番とあれこれしてみた

沙耶

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九話

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「あら、起こしちゃった?」

「お母さん…今、何時?」

「7時ぐらいかしら…?ご飯にしましょ、降りてらっしゃい。」


お母さんが、私の様子を見に来て目が覚めた。

ベッドに紫苑さんが寝かせてくれていたみたい。
枕もしっかり頭の下で、紫苑さんの心遣いを感じる。

体があんなに熱かったのに、今じゃ普通に平熱。
お腹の具合も良いし、紫苑さんって、本当に何者なんだろう…?


一瞬の思考停止を経て思い出す。
そうだ。紫苑さんは私の、運命の、αだった…。
そういえば、紫苑さんのフェロモンは、初ヒートのときと、同じ香りがしたような気がする。
次もう一度嗅いだらそれは確実となるだろう。




「オメガは運命と出会うとヒートを起こす。」


紫苑さんが言っていた通り、私は紫苑さんと出会って…?
いや、香りを嗅いだだけで、私はヒートを起こしてしまったんだ…。


「思えば思うほど、恥ずかしいのは、何で?」

恥ずかしいと思えどヒートを起こしたことが、運命の番の証明となる事実に嬉しくなるという矛盾。

複雑な感情を受け止める中、机の上に置かれたメモを見つける。

「紫苑さんからだ!」

恥ずかしさも忘れ、嬉しくなりながらメモを手に取る。


おはよう。
体の調子はどう?怠かったりしない?
起きるまで居られなくてごめん。
緊急の用事ができて、行かないと行けない。
本当は彩芽ちゃんが起きるまでそばに居たいのに…。
起きて落ち着いたら、また連絡して。
必ず返信する。

紫苑より




メモを見て一番に思ったのは、紫苑さんって優しい人なんだな~ってこと。
わざわざメモを置いておかなくたって、メールがあるのに…。




「彩芽~!」

ゆっくりお返事返したいけど、お母さんも呼んでるし、実はお腹も空いている。


メモありがとう。
茶碗蒸し美味しく頂くね。



素っ気なさを多少残したメールは紫苑さんの携帯へと送られていった。




「美味しいわね~この茶碗蒸し。」

滑らかな舌触り。
そして出汁がしっかり染み込んでて美味しい。

「紫苑さんのお家の料理人さんが作ってくれたんだって。」

お母さんに詳細を伝えれば、すっかり娘の番発見を受け入れたようひ話し続ける。


「料理人が居るなんて、流石αね~。あっ、そうだ。お母さん御木さんに会ったわよ。」


「…えっ?会ったの?」

「ほら、これ。名刺くれたの。何かあったら連絡くださいって。彩芽、御木さんの運命の番なんですってね~本当にそんなのがあるなんて…ロマンチックだわ~。」

茶碗蒸しに舌鼓を打っていたのにいきなり爆弾を投下された気分。
まさか、お母さんに会っていたなんて。
まあ、隠すつもりはなかったんだけど…

「御木グループって、何?」


お母さんから借りて見た、紫苑さんの名刺には、職業欄こそないものの御木グループと書いてあった。
御木グループ…名前からして紫苑さんの家族がやっているグループで間違いはないと思う。


「彩芽、知らないの?」


「お母さんは知ってるの?」


「…バース科の診察券見てみたら?」


素直に従えば御木グループという文字が端っこに印刷されている…。
えっ?どういうこと?


「御木グループは、オメガやアルファ、ベータのバース性に関係する製品やら、施設やら技術やら、とにかくバース性専門のグループよ。学校でのバース判別だって御木グループが協力してるんだから…大きなところよ。」



……………………紫苑さんは、そんな大きなグループの、


「御曹司ってところかしら?」







『これ、体調管理アプリ。まだヒート周期安定してないし、よくわからないと思うから使ってみて。』

簡単なメールで送られてきたアプリ。

検索かけても出てこないので、多分試作品とかかなり内部で使われているアプリだと思う。


「紫苑さんって、本当に御木グループの人なんだな~」




なんか今日はもう、情報が多すぎて脳みそが容量オーバーだ。

とりあえずアプリを登録し、お風呂へと向かった。


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