月に落ちていくように

月日

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一緒にお風呂

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どうしてこうなってしまったのか。
直也は、少しぼうっとした頭で考えてみる。

ジルが家に泊まるらしく、互いの報告が終わった後は四人で夕食をとった。
そこまでは良かったが、ナオヤがいつも風呂に入る頃になるとナトラージャも一緒に入ると言い出したのだ。
断る前にジルの横の席に座ってた直也を片腕で持ち上げ、風呂場に入ってしまった。

片手で持ち上げられたことに驚いていると服を手早く脱がされ、ナトラージャもさっと服を脱いでしまった。
十五歳で成人だというこの国で、ナトラージャの顔はさぞかし女性にモテるだろう。
この手慣れたような服の脱がし方は、もしや―――。

直也が勘ぐっていると、あれよあれよと頭や身体を洗われた。
股にもそうされそうになったので、必死に死守した直也だったが、やはり手馴れていることに少し胸がチクリと痛んだ。
この痛みは何だろうと首を傾げていれば、湯の溜まった猫足の浴槽に直也を運びナトラージャは一緒に入ってしまった。

左右で別れるのではなく、ナトラージャは脚の間に直也を座らせた。
最後にというように、直也を自身の前面に寄り掛かる様に引き寄せる。

暴れると浴槽から湯が飛び床を濡らしてしまう。
腰辺りに当たるものを考えると、何とも複雑で逃げ出したい直也だったがぐっと耐えた。

「ナオヤ」
「ゃッ」

背を丸めて晒されたのだろう項に唇を寄せて呼ばれ、予期せぬ接触に直也は小さな声を上げた。
ゾワリと背を得体の知れない何かが駆け抜けて、嫌だと必死に何度も横に首を振る。

「ナオヤは、細いな…………」

唇を離したナトラージャの手が、直也の無防備に湯に浮く右腕を捕らえる。
そして、肘の下あたりを掴む。
大きな手は、腕輪のようにすっぽりと直也の腕を一周してしまった。

「どこも、かしこも…………」

その手の指先は肌を翳めながら直也の肩へ移動し、肩まで来ると何かを確かめるようにちょうど首の下から腹へ滑る。

どこか厭らしい手つきだ。
直也がどうしようと困惑していると、その手が腹の下にある少ない体毛に潜むものを触ろうとするかのように動く。

「ナトラージャっ!」

叱るような声を発した直也は、間一髪のところで両手でナトラージャのその手首を掴んで押さえた。
一拍置いて、はっとしたような息を飲む音する。
それと同時に、かーっとなった所為か、触られる前に阻止してほっとしたのかくらくらしてきた。

「ナオヤ、済まない。冗談が過ぎた」

ナトラージャが謝ってきたが、返事をする余裕はなかった。
すっかり直也は、茹っていた。

いけない。これは湯あたりだ。
そう思っても、どうにもならない。

「済まない。気づかなかった。湯あたりか……」

背後で表情はわからないが、ナトラージャの申し訳なさそうな問いかけに、直也は力なく頷いた。

そうすれば、ナトラージャはまた難なく直也を抱きかかえる。
足で器用に使用したバスタオルを床に敷き、直也を横たえた。 ぐったりとしている直也の身体の水気を新しいバスタオルで拭う。
そこには、先ほどの厭らしい手つきはない。

素早く自信の身体も拭き終えたナトラージャは、手早く自分と直也の夜着を着せる。
そしてまた、直也を横抱きして風呂場を出た。

そうすれば、酒を飲んで談笑していたジルとユアンが、そんな様子を見て立ち上がって近づいてくる。
見られてしまった。
直也は、心配げに近づいてくるユアンとジルに申し訳なくなって目を伏せた。

「どうしたのですか?」
「湯あたりだ。ジルに客室を使わせる。ユアン。俺の部屋に飲み水を」

用は済んだと目的地に向かいだしたナトラージャを直也はぼうっと見上げていた。
ユアンの問いかけに答え、テキパキと支持を出すナトラージャはなんだか本当に王様のように見える。

