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ジャスターズ編
キーマン
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「才君、さあ起きて」
一面真っ白な空間で、オーダーは倒れている廿楽の肩を揺らす。
「ん……、ああ……。ああっ!」
さっきまでの光景と打って変わって白い部屋に、廿楽は驚きで目を覚ました。
「しっろ! なんじゃここ!」
建物はおろか、地形の凸凹すら存在しないその場所は、廿楽が経験した不思議体験の中で、堂々の1位を飾っていた。
「僕たちはここを、知識の世界って呼んでるんだ」
「ち、知識の世界? 見た感じ無知だけど……」
廿楽が起きあがろうと、地面に手をつく。
「待って」
オーダーはそれを制止する。
「どしたんのん」
「紙は持ってるよね」
オーダーは手を見せる様ジェスチャーをする。
「紙? ああ、紙ならここにありますぜい」
廿楽は右手を開き、クシャクシャになった紙を見せる。
「それ、絶対離さないでね」
「そんな大事なんすか? この紙が」
「大事と言うより、大事になると言うか。とりあえず、離さなければ何ともないから」
オーダーは、紙を離してはいけない詳細を話さないまま、廿楽を起こす。
「まあいいすけど。それにしても、そのままの意味で真っ白っすね」
廿楽は辺りを見渡す。
「はえー、他の色が見つからない」
どこをどんな角度で見ても、そこには白が広がっている。
しかし、知識の世界という割に全然知識の欠片もないなと、廿楽は内心思っていた。
「ここはどんな場所なんすか」
「んー、そう聞かれると難しいけど……」
オーダーは数秒考え、何かを思いつく。
「倉庫!」
「倉庫?」
「そう。簡単に言えば、ここは倉庫だね。知りたいことがいっぱい収納してある倉庫」
オーダーは急に幼くなった様に、倉庫という言葉を多用する。
「知りたいこと……。レインさんの居場所とか?」
「レインさん? もしかして才君の条件って、その人を探すこと?」
「ありゃ、ケインさんに聞いてないんすか?」
「ケインさんとは朝に会っただけで、帰ってきてからは、さっきが初めてかな」
「そういやあの人、まだ手に付けてないとか言ってたな……」
「それで、そのレインさんを探せばいいの?」
「出来るんすか?」
「出来るか分からないけど、やるだけやってみるね」
オーダーはそう言い、腰を下ろして目を閉じる。
「レインという人物を探せ」
オーダーが小声でそう言うと、白い世界に変化が現れ始める。
地面は震え、地鳴りがし、何かが下から近づいて来る。
それは次第に上昇し、音と比例して揺れも大きくなる。
「き、急に揺れ始めたんすけど」
廿楽は転ばないようバランスを取りながら、辺りを見渡す。
しかし地上には、何の変化も見られない。
「才君、近くにいて」
オーダーは、目を開かないまま廿楽を引き寄せる。
廿楽は何が何だか分からないでいた。
「来るよ」
音と揺れがマックスに達したとき、オーダーがそう言った。
「うおわっ!」
オーダーの目の前に、地面から生える様にして、大きな白い長方形が現れる。
そしてそれは1つではなく、反時計回りに次々と、オーダーと廿楽を取り囲んだ。
「す、凄え……。どうなってんだ……」
廿楽の声は、長方形が出現する際の音に掻き消されるが、その驚きは顔が物語っていた。
「探せ!」
オーダーは大きく目を開き、それと同時に長方形が変形する。
タンスの様に前方が突起し、その中から数え切れないほどの白紙が飛び出してくる。
その紙たちは宙を舞い、互いに互いを擦れ合わせて音を奏でる。
「凄え量。SDGsそっちのけだな」
紙がそうして舞うこと数十秒。
突然、1枚の紙が地に落ちた。
「ありゃ、落ちてきた」
廿楽が拾い上げ、表裏を見るが、そこには何も書かれていない。
「白紙じゃん」
もう1枚、地面に紙が落ちる。
それを拾おうと身を屈めた廿楽の横に、また1枚と紙が落ちた。
「全部白紙だ」
ふと、廿楽は上を見上げる。
