだ。
そして白衣を着たまま寝室のベッドに倒れこむように横になる。
王族方は、そのベッドの周りを取り囲むかのように、眠っているジャクリーンの顔をひたすら見続けている。
まるで釈迦涅槃図のように。
そこへあまりに帰りが遅いので、様子を見に来たシャルマンは、寝室の異常な光景にギョッとする。
「そこで何をしている!」
「私の妻に何をした?」
「……。」
ヴィンセント殿下がすっと立ち上がり、シャルマンの横まで来て、
「聖女様は、我が妹キャサリンの命を救ってくださいました。その際、魔力のほとんどを遣われてしまったようで、気を失っておいでなのです。我々は、聖女様が目覚められたとき、一番にお礼を言わなければブルオ-ドの恥になりますゆえに、こうして聖女様が気づかれるのを待っているのです。」
「そうか、ジャクリーンを目覚めさせればよいのだな?」
シャルマンはいつものように、ジャクリーンに馬乗りになり、ジャクリーンの頬をペチペチと叩き始める。
「ほら、起きろ。皆さんが待っておられるぞ。」
「しゃ、シャルマン様そこまでしてもらわなくても、我々はお目覚めになるまで、ずっと待っておりますゆえに。」
「大丈夫ですよ、すぐ起きますから。」
「ん……ん……いやん。」
一瞬にして、静まり返ってしまう。
男性王族は、聖女様の艶めかしい声にハッとするも、その声の響きが……アノ時の声だとわかり、恥ずかしくも思いながらも、つい聖女様のあられもない姿を想像してしまい、しばらく、その声が耳から離れなくなってしまったのだ。
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