「ナトラージャ様!」

咎めるような鋭いユアンの声に、呼ばれた本人ではなく直也が驚いて目を見開いた。

ナトラージャは、振り返らずに肩越しにユアンを振り返る。

「何だ?」

いつもより少し冷たい返事に、ユアンとジルが息を飲んだような音が直也の耳に届いた。

「ナトラージャ様…………」
「ナトラージャ様。ナオヤ様は、まだ…………」

何かつっかえたように言葉を切ってしまったユアンの代わりに、ジルが必死のような真剣のような声を発している。

自身の名前が出て、直也は自分の事でこうなっていることにやっと気づく。
しかし、ジルがそれ以上何も言わないので、何の事だかわからなかった。

「俺は何もしていないし、本当に寝かすだけだ」

いつものように低いが穏やかな声に戻ったナトラージャが、そう返してしまって内容がわからないまま動き出す。

――――――ウソつき。

イタズラしたくせに。
まさか、自分が男に向かってそう思うとは…………。
衝撃を受けている直也は、ナトラージャに運ばれていく。

二階の廊下の奥、そこにナトラージャの部屋がある。
実は、ナトラージャの部屋に入るのは初めてだ。

脚が長いのだろう。
すぐに部屋について、ナトラージャが直也をベッドの上に寝かせてくれた。

直也を降ろしたまま―――覆いかぶさるような態勢でナトラージャが動かない。
雲に邪魔されているのか月明かりが無く、表情がわからなかった。

静かな息遣いしか聞こえない。

「ナトラージャ?」

不安を覚えた直也がナトラージャを呼ぶと、髪を梳かすような頭の撫で方をされた。
いつもの子供にするような撫で方と違うような気がして、何か居た堪れないような感覚に直也は少し身じろいだ。

サーッと強い風が吹く音が聞こえ、月明かりがベッドまで脚を伸ばす。

ほんのりと明るくなったことで、真剣な顔で直也を見下ろすナトラージャの瞳と合う。
ゆらゆらと光を揺らめかすその瞳に、直也はそうかとわかったような気がした。

直也をジルに取られたと思っているんだろう。ナトラージャは。
おもちゃをとられた子供のような……そんな感情で自分を膝の上に乗せたり、一緒に風呂に入ったりしたのだろう。
そう考えるとやっぱりまだ子供なんだな、と直也は子供を見るような目で、体躯ばかり大きくなってしまったナトラージャを見詰めた。
そして『取られてないよ』と伝えるように、ナトラージャの頬を撫でる。

すると、ナトラージャはその手に頬をすり寄せて来た。

頭の中で虎が猫の様に自身の手にすり寄ってくるイメージが過って、喉の奥で直也は笑う。
もっと撫でていたいけど、眠い。
瞼が重くなってきた。
精一杯頑張った直也だったが、手がベッドの上に落ちてしまった。

そんな手をナトラージャが名残惜しげに見詰めている。
それが、何とも愛らしくて…………。

『ナトラージャ。可愛い。好き』

感情が、口から飛び出していた。

あれ? と思った時には、瞼が閉じていた。
今、日本語と違う言葉を発したような…………そんな訳ないか。

お休みを言ってなかった。
直也はそう思って重い唇を動かそうとしたが、それはほんのわずかしかできなかった。

――――ナトラージャ。おやすみ。

せめて、心の中だけとナトラージャに眠る挨拶をして。

目を閉じる最後の最後、ナトラージャが目を見開くのを直也は見たような気がしけれど――――。





「おやすみ。ナオヤ」

ナトラージャの穏やかな声が降り、唇に何か柔らかいものが当たった。

何だろう?
その正体を確認しようとした直也だが、わずかに残っていた意識がすうっと眠りの底へ落ちて行ってできなかった。
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