するとさっきまで舞っていた紙が、一斉に落ちてきた。
「うげっ」
突然の事に、廿楽は落ちてくる紙を手で払う。
しかしそんな事で防げるわけもなく、廿楽は紙の山に埋もれてしまった。
「た、助けてくれー。オーダー」
紙山から手だけを伸ばし、オーダーに助けを求める廿楽。
しかし、オーダーは座ったまま反応を見せない。
「オーダー! あ、あれ? 死んだ⁉︎」
「……残念。見つからなかった」
パッと、紙も長方形も全て消える。
「あ、あら? 今のは幻覚?」
紙が一斉に消えた事で、廿楽は変な体勢のままオーダーに質問する。
「ごめんね才君。レインさんのこと、見つけられなかったみたい」
オーダーは立ち上がり、手を合わせて謝る。
「そう言えば、レインさんの事探してたんだっけ。インパクトが強すぎて忘れてた……」
廿楽も立ち上がり、オーダーと向き合う。
「それより、今のなんすか! めちゃくちゃ凄かったっす。マジック見てる気分だった!」
廿楽はオーダーに近寄り、先程の出来事を称賛する。
「あれはマジックじゃないよ。内蔵してある全ての知識を漁ってたんだ」
それに対し、オーダーは冷静に答える。
「知識を漁る? 気になってたんだけど、その知識って全部オーダーのなの?」
「僕のと言うよりは、僕が出会った人たちのかな」
「出会った? 俺の知識もあるって事?」
「そうだね。僕も勝手に集める趣味はないんだけど、自然系だからどうしてもね」
そう言いったオーダーは、1枚の紙を取り出し、廿楽に見える様にして持つ。
「僕の能力は、この紙が写し出したもの全て。知りたい事を込めれば、それが浮き出てくるんだ。例えば適当に1人、君の同級生を聞くと」
カサカサと、手に持たれた紙が動き出す。
それはオーダーが動かしているには、精密な動きを見せ、今にも飛んでしまいそうだ。
「探せ」
サッと、目にも留まらぬ速さで、紙は宙を舞う。
そしてそれは一瞬で一点に密集し、くしゃくしゃになった紙が、オーダーの手のひらに落ちた。
「どれどれ、えーと……。シック・タンツ君かな。出席番号25番で、最近転校してきた。と」
「わぉ。本当に分かるんすね」
「ほら、自分で見てごらん」
廿楽は紙を受け取り、表面を指で擦る。
「インク……じゃないっすね。匂いもしないし、能力って不思議だなー」
ありがとうとお礼を言いながら、廿楽はオーダーに紙を返す。
「才君は能力者じゃないの?」
「俺はただの学生っすよ」
「ケインさんが連れてきたから、僕はてっきり能力者だと思ってたよ」
「俺も最初話したら、ケインさんも驚いてましたよ。まあ1番驚いてるのは、急にジャスターズに連れて来られた俺なんすけどね」
「ふっ。それは間違いないね」
オーダーは紙をしまい、何も無い空中を掴む。
そしてタンスを引く様に、それを引き寄せる。
「ここには何も無い様に見えるけど、こんなにも知識が詰まってるんだ」
そしてその中から何かを取り出す。
「これは無知の知。これだって、立派な知識だよ」
「無知の知? 透明ですね。それは何の意味が?」
「これだけ自分の知らない事があるって、自覚出来るんだ。素晴らしい事だと思わない?」
オーダーは目を輝かせ、廿楽に迫る。
「ま、まあ、見方によればですけど……」
「あっ、ごめんごめん。つい夢中になっちゃって。ケインさんにも気をつける様言われてるんだけど」
そう言い、オーダーは廿楽から距離を取る。
「気にしないでいいすよ。それより、その能力。やっぱり俺の特技と似てますね」
「特技? 才君はマジックが出来るの?」
「マジックじゃないっすよ。その知識を写し出すみたいなやつの方です」
「才君は、どんな特技が出来るの?」
「そうですね。これはケインさんにも言った事なんですが。例えば、俺が学校行く時、今日は雨が降るかを質問して、目を閉じるとします。そしたら、降る。と、答えが出て来ました。すると本当にその日は、雨が降るんです」
「なるほど。僕の紙を使わないバージョンみたいな感じなんだね」
「……いや、あえて似てるって言ったのは、そこの部分なんすよ」
