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学園
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舞踏会当日、王家の紋章が入った馬車は使えないから、どうしよう。いったん大学から歩いて、フランドル邸まで行き、そこから転移魔法で家まで帰ってから、再び転移魔法でフランドル邸へ行こうかしら?
場所を確認するためか多くの貴族の子弟が、フランドル邸の門の前まで訪れている。学生はドレスコードがなく、何を着ていってもいいらしいけど、そういうわけにもいかないわよね。
女官に手伝ってもらい、ちょっと早めに着替えて、マーカス兄さまが来るのを待つ。ジャッキー付きの護衛になったからと言って、いつもべったり影のようにくっついているわけではない、シフトに従って、今日の午後からは、お休みになっているので、伯爵令息マーカス・サニーバードとして、舞踏会へ参加できる。
マーカス兄さまは、伯爵家の馬車を出し、迎えに来てくださいました。これで、ジャッキーも立派な伯爵令嬢として、参加ができます。
馬車に乗るときも降りるときも、マーカス兄さまがジャッキーの手を取り、エスコートしてくださることが、少々照れ臭い。騎士の家だから、武骨者ばかりで、今までそんなことしてもらったことがないからだ。
馬車はフランドル公爵邸のロータリーに到着する。爵位と名前などを読み上げられる。
ジャッキーたちの番が来たら、やはり伯爵の名前しか上げられずに、ホッとした。でも、エリーゼは、来ないと思っていたジャッキーが来てくれて、とても喜んでいる。
「王女殿下、ありがとう存じます。」
「今日は、伯爵令嬢として参ったのですから、そのつもりで応対してくださいませね。義兄がこちらのお兄様と学園の同級生だったらしく、それで参った次第でございます。くれぐれもわたくしの身分は他言無用でお願いしますわね。」
「はい、来ていただけただけでありがたいですわ。」
マーカス兄さまは、こちらのお兄様かしらフランドル公爵令息と仲良く話し込んでいる。
「これが俺の自慢の妹のジャッキーだ。」
「ほぅ、話には聞いていたが、初めまして。フランドル大学の1年生なんだってね。今日はようこそ、来てくれたね。ではまず一曲、踊りませんか?」
リチャード・フランドル様が、ジャッキーの前に手を差し伸べたので、マーカス兄さまがすばやく、その手を振り払い。
「ウチの妹にちょっかい出すんじゃねぇ。」
ジャッキーは、まるで番犬のようなマーカス兄さまがおかしくて、クスクス笑っている。
本当のお兄様って、こんな感じかもしれませんわね。
「なんだよぉ!マーカスいつから妹の番犬になった?」
「妹の手を握ろうとしたからだ。」
「舞踏会だから仕方がないだろ?そんなやましい気持ちなんてないぜぇ。」
二人のお兄様がモメている間に、他の若い男性から、声がかかり、さっさと踊りに行ったジャッキー。それを見送る二人のお兄様は苦笑してらっしゃる。
聞けばその男性は、同じ大学の3年生だったらしい。隣国バーナードの貴族令息で、留学にフランドルへ来られたらしい。
「この大学の経営学部の教授陣は、著名人ばかりだから、それでこの大学に留学を決めたんだよ。君は、この国の人?」
「ええ、ジャッキー・サニーバードと申します。わたくしも経営学部の1年生でございます。」
「さっき、モメていたように思えたけど、あれは婚約者様?」
「いいえ、ブルーのスーツを着たほうがわたくしの兄マーカスで騎士をしております。もうお一方は、兄の友人で、このフランドル家の御令息ですわ。今日は、ご令嬢のエリーゼ様よりご招待を頂いて、参りましたのよ。」
「なんでも前評判では、この舞踏会に王女殿下を招くとか、言っていたそうだが、こうして見渡す限り、あれはエリーゼ嬢の嘘だったということがわかる。」
「王女殿下をご存知なのですか?」
「いやいや、ただとても聡明な女性だと聞き及んでおりますから、一度お会いしたいと思っておりましたもので。ジャッキー嬢は、王女殿下と会われたことがおありで?」
「ええ、何度か。」
本人です。とは言えない。
「それはうらやましい限りです。少しバルコニーに出て、お話ししませんか?」
「ええ。」
「ジャッキー嬢は、今まで出会ったどの女性よりも魅力的ですね。」
え?なに?ひょっとして、口説かれている?
