王配狙いで悪役令嬢にされ婚約破棄~社会勉強のため伯爵家へ養女に行った王女殿下が立派な女王陛下となるまで

青の雀

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 ジャクリーンは結局産前の休業をしないで、ぎりぎりまで女王の仕事についたため、バーナード国で産気づく羽目になる。

 異空間を通れば、すぐコーネリアル国に行けるのだが、そうすれば異空間通路の存在が王城で働く者たちに知られてしまう。別にいいけど、でも何かあった時に困るから、なるべく秘密にしておきたい。

 というわけで、バーナード国の助産婦を呼び、急遽、王城で産むことになる。

 レオンハルト様には、何とか連絡が取れ、駆け付けてくれたのである。

 今度の子供は姫で、次女になる。生まれてばかりだけど、なかなか美しい顔立ちをしている。

 グレイスが先頃、産んだ男の子と婚約させてしまいましょう。それならば、より一層忠義に励んでくれるだろう。

 レオンハルト様は、長女に婚約者がいないのに、次女を婚約させるなど、まだ早いと言われたが、ジャクリーンは、赤ちゃんの時には、すでにヘンリーという婚約者がいたので、政略で婚約させることなど、なんとも思っていない。自分はあれほど嫌がっていたのに、勝手なものだ。

 それが王たるもののゆえんかもしれない。政略になりそうなものは何でも使う。たとえそれが我が娘であっても、これが王妃という立場なら、カンカンに怒るというものだろう。

 ジャクリーンは、8週間たっぷり産後休暇を取り、女王のお仕事に復帰する。結局、バーナードの王配として、レオンハルト様は何もしてくださらず、グレイスが産休を6週間で返上して、補佐に入ってくれたのである。グレイスのほうが高齢出産だったから、申し訳なく思う。

 赤ちゃんは、オードリーと名付けられ、バーナードの乳母に預けられ、育てることにしたのである。と言っても、ジャクリーンが毎晩帰宅するときは、コーネリアルに連れ帰ってはいるのだが、最初の3か月間は、乳母に預けたままということである。

 グレイスの息子グレゴリーと将来、結婚するため、今のうちからバーナードになじませるためである。

 今日も今日とて、子豚ちゃんが2匹、並んでお昼寝をしている。可愛い。執務室の隣をシッタールームにしているから、いつでも見にいける。

 コーネリアル国の姉娘は、まるで生きた人形のようにオードリーを扱っている。可愛くて仕方がない様子。かまってかまって接しているので、オードリーが迷惑そうにしていてもお構いなしなのだ。

 息子二人も、超年の離れた妹が可愛いらしく、何かと面倒を見たがる。ジャクリーンが伯爵家へ養女に行ったときも、きっと3人の兄さまからみれば、こんな感じだったのだろうと今にして思えばわかる。

 息子二人と言えば、二人ともに王位継承権があるが、今のところ争っていない。コーネリアとバーナード二つの国があるからかもしれない。本人たちは、どちらか一つの国を治めればよいと思っているようだ。

 これっていいことなのか、悪いことなのかまだわからない。いいと言えば、いい。悪いと言えば、向上心に欠けているところかな。

 今度、二人の王子は、バーナード国へ職場見学に行きたいらしい。職場見学というよりは、オードリーをバーナードへ連れていくので、オードリーが目当てなのである。オードリーと一緒にいたいから、バーナードへ行く口実として、職場見学を言い出した。

 それでも女王の仕事がどんなものか知ってほしいから、連れていくことにしたら、なんと!姉娘までもが、一緒に行くと言い出したのだ。こちらも理由は同じ、オードリー目当てなのだが、兄弟が行くのに、自分だけ連れて行ってもらえないことへの不満もあるのだ。

 昔、伯爵家の義母が言ったことがある。

 「男の子は厳しく育てなければならないが、女の子はただ可愛い恰好をさせて、チヤホヤ大きくしたらいいのだから楽よ。だけどジャッキーちゃんは、女の子でありながら男の子を育てるように育ってきたから、これからはうーんと甘やかしてあげるわ。」

 そうなのだ。姉娘には男の子と同じように育てていたのだ。女の子には、いっぱい綺麗な格好をさせて甘やかせて育てなければ、優しいいい子にならない、ということをすっかり忘れていたのだ。他人を思いやるには、自身に余裕が必要。他人をひがむような性格になっては困る。

 「もちろんナタリー(姉娘)ちゃんを置いてけぼりなんかしないわよ。でもその前に、おしゃれして行きましょうね。」

 ジャクリーンは、侍女長を呼んで、「目いっぱい飾り立てて頂戴。」と命じる。

 なんといってもコーネリアル国の王女様なんだから、それにふさわしい恰好をしてもらわないとね。

 それから、街で今、評判のお菓子をたくさん買ってきてもらう。

 ナタリーは、超可愛らしくなって、他の兄妹たちもうらやましそうに見ている。

 「かわいいわ。ナタリーちゃん、さすがはママの娘ね。」

 ナタリーは、さっきまでのふくれっ面からすっかり機嫌が直り、嬉しそうにドレスの裾をもって、ヒラヒラしている。

 準備ができたところで、異空間通路を通り、バーナード国へ行くと、グレイスはもう仕事にかかっていたのである。

 「ごめんなさい。ちょっと子供たちの用意に手間取っちゃって。」

 「あら、可愛らしいレディがいらっしゃるのね。」

 グレイスが可愛らしい、と表現してくれたので、機嫌がますますよくなり嬉しそう。

 「はじめまして。ナタリー・フォン・コーネリアルと申します。」

 「はじめまして、ナタリー王女様。わたくしは母上の補佐で、グレイス・グリーン公爵と申します。」

 「女性なのに、公爵なのですか?ご主人は?」

 「これ!ナタリー!ぶしつけなことを聞いてはいけません。」

 「あはは、いいのですよ。主人はいますが、身分が低いもので、それに先の戦争で、父が戦死しましたから、ナタリー様の母上に頼んで、前国王陛下に爵位を復活させていただきましたのよ。それで、わたくしが公爵になりましてございます。」