オーダーは頭にはてなを浮かべる。
「オーダーの能力は、知識をもとに答えを出してると思うんす」
「才君は違うの?」
「俺のは、自分が未来に経験するものしか、答えが出ないんす」
再びオーダーの頭にはてなが浮かぶ。
「俺も最初は勘違いして、テストでその特技を使ったんすよ。で、返ってくる当日。もちろん俺は満点を期待してました」
かろうじて頷くオーダーを見て、廿楽は話を続ける。
「けど結果は惨敗。特に選択問題はほぼ間違ってたんす。何でかって考えた時、思い付いたんすよ」
廿楽はオーダーに見えるようして、自分の頭を指差す。
「俺の特技は、正しい答えを教えてくれるんじゃなくて、俺が未来に経験した、事実を教えてくれてたんすよ」
「……つまり、才君が見てたのは、未来の自分の回答って事?」
「そういう事っす。実際、俺が見た答えは、全部回答用紙に書いてましたし」
「……何か猿の手みたいだね」
「そう! そうなんすよ! 俺が思ったのはまんまそれです。だからさっきの雨の話も、俺が外出しなかったり、外の様子を一切見ないとしたら、まずの話答えが出ないんす」
「じゃあ、何でも知れるって事じゃないんだね」
「ですね。けど逆に言えば、見えたって事は、知ったって事と同じなんで、その未来は絶対に訪れるんす」
「そう考えると……、恐ろしいね。その特技」
「全くっす」
話が丁度区切れたところで、オーダーはどこからか、くしゃくしゃになった1枚の紙を取り出し、それを廿楽に見せる。
「これは、ケインさんが才君を連れてくるきっかけになった紙なんだけど」
その紙には「私立クライエン学園、2年4組34番」と書かれていた。
「何て質問したんすか?」
「これからのジャスターズに必要なもの。って」
それを聞き、廿楽は一瞬言葉を失う。
「……じ、ジャスターズに?」
「そう。才君は、僕の能力を使って導き出した、ジャスターズにとってのキーマンなんだ」
「……俺が? この一般の男子高校生の俺が?」
「一般なんてとんでもない。才君は、十分特別だよ」
廿楽は数秒間、口を閉じられないでいた。
そして一言、こう呟く。
「へっ、有り得ねえ……」
一面真っ白な空間で、オーダーは倒れている廿楽の肩を揺らす。
「ん……、ああ……。ああっ!」
さっきまでの光景と打って変わって白い部屋に、廿楽は驚きで目を覚ました。
「しっろ! なんじゃここ!」
建物はおろか、地形の凸凹すら存在しないその場所は、廿楽が経験した不思議体験の中で、堂々の1位を飾っていた。
「僕たちはここを、知識の世界って呼んでるんだ」
「ち、知識の世界? 見た感じ無知だけど……」
廿楽が起きあがろうと、地面に手をつく。
「待って」
オーダーはそれを制止する。
「どしたんのん」
「紙は持ってるよね」
オーダーは手を見せる様ジェスチャーをする。
「紙? ああ、紙ならここにありますぜい」
廿楽は右手を開き、クシャクシャになった紙を見せる。
「それ、絶対離さないでね」
「そんな大事なんすか? この紙が」
「大事と言うより、大事になると言うか。とりあえず、離さなければ何ともないから」
オーダーは、紙を離してはいけない詳細を話さないまま、廿楽を起こす。
「まあいいすけど。それにしても、そのままの意味で真っ白っすね」
廿楽は辺りを見渡す。
「はえー、他の色が見つからない」
どこをどんな角度で見ても、そこには白が広がっている。
しかし、知識の世界という割に全然知識の欠片もないなと、廿楽は内心思っていた。
「ここはどんな場所なんすか」
「んー、そう聞かれると難しいけど……」
オーダーは数秒考え、何かを思いつく。
「倉庫!」
「倉庫?」
「そう。簡単に言えば、ここは倉庫だね。知りたいことがいっぱい収納してある倉庫」
オーダーは急に幼くなった様に、倉庫という言葉を多用する。
「知りたいこと……。レインさんの居場所とか?」
「レインさん? もしかして才君の条件って、その人を探すこと?」
「ありゃ、ケインさんに聞いてないんすか?」
「ケインさんとは朝に会っただけで、帰ってきてからは、さっきが初めてかな」
