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否定の伯父『小野只司』

「それが目上の人に対する態度か?」

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最初の『団塊』さんは,父方の兄…私からみれば伯父に当たる『小野おの只司ただし』だ。


最初に存在を認識したのは,私が年長の頃。

正月に父の実家に帰省した時,その人は居た。


第一印象は,父よりも優しそうな中年の男性にみえた。

けど,蓋を開けてみれば「兎にも角にも,自分が正しい」と「間違いを決して認めない」団塊さんだった。



小学生の頃――


「私はパパの事を名前(呼び捨て)で呼ぶよ?〇×は?」


数人の同級生の子としゃべっていると,そのうちの一人がそんな事を言い始めた。

どうしてそんな話になったか?までは覚えていないけど,それが衝撃だったのは覚えている。

とは言え,流石に父親を名前で呼べる訳もなく,私は「伯父なら笑って許してくれそう」とやってみようと思った。

そう…その話題が出た時は,タイミングが悪い事に正月を十日後に控えた頃だった。



それから十日後――


「〇×ちゃん…久しぶり♪大きくなったね?」

「伯父さん!あのね…今私のクラスの女子の間では――」


帰省先で久々に再会した伯父に,流石に何の前触れもなくやったら失礼だと思った私は,事前に説明してから「呼び捨て」していいか?確認を取ろうとした。

ただ,当時の私は「同い年の娘もいるし,大丈夫でしょ」と了承を頂けるものだと思っていた。

でも――


「最近の若い奴はなっとらん!親を呼び捨てにするなど言語道断!それが目上の人に対する態度か?」


まだ「呼び捨て」にしていいか?の本題にすら入っていないにも関わらず,伯父は世間話だけでぶちギレた。

その瞬間,私は悟った…『伯父を呼び捨てした日には〇される』と――


「うちのパパ…見た目は人が良さそうに見えるけど真性ガチの『自分正しい人間』だから気を付けて」

そんな一部始終を静観していた『いとこ』が私の耳元で告げ口し,何とか大事にならずにその場は収まった。



まぁ当時(小学生)の私は,他人が許されているなら自分も…と何処かそんな気持ちがあった。

とは言え,年齢を重ねた今思えば,確かに失礼な事をやろうとしていたのかもしれない。

ただ,上記は此方にも問題があったけど,下記は明らかにヤツ当たりだ。



それは…いとこがグレて家出したと,伯父が私の実家に転がり込んできた時の事。

当時高校生だった私は,父と伯父の会話が偶々聞こえ,母と黙って聞いていた。


「出会い系とか悪い輩とつるんでないか確認する為に携帯をみたら激怒されて――」

「洗い物は別々にしろ!とか部屋に入るな!とか…誰が稼いだお金で贅沢出来ていると思って――」


酒が進み,色々とヤバい事を暴露する伯父。

そんな伯父にツッコむ事もなく酒を注ぎ,一緒に飲む父。

母の様子を窺うと「私には関係ない」と言わんばかりに食器を洗っていた。


「俺が養ってやらなければ携帯だってなかったんだぞ!一度怪しいと思って尾行した事もあったが――」

「伯父さん!幾ら親でも,やっていい事と悪い事があるよ!〇〇ちゃんの気持ちも少しは考えて――」

「子どもが大人の話に口を挿むんじゃない!それが目上の人に対する態度か?お前(父)も躾がなっとらんぞ!」


ずっと黙って聞いていた私だったが,エスカレートしていく伯父の発言に我慢が限界に達し,間違いを訂正しようとした。

だけど,伯父は『自分は間違っていない!自分は正しい!』と聞く耳を持たず,理不尽に怒鳴られ。


その後…私は何故か父と伯父にこっぴどく叱られ,鬱憤と何とも言えない気持ちだけが溜まった。



それから,伯父はいとこと喧嘩する度に私の実家にやって来ては,父と酒を飲む事が多くなった。

伯父が事前に来ると判っている時は,母の手助けもあり,来る前に自分の部屋に閉じ籠る事が出来た。

まぁ部屋に居ても,下から大声でしゃべる伯父の愚痴が聞こえて,勉強どころじゃなかったけど。


ただ,問題だったのは唐突に現れる伯父で…。


「〇×ちゃん…伯父さんの事避けてるよね?それが目上に対する態度か?目上の人は敬え…って教わらなかったのか?」


事前に酒をある程度呑んでくる(タクシーで来る)為,兎にも角にも絡みが酷く。

会う度に同じ事の繰り返しで,最初のうちは「そんな事ないですよ」と否定していた。


「それじゃあ何故,高確率で居ないんだぁ?トイレや風呂とかならまだしも――」


だけど,伯父に何度も否定されていくうちに応対するのが面倒臭くなり,最終的には『どうせ否定されるんだから言っても無駄』と黙りを決め込んだ。

そりゃあ『いとこ』も家出するわ!こんな面倒臭い父親がいりゃあ…ねぇ?
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