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虹の丘
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結婚間近のこの国の王太子チャールズ殿下と公爵令嬢のルイーズ・テレサは、王宮内でともに暮らしている。ルイーズは、数年前、聖女として覚醒したものだから、王家が取り込むため、王宮で暮らしているのだ。
昨夜、庭園で、男爵令嬢リリアーヌと浮気をしているところを偶然、目撃した。ルイーズに気づいたリリアーヌは勝ち誇った微笑みを湛え、チャールズは、そんなリリアーヌの様子に全く、気づかずリリアーヌのカラダを貪り堪能していた。
翌日の朝、自室で目覚めたルイーズに対し、ノックもせず入室してきたチャールズがいきなり、
「公爵令嬢ルイーズ・テレサ、貴様とは今日をもって婚約破棄するものとする。」
「あ、そうですか。」
チャールズは文句を言うだけ言って、部屋から出て行った。リリアーヌのカラダがそんなに良かったのか?ルイーズとは、まだその関係に至っていない。
寝ぼけ眼で答えたものの、昨夜の浮気でもうリリアーヌを寵姫として、側に置くつもりなのだろう。
公爵家からついてきた乳母兼侍女のイザベラは、チャールズの言い様に腹を立て、王宮から出ていくことを勧める。
「今までのお妃教育はなんだったのかしら。たった一回浮気されて、もう捨てられるのかしらね。」
「ルイーズ様!捨てられる前に、ご自分から捨てるのですよ。それに私たちに押し付けていた仕事も全部、投げ出してやりましょうよ。」
「もう、公爵家には、帰る気ないし、帰ってもまた、ここへ連れてこられるだけだから、このままどこかへ行っちゃおうかしらね。それに帰ったら帰ったで、公爵家の仕事をさせられるだけだから、自由にどこかへ行きたいわ。」
「そうですよ。ルイーズ様。そうしましょうね。」
「どこへ行こうかしら、わたくし、海を見たいわ。大きな湖でもいいけど、水平線とか地平線とか、太陽が昇ってきて、沈む瞬間が見てみたいわ。」
「では、早速、用意をいたしましょう。」
半日ほどかけて、夜逃げの準備をした。イザベラは、「私のお古で恐縮です。」といいながら普通のワンピースを貸してくれた。
「一応、お嬢様をお慕い申している者には、夜逃げのことを伝えました。安全に逃げられるように手引きしてくれることです。それと公爵邸には、勘当してもらえるように手はずを整えました。」
革靴も要してくれて、初めて履く感触にワクワクした。お金はルイーズが自由になる分をあるだけ持ってきて、それをイザベラに渡すと、ひきつった笑顔を向けられ、?足りないのか心配になる。
「いいですか、ルイーズ様、お金は人前で出してはいけません。かばんの中に現金を入れ、アウターの中へ斜め掛けに。」
闇夜に紛れて、こっそり王宮を逃げ出した。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
「ルイーズがいない。」
チャールズの執務室に山盛りに積まれた書類を見て、気づかれたようだ。
「ルイーズを探せ!」
チャールズは自分が婚約破棄したことも忘れ、机の書類が減らないことに焦った。
「ルイーズ様は、1週間ほど前にこの国を出られたそうです。」
「なぜだ?」
「チャールズ殿下が、婚約を破棄されたからではございませんか?」
そういえば、リリアーヌと睦んだ後、ルイーズを邪険に扱ったような気がする。え?そんなことぐらいで?いままでは、笑って、仕事をしてくれていたではないか?いや、まさか?
