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愛しのグリンダ
3.愛する人と
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グリンダとトーマスは、見つめ合った。
誠実なトーマスを初めて、男として認識したグリンダは、初恋相手のマーカスと違って、胸の奥から、高まりを感じた。
グリンダは、愛するトーマスの言う通り、隣国へ戻ろうと決意する。自分がこのままいては、トーマスやマーカスのみならず、王家にとって邪魔だということを理解した。
家へ帰って、荷物の整理をした。
父は心配そうに、グリンダの顔を覗き込むが、努めて明るく振舞った。
「お父さん、隣国でね。縁談があるのよ。ルセンブルク大公殿下が是非に、っておっしゃってくださるのよ。お世話になった大公殿下に恩返ししたいから、また隣国へ行ってきます。」
「王子様と何かあったのか?」
「やっぱり、月は遠いわ。」
「今のうち、掴める星を掴むことにしたのよ。」
「そうか、気を付けて行っておいで。」
「しばらくまた留守にしますが、お父さんもお達者で。」軽くハグした後、翌朝、早くに出立した。
その頃、トーマスは、グリンダのことを思い出していた。ただ、姿が美しいばかりでなく心も美しいグリンダに、もう一度会いたいと思って、王城の庭園へ向かった。
しかし、一足違いにグリンダに会えなかった。
昨夜、自分がグリンダに心無いことを言ってしまったことに深く反省し、後悔した。
グリンダの父の庭師の口から、グリンダに隣国で縁談があることを知り、さらに衝撃を受けるトーマス。
弟の恋焦がれた彼女であったが、自身もグリンダに思いを寄せていることに気づき、グリンダの後を追い、隣国へ渡ることにした。
怪我をした弟マーカスには、悪いがグリンダを弟にも、ましてや隣国の貴族にも誰にも渡したくない。逸る気持ちがトーマスを焦らせた。それは、朴念仁のトーマスにでも、はっきりわかる感情だった。
隣国へ戻ったグリンダは、ルセンブルク大公殿下の屋敷に戻り、王国への里帰りでのこと、そして縁談を勧めるようにお願いした。
屋敷の者たちは、美しいグリンダが戻ったことを歓迎してくれた。
そして、王子殿下との初恋に破れたグリンダは、ルセンブルク大公殿下の膝の上で、とことん泣きじゃくり、甘えさせてもらった。まるで、本当のおじいさまと孫娘のようだった。
縁談のお相手は、大公殿下のお孫様で、この国の王子様だった。
大公のお屋敷にいるときに、王子様が美しいグリンダに一目惚れをして、大公に「会わせてくれ。」と頼み込んだ。
その甲斐あって、今日、顔合わせすることにした。
グリンダは、朝から風呂に入れられ、隅々まで磨かれ、髪を結い上げ、美しいドレスを身に纏った。その姿は、神々しいばかりで女神さまの化身かと思われるほど美しかった。
大公殿下もその奥方の妃殿下も、グリンダの着飾った姿を見て、
「「おお、おお。美しい。」」と大層、喜ばれました。
もちろんアデハルト王子殿下も、相好を崩して、グリンダの手を握ったまま、離そうとしなかったので、大公殿下から注意されていた。
大公殿下のお屋敷で2年間行儀見習いをしていたグリンダだったが、実は、それは妃教育の一環だった。最初から、大公殿下は孫の嫁として、グリンダに接していたのであった。
グリンダもトーマス殿下、マーカス殿下のことは一刻も早く忘れなければならなかったので、今ある「ご縁」に感謝していた。だが、心にふたをしているだけで、心は重かった。
顔合わせで、双方から異存がなかったことから、そのまま婚約式に移行した。
グリンダは、トーマス殿下を忘れさせてくれる優しい眼差しのアデハルト殿下を好ましいと感じた。
せっかく調理師学校で学んだことも無駄になった、と感じていたある日、トーマス殿下が国境を越えて、大公殿下の屋敷に着いた。
玄関で家令に、グリンダに会わせるように騒いでいた。
家令から聞いてこられたら、返事ができるが、家令は一切、グリンダの耳に入れないようにした。
結婚前のグリンダのことを思っての対処だった。
そして、いよいよアデハルト様との結婚式の日。
無理やり、グリンダに会おうとトーマス殿下が狼藉を働いた。牢につながれた殿下を前にし、グリンダは口を開いた。
「もう、グリンダは死んだと思ってくださいませ。」
トーマス殿下は、グリンダが出て行った扉を見つめて、いつまでも泣き続けた。
あの夜、もし、自分がもう少し温情のある言葉をグリンダにかけていたら、まったく違った未来があっただろうに、と後悔した。
失意のまま、トーマスは帰国し、マーカスにグリンダのことを言った。
「釣り逃がした魚は、大きかった。」
グリンダは、望まれてアデハルト様の妻になった。
ただ、美しかっただけでなく、心に一本通った芯の強さがある女性だった。
