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「キャハハっ、楽しーい」
「王女様、お待ちくださいませ」
王の領地で、ジョセフィーヌは裸足で駆け回っている。とても王女様に見えない野生児そのもの。
お父様は王城に残り、お母様とジョセフィーヌだけがこの離宮に来ている。
離宮の庭は、ジョセフィーヌが怪我をしてはいけないと、庭師に命じて、すべての石がない。
だから裸足で駆け回っても、ちっとも痛くはない。
ジョセフィーヌは動きやすいドレスとして、膝上のスカート丈にしている。パンツが丸見えにならないように、スパッツを穿いている。自分のスカートの裾を踏んで、転ばないように工夫しているのだが、それも母が考案してくれた。
他にお姉さまも何人かいるけど、皆、小さいうちに、他国へ嫁いでいる。このジョセフィーヌだけは、この手で育てたかったという母の願いを父は快諾する。
その結果がまさにこれ。泥んこになりながら、虫と戯れ花を遊び、野を駆けまわる。お付きの侍女はヒーヒー言いながら、ジョセフィーヌの後を追いかけていく。
もし離宮の庭にジャングルがあれば、ジョセフィーヌは間違いなくターザンになっただろう。
そんな時、まだ4歳になったばかりだというのに、もうジョセフィーヌに縁談が舞い込む。お相手はアラミス・ケントホームズ公爵令息。公爵令息と言っても、3男坊で、家督は継げない。ジョセフィーヌと同い年の孫に第1王子がいるものだから、高位貴族令嬢の親は、どうしても第1王子に目が行き、このままでは将来、アラミスは結婚できないかもしれないと公爵が危惧し、夫の陛下に打診をして縁談になったわけだ。
王女と結婚すれば、必然的に新しい公爵家が誕生する。それをアラミスを当主としてほしいのだろうと想像はつく。
だけど、それは図々しい話だ。陛下はお断りされるつもりだったようだが、形だけという言葉に唆され、本人が嫌がらないのであれば、という条件を付けた。
そのお見合い?相手が間もなく来るというのに、侍女がジョセフィーヌに追い付けないばかりのため、まだ着替えもままならない。
母はこの縁談を流れてしまえばいいと思っている。上の姉娘のように幼いうちから他国へ人質として輿入れさせるぐらいなら、と一時は考えを改め納得していたのだが、まだ4歳で政略結婚は早すぎる。婚約も然りだ。ケントホームズ家は婚約者の立場を利用しようとしているのでは?と疑念がある。
だから敢えて、ジョセフィーヌには何も言わずに、相手といきなり会わせてみたらどうかと思うのだった。うまく断りを入れてくれれば、めっけもの。
相手の令息はおそらく公爵から言い含められているとしても、嫌なものは嫌だと言える子供のはず。だって、もう4歳にもなるのだもの。
泥んこの普段着のままでもいいじゃない?こちらがお願いして、お見合いするわけではないのだから。今のありのままのジョセフィーヌを受け入れてくれる殿方、いや、男の子だった。そんな男の子でなければ、お見合いする意味など最初からないも同然。
父も、内心、ジョセフィーヌは一生お嫁に行かなくてもいいと、本気で考えている。今まで、姉娘たちに苦労を強いてきたのだから、末娘ぐらいは、のんびり元気に育ってほしい。
ジョセフィーヌは妻によく似ているから、年頃になれば、嫌でも王都一の美人になるだろう。そうなってから、釣り合う男性と結婚させればいいと思っている。
だから、おおむね妻の意見に賛同している。
泥んこ娘を嫌ってくれればいいと思っているのだ、そうすれば、ケントホームズも諦めてくれるだろうとタカを括っていた。
実際、普段着のまま、ジョセフィーヌはお見合いに挑んだ。最もジョセフィーヌには、お見合いの意識はなく意味も知らなかったが、同い年のお友達が来たという感覚で接していた。
その結果、アラミスは泣いて帰るハメになってしまったが、頑として嫌いだと断りを入れてこなかった。
きっと、公爵が宥めすかして無理やりにでも、婚約者候補の地位にこだわったということ。
お見合いを側で見ていた侍女の話では、
「お前、なんでそんなに汚いんだ?泥だらけじゃないか」
「子供は外で泥だらけになるもんだって、お父しゃまもお母しゃまも言っているよ」
まだ4歳なので、活舌がよろしくない。
「そうだ。お友達になった印に、ケロちゃんを上げるね。仲良くしてね」
ジョセフィーヌがアラミスに渡したものは、カエル。アラミスは、カエルを見ただけで悲鳴を上げ、逃げ惑う。
ジョセフィーヌは、それを喜んでいると勘違いして、一緒になって走る。ケロちゃんを放り投げたので、それを掴みアラミスの襟元からカエルを投げ入れる。
さらに悲鳴を上げ、失神するも、それをジョセフィーヌは、疲れてお昼寝したものとばかりと思って、横に並んで寝転がって、お昼寝タイムに入ったという。
侍女の感想としては、いつものジョセフィーヌ様らしくなく、明らかに手加減して走っておられました。とのこと。
報告を受けた両陛下は肩を震わせながら、笑い転げる。