「そういやあの人、まだ手に付けてないとか言ってたな……」
「それで、そのレインさんを探せばいいの?」
「出来るんすか?」
「出来るか分からないけど、やるだけやってみるね」
オーダーはそう言い、腰を下ろして目を閉じる。
「レインという人物を探せ」
オーダーが小声でそう言うと、白い世界に変化が現れ始める。
地面は震え、地鳴りがし、何かが下から近づいて来る。
それは次第に上昇し、音と比例して揺れも大きくなる。
「き、急に揺れ始めたんすけど」
廿楽は転ばないようバランスを取りながら、辺りを見渡す。
しかし地上には、何の変化も見られない。
「才君、近くにいて」
オーダーは、目を開かないまま廿楽を引き寄せる。
廿楽は何が何だか分からないでいた。
「来るよ」
音と揺れがマックスに達したとき、オーダーがそう言った。
「うおわっ!」
オーダーの目の前に、地面から生える様にして、大きな白い長方形が現れる。
そしてそれは1つではなく、反時計回りに次々と、オーダーと廿楽を取り囲んだ。
「す、凄え……。どうなってんだ……」
廿楽の声は、長方形が出現する際の音に掻き消されるが、その驚きは顔が物語っていた。
「探せ!」
オーダーは大きく目を開き、それと同時に長方形が変形する。
タンスの様に前方が突起し、その中から数え切れないほどの白紙が飛び出してくる。
その紙たちは宙を舞い、互いに互いを擦れ合わせて音を奏でる。
「凄え量。SDGsそっちのけだな」
紙がそうして舞うこと数十秒。
突然、1枚の紙が地に落ちた。
「ありゃ、落ちてきた」
廿楽が拾い上げ、表裏を見るが、そこには何も書かれていない。
「白紙じゃん」
もう1枚、地面に紙が落ちる。
それを拾おうと身を屈めた廿楽の横に、また1枚と紙が落ちた。
「全部白紙だ」
ふと、廿楽は上を見上げる。
するとさっきまで舞っていた紙が、一斉に落ちてきた。
「うげっ」
突然の事に、廿楽は落ちてくる紙を手で払う。
しかしそんな事で防げるわけもなく、廿楽は紙の山に埋もれてしまった。
「た、助けてくれー。オーダー」
紙山から手だけを伸ばし、オーダーに助けを求める廿楽。
しかし、オーダーは座ったまま反応を見せない。
「オーダー! あ、あれ? 死んだ⁉︎」
「……残念。見つからなかった」
パッと、紙も長方形も全て消える。
「あ、あら? 今のは幻覚?」
紙が一斉に消えた事で、廿楽は変な体勢のままオーダーに質問する。
「ごめんね才君。レインさんのこと、見つけられなかったみたい」
オーダーは立ち上がり、手を合わせて謝る。
「そう言えば、レインさんの事探してたんだっけ。インパクトが強すぎて忘れてた……」
廿楽も立ち上がり、オーダーと向き合う。
「それより、今のなんすか! めちゃくちゃ凄かったっす。マジック見てる気分だった!」
廿楽はオーダーに近寄り、先程の出来事を称賛する。
「あれはマジックじゃないよ。内蔵してある全ての知識を漁ってたんだ」
それに対し、オーダーは冷静に答える。
「知識を漁る? 気になってたんだけど、その知識って全部オーダーのなの?」
「僕のと言うよりは、僕が出会った人たちのかな」
「出会った? 俺の知識もあるって事?」
「そうだね。僕も勝手に集める趣味はないんだけど、自然系だからどうしてもね」
そう言いったオーダーは、1枚の紙を取り出し、廿楽に見える様にして持つ。
「僕の能力は、この紙が写し出したもの全て。知りたい事を込めれば、それが浮き出てくるんだ。例えば適当に1人、君の同級生を聞くと」
カサカサと、手に持たれた紙が動き出す。
それはオーダーが動かしているには、精密な動きを見せ、今にも飛んでしまいそうだ。
「探せ」
サッと、目にも留まらぬ速さで、紙は宙を舞う。
そしてそれは一瞬で一点に密集し、くしゃくしゃになった紙が、オーダーの手のひらに落ちた。
「どれどれ、えーと……。シック・タンツ君かな。出席番号25番で、最近転校してきた。と」
「わぉ。本当に分かるんすね」
「ほら、自分で見てごらん」
廿楽は紙を受け取り、表面を指で擦る。
