身代わり男装騎士ですが、副騎士団長様に甘く暴かれました

卯月ミント

文字の大きさ
22 / 32
番外編

【番外編】あの日の決意:前編(ユビナティオ視点)

しおりを挟む
 それは、まだユビナティオが7歳のころのこと。
 よく晴れたある日の午後、珍しく体調がよかったユビナティオは、気分転換にと中庭の木の下で侍女に絵本を読んでもらっていた。

「ぐわー! 悲鳴が上がり、悪いドラゴンはついに倒れました。騎士はドラゴンが閉じ込めていたお姫様を助け出し――」

「きゃあああ!」

 侍女の声を遮って幼い女の子の歓声が上がる。
 その声の主は、ユベルティナだ。
 暇だからとユビナティオに着いてきた姉は、ユビナティオと同じ色素の薄い亜麻色の髪に、明るい紫水晶の瞳を輝かせていた。

「すごいすごい! さすが騎士さまね!!」

「姉上はこの絵本が、本当に大好きですよね」

 苦笑しながらユビナティオが言うと、彼女は嬉しそうにうなずいた。

「だってかっこいいんだもん! わたしもいつかこの人みたいな強い男になりたいな!」

「姉上は女性ですよ?」

「わかってるわよ! でもきっとなれると思わない?  みんなを守る強い男に!」

「……そうですか」

 きらきらとした笑顔で語る彼女に反論する気力を削がれ、ユビナティオは曖昧に微笑むことしかできなかった。
 そんな双子を、侍女は微笑みながら見ている。
 ――と。唐突に、3人の目の前に、ぽとりと何かが落ちてきた。

「きゃっ」

「うわっ」

 侍女の悲鳴と、ユビナティオの驚きの声が重なる。
 同時に、カッ、と、ユビナティオは体温が上がるのを感じた。

 いったいなんだ、何が落ちてきたんだ。危険な物か? 逃げた方がいいのじゃないか? そうでもないのか? そう思いながらも身体は固まっている。
 そんななか、ユベルティナだけがきょとんとして落ちてきたものを見つめていた。

「見て、ヒナだわ!」

 灰色の産毛に覆われた小さな身体、怯えたようにまん丸なつぶらな瞳、ちょこんとしたくちばし。なんとも可愛らしい、それは小鳥のヒナだった。

「あら、可哀想に。巣から落ちてしまったのね」

 気を取り直した侍女が言って上を見上げた。つられてユビナティオも熱が上がってきた額で上を見上げる。
 下からではよく見えないが、この梢のどこかに鳥の巣があるのだろう。かなりの高さから落ちてきた割に元気そうなのが救いだ。

「巣に戻してあげましょう。庭師を呼んできますね」

 侍女がそう言って立ち去ると、残された双子は顔を見合わせた。

「……大変なことになりましたね」

 ふぅ、と息をついて、ユビナティオはその場に尻を突いて座り込んだ。
 急激に体温が上がってきて、立っているのが辛いくらい頭がふらっとするのだ。

「大丈夫、ティオ?」

「……熱が出て来たみたいです。少し、休ませていただきます」

「そっか。じゃあ、ヒナはわたしが戻してあげるね!」

「え、姉上なにを言って――」

「わたし、強い男になるんだもん!」

 止める間もなく、ユベルティナは雛をそっとドレスのポケットに入れると、そのまま木登りをはじめたではないか。

「ちょっ、姉上! なにしてるんですか、危ないですよ!」

 ユベルティナの奇行に、ユビナティオの心臓はドキドキを通り越してバクバクしはじめた。

「大丈夫よ! わたし、こうみえても木登りって得意だから!」

「そういうことじゃなくてですね、大人を待った方がいいです……」

 さすがに辛くなってきて、ユビナティオは視線を降ろした。膝を手で抱え、熱で潤んできた瞳でじっと地面を見つめる。
 この調子だと、そろそろ頭痛がしてきそうだ。

「大丈夫だって!」

 ガササ、ガササ。葉っぱがこすれる音がする。

「姉上……、本当に、やめてください……。ぼく、心配で……」

 とうとう涙声になってしまったユビナティオに、さすがのユベルティナも心配になってきたようだ。

「ティオ、泣かないで……って、あった、あったー!」

 ユベルティナの喜色に溢れた声が上から返ってくる。
 どうやら巣を見つけたらしい。

「ちょっと待っててね、いま戻すから!」

「姉上……」

 ユビナティオは弱々しく呟いて、目を瞑った。熱くなってきた頬に、つーっと冷たい涙が一筋流れる。

 ――自分は、何をしているんだろう?
 そんな疑問がユビナティオの心に浮かび上がる。

 姉がヒナを巣に戻す、と木を登っているというのに、それを止めることもできず、かといって応援することもせず。ただ、ここで地べたに座って膝を抱えて泣いているだけだなんて。
 情けない。
 そう思うのに、身体はダルく、上がってくる熱のせいで思うように動いてくれないだなんて……。

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる

狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。 しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で……… こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。

契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件

水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。 「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。