アデハルト様との間に2男1女の子供に恵まれ、幸せに過ごしました。
おしまい
誠実なトーマスを初めて、男として認識したグリンダは、初恋相手のマーカスと違って、胸の奥から、高まりを感じた。
グリンダは、愛するトーマスの言う通り、隣国へ戻ろうと決意する。自分がこのままいては、トーマスやマーカスのみならず、王家にとって邪魔だということを理解した。
家へ帰って、荷物の整理をした。
父は心配そうに、グリンダの顔を覗き込むが、努めて明るく振舞った。
「お父さん、隣国でね。縁談があるのよ。ルセンブルク大公殿下が是非に、っておっしゃってくださるのよ。お世話になった大公殿下に恩返ししたいから、また隣国へ行ってきます。」
「王子様と何かあったのか?」
「やっぱり、月は遠いわ。」
「今のうち、掴める星を掴むことにしたのよ。」
「そうか、気を付けて行っておいで。」
「しばらくまた留守にしますが、お父さんもお達者で。」軽くハグした後、翌朝、早くに出立した。
その頃、トーマスは、グリンダのことを思い出していた。ただ、姿が美しいばかりでなく心も美しいグリンダに、もう一度会いたいと思って、王城の庭園へ向かった。
しかし、一足違いにグリンダに会えなかった。
昨夜、自分がグリンダに心無いことを言ってしまったことに深く反省し、後悔した。
グリンダの父の庭師の口から、グリンダに隣国で縁談があることを知り、さらに衝撃を受けるトーマス。
弟の恋焦がれた彼女であったが、自身もグリンダに思いを寄せていることに気づき、グリンダの後を追い、隣国へ渡ることにした。
怪我をした弟マーカスには、悪いがグリンダを弟にも、ましてや隣国の貴族にも誰にも渡したくない。逸る気持ちがトーマスを焦らせた。それは、朴念仁のトーマスにでも、はっきりわかる感情だった。
隣国へ戻ったグリンダは、ルセンブルク大公殿下の屋敷に戻り、王国への里帰りでのこと、そして縁談を勧めるようにお願いした。
屋敷の者たちは、美しいグリンダが戻ったことを歓迎してくれた。
そして、王子殿下との初恋に破れたグリンダは、ルセンブルク大公殿下の膝の上で、とことん泣きじゃくり、甘えさせてもらった。まるで、本当のおじいさまと孫娘のようだった。
縁談のお相手は、大公殿下のお孫様で、この国の王子様だった。
大公のお屋敷にいるときに、王子様が美しいグリンダに一目惚れをして、大公に「会わせてくれ。」と頼み込んだ。
その甲斐あって、今日、顔合わせすることにした。
グリンダは、朝から風呂に入れられ、隅々まで磨かれ、髪を結い上げ、美しいドレスを身に纏った。その姿は、神々しいばかりで女神さまの化身かと思われるほど美しかった。
大公殿下もその奥方の妃殿下も、グリンダの着飾った姿を見て、
「「おお、おお。美しい。」」と大層、喜ばれました。
もちろんアデハルト王子殿下も、相好を崩して、グリンダの手を握ったまま、離そうとしなかったので、大公殿下から注意されていた。
大公殿下のお屋敷で2年間行儀見習いをしていたグリンダだったが、実は、それは妃教育の一環だった。最初から、大公殿下は孫の嫁として、グリンダに接していたのであった。
グリンダもトーマス殿下、マーカス殿下のことは一刻も早く忘れなければならなかったので、今ある「ご縁」に感謝していた。だが、心にふたをしているだけで、心は重かった。
顔合わせで、双方から異存がなかったことから、そのまま婚約式に移行した。
グリンダは、トーマス殿下を忘れさせてくれる優しい眼差しのアデハルト殿下を好ましいと感じた。
せっかく調理師学校で学んだことも無駄になった、と感じていたある日、トーマス殿下が国境を越えて、大公殿下の屋敷に着いた。
玄関で家令に、グリンダに会わせるように騒いでいた。
家令から聞いてこられたら、返事ができるが、家令は一切、グリンダの耳に入れないようにした。
結婚前のグリンダのことを思っての対処だった。
そして、いよいよアデハルト様との結婚式の日。
無理やり、グリンダに会おうとトーマス殿下が狼藉を働いた。牢につながれた殿下を前にし、グリンダは口を開いた。
「もう、グリンダは死んだと思ってくださいませ。」
トーマス殿下は、グリンダが出て行った扉を見つめて、いつまでも泣き続けた。
あの夜、もし、自分がもう少し温情のある言葉をグリンダにかけていたら、まったく違った未来があっただろうに、と後悔した。
失意のまま、トーマスは帰国し、マーカスにグリンダのことを言った。
「釣り逃がした魚は、大きかった。」
グリンダは、望まれてアデハルト様の妻になった。
ただ、美しかっただけでなく、心に一本通った芯の強さがある女性だった。
アデハルト様との間に2男1女の子供に恵まれ、幸せに過ごしました。
おしまい
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