「そんなことは……、いいえ、ごく普通のおてんば娘ですわ。」
「美しい。今日は、王女殿下目当てに来ましたが、あなたに会えてよかった。」
こんなあからさまな言い方……に、ジャッキーは真っ赤になって俯く。その時!何か気配を感じた!
誰かがバルコニーの二人を狙っている。狙われているのは、ジャッキーか?もしくは、この男性のほうかもしれない?
「ここは、危ないですから、中へ入りましょう。」
「あなた、ただ者ではありませんね?私も今、気配を感じたところです。」
二人が部屋へ戻ろうとした瞬間、どこからか弓矢を射かけられたような?ヒュンという独特な音がした。
咄嗟に異空間から、護身用の剣を出し、打ち払い落とす。いつの間にか、影も出てきて、二人を守ってくれている。その隙に乗じて、二人は部屋へ戻る。
「すごいですね!ジャッキー嬢、いつもその剣をお持ちなのですか?」
「ええ、我が家は騎士の家系なものですから、父は騎士団長をしております。」
「頼もしいなぁ、でもさっきの護衛は、君みたいに強い娘に必要ないのでは?」
「兄が心配性なので、いつもああなんですよ。」
「ああ、あのお兄さんなら、致し方ないね。」
そこへウエィターがトレーの上に二つグラスを乗せて持ってきたのだ。隣国の貴族令息は、そのうちの一つを取って、ウィンクする。
ジャッキーも残りのグラスを手にした途端、異変を感じてしまう。
「待って。飲んではダメ!」
言い終わる前に、その貴族令息は、飲み干し、目の前で苦しんでいる。ジャッキーはすぐさま、そのウエイターを拘束するも、事が成就したかのように、そのウエイターも服毒したのである。
マーカス兄さまとそのご友人であるフランドルのお兄様が駆けつけてくださいましたが、ジャッキーは別室に連れて行かれそうになり、目の前でどこの誰かはわからないが、苦しんでいる男性をそのままにはしておけず、つい治癒魔法を使ってしまう。
今にも死にそうだったその男性は、回復し、目を開ける。
「聖女様……ありがとう。」
「そうだ。俺の妹は聖女様なのだから、もうちょっかいは出すな!行こう、ジャッキー。」
マーカス兄さまは、ジャッキーの腕を掴んだが、この人、放っておけない。なぜか、そう思った。ナイチンゲール症候群というやつだろう。さっきのバルコニーといい、グラスの毒といい。一般人がこうまでして、襲われるわけがないし、命を確実に狙われているのだ。
「もう帰ります。」
ジャッキーは、その貴族令息を連れたまま、転移魔法で帰って行く。
薄れていく景色の中、他の令息令嬢は、驚いて目を見開いている。マーカス兄さまだけは、ヤレヤレといった表情だったのである。
その後、マーカス兄さまは、質問攻めにあわれたそうで、申し訳ない。
「だから、ウチの妹は聖女様なんだってば、それ以上、言うことはない。解散!」
エリーゼ嬢は、聖女様の身分を知っているから、青くなり、泡を吹いてぶっ倒れている。
ジャッキーはと言うと、追っ手を撒いて、無事ベルソ村へ戻り、別宮内でこの男性を匿うことにしたのである。
その貴族男性は、普通の伯爵邸にすれば、ありえないほどの豪華な設えに目を白黒させるも、いくらジャッキーに治癒魔法をかけてもらったとはいえ、まだまだ体調が悪かったので、伯爵家の家人に言われるままに、おとなしくベッドで横たわる。
その家は、伯爵邸にしては、えらい広い。行けども行けども廊下があり、なかなか行き止まりまで行けないのである。それに普通の伯爵邸にしては、使用人の数が多すぎる。まるで、城のような広さと使用人の数、まさか、あの世ってことないだろうな。だんだんその広さに不安を感じる。
「あら、もうお加減よろしいのでございますか?」
「ああ、小用を足したくて……その……。」
「御不浄なら、この廊下を付きあたりまでまっすぐ行き、右側が男性用、左側が女性用となっておりますわ。ごゆっくりとどうぞ。」
侍女だろうか?若い女性に言われ、顔を赤くする。
用を足してから、自分がいた部屋に戻ろうとして、また迷う。
この屋敷はどうなってる?迷路のような?城のような?不特定多数ではないだろうが、城と思われる廊下に人が大勢行き交っている。
貴族男性は、王城と別宮が異空間でつながっている通路をうっかり通り抜けてしまったようだ。
「あ、あの、……ここはどこですか?」
「アンタ、どこから来なさった?」
「フランドル大学の近くの公爵令嬢の舞踏会へ行ったことまでは、理解していますが、その後、刺客に狙われて、気づいたら、ここを歩いていました。」
「フランドルだとぉ⁉ 怪しい奴め、しばらく牢屋へ入っていてもらおう。」
そのまま、地下牢へ繋がれることになってしまう。
ジャッキーは、あの貴族男性が姿を消してしまったことで心配している。
「どこへ行ってしまわれたのかしらね。」
「先ほど、小用を足しに行きたいと仰せでしたから、御不浄の場所をお教えて差し上げましたわ。」
え?まさか?
