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彼シャツ?……それは、何か悲しい事実
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英語も苦手なりに直也は話してみたが通じず、最後の頼みの綱だと知っているスペルを書く。
だが青年は、首を横に振った。
「わからない。だがこれは、先ほどお前が書いた文字と少しだけ違うのだと思うが……」
直也はこくりと頷く。だが、それだけだ。
根本的な問題は、解決できていない。
「お前を見ていて思ったんだが、俺の言葉は理解できているようだな?」
また直也は、肯定するように頷いた。
ならばと青年は、ベッドサイドのテーブルに直也が置いた万年筆を取り、直也の書いたものの下へとサラサラと万年筆を走らせた。
そして、直也に自身の書いたそれをペン先で示す。
「これは読めるか?」
青年の使っているのだろう文字は、直也には見たことのないものだった。
だから、今度は首を横に振る。
自分も青年も、知る限りを尽くしたはずだ。
直也には青年の異国の言葉が日本語に聞こえ、青年には直也の日本語は異国の言葉として聞こえる……そんな事があるのだろうか?
いや。そんなはずはない。まずは、ここはどこなのか。それからだ。
直也は思い直し、青年のいる反対―――ベッドに隣接している窓を見遣る。
最初に直也の目に留まったのは、スカイブルー。そう表現するのが、一番しっくりくる空だった。
日本ではない海外の独特な空の色だ。
直也が好きで視聴している、海外で散歩がコンセプトのテレビ番組で映し出される空に近い。
思わず、窓にへばりつく。
緑が占めているが、ヨーロッパのような大きな家がぽつぽつと点在している。
温泉街として栄え古くからの行楽街というような熱海というよりは、ペンションなどがある伊豆高原に近い。
ここが伊豆高原だとしたら、熱海の旅館に居たはずの自分は何故そこにいるのか。
もしかして、何かの事件に巻き込まれているのかもしれない。
まさか、利用価値のない自分がそんな馬鹿な。と思いつつも、直也は青年を窺うように肩越しに観察してしまう。
「どうした?」
青年は少しきつい印象を与える目を細め、直也に柔らかい声色で問い掛けてくる。
―――――悪い人には、見えない。
自分の思い過ごしだ。
直也は自身にそう言い聞かせる。
が、しかし、人は一度疑ってしまうとこういう時、警戒してしまうものだとわかった。
「おい?」
直也が警戒しているのを察したのか、青年は怪訝そうに顔を顰め呼び掛けてくる。
二人が居る部屋の中は、緊張した空気が流れ始めようとしたそんな時、それを破るように部屋のドアを開けられた。
「ナトラージャ様、おはようございます。少年の様子は……」
ドアを開けるなりその人物は、直也の目の前に居るナトラージャと呼んだ青年へ話し掛けた。
その人物―――こちらは、直也と同い年か少し年上だろうか。いずれにせよ青年だ―――が、直也を見ると緑色のたれ目を嬉しそうに細める。
「ああ。起きていらしたのですね」
ミルクティー色の珍しい髪に、上品ですらりとしている青年は、本から飛び出してきたような王子様のように華やかな顔立ちをしていた。
その王子のような青年が、虎のような雰囲気の青年ナトラージャと並ぶ。
ナトラージャの方が若いようだが、王様と王子様が並んでいるように見える。
それにしても、顔が二人とも濃い。
「こんにちは。私は、ユアンと申します」
王子様のような青年―――ユアンが、右腕を胸に当て直也に目線を合わせ挨拶をしてきた。
柔らかい雰囲気に直也は、身体にいつの間に入れていた力を緩ます。
かなり、緊張していたらしい。
「直也……俺は、海原直也と言います」
ユアンの真摯な瞳に見守られ、自然と直也は自分の名前を答えていた。
「……ナオヤ様ですか?」
少し考えた素振りを見せたが、ユアンが正確に自分の名前を呼んでくれたが直也は嬉しかった。
先ほど言葉の壁で悪戦苦闘したこともあって、すんなり通じたことにほっと安堵のため息を短くついて、直也は頬を緩ませる。
そんな直也につられたようにユアンはにこりと笑ってから、先ほどから黙ったままのナトラージャに呆れたような瞳と顔を向けた。
「ナトラージャ様。あと数日で十八歳だというのに、気が利きませんね」
「……?」
何の事だかわからないと首を少し傾げたナトラージャに、「まったくもう」とユアンは短く息を吐く。
「リビングの暖炉の前から客室に移しても目を覚まさなかったほどだったんですよ? 少年を風邪の引きそうな格好にさせておくなんて……」
やれやれとユアンは肩を竦めて、シーツを直也の肩に掛ける。
何をやっても大げさだが、ユアンにはそれが似合う。
『少年』という単語が引っかかった直也だが、それよりも『風邪を引きそうな格好』という言葉にユアンの視線の先、 つまり自分の身体を見下ろした。
「え?」
直也は、自身の格好に目を瞬かせる。
少し隠されているがユアンの掛けてくれたシーツの下、大きな白いワイシャツ一枚だけ。
利き腕である右腕の方は袖を数回折ってあるが、左腕の裾は寝ていた時に寝相が悪かったのか本来の長さになっていて、 直也の手先まですっぽりと袖が覆っている。
俗に言う彼シャツ……のようなものなのだろうか。
日頃、気にしない方の直也だったが、自身より大きいその服に少し―――いや。男として、何か悲しい事実だった。
だが青年は、首を横に振った。
「わからない。だがこれは、先ほどお前が書いた文字と少しだけ違うのだと思うが……」
直也はこくりと頷く。だが、それだけだ。
根本的な問題は、解決できていない。
「お前を見ていて思ったんだが、俺の言葉は理解できているようだな?」
また直也は、肯定するように頷いた。
ならばと青年は、ベッドサイドのテーブルに直也が置いた万年筆を取り、直也の書いたものの下へとサラサラと万年筆を走らせた。
そして、直也に自身の書いたそれをペン先で示す。
「これは読めるか?」
青年の使っているのだろう文字は、直也には見たことのないものだった。
だから、今度は首を横に振る。
自分も青年も、知る限りを尽くしたはずだ。
直也には青年の異国の言葉が日本語に聞こえ、青年には直也の日本語は異国の言葉として聞こえる……そんな事があるのだろうか?
