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思いがけずに激しく抱いてしまった朝は、ひどく後悔した。
「ごめん。ロアンヌが欲しくてたまらなかったのだ。許せ」
ロアンヌの顔を見ると、ケロッとしていたので、謝らなくてもよかったのかと思ったが、つい言葉が先に出てしまう。
「もうここでの生活もすっかり落ち着いたので、そろそろ帰ろうかと思うが、どうだ?」
「モントリオール家の無実も証明できましたものね。ありがとう存じます。わたくしは幼く、全然記憶がありませんでしたが、少しでも治世のお役に立てれば幸甚でございます」
「うむ。どこかで誰かが理不尽な思いをしていたとならば、それを正すのが王家の務めであるからな」
「父がロロという愛称を思い出してくれたおかげですわ」
「まったくだ。クロイセン公爵には礼を言わなくては。でも、まだ悪質ないたずらをしている奴が誰かということを突き止めていない。すまんなロアンヌ」
「いいえ。そのおかげで、モントリオールの幼馴染の汚名を晴らせたのですもの。それはそれでよかったと言えますわ」
「そうだな。それはよかったことだな」
「わたくしは存じ上げないだけで、案外『ロロ』という愛称は一般的なのかもしれませんわね」
「そうかもしれんな……もっと、別の視点で探せば案外、道が開けるかもしれない」
実のところこの問題は、ロアンヌに秘密裏に進めたいという本音がある。ロバートの生死が不確かなため、すべてをつまびらかにすることは避けたい。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
離宮からクロイセン領へ立ち寄り、ウイリアム王子とその乳母を引き取らなければいけない。
クロイセン領の空気は美味しい。ロアンヌにとって、この領地こそ生家なので、この地の空気が何より美味しいと感じる。
そして、それは嬉しいことにウイリアムもそう感じていたことを後で知り、嬉しく思う。たまには、こうやって生まれ故郷の空気を吸いに来よう。ここが一番安心で落ち着く場所なのだから。
王都に戻って、半月が過ぎた頃、思いがけずに「ロロ」の愛称を遣っている人物に遭遇してしまったのだ。
社交界で、ロアンヌは結婚後、すぐ懐妊してしまったので、ほとんど夜会らしきものに出席していなかったのだが、そこで久しぶりにカラダも落ち着いたので出席すると、いきなり「ロロ」と呼ばれ、ビックリして振り返ったところ、そこにいたのは、懐かしいフランダース夫人の姿があった。
フランダース夫人は、ロバートの乳母で、よくクレメンタイン家に伺ったとき、いつも美味しいお茶とお菓子をくれた人物。
「今は妃殿下であらせられるのに、つい懐かしくてロロちゃんと読んでしまい、ご無礼申し上げました」
「いいえ、とんでもございませんわ。夫人の方こそ、ご息災にされておりましたか?」
「ええ。……あの事故で主人は職を失ってしまい、毎日、酒浸りになっております。あ!ごめんなさい、妃殿下に申し上げえるようなことではございませんので、お忘れになってくださいませ」
「いったい、何があったのでございますか?わたくしで力になれるようなことがございましたら、何なりと……」
「ええ。……ですが……、あの事故の日、本当は主人がクレメンタイン領地までの護衛としてお供するはずだったので、ございますが、あの日、お腹を下してしまいまして、それで急遽、別の方が事故に遭われてしまいまして、でもイソフラボン公爵家が腕の立つ騎士を募集されていたので、運よくイソフラボン家の護衛として採用されました。それが……クリスティーヌ様があんなことにおなりになって、本来ならうちの主人が修道院へお供するはずの予定が、その日、主人の伯父に当たる人が急逝しまして、祖予定に当たる日に、たまたま葬儀と重なってしまったのです。クリスティーヌお嬢様は、『そんな葬儀帰りの者がお供に着くことはイヤだわ』とおっしゃられて、これまた急遽、別の型が行かれることになり、盗賊に襲われ皆殺しになってしまわれたのです。それをイソフラボン公爵様は、大変お怒りになって、『葬儀と娘の護衛とどちらが大事かと言えば、娘の護衛を優先するべきだった』と申されまして……」
「それでクビになってしまわれたので、ございますか?」
「後は、もうどこも雇ってくれる家がなく……、酒浸りばかりか、わたくしに暴力まで揮うようになり、手が付けられません。今では、わたくし実家に厄介になっているのでございます。たまの気晴らしを兼ねて、夜会に来てみれば、懐かしい妃殿下の姿を拝見し、つい、お声がけをさせていただきました」
「そうでしたか。それなら、わたくしから口添えをしまして、王国の騎士団に入られては、いかがでしょうか?」
「え!そんなこと……、本当によろしいのでしょうか?」
「もちろん、きちんと入団テストは受けていただきますわ。それでもよろしいかしら?」
「もちろんですわ!帰ったら、主人に申し伝えます。きっと、喜びますわ。ありがとうございます」