聞けば、もう1時間以上も前の話だという。
これはきっと迷子になっておられるに違いないわ。その足ですぐ、王城への異空間通路に飛び込むジャッキー。
トイレから出てきて、迷われるとすれば、??このあたりかしらね。衛兵に見かけない男性はいなかったか?と聞くと、
「さっき、フランドルから来たと言う頭のおかしな男がいたので、牢に入れました。」
「なんですって!? その方は、わたくしのお客様でございます。すぐに出して差し上げて。」
王女殿下に言われ、驚いて、地下牢へ向かうと、その貴族男性は、半泣きになりながら、
「だから、ジャッキー・サニーバード嬢に連れてこられ、どこだかわからないのです。」
そして、貴族男性は、ジャッキーの姿を見つけると
「あ!ジャッキー嬢、迎えに来てくださったのですね。ありがとうございます。」
「ごめんなさい。ちょっと目を離したすきに、あなた様がいらっしゃらなくなってしまい、ずいぶんお探ししたのですよ。」
ジャッキーが牢へ近づこうとしたら、牢番が邪魔をしようとしたから
「お下がりなさい。」
一喝して、その男性を牢から出し、とりあえず、王城の自分の部屋へ連れていくことにしたのである。
「さて、理由を話していただけますか?まずは、あなた様の素性からです。なぜ命を狙われていたのですか?」
「ここは……?」
「あ、申し遅れましたわね、わたくしはジャクリーン・フォン・コーネリアル、コーネリアル国の王女でございます。幼い時に伯爵家に養女に行き、剣の修業をしてまいりましたの。」
観念したかのように、その貴族男性は眼を閉じ、そしてしばらく考え込んだ後、おもむろに目を開け、とつとつと喋り出したのである。
「私は、隣国バーナード国の王太子でレオンハルト・フォン・バーナードと申します。今から約2年半前に、国でクーデターが起こり、王位継承権をめぐり、弟で第2王子派が決起したのです。その時、私の両親である国王夫妻は囚われ今も牢の中にいます。それで、私はわずかな側近とともに、この国まで逃げ落ちてきたのです。毎日、ブラブラ、オドオドしているのも時間がもったいないと思い、経営学の教授陣が充実しているフランドル大学へ留学という形で潜り込みました。あの舞踏会では、ついに私の居場所が弟に知れ、刺客を送り込まれたということです。ジャクリーン殿下を巻き込んでしまい、申し訳なく心苦しく思っている次第でございます。」
「なるほど。そういう事情がおありだったのですね。」
ジャッキーは、初めて会ったときから、ロバート・ローランドのようなぬるま湯につかっている男とは、違うとは思っていたが、そういうことだったのかと、察する。
それになんとなくだが、こういう厳しさを持った男は好きだ。単なるナイチンゲール症候群ではなく、最初から好意を持っていたということに気が付く。
ジャッキーは、父と相談して、しばらくレオンハルトを匿うことにし、それで調整を進める。
大学内も決して安全というわけではない。
「レオンハルト殿よ。どうじゃな、ウチの婿殿にならんか?王位など弟御にくれてやればよかろう。ジャッキーはこう見えて、聖女様でもある。その方が婿に来てくれたら、より一層我が国は栄えるというわけだ。考えといてくれ。」
「はぁ……。」
レオンハルト様は、頬を染めまんざらでもなさそう。
「お父様!なんということを……レオンハルト様がお困りになられるではございませんか?」
「いい縁だと思うぞ。がはは。」
場所を確認するためか多くの貴族の子弟が、フランドル邸の門の前まで訪れている。学生はドレスコードがなく、何を着ていってもいいらしいけど、そういうわけにもいかないわよね。
