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助けを乞う声
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たすけて。
みえるニンゲンを。
たすけて。
おはなしできるニンゲンを。
地下牢のような、湿った空気を漂わせるその部屋は、一つの燭台によって薄暗く照らし出されていた。
萎れた黒い薔薇の蔦が絡むその壁に、異様な光景があった。
意識を失っている少年が二人、手足や腹などに薔薇の蔦が絡まり括りつけられている。
「うぅっ」
一人の少年が唸り、はっと目を覚ます。
動かない顔に、目だけを動かして自分の事態を知ったその少年は顔を青ざめさせた。
魔導を発動させても、その薔薇は枯れているはずなのにびくともしない。
「ケリー。ケリー」
見つかることを恐れているのか、呟くように隣で眠っている少年―――ケリーを呼ぶ。
「………エフィー?」
聞き知った声の主であるエフィーに呼び掛けられ、ケリーは睫毛を震わせ目をゆっくりと開けた。
起きたばかりで状況がわかっていないのか、ぼうっとした表情のまま辺りを見渡す。
「え……ここは?」
次第に目を見開いていったケリーの不安げな声に、エフィーは「わからない」と答えた。
「魔導を発動させたけど、効かなかった」
そう言うエフィーの言葉に、ケリーも魔導を発動させる。
だが、何も起こらなかった。
「こっちも、効かない」
「そうか……」
冷静に返事をしたエフィーは、意識を失う前の記憶を思い出すように話しだす。
「確か、遅くなってしまった風呂に入った。それで……そう。 神殿の外、柵の向こう側に少年が苦しそうにしていたから近寄って……その後が思い出せない」
「うん。こっちもそれ以上は思い出せない」
こちらも同じだとケリーは、困惑の表情を浮かべた。
それでも、ケリーは身を捩る。
だが、薔薇の棘が幾つも刺さり、ケリーは小さく悲鳴を上げた。
「痛ッ」
「ケリー? 大丈夫?」
「たぶん大丈夫。……血が出てるかもしれないけど」
そう話している内に、深く棘で刺さった手の甲の血は蔦に伝う。
すると、ケリーの顔近くにあった薔薇が、黒から真紅に変わりみずみずしく花弁を広げた。
「薔薇が……」
偶然それを見ていたエフィーが呟き、顔を強張らせた。
「嫌な予感がする」
「嫌な予感って、なぁに?」
何処からかともなく聞こえたどこか甘い声に、二人は目をきょろきょろとさせた。
するとローブを翻し一回転しながら、二人の目の前に突如その人物は現れた。
「まあ、良いか」
フードを被った人物―――声からすると少年が、興味を無くしたように言い捨てる。
そして、赤い唇を三日月型にさせた。
「さあ、僕の糧を……キミ達の精気をちょうだい?」
何を言っているんだと眉間を寄せたエフィー達に、フード被った少年はクツクツと嗤う。
「さあ。最初は、キミからだよ」
そう言って、ケリーへ歩み寄る。
目の前まで迫ったそのフードの少年は、何を思ったのかケリーの顎を掴み口付けた。
「んンっ……ぁっ、あ、あっ……」
苦しそうな、だがどこか媚態を含む声が、フードの少年に激しく口付けられているケリーの口から漏れていく。
「け、ケリー?」
エフィーが呼び掛けたがもちろん返事はなく、代わりにくぐもった息遣いが聞こえる。
聞いたことのないその官能を思わせる口付けの音や声に、エフィーはごくりと喉を鳴らした。
今、ケリーに何が起きているのか、エフィーは横目で見ている光景が信じられずにいた。
妖しく揺らめくフードの少年の白く細い腕がケリーの身体に絡みつき、その触れた場所から神官の黒い服が溶けるように無くなっていく。
それを待っていたように、薔薇の蔦がゆらゆらと蠢きだした。
「ひぃッ」
「エフィー! えふぃいッ、た、たすけ……ぃやあああっ、あっ………」
助けを求める友の艶のある悲鳴に、エフィーは反応できずに目の前を向き顔を強張らせるしかできない。
何故ならば、蔦が自身の服を裂きはじめたからだ。
これは、絶体絶命の状況だと、エフィーは今頃になって気づく。
なんて、自分は馬鹿なのだろう。
自分の鈍さを悔いたが、もう遅い。
―――――ああ! 精霊王様!!