そこへ国王陛下が登場。
「ルイーズ殿が出奔したとは、まことか?なぜ、ルイーズ殿を手綱は握っておけと申したであろう。」
「そんなこと、言われても……、婚約破棄したら、出て行ったんだもん。」
「なにぃ!貴様はバカか?大バカ者だ。」
「この国は、もう終わりだ。」
頭を抱え込む国王陛下。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
その頃、ルイーズとイザベラは、隣の隣の国までやってきて、水平線のかなたに沈む夕陽を見ていた。
「きれいね。イザベラ。」
「お嬢様、そうでございますわね。そうそう、この国のウイリアム王太子殿下からお茶会の招待状が届いていますが、どうなさいますか?」
「無視。」
「さようでございますわね。聖女が欲しいだけの殿方は必要ありませんわね。」
そこへ、この国の王太子殿下が馬で通りかかられた。馬から降りたウイリアム王太子殿下は、ルイーズの前に跪いて、
「聖女様、我が国へ逗留いただき、ありがとうございます。明日、王城でささやかな歓迎の宴を行います。ぜひ、いらしてもらえないでしょうか?」
「お断りします。わたくしは、水平線と地平線を見にきただけでございます。」
「我が国には、虹の丘もございます。ぜひ、そちらも見ていただきたく。」
「え?どこにあるの?」
「よければ、ご案内いたしますが。」
「はい。楽しみにしています。」
ルイーズは虹の丘に引っかかる。翌朝、ウイリアム王太子殿下が迎えに来られ、イザベラとともに虹の丘へ行く。
馬車の中で、ウイリアム王太子といろんなことを喋った。笑かしてもくださり、楽しいひと時を過ごす。
小高い丘の上には、王都を一望でき、水平線もよく見えた。反対側に目をやれば、地平線も見渡せる絶好スポットである。
しばらく待つと、本当に虹が幾重にも重なって、見えた。時間によって、一重だったり、二重だったり、幾重にも見えることがあるそうだ。
「きれい。」
ウイリアム王太子殿下が、ルイーズの前に跪いて
「ルイーズ様のほうが何百倍、いえ何千倍も美しいです。どうか、私の妻になってもらえませんでしょうか?愛しています。」
ルイーズの手にキスをした。
イザベラを見ると、感無量の顔をしていて、瞳を潤ませている。
「お嬢様、よろしゅうございましたね。私は、お嬢様を愛してくださる殿方が見つかり、安堵しております。」
「はい。よろしくお願いします。」
ウイリアム様にぎゅっと抱きしめられ、頬を染めるルイーズ。
聖女歓迎の宴が、婚約発表のパーティへと変わり、大勢の人から祝福を受ける。
その後、無事、結婚し、ルイーズは2男2女をもうけて、幸せに過ごしました。
昨夜、庭園で、男爵令嬢リリアーヌと浮気をしているところを偶然、目撃した。ルイーズに気づいたリリアーヌは勝ち誇った微笑みを湛え、チャールズは、そんなリリアーヌの様子に全く、気づかずリリアーヌのカラダを貪り堪能していた。
翌日の朝、自室で目覚めたルイーズに対し、ノックもせず入室してきたチャールズがいきなり、
「公爵令嬢ルイーズ・テレサ、貴様とは今日をもって婚約破棄するものとする。」
「あ、そうですか。」
チャールズは文句を言うだけ言って、部屋から出て行った。リリアーヌのカラダがそんなに良かったのか?ルイーズとは、まだその関係に至っていない。
寝ぼけ眼で答えたものの、昨夜の浮気でもうリリアーヌを寵姫として、側に置くつもりなのだろう。
公爵家からついてきた乳母兼侍女のイザベラは、チャールズの言い様に腹を立て、王宮から出ていくことを勧める。
「今までのお妃教育はなんだったのかしら。たった一回浮気されて、もう捨てられるのかしらね。」
「ルイーズ様!捨てられる前に、ご自分から捨てるのですよ。それに私たちに押し付けていた仕事も全部、投げ出してやりましょうよ。」
「もう、公爵家には、帰る気ないし、帰ってもまた、ここへ連れてこられるだけだから、このままどこかへ行っちゃおうかしらね。それに帰ったら帰ったで、公爵家の仕事をさせられるだけだから、自由にどこかへ行きたいわ。」
「そうですよ。ルイーズ様。そうしましょうね。」
「どこへ行こうかしら、わたくし、海を見たいわ。大きな湖でもいいけど、水平線とか地平線とか、太陽が昇ってきて、沈む瞬間が見てみたいわ。」