女官に手伝ってもらい、ちょっと早めに着替えて、マーカス兄さまが来るのを待つ。ジャッキー付きの護衛になったからと言って、いつもべったり影のようにくっついているわけではない、シフトに従って、今日の午後からは、お休みになっているので、伯爵令息マーカス・サニーバードとして、舞踏会へ参加できる。
マーカス兄さまは、伯爵家の馬車を出し、迎えに来てくださいました。これで、ジャッキーも立派な伯爵令嬢として、参加ができます。
馬車に乗るときも降りるときも、マーカス兄さまがジャッキーの手を取り、エスコートしてくださることが、少々照れ臭い。騎士の家だから、武骨者ばかりで、今までそんなことしてもらったことがないからだ。
馬車はフランドル公爵邸のロータリーに到着する。爵位と名前などを読み上げられる。
ジャッキーたちの番が来たら、やはり伯爵の名前しか上げられずに、ホッとした。でも、エリーゼは、来ないと思っていたジャッキーが来てくれて、とても喜んでいる。
「王女殿下、ありがとう存じます。」
「今日は、伯爵令嬢として参ったのですから、そのつもりで応対してくださいませね。義兄がこちらのお兄様と学園の同級生だったらしく、それで参った次第でございます。くれぐれもわたくしの身分は他言無用でお願いしますわね。」
「はい、来ていただけただけでありがたいですわ。」
マーカス兄さまは、こちらのお兄様かしらフランドル公爵令息と仲良く話し込んでいる。
「これが俺の自慢の妹のジャッキーだ。」
「ほぅ、話には聞いていたが、初めまして。フランドル大学の1年生なんだってね。今日はようこそ、来てくれたね。ではまず一曲、踊りませんか?」
リチャード・フランドル様が、ジャッキーの前に手を差し伸べたので、マーカス兄さまがすばやく、その手を振り払い。
「ウチの妹にちょっかい出すんじゃねぇ。」
ジャッキーは、まるで番犬のようなマーカス兄さまがおかしくて、クスクス笑っている。
本当のお兄様って、こんな感じかもしれませんわね。
「なんだよぉ!マーカスいつから妹の番犬になった?」
「妹の手を握ろうとしたからだ。」
「舞踏会だから仕方がないだろ?そんなやましい気持ちなんてないぜぇ。」
二人のお兄様がモメている間に、他の若い男性から、声がかかり、さっさと踊りに行ったジャッキー。それを見送る二人のお兄様は苦笑してらっしゃる。
聞けばその男性は、同じ大学の3年生だったらしい。隣国バーナードの貴族令息で、留学にフランドルへ来られたらしい。
「この大学の経営学部の教授陣は、著名人ばかりだから、それでこの大学に留学を決めたんだよ。君は、この国の人?」
「ええ、ジャッキー・サニーバードと申します。わたくしも経営学部の1年生でございます。」
「さっき、モメていたように思えたけど、あれは婚約者様?」
「いいえ、ブルーのスーツを着たほうがわたくしの兄マーカスで騎士をしております。もうお一方は、兄の友人で、このフランドル家の御令息ですわ。今日は、ご令嬢のエリーゼ様よりご招待を頂いて、参りましたのよ。」
「なんでも前評判では、この舞踏会に王女殿下を招くとか、言っていたそうだが、こうして見渡す限り、あれはエリーゼ嬢の嘘だったということがわかる。」
「王女殿下をご存知なのですか?」
「いやいや、ただとても聡明な女性だと聞き及んでおりますから、一度お会いしたいと思っておりましたもので。ジャッキー嬢は、王女殿下と会われたことがおありで?」
「ええ、何度か。」
本人です。とは言えない。
「それはうらやましい限りです。少しバルコニーに出て、お話ししませんか?」
「ええ。」
「ジャッキー嬢は、今まで出会ったどの女性よりも魅力的ですね。」
え?なに?ひょっとして、口説かれている?