エフィーの助けを乞う声は………。
◆ ◆ ◆
夢であって欲しいと、直也は思った。
自分は、ナトラージャのベッドで寝ているはずで…………。
けれど、先ほど見たことも、今見ていることもリアルだ。
今は、何もなかったような薔薇の部屋。
変わったのは、薔薇が黒から赤へ生き生きとしていることだろうか。
心なしか、花も葉も蔦もつやつやと輝いている。
そこには、エフィーもケリーもいない。
居るのは、フードを被った少年だけだ。
エフィーとケリーがどうなってしまったのか、直也にはわからなかった。
エフィーに蔦が襲ってきたあの後、直也の視界は暗転してしまったからだ。
彼らの行方は――――。
赤く血のような色をした薔薇の意味を直也は、考えたくなかった。
「ふふ……ごちそうさま」
満足げに笑ったフードを被った少年は、徐に後ろを振り返る。
少年のフードの奥にある目と合ったような気がして、直也はたじろいだ。
「それにしても、面白い観客が来ているねぇ。嫌な感じもするけど、美味しそうなイイ匂い」
磁器のような白い腕が、直也へ伸ばされる。
だが、二人の少年の危機の時も拘束されているように動けなかった直也は今も動けず、その場で身体を震わせるしかなかった。
「ああ。本当に、姿は見えないけど美味しそう。ねえ、キミの精気をちょうだい?」
フードの少年はうっとりと呟き、赤い唇に舌を這わす。
白い綺麗な手が、直也の寸前まで迫って来た。
みえるニンゲンを。
たすけて。
おはなしできるニンゲンを。
地下牢のような、湿った空気を漂わせるその部屋は、一つの燭台によって薄暗く照らし出されていた。
萎れた黒い薔薇の蔦が絡むその壁に、異様な光景があった。
意識を失っている少年が二人、手足や腹などに薔薇の蔦が絡まり括りつけられている。
「うぅっ」
一人の少年が唸り、はっと目を覚ます。
動かない顔に、目だけを動かして自分の事態を知ったその少年は顔を青ざめさせた。
魔導を発動させても、その薔薇は枯れているはずなのにびくともしない。
「ケリー。ケリー」
見つかることを恐れているのか、呟くように隣で眠っている少年―――ケリーを呼ぶ。
「………エフィー?」
聞き知った声の主であるエフィーに呼び掛けられ、ケリーは睫毛を震わせ目をゆっくりと開けた。
起きたばかりで状況がわかっていないのか、ぼうっとした表情のまま辺りを見渡す。
「え……ここは?」
次第に目を見開いていったケリーの不安げな声に、エフィーは「わからない」と答えた。
「魔導を発動させたけど、効かなかった」
そう言うエフィーの言葉に、ケリーも魔導を発動させる。
だが、何も起こらなかった。
「こっちも、効かない」
「そうか……」
冷静に返事をしたエフィーは、意識を失う前の記憶を思い出すように話しだす。
「確か、遅くなってしまった風呂に入った。それで……そう。 神殿の外、柵の向こう側に少年が苦しそうにしていたから近寄って……その後が思い出せない」
「うん。こっちもそれ以上は思い出せない」
こちらも同じだとケリーは、困惑の表情を浮かべた。
それでも、ケリーは身を捩る。
だが、薔薇の棘が幾つも刺さり、ケリーは小さく悲鳴を上げた。
「痛ッ」
「ケリー? 大丈夫?」
「たぶん大丈夫。……血が出てるかもしれないけど」
そう話している内に、深く棘で刺さった手の甲の血は蔦に伝う。
すると、ケリーの顔近くにあった薔薇が、黒から真紅に変わりみずみずしく花弁を広げた。
「薔薇が……」