もう、これで縁談は流れたと思っていたのに、ケントホームズからは「是非に」という返事をもらい、頭を抱え込む。
「王女様、お待ちくださいませ」
王の領地で、ジョセフィーヌは裸足で駆け回っている。とても王女様に見えない野生児そのもの。
お父様は王城に残り、お母様とジョセフィーヌだけがこの離宮に来ている。
離宮の庭は、ジョセフィーヌが怪我をしてはいけないと、庭師に命じて、すべての石がない。
だから裸足で駆け回っても、ちっとも痛くはない。
ジョセフィーヌは動きやすいドレスとして、膝上のスカート丈にしている。パンツが丸見えにならないように、スパッツを穿いている。自分のスカートの裾を踏んで、転ばないように工夫しているのだが、それも母が考案してくれた。
他にお姉さまも何人かいるけど、皆、小さいうちに、他国へ嫁いでいる。このジョセフィーヌだけは、この手で育てたかったという母の願いを父は快諾する。
その結果がまさにこれ。泥んこになりながら、虫と戯れ花を遊び、野を駆けまわる。お付きの侍女はヒーヒー言いながら、ジョセフィーヌの後を追いかけていく。
もし離宮の庭にジャングルがあれば、ジョセフィーヌは間違いなくターザンになっただろう。
そんな時、まだ4歳になったばかりだというのに、もうジョセフィーヌに縁談が舞い込む。お相手はアラミス・ケントホームズ公爵令息。公爵令息と言っても、3男坊で、家督は継げない。ジョセフィーヌと同い年の孫に第1王子がいるものだから、高位貴族令嬢の親は、どうしても第1王子に目が行き、このままでは将来、アラミスは結婚できないかもしれないと公爵が危惧し、夫の陛下に打診をして縁談になったわけだ。
王女と結婚すれば、必然的に新しい公爵家が誕生する。それをアラミスを当主としてほしいのだろうと想像はつく。
だけど、それは図々しい話だ。陛下はお断りされるつもりだったようだが、形だけという言葉に唆され、本人が嫌がらないのであれば、という条件を付けた。
そのお見合い?相手が間もなく来るというのに、侍女がジョセフィーヌに追い付けないばかりのため、まだ着替えもままならない。
母はこの縁談を流れてしまえばいいと思っている。上の姉娘のように幼いうちから他国へ人質として輿入れさせるぐらいなら、と一時は考えを改め納得していたのだが、まだ4歳で政略結婚は早すぎる。婚約も然りだ。ケントホームズ家は婚約者の立場を利用しようとしているのでは?と疑念がある。
だから敢えて、ジョセフィーヌには何も言わずに、相手といきなり会わせてみたらどうかと思うのだった。うまく断りを入れてくれれば、めっけもの。
相手の令息はおそらく公爵から言い含められているとしても、嫌なものは嫌だと言える子供のはず。だって、もう4歳にもなるのだもの。
泥んこの普段着のままでもいいじゃない?こちらがお願いして、お見合いするわけではないのだから。今のありのままのジョセフィーヌを受け入れてくれる殿方、いや、男の子だった。そんな男の子でなければ、お見合いする意味など最初からないも同然。
父も、内心、ジョセフィーヌは一生お嫁に行かなくてもいいと、本気で考えている。今まで、姉娘たちに苦労を強いてきたのだから、末娘ぐらいは、のんびり元気に育ってほしい。
ジョセフィーヌは妻によく似ているから、年頃になれば、嫌でも王都一の美人になるだろう。そうなってから、釣り合う男性と結婚させればいいと思っている。
だから、おおむね妻の意見に賛同している。
泥んこ娘を嫌ってくれればいいと思っているのだ、そうすれば、ケントホームズも諦めてくれるだろうとタカを括っていた。
実際、普段着のまま、ジョセフィーヌはお見合いに挑んだ。最もジョセフィーヌには、お見合いの意識はなく意味も知らなかったが、同い年のお友達が来たという感覚で接していた。
その結果、アラミスは泣いて帰るハメになってしまったが、頑として嫌いだと断りを入れてこなかった。
きっと、公爵が宥めすかして無理やりにでも、婚約者候補の地位にこだわったということ。
お見合いを側で見ていた侍女の話では、
「お前、なんでそんなに汚いんだ?泥だらけじゃないか」
「子供は外で泥だらけになるもんだって、お父しゃまもお母しゃまも言っているよ」
まだ4歳なので、活舌がよろしくない。
「そうだ。お友達になった印に、ケロちゃんを上げるね。仲良くしてね」
ジョセフィーヌがアラミスに渡したものは、カエル。アラミスは、カエルを見ただけで悲鳴を上げ、逃げ惑う。
ジョセフィーヌは、それを喜んでいると勘違いして、一緒になって走る。ケロちゃんを放り投げたので、それを掴みアラミスの襟元からカエルを投げ入れる。
さらに悲鳴を上げ、失神するも、それをジョセフィーヌは、疲れてお昼寝したものとばかりと思って、横に並んで寝転がって、お昼寝タイムに入ったという。
侍女の感想としては、いつものジョセフィーヌ様らしくなく、明らかに手加減して走っておられました。とのこと。
報告を受けた両陛下は肩を震わせながら、笑い転げる。
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