「そんなことは……、いいえ、ごく普通のおてんば娘ですわ。」
「美しい。今日は、王女殿下目当てに来ましたが、あなたに会えてよかった。」
こんなあからさまな言い方……に、ジャッキーは真っ赤になって俯く。その時!何か気配を感じた!
誰かがバルコニーの二人を狙っている。狙われているのは、ジャッキーか?もしくは、この男性のほうかもしれない?
「ここは、危ないですから、中へ入りましょう。」
「あなた、ただ者ではありませんね?私も今、気配を感じたところです。」
二人が部屋へ戻ろうとした瞬間、どこからか弓矢を射かけられたような?ヒュンという独特な音がした。
咄嗟に異空間から、護身用の剣を出し、打ち払い落とす。いつの間にか、影も出てきて、二人を守ってくれている。その隙に乗じて、二人は部屋へ戻る。
「すごいですね!ジャッキー嬢、いつもその剣をお持ちなのですか?」
「ええ、我が家は騎士の家系なものですから、父は騎士団長をしております。」
「頼もしいなぁ、でもさっきの護衛は、君みたいに強い娘に必要ないのでは?」
「兄が心配性なので、いつもああなんですよ。」
「ああ、あのお兄さんなら、致し方ないね。」
そこへウエィターがトレーの上に二つグラスを乗せて持ってきたのだ。隣国の貴族令息は、そのうちの一つを取って、ウィンクする。
ジャッキーも残りのグラスを手にした途端、異変を感じてしまう。
「待って。飲んではダメ!」
言い終わる前に、その貴族令息は、飲み干し、目の前で苦しんでいる。ジャッキーはすぐさま、そのウエイターを拘束するも、事が成就したかのように、そのウエイターも服毒したのである。
マーカス兄さまとそのご友人であるフランドルのお兄様が駆けつけてくださいましたが、ジャッキーは別室に連れて行かれそうになり、目の前でどこの誰かはわからないが、苦しんでいる男性をそのままにはしておけず、つい治癒魔法を使ってしまう。
今にも死にそうだったその男性は、回復し、目を開ける。
「聖女様……ありがとう。」
「そうだ。俺の妹は聖女様なのだから、もうちょっかいは出すな!行こう、ジャッキー。」
マーカス兄さまは、ジャッキーの腕を掴んだが、この人、放っておけない。なぜか、そう思った。ナイチンゲール症候群というやつだろう。さっきのバルコニーといい、グラスの毒といい。一般人がこうまでして、襲われるわけがないし、命を確実に狙われているのだ。
「もう帰ります。」
ジャッキーは、その貴族令息を連れたまま、転移魔法で帰って行く。
薄れていく景色の中、他の令息令嬢は、驚いて目を見開いている。マーカス兄さまだけは、ヤレヤレといった表情だったのである。
その後、マーカス兄さまは、質問攻めにあわれたそうで、申し訳ない。
「だから、ウチの妹は聖女様なんだってば、それ以上、言うことはない。解散!」
エリーゼ嬢は、聖女様の身分を知っているから、青くなり、泡を吹いてぶっ倒れている。
ジャッキーはと言うと、追っ手を撒いて、無事ベルソ村へ戻り、別宮内でこの男性を匿うことにしたのである。
その貴族男性は、普通の伯爵邸にすれば、ありえないほどの豪華な設えに目を白黒させるも、いくらジャッキーに治癒魔法をかけてもらったとはいえ、まだまだ体調が悪かったので、伯爵家の家人に言われるままに、おとなしくベッドで横たわる。
その家は、伯爵邸にしては、えらい広い。行けども行けども廊下があり、なかなか行き止まりまで行けないのである。それに普通の伯爵邸にしては、使用人の数が多すぎる。まるで、城のような広さと使用人の数、まさか、あの世ってことないだろうな。だんだんその広さに不安を感じる。
「あら、もうお加減よろしいのでございますか?」
「ああ、小用を足したくて……その……。」
「御不浄なら、この廊下を付きあたりまでまっすぐ行き、右側が男性用、左側が女性用となっておりますわ。ごゆっくりとどうぞ。」
侍女だろうか?若い女性に言われ、顔を赤くする。
用を足してから、自分がいた部屋に戻ろうとして、また迷う。
この屋敷はどうなってる?迷路のような?城のような?不特定多数ではないだろうが、城と思われる廊下に人が大勢行き交っている。
貴族男性は、王城と別宮が異空間でつながっている通路をうっかり通り抜けてしまったようだ。
「あ、あの、……ここはどこですか?」
「アンタ、どこから来なさった?」
「フランドル大学の近くの公爵令嬢の舞踏会へ行ったことまでは、理解していますが、その後、刺客に狙われて、気づいたら、ここを歩いていました。」
「フランドルだとぉ⁉ 怪しい奴め、しばらく牢屋へ入っていてもらおう。」
そのまま、地下牢へ繋がれることになってしまう。
ジャッキーは、あの貴族男性が姿を消してしまったことで心配している。
「どこへ行ってしまわれたのかしらね。」
「先ほど、小用を足しに行きたいと仰せでしたから、御不浄の場所をお教えて差し上げましたわ。」
え?まさか?
