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結界維持

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 王宮で呼出し命令を受け、行ってみたら

 「公爵令嬢ロザンヌ・カナリア、貴様とは今日をもって、婚約破棄とする。」

 「なぜでございますか?理由をお聞かせください。」

 「ふん、俺は聖女様と結婚したいのだ。貴様が婚約者の座にいると不都合でな。」

 ノルバデックス王国の王太子エディロール・ノルバデックス殿下が高らかに宣言された。
 聖女認定の儀式は、明日、行われる。代々カナリア公爵家から聖女は排出されるのだが、今回の下馬評では、平民出身のリリアーヌが選ばれるだろうと予想されている。

 エディロールが聖女と結婚したがっているとは、わかっていたけど長年にわたり、お妃教育をされてきた身としては、腑に落ちない。
 それに、国境の結界維持は、代々カナリア公爵家の未婚の娘がしてきたことなのである。それを聖女という肩書だけが欲しいからと言って、結界維持者であるわが家を蔑ろにするとは、言語道断である。
 帰宅してからの父の言葉である。ロザンヌの血反吐の努力を平然と無駄にするとは!

 明日、リリアーヌが選ばれようが選ばれないでいようが、ロザンヌは聖女認定の儀式が済むと、国境を超えるつもりであると父に告げる。

 それなら、今日のうちに支度をして、公爵家全員で国境を越えよう。どうせ、ロザンヌがいなくなれば、結界を維持できなくなり、ノルバデックス王国は崩壊してしまうのだから、その責任をエディロール王太子は取らず、わが家に押し付けてくるのは目に見えているからだ。

 大急ぎで領地に使いを出し、引っ越しの準備を進めた。それにつられ、王都の住民もなんとはなしに不安を感じ、引っ越し準備を始めた。

 聖女認定の儀式の日が来た。

 聖女かどうかの判定は、聖女候補者たちが、上段に置かれてある水晶玉に手をかざし見事光らすと、聖女。何も変化がなければ、一般人。ということになる。

 聖女は、結界を維持するだけでなく、聖女が住む国に繁栄をもたらし、疫病退散させ、さらには天候が安定し、豊作が約束される。聖女の存在は、人々を幸せに導くのである。

 そのため、エディロールは聖女と結婚したい。聖女と結婚して、歴代の王の最高位と称賛されたいのだ。たとえ愛はなくても、お飾りとして聖女が欲しい。聖女は王妃教育などしなくとも、ぜいたくな暮らしが保証されている。Give and take. としての契約です。

 一番最初に水晶玉の判定を受けるのは、高位貴族からと決まっているのに、今回は平民リリアーヌからになり、王太子とともに上段へ。

 いよいよ水晶玉に手を……?なんの変化もない一般人。
 もう一度、手をかざすリリアーヌ。やっぱり、変化なし。焦って、再度、手をかざそうとするリリアーヌの手を司祭様が遮った。

 次の人が呼ばれて、また、手をかざす。を繰り返し、とうとうロザンヌの順番まで来てしまい、おずおずと上段まで行き、水晶玉に手をかざした。

 その瞬間、まばゆいばかりの光が発せられ、教会全体はおろか、王都全体まで光り輝き、目を開けていられないほどで、司祭様も王太子エディロール殿下も茫然としている。

 平然としていたのは、やはり両親で「当然」という顔をしている。

 ロザンヌは教会関係者に捕まる前に、両親とともに馬車に向かい、慌てて馬車の扉を閉めた。教会関係者が追いかけてくるのを無視して、国境まで走らせる。そこで、屋敷の者たちや領地の者と落ち合い、国境を超えるという計画。

 王太子エディロール殿下は、青ざめながらカナリア公爵家を訪れるが、もぬけの殻で誰一人いない。
 ノルバデックス国王陛下からは、大声で叱責される。

 「なぜ、勝手にロザンヌ嬢と婚約破棄した?ロザンヌ嬢との婚約は、単なる政略ではなかったのだぞ。ロザンヌ嬢は稀にみる魔力の持ち主で、国の結界をずっと守り続けていてくれたのだ。聖女でなくても、ロザンヌ嬢は「貴重な聖なる女性」だったのだ。それを勝手に婚約破棄して、傷つけ、愛想を尽かされ。どこまで愚か者か……。」

 涙も声も枯れ果てたノルバデックス国王陛下。その場にへたり込み、

 「それより、ロザンヌを戻したほうがいいのでは?ロザンヌを連れ帰ります。」

 出て行こうとするエディロールを国王が呼び止める。

 「もう最低でも隣国へは、行っておるであろう。どこの国が聖女様を返す?今頃は、カナリア共々、歓待されておるよ。この国はもう終わりだ。カナリア家の血を引く未婚の娘がいなければ、結界維持すらできん。」

 ノルバデックス王国は、150年の歴史に幕を閉じる日が近い。

 その頃、カナリア家とその人々は、隣国ランプラゾール帝国で歓迎されていた。長年のお妃教育が功を奏しエドワード皇太子殿下の婚約者になっても、なんら困ることがない。

 そして、エドワードとロザンヌは、結婚し、ランプラゾール帝国は、いつまでも繁栄し、国民全員笑顔で暮らせる幸せな国となりました。
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