いや。そんなはずはない。まずは、ここはどこなのか。それからだ。
直也は思い直し、青年のいる反対―――ベッドに隣接している窓を見遣る。
最初に直也の目に留まったのは、スカイブルー。そう表現するのが、一番しっくりくる空だった。
日本ではない海外の独特な空の色だ。
直也が好きで視聴している、海外で散歩がコンセプトのテレビ番組で映し出される空に近い。
思わず、窓にへばりつく。
緑が占めているが、ヨーロッパのような大きな家がぽつぽつと点在している。
温泉街として栄え古くからの行楽街というような熱海というよりは、ペンションなどがある伊豆高原に近い。
ここが伊豆高原だとしたら、熱海の旅館に居たはずの自分は何故そこにいるのか。
もしかして、何かの事件に巻き込まれているのかもしれない。
まさか、利用価値のない自分がそんな馬鹿な。と思いつつも、直也は青年を窺うように肩越しに観察してしまう。
「どうした?」
青年は少しきつい印象を与える目を細め、直也に柔らかい声色で問い掛けてくる。
―――――悪い人には、見えない。
自分の思い過ごしだ。
直也は自身にそう言い聞かせる。
が、しかし、人は一度疑ってしまうとこういう時、警戒してしまうものだとわかった。
「おい?」
直也が警戒しているのを察したのか、青年は怪訝そうに顔を顰め呼び掛けてくる。
二人が居る部屋の中は、緊張した空気が流れ始めようとしたそんな時、それを破るように部屋のドアを開けられた。
「ナトラージャ様、おはようございます。少年の様子は……」
ドアを開けるなりその人物は、直也の目の前に居るナトラージャと呼んだ青年へ話し掛けた。
その人物―――こちらは、直也と同い年か少し年上だろうか。いずれにせよ青年だ―――が、直也を見ると緑色のたれ目を嬉しそうに細める。
「ああ。起きていらしたのですね」
ミルクティー色の珍しい髪に、上品ですらりとしている青年は、本から飛び出してきたような王子様のように華やかな顔立ちをしていた。
その王子のような青年が、虎のような雰囲気の青年ナトラージャと並ぶ。
ナトラージャの方が若いようだが、王様と王子様が並んでいるように見える。
それにしても、顔が二人とも濃い。
「こんにちは。私は、ユアンと申します」
王子様のような青年―――ユアンが、右腕を胸に当て直也に目線を合わせ挨拶をしてきた。
柔らかい雰囲気に直也は、身体にいつの間に入れていた力を緩ます。
かなり、緊張していたらしい。
「直也……俺は、海原直也と言います」
ユアンの真摯な瞳に見守られ、自然と直也は自分の名前を答えていた。
「……ナオヤ様ですか?」
少し考えた素振りを見せたが、ユアンが正確に自分の名前を呼んでくれたが直也は嬉しかった。
先ほど言葉の壁で悪戦苦闘したこともあって、すんなり通じたことにほっと安堵のため息を短くついて、直也は頬を緩ませる。
そんな直也につられたようにユアンはにこりと笑ってから、先ほどから黙ったままのナトラージャに呆れたような瞳と顔を向けた。
「ナトラージャ様。あと数日で十八歳だというのに、気が利きませんね」
「……?」
何の事だかわからないと首を少し傾げたナトラージャに、「まったくもう」とユアンは短く息を吐く。
「リビングの暖炉の前から客室に移しても目を覚まさなかったほどだったんですよ? 少年を風邪の引きそうな格好にさせておくなんて……」
やれやれとユアンは肩を竦めて、シーツを直也の肩に掛ける。
何をやっても大げさだが、ユアンにはそれが似合う。
『少年』という単語が引っかかった直也だが、それよりも『風邪を引きそうな格好』という言葉にユアンの視線の先、 つまり自分の身体を見下ろした。
「え?」
直也は、自身の格好に目を瞬かせる。
少し隠されているがユアンの掛けてくれたシーツの下、大きな白いワイシャツ一枚だけ。
利き腕である右腕の方は袖を数回折ってあるが、左腕の裾は寝ていた時に寝相が悪かったのか本来の長さになっていて、 直也の手先まですっぽりと袖が覆っている。
俗に言う彼シャツ……のようなものなのだろうか。
日頃、気にしない方の直也だったが、自身より大きいその服に少し―――いや。男として、何か悲しい事実だった。
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