聞けば、もう1時間以上も前の話だという。
これはきっと迷子になっておられるに違いないわ。その足ですぐ、王城への異空間通路に飛び込むジャッキー。
トイレから出てきて、迷われるとすれば、??このあたりかしらね。衛兵に見かけない男性はいなかったか?と聞くと、
「さっき、フランドルから来たと言う頭のおかしな男がいたので、牢に入れました。」
「なんですって!? その方は、わたくしのお客様でございます。すぐに出して差し上げて。」
王女殿下に言われ、驚いて、地下牢へ向かうと、その貴族男性は、半泣きになりながら、
「だから、ジャッキー・サニーバード嬢に連れてこられ、どこだかわからないのです。」
そして、貴族男性は、ジャッキーの姿を見つけると
「あ!ジャッキー嬢、迎えに来てくださったのですね。ありがとうございます。」
「ごめんなさい。ちょっと目を離したすきに、あなた様がいらっしゃらなくなってしまい、ずいぶんお探ししたのですよ。」
ジャッキーが牢へ近づこうとしたら、牢番が邪魔をしようとしたから
「お下がりなさい。」
一喝して、その男性を牢から出し、とりあえず、王城の自分の部屋へ連れていくことにしたのである。
「さて、理由を話していただけますか?まずは、あなた様の素性からです。なぜ命を狙われていたのですか?」
「ここは……?」
「あ、申し遅れましたわね、わたくしはジャクリーン・フォン・コーネリアル、コーネリアル国の王女でございます。幼い時に伯爵家に養女に行き、剣の修業をしてまいりましたの。」
観念したかのように、その貴族男性は眼を閉じ、そしてしばらく考え込んだ後、おもむろに目を開け、とつとつと喋り出したのである。
「私は、隣国バーナード国の王太子でレオンハルト・フォン・バーナードと申します。今から約2年半前に、国でクーデターが起こり、王位継承権をめぐり、弟で第2王子派が決起したのです。その時、私の両親である国王夫妻は囚われ今も牢の中にいます。それで、私はわずかな側近とともに、この国まで逃げ落ちてきたのです。毎日、ブラブラ、オドオドしているのも時間がもったいないと思い、経営学の教授陣が充実しているフランドル大学へ留学という形で潜り込みました。あの舞踏会では、ついに私の居場所が弟に知れ、刺客を送り込まれたということです。ジャクリーン殿下を巻き込んでしまい、申し訳なく心苦しく思っている次第でございます。」
「なるほど。そういう事情がおありだったのですね。」
ジャッキーは、初めて会ったときから、ロバート・ローランドのようなぬるま湯につかっている男とは、違うとは思っていたが、そういうことだったのかと、察する。
それになんとなくだが、こういう厳しさを持った男は好きだ。単なるナイチンゲール症候群ではなく、最初から好意を持っていたということに気が付く。
ジャッキーは、父と相談して、しばらくレオンハルトを匿うことにし、それで調整を進める。
大学内も決して安全というわけではない。
「レオンハルト殿よ。どうじゃな、ウチの婿殿にならんか?王位など弟御にくれてやればよかろう。ジャッキーはこう見えて、聖女様でもある。その方が婿に来てくれたら、より一層我が国は栄えるというわけだ。考えといてくれ。」
「はぁ……。」
レオンハルト様は、頬を染めまんざらでもなさそう。
「お父様!なんということを……レオンハルト様がお困りになられるではございませんか?」
「いい縁だと思うぞ。がはは。」
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