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勅命
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セントラル王国の王宮で婚約者である王太子殿下ジョージア様からの呼出し命令を受けて出向くと、男爵令嬢リリアーヌを伴っている。
「先日、男爵令嬢のリリアーヌが階段から突き落とされてね。」
「まぁ、それでお怪我の程は?いかがでしたの?」
「イザベル、ひどい行いをしておきながら認めない精神は、国母にふさわしくない。」
「え?わたくしが突き落としたとおっしゃるのですか?わたくしには、リリアーヌ様を突き落とす理由など、どこにも存在しません。」
「な、何を言っておる!貴様は、俺とリリアーヌの仲を嫉妬して、虐めていたのではないか?」
「それは、浮気を白状なさっていると解釈してよろしいでしょうか?わたくしと殿下の婚約は、そもそも王家からの要請で、嫌がるわたくしと父を国王陛下が説得の上で結ばれた婚約でございます。ですが、あまりの殿下のご様子に今まで何度も、婚約を白紙に戻してくださるようお願いしてまいりました。」
「たった今をもって、バルマン公爵家令嬢イザベルと、セントラル王国第二王子ジョージアとの婚約を破棄とする。……そしてリリアーヌ・ダンカンを我が婚約者と認め、イザベル・バルマンをセントラルの 王太子であるジョージア・セントラルが婚約者、リリアーヌを侮辱し、亡き者にしようとした罪で、身柄を拘束させてもらうこととする。」
「どうぞ、ご勝手になさってください。これでやっと、嫌いなあなた様との婚約が破棄されるので、これほどの喜びはありませんわ。」
とそこへ第1王子であるピエール・セントラルが、拍手をしながら現れた。
「とんだ茶番劇を見せてもらったよ。なかなかおもしろいね。」
「まあ。ピエール殿下、御久しゅう御座います。」
「久し振りですね、イザベル。君の美しさは何を持ってしても損なわせる事は出来ない。」
「なんで……?断罪イベントの後は、ピエールが私のところへ来るはずなのに……イザベルは悪役令嬢なのよ。悪役令嬢のくせに、ピエールとは昔から確執があり仲が悪いはずなのに、おかしいわよ。私がヒロインなのよ。だから、ジョージアとイザベルが婚約者になるという話だったのに……。」
ピエールとイザベルのやり取りの最中、ぶつぶつと呟く人物がリリアーヌ・ダンカンだ。完全に自分の世界に籠っており、周りの事など目に入っていない様子。だから気が付かなかった。ピエールがリリアーヌの呟きを聞いていたことも、薄らと口元に笑みを浮かべていたことも。
「おや。どうして最近まで平民だった君が、イザベルとジョージアが婚約者になった経緯をなぜ知っているのかな?」
「バルマン公爵が実権を握りたくて、有能なピエール様より無能なジョージアの方が操りやすいからって、イザベルを使って……」
「は?あのバルマンが実権を握りたいだと?イザベルを溺愛してやまないバルマンは、ジョージアと婚約させることを最後まで嫌がっていたのだぞ。」
ジョージアは、リリアーヌの口から「無能なジョージア」という言葉が出てきたのが信じられなく、否定して欲しいとリリアーヌを見たが、リリアーヌはピエールから目を離さない。
ピエールは騎士に命じて、リリアーヌを拘束した。
「兄上!王太子の婚約者に手を挙げるなど反逆罪になりますぞ。」
「随分と頭が弱くなりましたね、ジョージア。男爵家の庶子を正妃になど出来る筈がありませんし、そもそも婚約というのは家と家同士の取り決め。君が一方的に破棄出来るものではないんですよ。とりわけ、ジョージア。君とイザベルの結婚は私たち王族側が無理を言って、お願いした立場なんですからね。」
「……そんな、ばかな。だってイザベルが俺に惚れたのではないのか?……。」
「はあ……誰からそんな話を聞いたんですか。」
「馬鹿ですねえ。そんな訳ないでしょう。イザベルは君の事を心底嫌がっていたのですよ。ねえ、イザベル?」
「……此処でわたくしに話を振るのですか、ピエール殿下。」
「ええ、まあ。直接その口からジョージアの勘違いを正して頂こうかと。」
「……分かりました」