夜会があった日の翌日の朝、ロアンヌの騎士団入団のための紹介状を貰いに来たマホガニー・フランダースの姿があった。
「ごめん。ロアンヌが欲しくてたまらなかったのだ。許せ」
ロアンヌの顔を見ると、ケロッとしていたので、謝らなくてもよかったのかと思ったが、つい言葉が先に出てしまう。
「もうここでの生活もすっかり落ち着いたので、そろそろ帰ろうかと思うが、どうだ?」
「モントリオール家の無実も証明できましたものね。ありがとう存じます。わたくしは幼く、全然記憶がありませんでしたが、少しでも治世のお役に立てれば幸甚でございます」
「うむ。どこかで誰かが理不尽な思いをしていたとならば、それを正すのが王家の務めであるからな」
「父がロロという愛称を思い出してくれたおかげですわ」
「まったくだ。クロイセン公爵には礼を言わなくては。でも、まだ悪質ないたずらをしている奴が誰かということを突き止めていない。すまんなロアンヌ」
「いいえ。そのおかげで、モントリオールの幼馴染の汚名を晴らせたのですもの。それはそれでよかったと言えますわ」
「そうだな。それはよかったことだな」
「わたくしは存じ上げないだけで、案外『ロロ』という愛称は一般的なのかもしれませんわね」
「そうかもしれんな……もっと、別の視点で探せば案外、道が開けるかもしれない」
実のところこの問題は、ロアンヌに秘密裏に進めたいという本音がある。ロバートの生死が不確かなため、すべてをつまびらかにすることは避けたい。
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離宮からクロイセン領へ立ち寄り、ウイリアム王子とその乳母を引き取らなければいけない。
クロイセン領の空気は美味しい。ロアンヌにとって、この領地こそ生家なので、この地の空気が何より美味しいと感じる。
そして、それは嬉しいことにウイリアムもそう感じていたことを後で知り、嬉しく思う。たまには、こうやって生まれ故郷の空気を吸いに来よう。ここが一番安心で落ち着く場所なのだから。
王都に戻って、半月が過ぎた頃、思いがけずに「ロロ」の愛称を遣っている人物に遭遇してしまったのだ。
社交界で、ロアンヌは結婚後、すぐ懐妊してしまったので、ほとんど夜会らしきものに出席していなかったのだが、そこで久しぶりにカラダも落ち着いたので出席すると、いきなり「ロロ」と呼ばれ、ビックリして振り返ったところ、そこにいたのは、懐かしいフランダース夫人の姿があった。
フランダース夫人は、ロバートの乳母で、よくクレメンタイン家に伺ったとき、いつも美味しいお茶とお菓子をくれた人物。
「今は妃殿下であらせられるのに、つい懐かしくてロロちゃんと読んでしまい、ご無礼申し上げました」
「いいえ、とんでもございませんわ。夫人の方こそ、ご息災にされておりましたか?」
「ええ。……あの事故で主人は職を失ってしまい、毎日、酒浸りになっております。あ!ごめんなさい、妃殿下に申し上げえるようなことではございませんので、お忘れになってくださいませ」
「いったい、何があったのでございますか?わたくしで力になれるようなことがございましたら、何なりと……」
「ええ。……ですが……、あの事故の日、本当は主人がクレメンタイン領地までの護衛としてお供するはずだったので、ございますが、あの日、お腹を下してしまいまして、それで急遽、別の方が事故に遭われてしまいまして、でもイソフラボン公爵家が腕の立つ騎士を募集されていたので、運よくイソフラボン家の護衛として採用されました。それが……クリスティーヌ様があんなことにおなりになって、本来ならうちの主人が修道院へお供するはずの予定が、その日、主人の伯父に当たる人が急逝しまして、祖予定に当たる日に、たまたま葬儀と重なってしまったのです。クリスティーヌお嬢様は、『そんな葬儀帰りの者がお供に着くことはイヤだわ』とおっしゃられて、これまた急遽、別の型が行かれることになり、盗賊に襲われ皆殺しになってしまわれたのです。それをイソフラボン公爵様は、大変お怒りになって、『葬儀と娘の護衛とどちらが大事かと言えば、娘の護衛を優先するべきだった』と申されまして……」
「それでクビになってしまわれたので、ございますか?」
「後は、もうどこも雇ってくれる家がなく……、酒浸りばかりか、わたくしに暴力まで揮うようになり、手が付けられません。今では、わたくし実家に厄介になっているのでございます。たまの気晴らしを兼ねて、夜会に来てみれば、懐かしい妃殿下の姿を拝見し、つい、お声がけをさせていただきました」
「そうでしたか。それなら、わたくしから口添えをしまして、王国の騎士団に入られては、いかがでしょうか?」
「え!そんなこと……、本当によろしいのでしょうか?」
「もちろん、きちんと入団テストは受けていただきますわ。それでもよろしいかしら?」
「もちろんですわ!帰ったら、主人に申し伝えます。きっと、喜びますわ。ありがとうございます」
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