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膝の上
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ジルの本名は、ジリアン。
歳は、二十七歳。
異世界で直也が知り合った人の中で、一番年上だ。
この国の騎士兼魔導士というファンタジーな役職だけあって、いろいろな面白い話を教えてくれた。
時間の経つのはあっという間で、ジルが「そろそろ帰ろう」と言ってきた。
頷こうとした直也だが、脳裏に睨むナトラージャの瞳を思い出して躊躇した。
直也の内心を知ってか知らずか、ジルが立ち上がり手を差し出してくる。
「さあ、ナオヤ様」
笑顔で促され、直也は頷いて重い腰を上げた。
ナトラージャとユアンは、笑顔で出迎えてくれた。
いつものナトラージャなのにほっとして笑顔で直也が「ただいま」と言うと、二人は「おかえり」と返してくれる。
そこにセシルを厩に繋げ終わったのだろうジルが、何を思ったのか直也の肩を抱く。
「ナオヤ様と、楽しい一時を送らせてもらったよ」
そう言うとジルは何を思ったのか、直也の唇に近い場所にキスをした。
一瞬、何が起きたのかわからなかった直也が見上げると、ジルは意味ありげに妖艶に微笑む。
この人は、何をしたいのだろう。
直也はジルの真意を確かめようとして、観察する。
そうすれば、綺麗な瞳が少年の様に輝いていることに気づいた。
ジルという人物は、カフェで話してみるとかなりお茶目だった。
それならば、乗ってみよう。
こちらも変な所でノリの良い直也が、ジルのそのおふざけに乗ることにした。
微笑みながら彼に向き直り、背伸びしてきめ細やかな肌を持つ頬に軽くキスをした。
ジルの様に唇の近くにできなかったのは、やはり、冗談に見えないと思ったからだ。
ナトラージャ達はどういう反応をしているだろう。
二人の反応を見ようとした直也は、腰に腕が巻きつき攫われた。
「え…………?」
目まぐるしく映るものが変わる、目を数回瞬けばその動きは止まった。
自分の身に何が起きたのだろうと見渡せば、なんと男としては悲しいことになっている。
彼シャツに続いて、二回目だ。
何故か直也は、ナトラージャの膝の上に座らされていた。
これは恥ずかしいと直也が降りようとすると、逞しく確固な腕に腰を拘束されていてどうにもならない。
どうしたものか。
直也は、自分の置かれた状態に戸惑った。
座り心地が悪いと言えばいいのか、他人の太股を下敷きにして座るというのはこんなにも緊張するものなのか。
背もたれ部分も見た目は細いが、しっかりと鍛えられた胸や腹が当たり、鍛えられていることがわかる。
「遠慮なく寄り掛かれ」
ナトラージャは面白がるようなそれでなく、真剣にそう言われてしまい直也は喜べなかった。
そんな直也達を尻目にジルは、直也の対面の席に腰掛け深刻そうな表情で報告する。
「報告が一つある。――――神官長様が数日前にお倒れになった」
素早くお茶を人数分用意し直也の横の席に座ったユアンが、椅子を倒す勢いで立ち上がった。
焦燥したように瞳を揺らし、ジルに掴みかからんばかりにテーブルに乗り出す。
「神官長様が? それでご容態は?」
「意識は戻られていないが、安定はしている。次期に目を覚ますだろうと、医師が言っていた」
「良かった…………」
ユアンとジルは、この状況を無視して異世界らしい会話をしている。
話からして、話し掛けることもできない。
しかも、初めてユアンの動揺した姿を見た。
今も“神官長様”という人物が無事だと知って椅子にどかりと座り、彼らしくなく背凭れにずるずると寄り掛かっている。
「ジル。俺達の代わりに神官長の見舞いに行ってきてくれ」
頭上から聞こえた声の背中から伝わる振動に、直也は逃げるなら今だと動いて―――失敗した。
直也の行動に腹に回っている腕が反応して、より力を籠められて動きを封じ込められてしまった。
勢いを付けたせいで、腹が強く圧迫され唸る。
「うぅッ」
「逃げようとするからだ」
自分が悪いというように言われ、我慢ならなくなった直也は後ろを振り向く。
そして、自身を膝に乗せたナトラージャを睨んだ。
咎めた割には、穏やかな顔をしたナトラージャが直也を見下ろしていて、何とも憎らしい。
終いには「睨んでも、可愛いだけだ」と言われ、唇の端にキスをされる。
リップ音のするそれに、直也はピキリと石の様に固まった。
「ナトラージャ様。心が狭すぎて、ナオヤ様に嫌われてしまいますよ」
見かねたように目を眇めたユアンの言葉に、何を思ったのかナトラージャの腕の力が緩む。
今度こそと直也が逃げても、ナトラージャもその腕も直也を引き留めることはない。
直也は、いそいそとジルの横の席に座った。
「ナトラージャ様。私がからかったのが悪かったが、この子はそれに乗っただけだ。この子が大切ならば、当たらないでやってくれ」
そう言ったのは、困ったというように眉を下げたジルだ。
そうか。ジルの言動の何かで、ナトラージャが自分に当たってきたのか。
引き金がなんだったのか、わからないが…………えらい目にあった。
どうであれ羞恥の時間は終わったのだと、直也は疲れの滲んだ溜息を吐いた。