「インク……じゃないっすね。匂いもしないし、能力って不思議だなー」
ありがとうとお礼を言いながら、廿楽はオーダーに紙を返す。
「才君は能力者じゃないの?」
「俺はただの学生っすよ」
「ケインさんが連れてきたから、僕はてっきり能力者だと思ってたよ」
「俺も最初話したら、ケインさんも驚いてましたよ。まあ1番驚いてるのは、急にジャスターズに連れて来られた俺なんすけどね」
「ふっ。それは間違いないね」
オーダーは紙をしまい、何も無い空中を掴む。
そしてタンスを引く様に、それを引き寄せる。
「ここには何も無い様に見えるけど、こんなにも知識が詰まってるんだ」
そしてその中から何かを取り出す。
「これは無知の知。これだって、立派な知識だよ」
「無知の知? 透明ですね。それは何の意味が?」
「これだけ自分の知らない事があるって、自覚出来るんだ。素晴らしい事だと思わない?」
オーダーは目を輝かせ、廿楽に迫る。
「ま、まあ、見方によればですけど……」
「あっ、ごめんごめん。つい夢中になっちゃって。ケインさんにも気をつける様言われてるんだけど」
そう言い、オーダーは廿楽から距離を取る。
「気にしないでいいすよ。それより、その能力。やっぱり俺の特技と似てますね」
「特技? 才君はマジックが出来るの?」
「マジックじゃないっすよ。その知識を写し出すみたいなやつの方です」
「才君は、どんな特技が出来るの?」
「そうですね。これはケインさんにも言った事なんですが。例えば、俺が学校行く時、今日は雨が降るかを質問して、目を閉じるとします。そしたら、降る。と、答えが出て来ました。すると本当にその日は、雨が降るんです」
「なるほど。僕の紙を使わないバージョンみたいな感じなんだね」
「……いや、あえて似てるって言ったのは、そこの部分なんすよ」
オーダーは頭にはてなを浮かべる。
「オーダーの能力は、知識をもとに答えを出してると思うんす」
「才君は違うの?」
「俺のは、自分が未来に経験するものしか、答えが出ないんす」
再びオーダーの頭にはてなが浮かぶ。
「俺も最初は勘違いして、テストでその特技を使ったんすよ。で、返ってくる当日。もちろん俺は満点を期待してました」
かろうじて頷くオーダーを見て、廿楽は話を続ける。
「けど結果は惨敗。特に選択問題はほぼ間違ってたんす。何でかって考えた時、思い付いたんすよ」
廿楽はオーダーに見えるようして、自分の頭を指差す。
「俺の特技は、正しい答えを教えてくれるんじゃなくて、俺が未来に経験した、事実を教えてくれてたんすよ」
「……つまり、才君が見てたのは、未来の自分の回答って事?」
「そういう事っす。実際、俺が見た答えは、全部回答用紙に書いてましたし」
「……何か猿の手みたいだね」
「そう! そうなんすよ! 俺が思ったのはまんまそれです。だからさっきの雨の話も、俺が外出しなかったり、外の様子を一切見ないとしたら、まずの話答えが出ないんす」
「じゃあ、何でも知れるって事じゃないんだね」
「ですね。けど逆に言えば、見えたって事は、知ったって事と同じなんで、その未来は絶対に訪れるんす」
「そう考えると……、恐ろしいね。その特技」
「全くっす」
話が丁度区切れたところで、オーダーはどこからか、くしゃくしゃになった1枚の紙を取り出し、それを廿楽に見せる。
「これは、ケインさんが才君を連れてくるきっかけになった紙なんだけど」
その紙には「私立クライエン学園、2年4組34番」と書かれていた。
「何て質問したんすか?」
「これからのジャスターズに必要なもの。って」
それを聞き、廿楽は一瞬言葉を失う。
「……じ、ジャスターズに?」
「そう。才君は、僕の能力を使って導き出した、ジャスターズにとってのキーマンなんだ」
「……俺が? この一般の男子高校生の俺が?」
「一般なんてとんでもない。才君は、十分特別だよ」
廿楽は数秒間、口を閉じられないでいた。
そして一言、こう呟く。
「へっ、有り得ねえ……」
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