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絶世の美女

泥棒猫

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 王妃生誕パーティの日から、王太子と宰相の息子が行方不明になった。
 王太子の部屋には、鎖が付いた枷が見つかったことから、二人して、悪いお遊びをしているのだろうと最初は、気にも留められなかったらしい。
 それが1か月たち、2か月たつと、さすがに行方不明のままでは、体面が悪いから捜索隊が出たが、結局、見つからないままで半年が過ぎた。

 アンダルシアは、もう何人もの男を殺している。皆、アンダルシアをわが物にしようと、暴力に訴えてくるからだ。アンダルシアをモノにするには、力づくでは絶対できない。

 そんな時、ある公爵家で夜会が催された。絶世の美女のアンダルシアは、当然、招待されている。いつもの口紅を塗り、夜会に出かけた。ここの当主の公爵様は独身で、銀髪銀眼の背が高く、美しい顔立ちをされているが、なぜか女嫌いというか堅物という噂があり、先月隣国から留学のために帰ってこられたばかりであった。

 ほかの貴族令嬢が一番人気で狙っているウィルソン公爵様の帰国後初の夜会なので、大変賑やかで華やかなパーティとなった。

 アンダルシアは、会場に着くとたくさんの男性からダンスのお誘いがかかる。適当に踊り、適当なところで帰る、というのがいつものパターンであった。その日もそうするつもりでいたが、ウィルソンに手を差し伸べられてしまった。

 近くで見ると噂通りの美丈夫で、堅物で、話の内容も誠実そのものであった。

 「なかなか、いい男ね。」アンダルシアはお世辞抜きで、そう思った。それは、ウィルソンも同じ思いだったらしく、二人はこの後、しっぽりするつもりでいた。

 しかし、口紅をしている。大急ぎで、口紅を舐めとるか、ティッシュで拭き取らないとウィルソンと意気投合どころではなくなる。
 手持ちがなかったので、テーブルの上にあったナフキンで、口を拭う。少しでも口紅が残っていると、死んでしまうからだ。さらに、洗面所へ行き、念入りに洗った。

 さて、準備万端整ったアンダルシアとウィルソンは、別室で愛を囁きながら、キスをした。そして、アンダルシアのドレスを少しずつ脱がしていく、素肌が露になっていくと、そこへも唇を落とした。焦らされて、アンダルシアは、とろとろになっていく。アンダルシアは、こういう抱かれ方が好きだ。いきなり、全裸になって、ハイ、どうぞ、というよりもムードがあっていい。

 やがて、二人は生まれたままの姿になり、深く愛し合った。
 ことが済んでから、そのままの姿で、ウィルソンがアンダルシアの前で跪いて、プロポーズした。

 「あなたを一生愛し続けます。ですから、私のモノになっていただけないでしょうか?」

 「そのお言葉、忘れないでくださいませね。もし、ウィルソン様がほかの女性にうつつを抜かしたら、お命頂戴いたしますわよ。」

 ウィルソンは、冗談だと思ったが、アンダルシアが手に入るのならば、絶対、浮気しないと誓うのだった。

 二人は、結婚した。1男2女を設ける幸せな家庭を築いた。
 ある日、夫の帰りが遅く、酔って帰ってきた夫の洋服に口紅を見つけた。

 アンダルシアは、相手を突き止めねば、との思いから夫の後をつけた。
 夫は、仕事帰りにある娼館へ立ち寄った。出てくるのをずっと待ち、夫とともに出てきた女性に声をかけた。

 「アンダルシア!何をしているんだ。はしたない真似はよせ。」夫のウィルソンは、大慌てで、アンダルシアと娼婦の間に入った。

 「あなたが、泥棒猫だったのね。約束通り、お命頂戴しますわね。」

 そういうや否や、いきなり娼婦に口づけした。あっという間に絶命した。
 顔面蒼白なウィルソン、アンダルシアの前に土下座するも、許してもらえず消えてなくなりました。
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