「わたくしとジョージア殿下の婚約は、ジョージア殿下を王太子にする為と、わたくしは聞いてきました。婚約するまでわたくしはジョージア殿下の存在すら存じ上げませんでしたわ。」
「で、では誰がリリアーヌを階段から突き落としたのだ。」
「そんなの決まっているじゃないか。リリアーヌ自身が勝手に落ちたんだよ。学園で何人も証人がいる。その日、イザベルは、王宮で国王や王妃とお茶会をしていた時間だ。」
「っは…!だって私、本当にイザベルに落とされて。」
「だからありえないんですってば。イザベルがその日私と一緒にいたんですから。私と、それと私の母と父、王宮中の皆が証人になってくれますよ。誰がどっちを信じるか、明白、ですよねえ?」
にっこりと笑っているが、しかしその目は笑っていなかった。ひっ、と小さく悲鳴をあげてリリアーヌは押し黙る。カチカチと歯を鳴らして、恐怖でその身を震わせていた。
「ああでも、良かった。君からその証言が取れて。誰に突き落とされたとか、誰に意地悪されたとかってちゃんと明言してなかったでしょう。馬鹿が勝手に暴走しただけ、私は関係ありません、なんて君に逃げられたらどうしようかと思っていたところだったんですよ。」
「で、ジョージアはイザベルと婚約破棄したいんですってね。それでこの女を婚約者にすると。その代わりかわいくて美しいイザベルは、私が貰うとしますよ。その事についての承諾は、もう父からもバルマン公からも実は頂いていてね。ああいやヨカッタ良かった。私は長年の夢が叶ってとても嬉しいし、君たちも幸せでしょう。ありがとう。男爵令嬢リリアーヌと、我が弟よ。罪人同士、とてもお似合いですよ。」
「ざい、にん……? 一体誰が罪人だと言うのですか、兄上」
「ああそうそう、実は国王陛下から勅旨を預かっていましたよ。忘れていました。」
【ジョージア・セントラルは廃嫡。
リリアーヌ・ダンカン、ダンカンという家名を取り上げ
修道院にて生涯幽閉を務めること。】
ジョージアとリリアーヌは、青ざめたまま衛兵に連れて行かれた。
「イザベル、私の可愛いイザベル。どうか私と結婚してください。私はあなたに一目会った瞬間からあなたに惹かれてやまないのです。愛しています。」
「仕方がないわね。」イザベルはうふふ、と笑った。
「先日、男爵令嬢のリリアーヌが階段から突き落とされてね。」
「まぁ、それでお怪我の程は?いかがでしたの?」
「イザベル、ひどい行いをしておきながら認めない精神は、国母にふさわしくない。」
「え?わたくしが突き落としたとおっしゃるのですか?わたくしには、リリアーヌ様を突き落とす理由など、どこにも存在しません。」
「な、何を言っておる!貴様は、俺とリリアーヌの仲を嫉妬して、虐めていたのではないか?」
「それは、浮気を白状なさっていると解釈してよろしいでしょうか?わたくしと殿下の婚約は、そもそも王家からの要請で、嫌がるわたくしと父を国王陛下が説得の上で結ばれた婚約でございます。ですが、あまりの殿下のご様子に今まで何度も、婚約を白紙に戻してくださるようお願いしてまいりました。」
「たった今をもって、バルマン公爵家令嬢イザベルと、セントラル王国第二王子ジョージアとの婚約を破棄とする。……そしてリリアーヌ・ダンカンを我が婚約者と認め、イザベル・バルマンをセントラルの 王太子であるジョージア・セントラルが婚約者、リリアーヌを侮辱し、亡き者にしようとした罪で、身柄を拘束させてもらうこととする。」
「どうぞ、ご勝手になさってください。これでやっと、嫌いなあなた様との婚約が破棄されるので、これほどの喜びはありませんわ。」
とそこへ第1王子であるピエール・セントラルが、拍手をしながら現れた。
「とんだ茶番劇を見せてもらったよ。なかなかおもしろいね。」
「まあ。ピエール殿下、御久しゅう御座います。」
「久し振りですね、イザベル。君の美しさは何を持ってしても損なわせる事は出来ない。」
「なんで……?断罪イベントの後は、ピエールが私のところへ来るはずなのに……イザベルは悪役令嬢なのよ。悪役令嬢のくせに、ピエールとは昔から確執があり仲が悪いはずなのに、おかしいわよ。私がヒロインなのよ。だから、ジョージアとイザベルが婚約者になるという話だったのに……。」