だが、これだけで終わりではなかったと直也が知るのは――――あと少し。
歳は、二十七歳。
異世界で直也が知り合った人の中で、一番年上だ。
この国の騎士兼魔導士というファンタジーな役職だけあって、いろいろな面白い話を教えてくれた。
時間の経つのはあっという間で、ジルが「そろそろ帰ろう」と言ってきた。
頷こうとした直也だが、脳裏に睨むナトラージャの瞳を思い出して躊躇した。
直也の内心を知ってか知らずか、ジルが立ち上がり手を差し出してくる。
「さあ、ナオヤ様」
笑顔で促され、直也は頷いて重い腰を上げた。
ナトラージャとユアンは、笑顔で出迎えてくれた。
いつものナトラージャなのにほっとして笑顔で直也が「ただいま」と言うと、二人は「おかえり」と返してくれる。
そこにセシルを厩に繋げ終わったのだろうジルが、何を思ったのか直也の肩を抱く。
「ナオヤ様と、楽しい一時を送らせてもらったよ」
そう言うとジルは何を思ったのか、直也の唇に近い場所にキスをした。
一瞬、何が起きたのかわからなかった直也が見上げると、ジルは意味ありげに妖艶に微笑む。
この人は、何をしたいのだろう。
直也はジルの真意を確かめようとして、観察する。
そうすれば、綺麗な瞳が少年の様に輝いていることに気づいた。
ジルという人物は、カフェで話してみるとかなりお茶目だった。
それならば、乗ってみよう。
こちらも変な所でノリの良い直也が、ジルのそのおふざけに乗ることにした。
微笑みながら彼に向き直り、背伸びしてきめ細やかな肌を持つ頬に軽くキスをした。
ジルの様に唇の近くにできなかったのは、やはり、冗談に見えないと思ったからだ。
ナトラージャ達はどういう反応をしているだろう。
二人の反応を見ようとした直也は、腰に腕が巻きつき攫われた。
「え…………?」
目まぐるしく映るものが変わる、目を数回瞬けばその動きは止まった。
自分の身に何が起きたのだろうと見渡せば、なんと男としては悲しいことになっている。
彼シャツに続いて、二回目だ。
何故か直也は、ナトラージャの膝の上に座らされていた。
これは恥ずかしいと直也が降りようとすると、逞しく確固な腕に腰を拘束されていてどうにもならない。
どうしたものか。
直也は、自分の置かれた状態に戸惑った。
座り心地が悪いと言えばいいのか、他人の太股を下敷きにして座るというのはこんなにも緊張するものなのか。
背もたれ部分も見た目は細いが、しっかりと鍛えられた胸や腹が当たり、鍛えられていることがわかる。
「遠慮なく寄り掛かれ」
ナトラージャは面白がるようなそれでなく、真剣にそう言われてしまい直也は喜べなかった。
そんな直也達を尻目にジルは、直也の対面の席に腰掛け深刻そうな表情で報告する。
「報告が一つある。――――神官長様が数日前にお倒れになった」
素早くお茶を人数分用意し直也の横の席に座ったユアンが、椅子を倒す勢いで立ち上がった。
焦燥したように瞳を揺らし、ジルに掴みかからんばかりにテーブルに乗り出す。
「神官長様が? それでご容態は?」
「意識は戻られていないが、安定はしている。次期に目を覚ますだろうと、医師が言っていた」
「良かった…………」
ユアンとジルは、この状況を無視して異世界らしい会話をしている。
話からして、話し掛けることもできない。
しかも、初めてユアンの動揺した姿を見た。
今も“神官長様”という人物が無事だと知って椅子にどかりと座り、彼らしくなく背凭れにずるずると寄り掛かっている。
「ジル。俺達の代わりに神官長の見舞いに行ってきてくれ」
頭上から聞こえた声の背中から伝わる振動に、直也は逃げるなら今だと動いて―――失敗した。
直也の行動に腹に回っている腕が反応して、より力を籠められて動きを封じ込められてしまった。
勢いを付けたせいで、腹が強く圧迫され唸る。
「うぅッ」
「逃げようとするからだ」
自分が悪いというように言われ、我慢ならなくなった直也は後ろを振り向く。
そして、自身を膝に乗せたナトラージャを睨んだ。
咎めた割には、穏やかな顔をしたナトラージャが直也を見下ろしていて、何とも憎らしい。
終いには「睨んでも、可愛いだけだ」と言われ、唇の端にキスをされる。
リップ音のするそれに、直也はピキリと石の様に固まった。
「ナトラージャ様。心が狭すぎて、ナオヤ様に嫌われてしまいますよ」
見かねたように目を眇めたユアンの言葉に、何を思ったのかナトラージャの腕の力が緩む。
今度こそと直也が逃げても、ナトラージャもその腕も直也を引き留めることはない。
直也は、いそいそとジルの横の席に座った。
「ナトラージャ様。私がからかったのが悪かったが、この子はそれに乗っただけだ。この子が大切ならば、当たらないでやってくれ」
そう言ったのは、困ったというように眉を下げたジルだ。
そうか。ジルの言動の何かで、ナトラージャが自分に当たってきたのか。
引き金がなんだったのか、わからないが…………えらい目にあった。
どうであれ羞恥の時間は終わったのだと、直也は疲れの滲んだ溜息を吐いた。
だが、これだけで終わりではなかったと直也が知るのは――――あと少し。
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