偶然それを見ていたエフィーが呟き、顔を強張らせた。
「嫌な予感がする」
「嫌な予感って、なぁに?」
何処からかともなく聞こえたどこか甘い声に、二人は目をきょろきょろとさせた。
するとローブを翻し一回転しながら、二人の目の前に突如その人物は現れた。
「まあ、良いか」
フードを被った人物―――声からすると少年が、興味を無くしたように言い捨てる。
そして、赤い唇を三日月型にさせた。
「さあ、僕の糧を……キミ達の精気をちょうだい?」
何を言っているんだと眉間を寄せたエフィー達に、フード被った少年はクツクツと嗤う。
「さあ。最初は、キミからだよ」
そう言って、ケリーへ歩み寄る。
目の前まで迫ったそのフードの少年は、何を思ったのかケリーの顎を掴み口付けた。
「んンっ……ぁっ、あ、あっ……」
苦しそうな、だがどこか媚態を含む声が、フードの少年に激しく口付けられているケリーの口から漏れていく。
「け、ケリー?」
エフィーが呼び掛けたがもちろん返事はなく、代わりにくぐもった息遣いが聞こえる。
聞いたことのないその官能を思わせる口付けの音や声に、エフィーはごくりと喉を鳴らした。
今、ケリーに何が起きているのか、エフィーは横目で見ている光景が信じられずにいた。
妖しく揺らめくフードの少年の白く細い腕がケリーの身体に絡みつき、その触れた場所から神官の黒い服が溶けるように無くなっていく。
それを待っていたように、薔薇の蔦がゆらゆらと蠢きだした。
「ひぃッ」
「エフィー! えふぃいッ、た、たすけ……ぃやあああっ、あっ………」
助けを求める友の艶のある悲鳴に、エフィーは反応できずに目の前を向き顔を強張らせるしかできない。
何故ならば、蔦が自身の服を裂きはじめたからだ。
これは、絶体絶命の状況だと、エフィーは今頃になって気づく。
なんて、自分は馬鹿なのだろう。
自分の鈍さを悔いたが、もう遅い。
―――――ああ! 精霊王様!!
エフィーの助けを乞う声は………。
◆ ◆ ◆
夢であって欲しいと、直也は思った。
自分は、ナトラージャのベッドで寝ているはずで…………。
けれど、先ほど見たことも、今見ていることもリアルだ。
今は、何もなかったような薔薇の部屋。
変わったのは、薔薇が黒から赤へ生き生きとしていることだろうか。
心なしか、花も葉も蔦もつやつやと輝いている。
そこには、エフィーもケリーもいない。
居るのは、フードを被った少年だけだ。
エフィーとケリーがどうなってしまったのか、直也にはわからなかった。
エフィーに蔦が襲ってきたあの後、直也の視界は暗転してしまったからだ。
彼らの行方は――――。
赤く血のような色をした薔薇の意味を直也は、考えたくなかった。
「ふふ……ごちそうさま」
満足げに笑ったフードを被った少年は、徐に後ろを振り返る。
少年のフードの奥にある目と合ったような気がして、直也はたじろいだ。
「それにしても、面白い観客が来ているねぇ。嫌な感じもするけど、美味しそうなイイ匂い」
磁器のような白い腕が、直也へ伸ばされる。
だが、二人の少年の危機の時も拘束されているように動けなかった直也は今も動けず、その場で身体を震わせるしかなかった。
「ああ。本当に、姿は見えないけど美味しそう。ねえ、キミの精気をちょうだい?」
フードの少年はうっとりと呟き、赤い唇に舌を這わす。
白い綺麗な手が、直也の寸前まで迫って来た。
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