チェスクリミナル

ハザマダアガサ

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ジャスターズ編

前夜

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「もう流石に慣れてきたか」
 現在時刻は午後の8時過ぎ。
 辺りは闇に包まれ、カーライトだけが夜道を照らしている。
 最初こそ奮起していた幹部たちも、今では無様にいびきをかき、起きているのは運転手のリュウと、キューズの2人のみ。
 急遽集まった幹部たちは、口には出さないが、疲れを溜め込んでいたのだ。
「はい。AIがほとんどやってくれるので、かなり楽ですね」
 リュウはハンドルから手を離し、AIの自動運転に切り替える。
「そうか。そりゃ良かった。あっ、そう言えば聞き忘れてたんだけど、何で刀持ってるんだ?」
 キューズは、リュウの横に立ててある刀を指差す。
「俺の能力は抜刀術なんですよ」
 そう言うと、リュウは自分の愛刀を優しく撫でる。
「はぇー、抜刀術? 珍しいね。自然系か」
「はい。帯刀した状態だと、普通の何百倍もの威力が出るんです」
「抜刀ねえ。……とすると、ジャーキ出身?」
「よくご存知で」
「侍って奴だろ。アイツら何人かとやったけど、もし能力者だったら、結構強い部類だと思うなぁ」
 キューズは思い出に耽るかの様に、腕を組んで上を向く。
「立合を何度か?」
「ああ、昔ね。抜刀ってのは、全然目に見えなくてね。あれは達人技って言っても、誰も文句は付けられねえな」
「なんか、嬉しいですね。俺が褒められている訳じゃ無いのに、侍を評価して頂くっていうのは」
「まあそいつら、殺しちゃったけどね。ある程度元を使えたっぽいんだけど、総量がね」
「それは申し訳ありませんでした。もし俺がそこにいたなら、キューズ様を楽しませる事が出来たのですか……」
「そりゃ面白そうだな。今度やってみるか」
「是非」
 その即答に対し、キューズは笑みをこぼす。
「にしても、何で抜刀術なんかが能力になったんだろうな」
「キューズ様は、どの説を推しているのですか?」
 リュウの言う「説」とは、能力の起源の事である。
 一説では、能力は人間の本能から来るものと言われ、もう一説では、能力は副属性を元に構築されるものと言われている。
 どちらが正しいとは一概に言えず、未だにその真相は誰にも分からない。
 日々研究が行われ、現時点で解明されている事。
 それは、「能力が非科学的である」という事だ。
「俺はそうだな……。遺伝によるものだと思ってんだよね」
「遺伝? ですが、遺伝による能力の類似は確認されていませんよ?」
 リュウの言う通り、家系や兄弟の関係だからといって、能力は類似しない。
 幾つか似た様な報告があるものの、歳の近い兄弟は行動を共にする事が多く、その時にたまたま類似してしまった。という結論で終わる事が多い。
「そうじゃない。俺が言ってるのは、資格の話だ」
「資格……? ですか」
「そう。何で無能力者の子どもは無能力者なんだって、考えた事はあるか?」
「はい。無能力者の子どもは保護され、安全に育つから、能力が発現しないんだって、思ってます」
「その通り。だが、その安全ってのは、誰が評価しているんだ? 看護師か、親か、はたまた神か。いいや違う、評価するのは子ども自身だ」
 キューズは組んでいた腕を解き、前屈みに体勢を変える。
「能力者だって無能力者だって、階段からは落ちる。溺れるし、怪我をしたら泣きもする」
「まあ……そうですね」
「その時、無能力者は安全で、能力者は危険な状態だったのか? 違うだろ? どっちも同じ状況だ。なのに能力が発現するのは、毎回能力者の子ども。それっておかしくないか? 仮に本能で能力が発現するとしたら、どっちも発現しないと合理的じゃないよな」
「確かに、そうかもしれませんね」
「俺が思うに、能力の遺伝による類似は無くとも、能力を得られる権利の遺伝は存在すると思う。能力者の親が無能力者か。無能力者の親が能力者か。どっちも違うだろ?」
 キューズの姿勢は、既に前屈みを通り越して、席を立っていた。
「キューズ様の意見は、新しい視点で、なかなか考えさせられます」
「だろ? けどな、この説、少し説明できない事もあるんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。確か十何年か前。ほら、リツィーってあるだろ? 無能力者だけの国」
「はい、ありますね」
「あそこで能力者が産まれたんだよな。リツィーは入国審査が世界一厳重だし、そう簡単に能力者が入れるとは思えないんだよね」
「確かに不自然ですね」
「まあ結局、能力については、まだまだ分からない事だらけって話だな。もう2000年以上も経ってる訳だし、俺が生きてる内に解明して欲しいところだね」
「そうですね。気になる所ではあります……」
 リュウの相槌が、バスの走行音に掻き消されそうになる。
「そういや今日って、何曜日だ?」
 沈黙を避ける為、キューズが話題を変える。
「今日は確か、土曜ですね」
「土曜日か。なら明日は、誰も外出はしないな」
「……狙ってでしょうか」
「どうだろうな。まあ、十中八九、俺らが来るのはバレてるな。で、敢えて正面から叩き潰そうって考えてる。その証拠に、刺客を寄越してない」
 コインが動き、キューズに真っ先に報告が入る事は、コイン自身がよく理解している。
 それでも尚、刺客を送らない理由。
 それは、このゲームを楽しんでいるからであろう。
 キューズが追って来なければ、コインの圧勝。
 キューズが追って来て、自分と闘うのであれば、それはそれで楽しめそう。
 このゲームは、ほぼコインの勝ちが決定しているゲームなのである。
 勝負事は好まないコインだが、復讐となると、それはまた別腹の様だ。
「まあ何にせよ、今は寝て体力を養っとけ。明日は生きるか死ぬかの勝負だからな」
「運転は大丈夫でしょうか」
「自動にやってくれるだろ。それと、そろそろ、こいつらの目にも悪いしな」
 そう言い、キューズは後ろを振り返る。
「消灯だ」
 パチっと灯りが消え、キューズは椅子にもたれかかる。
「明日ヘマしたら、俺が殺すからな」
「もちろんです」
 それを最後に、キューズ達一行は眠りについた。
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