6人の皿

hinatakano

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「…と、とにかく勝ったんやな。ウチら勝ったんやな!」野崎が声を上げる。

すると百目鬼が割れた皿を蹴飛ばして立ち上がった。

「くっくっく。どこまでもめでたい連中だな…。勝ったのは彼女だ。賞金は後日…。昨日知り合ったばかりの人間に金を渡すバカはいない。そうだろう?成瀬君」

「ぇ…」神楽と野崎が不安そうに成瀬を見る。

「そうですね…」

百目鬼が神楽たちを見て笑う。

「じゃあ百目鬼さんはどれくらい一緒にいたら私を信用してくれますか。私にお皿を預けてくれますか」

百目鬼が成瀬を見て顔をしかめる。

「私は何も知らないままこのゲームに参加しました。そして恐ろしいゲームが始まりました。すぐボロボロにされて負けると思いました。でも何もできない私を守ってくれる人がいました。私にお皿を預けてくれる人がいました。私のお弁当を美味しそうに食べてくれる人がいました。そういう人を裏切ることで手にした何かに価値があるとは思えないんです」

「そんなものはただの自己満足だ。裏切らない律義な自分に酔ってるだけだろう」

「そうかもしれません。でもそれで自分を嫌いにならないで済むなら安いものだと私は思います。そして私たちの賞金は野崎さんと神楽さんのペナルティを返済してもまだ1億余ります。そのお金は今回負債を抱えてしまった方にお渡ししたいと思っています。そんな私の自己満足に付き合ってもらえますか」

成瀬の言葉に野崎が複雑そうな顔をする。

「お断りだ。ただ運だけで優勝した君にこの私が同情されるとはな…。バカもここまで来ると手に負えん。一生ママゴトでもやってるがいい」

そう言うと百目鬼はペンションを後にした。

野崎が成瀬に駆け寄ってくる。

「ちょっとちょっと、冗談やろ?真宮はダイヤ貰ってるからええとして本気で加藤を救済する気なん?アイツ、ウチら裏切ったんやで?神楽は反対やんな?」

「…そうねぇ。でも成瀬さんがそうしたいのなら私はそれでも構わないわ。彼の力を借りたのも事実なわけだし…」神楽はそう言うとペンションの出口へと歩き出した。にっこり笑って成瀬も続く。小言を言いながら野崎もその後を追った。

玄関を出たところで神楽がくるりと向き直る。

「けどその前にラスベガスでも行かない?加藤さんにお金を渡すのは倍にしてからでも遅くはないでしょ?」

神楽の提案に野崎と成瀬が顔を見合わせる。

「倍…って。まさかカジノに1億注ぎ込むつもり?」

「何言ってるの、3億全額に決まってるじゃない」

「…アンタ、ホンマにお兄さんおるんやろな?」

「ふふ。まぁいいじゃない。これはライヤーゲームだもの」神楽が笑って言う。

山の合間から日が差し始め、朝を迎えたペンションにバスが到着した。
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