「では、早速、用意をいたしましょう。」
半日ほどかけて、夜逃げの準備をした。イザベラは、「私のお古で恐縮です。」といいながら普通のワンピースを貸してくれた。
「一応、お嬢様をお慕い申している者には、夜逃げのことを伝えました。安全に逃げられるように手引きしてくれることです。それと公爵邸には、勘当してもらえるように手はずを整えました。」
革靴も要してくれて、初めて履く感触にワクワクした。お金はルイーズが自由になる分をあるだけ持ってきて、それをイザベラに渡すと、ひきつった笑顔を向けられ、?足りないのか心配になる。
「いいですか、ルイーズ様、お金は人前で出してはいけません。かばんの中に現金を入れ、アウターの中へ斜め掛けに。」
闇夜に紛れて、こっそり王宮を逃げ出した。
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「ルイーズがいない。」
チャールズの執務室に山盛りに積まれた書類を見て、気づかれたようだ。
「ルイーズを探せ!」
チャールズは自分が婚約破棄したことも忘れ、机の書類が減らないことに焦った。
「ルイーズ様は、1週間ほど前にこの国を出られたそうです。」
「なぜだ?」
「チャールズ殿下が、婚約を破棄されたからではございませんか?」
そういえば、リリアーヌと睦んだ後、ルイーズを邪険に扱ったような気がする。え?そんなことぐらいで?いままでは、笑って、仕事をしてくれていたではないか?いや、まさか?
そこへ国王陛下が登場。
「ルイーズ殿が出奔したとは、まことか?なぜ、ルイーズ殿を手綱は握っておけと申したであろう。」
「そんなこと、言われても……、婚約破棄したら、出て行ったんだもん。」
「なにぃ!貴様はバカか?大バカ者だ。」
「この国は、もう終わりだ。」
頭を抱え込む国王陛下。
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その頃、ルイーズとイザベラは、隣の隣の国までやってきて、水平線のかなたに沈む夕陽を見ていた。
「きれいね。イザベラ。」
「お嬢様、そうでございますわね。そうそう、この国のウイリアム王太子殿下からお茶会の招待状が届いていますが、どうなさいますか?」
「無視。」
「さようでございますわね。聖女が欲しいだけの殿方は必要ありませんわね。」
そこへ、この国の王太子殿下が馬で通りかかられた。馬から降りたウイリアム王太子殿下は、ルイーズの前に跪いて、
「聖女様、我が国へ逗留いただき、ありがとうございます。明日、王城でささやかな歓迎の宴を行います。ぜひ、いらしてもらえないでしょうか?」
「お断りします。わたくしは、水平線と地平線を見にきただけでございます。」
「我が国には、虹の丘もございます。ぜひ、そちらも見ていただきたく。」
「え?どこにあるの?」
「よければ、ご案内いたしますが。」
「はい。楽しみにしています。」
ルイーズは虹の丘に引っかかる。翌朝、ウイリアム王太子殿下が迎えに来られ、イザベラとともに虹の丘へ行く。
馬車の中で、ウイリアム王太子といろんなことを喋った。笑かしてもくださり、楽しいひと時を過ごす。
小高い丘の上には、王都を一望でき、水平線もよく見えた。反対側に目をやれば、地平線も見渡せる絶好スポットである。
しばらく待つと、本当に虹が幾重にも重なって、見えた。時間によって、一重だったり、二重だったり、幾重にも見えることがあるそうだ。
「きれい。」
ウイリアム王太子殿下が、ルイーズの前に跪いて
「ルイーズ様のほうが何百倍、いえ何千倍も美しいです。どうか、私の妻になってもらえませんでしょうか?愛しています。」
ルイーズの手にキスをした。
イザベラを見ると、感無量の顔をしていて、瞳を潤ませている。
「お嬢様、よろしゅうございましたね。私は、お嬢様を愛してくださる殿方が見つかり、安堵しております。」
「はい。よろしくお願いします。」
ウイリアム様にぎゅっと抱きしめられ、頬を染めるルイーズ。
聖女歓迎の宴が、婚約発表のパーティへと変わり、大勢の人から祝福を受ける。
その後、無事、結婚し、ルイーズは2男2女をもうけて、幸せに過ごしました。
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