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姉を辞めます

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 王宮の舞踏会にて、婚約者である筆頭公爵令息のエドワール・サルトルにエスコートもしてもらえない。

 「公爵令嬢エルメスティーヌ・エラノール、貴様とは、今日をもって婚約破棄することを宣言する。」

 エドワール様の腕には、妹のリリアーヌがぶら下がっている。そういうことか!すべてを察した。
妹は、わたくしのものをなんでも欲しがる、ドレスでもアクセサリーでも、宝石でも今度は婚約者を欲しがったのか、さもありなんと目を伏せたが、一応、理由を聞いてみた。

 「なぜでございますか?」

 「貴様は妹のリリアーヌを虐めていたそうだな、そんな性悪女とは、ごめんだ。悪いが、婚約を破棄させてもらおう。」

 ほう、わたくしの代わりにリリアーヌを所望されなかったのね。それでは、リリアーヌからは、もう用済みとして捨てられるだけね。

 「いじめなどしておりませんが、婚約破棄の件、謹んでお受けいたしますわ。では、ごめんあそばせ。」

 カーテシーをして、優雅に立ち去る。

 「お姉さま!次は、どなたと婚約されますの?わたくし、またご相談に乗っていただきたいことがございますの!」と言いながら、エドワール様の腕からするりと抜け、追いかけてこようとした。

 おそらくだが、リリアーヌは、行儀が悪い。それをサルトル家の侍女たちから叱責を受けたのであろう。エルメスティーヌの次の婚約者に、そのことを相談したいのだ。

 「もう、あなたの姉は、今日限りで辞めます。そして、家も出ます。さようなら。」

 「ええっ!ごめんなさい!もう、お姉さまのものは欲しがりませんから、……嘘もつきませんし……。なんなら、エドワール様もお返しします。ですから……。」

 エドワール様は、リリアーヌの今の発言を聞いて、騙されていたことがわかりショックを受けている。

 周りにいた貴族たちから失笑が漏れている。リリアーヌの「姉のものはなんでも欲しがる」は、かなり有名な話である。婚約破棄のたびに違約金と賠償金を支払わされているのだから。

 「ダメです。あなたはいつもそう言うけど、今までで何度目ですか?もう100回以上はいつも反省しているフリをする。もう、わたくしも我慢の限界です。あなたにこれ以上、付き合ってられません。失礼。」

 「いやぁぁぁぁぁぁ~待ってぇぇぇぇぇぇ~お姉さまぁぁぁぁぁ~!」

 最後はいつも泣き落としだ。でも、今夜は振り返らず、まっすぐ馬車に乗った。馬車の中にはいつでも、この国から出られるようにスーツケースを入れている。

 エルメスティーヌは、そのまま国境に向かい馬車を走らせた。

 舞踏会は、リリアーヌの泣き声で、まだ喧噪中である。エドワール様がリリアーヌに詰め寄り、「今の話はなんだ?」と怒鳴って、さらに、リリアーヌが泣く。という騒ぎになって、それをほかの貴族が「有名な話だよ」と宥めている。

 そこへ、王太子フェリクス殿下が登場されて、話の顛末を聞くと

 「それでエルメスティーヌは?」

 「公爵邸に帰ったんじゃないか?」
 「家を出る、…とか言っていなかった?」
 「さようなら、と言っていた。」

 まちまちの話で、業を煮やしたフェリクス王太子は、馬でエルメスティーヌの馬車を追いかけた。国境付近で、ようやく馬車に追いついたフェリクス王太子は、馬車の扉を強引に開けて、中にいるエルメスティーヌを引っ張り出して、片膝をつき

 「エルメスティーヌ嬢、あなたを愛しています。どうか隣国へ行かないで、一生、私の側にいてください。」

 「無理です。また、妹がフェリクス殿下を欲しがります。」

 「もし、そんなことをしたら牢にぶち込むさ。」笑って、エルメスティーヌをお姫様抱っこした。

 「きゃっ」と悲鳴を上げて、フェリクスに抱きつくエルメスティーヌ、そのまま馬車の中に優しく降ろし、キスをした。

 二人して、王城に戻った時、まだ揉めていた。今度は、サルトル家がエラノール家に対して違約金を支払うか、エラノール家が逆に支払うべきかということで。

 結局、リリアーヌがまたフェリクスを欲しがって、牢屋に入れられ、エラノール家は勘当。サルトル家は違約金を支払わない代わりに、エドワールを廃嫡。

 フェリクスとエルメスティーヌはめでたく結婚し、幸せになりました。
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