 「お母様が……、すごいですわ。お母様が聖女様というのは、真のことだったのでございますわね。それでバーナード国の女王陛下になられたので、ございますのね。」

 「さようでございます。ナタリー様も、将来は母上を見習って立派な女王とおなりくださいませ。」

 それを今まで他人事のように聞いていた王子二人が焦り始めたのだ。

 「ええーっ!ナタリーは、お嫁に行くんじゃなかった?」

 「わからないわよ、聖女様になれたらナタリーが女王、あなたたちは王弟殿下になり、女王を支える役目をしなければなりません。それもこれも勉強次第でございますわよ。」

 「よし!がんばるぞ!」

 「僕も!」

 俄然やる気を出してくれた王子二人に目を細める。今までは、黙っていても、王の座が降ってくると思っていただけに、女王の仕事や王の仕事に興味を持ってくれたみたいで良かった。

 そして、オードリーはシッタールームに連れて行き、一緒にシッタールームでオードリーと遊ぶつもりだったのだが、今の話で状況は一変し、王子様二人は、補佐の補佐の仕事をせがむようになったのである。

 ナタリーは、というと、シッタールームに行き、オードリーとグレゴリーをペット代わりにして遊んでいる。

 男の子は厳しく、女の子は優しく育ってくれればいい。さすがに、グレイスはそのことをよくご存知で、二人の王子にはっぱをかけるためにあえて言ってくれてありがとう。

 王子二人にとっては、オードリーといっぱい遊びたかったが、王位がかかっているため、職場見学というより、職場実習みたいになってしまったが、本人たちは満足しているのだから、いいことにしよう。

 コーネリアルの祖父や父から仕事を学ぶより、優しくて綺麗なご婦人から、お仕事を教えてもらった方が身に付く?

 ジャクリーンは、コーネリアル国から持ってきたお菓子をおやつの時間に出すが、王子たちはお仕事に夢中で食べようとしない。

 そこでエリーゼ・フランドルを呼び、娘を連れてくるように促す。確か弟息子より1歳か2歳下であったと思う。

 おやつの時間というより、お茶会さながらの雰囲気になったのである。たまには、福利厚生も大事よね。

 エリーゼの娘は、リンダ・ガロン侯爵令嬢である。案の定、弟息子より1歳下、兄息子より2歳下の可愛らしい令嬢であった。

 二人の息子は、リンダにくぎ付けとなる。リンダは母親譲りの華やかな雰囲気を持っている。今までコーネリアルの王城では、大人ばかりで女の子と言えば、ナタリーぐらいであったからオードリーの存在が珍しかったのである。

 職場実習を放り投げはしないが、リンダの行くところを視線で追う。

 「さあさ、二人とも、ここで休憩しましょう。お茶にお菓子があるから、好きなものをどうぞ。」

 グレイスとジャクリーンが促し、ようやく仕事をする手を止める。

 そしてリンダ・ガロンを呼び寄せ、二人に紹介すると

 二人とも顔を赤くして、照れている。ここは父親に似なかったのね。父親レオンハルト様は、ジャクリーンに対して手が早かったから。

 モジモジしている二人の王子に、業を煮やす。

 「リンダちゃんこんにちは。上の王子がレオナルドで、下の王子がロナルドよ。仲良くしてやってね。」

 「はい。女王陛下、それでどちらの王子様が王位に就かれるのでございますか?」

 「それはまだわかりませんわ。今後の成長次第ということになるかしらね。リンダ嬢は、王様と結婚したいの?」

 「はい。」

 末恐ろしい子供だ。この若さでもう王妃狙いとは驚く。

 それをエリーゼは、驚いて止めに入る。

 「リンダ、何を言っているの?王妃様なんて、大変な苦労がつきものなのよ。それに武芸の心得もなければいけないし、勉強だって常にトップクラスを要求されるものなのよ。」

 「だって、王妃様になれれば、綺麗なドレスを着て、美味しいものがいっぱい食べられるでしょう。そういう生活にあこがれているわ。」

 お里が知れるということは、こういうことなのか?

 エリーゼも学生時代と異なり、苦労してきたのだろうなぁと思う。

 「綺麗なドレスぐらいお母様が買ってあげるわ。だから、もう外でそんなはしたないこと言わないでちょうだい。」

 「だって……お母様はいつも、ウチは母子家庭だから裕福な貴族令嬢みたいな暮らしはできないって、言っているでしょう。」

 「リンダ!」

 エリーゼは、リンダを引きずるようにして帰って行った。

 なんで、本当のことを言うの?エリーゼだって、所帯疲れしていることは重々承知の上、それでもアヒルの水かきよろしく精一杯頑張っているというのに。

 エリーゼは心の中で泣きながら、家路につく。

 「リンダ!もう、金輪際、お城へは連れていきません。ジャクリーン陛下に生活が苦しいことがバレてしまったじゃないの!リンダのせいよ。ジャクリーン様とわたくしは、ご学友だったのよ。その最後のプライドまで、あなたは踏みにじってしまって。なんて、恥ずかしい。」
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