ピエールとイザベルのやり取りの最中、ぶつぶつと呟く人物がリリアーヌ・ダンカンだ。完全に自分の世界に籠っており、周りの事など目に入っていない様子。だから気が付かなかった。ピエールがリリアーヌの呟きを聞いていたことも、薄らと口元に笑みを浮かべていたことも。
「おや。どうして最近まで平民だった君が、イザベルとジョージアが婚約者になった経緯をなぜ知っているのかな?」
「バルマン公爵が実権を握りたくて、有能なピエール様より無能なジョージアの方が操りやすいからって、イザベルを使って……」
「は?あのバルマンが実権を握りたいだと?イザベルを溺愛してやまないバルマンは、ジョージアと婚約させることを最後まで嫌がっていたのだぞ。」
ジョージアは、リリアーヌの口から「無能なジョージア」という言葉が出てきたのが信じられなく、否定して欲しいとリリアーヌを見たが、リリアーヌはピエールから目を離さない。
ピエールは騎士に命じて、リリアーヌを拘束した。
「兄上!王太子の婚約者に手を挙げるなど反逆罪になりますぞ。」
「随分と頭が弱くなりましたね、ジョージア。男爵家の庶子を正妃になど出来る筈がありませんし、そもそも婚約というのは家と家同士の取り決め。君が一方的に破棄出来るものではないんですよ。とりわけ、ジョージア。君とイザベルの結婚は私たち王族側が無理を言って、お願いした立場なんですからね。」
「……そんな、ばかな。だってイザベルが俺に惚れたのではないのか?……。」
「はあ……誰からそんな話を聞いたんですか。」
「馬鹿ですねえ。そんな訳ないでしょう。イザベルは君の事を心底嫌がっていたのですよ。ねえ、イザベル?」
「……此処でわたくしに話を振るのですか、ピエール殿下。」
「ええ、まあ。直接その口からジョージアの勘違いを正して頂こうかと。」
「……分かりました」
「わたくしとジョージア殿下の婚約は、ジョージア殿下を王太子にする為と、わたくしは聞いてきました。婚約するまでわたくしはジョージア殿下の存在すら存じ上げませんでしたわ。」
「で、では誰がリリアーヌを階段から突き落としたのだ。」
「そんなの決まっているじゃないか。リリアーヌ自身が勝手に落ちたんだよ。学園で何人も証人がいる。その日、イザベルは、王宮で国王や王妃とお茶会をしていた時間だ。」
「っは…!だって私、本当にイザベルに落とされて。」
「だからありえないんですってば。イザベルがその日私と一緒にいたんですから。私と、それと私の母と父、王宮中の皆が証人になってくれますよ。誰がどっちを信じるか、明白、ですよねえ?」
にっこりと笑っているが、しかしその目は笑っていなかった。ひっ、と小さく悲鳴をあげてリリアーヌは押し黙る。カチカチと歯を鳴らして、恐怖でその身を震わせていた。
「ああでも、良かった。君からその証言が取れて。誰に突き落とされたとか、誰に意地悪されたとかってちゃんと明言してなかったでしょう。馬鹿が勝手に暴走しただけ、私は関係ありません、なんて君に逃げられたらどうしようかと思っていたところだったんですよ。」
「で、ジョージアはイザベルと婚約破棄したいんですってね。それでこの女を婚約者にすると。その代わりかわいくて美しいイザベルは、私が貰うとしますよ。その事についての承諾は、もう父からもバルマン公からも実は頂いていてね。ああいやヨカッタ良かった。私は長年の夢が叶ってとても嬉しいし、君たちも幸せでしょう。ありがとう。男爵令嬢リリアーヌと、我が弟よ。罪人同士、とてもお似合いですよ。」
「ざい、にん……? 一体誰が罪人だと言うのですか、兄上」
「ああそうそう、実は国王陛下から勅旨を預かっていましたよ。忘れていました。」
【ジョージア・セントラルは廃嫡。
リリアーヌ・ダンカン、ダンカンという家名を取り上げ
修道院にて生涯幽閉を務めること。】
ジョージアとリリアーヌは、青ざめたまま衛兵に連れて行かれた。
「イザベル、私の可愛いイザベル。どうか私と結婚してください。私はあなたに一目会った瞬間からあなたに惹かれてやまないのです。愛しています。」
「仕方がないわね。」イザベルはうふふ、と笑った。
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