皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい

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「この専用見積ソフトを使って作業して!それとこれを参考にして条件書もね。今日の15時に提出しないといけないやつだから、よろしく!」

 資料を乱雑に置いたきり、そのまま彼は慌ただしくどこかへ行ってしまった。指示されたアイコンは、何度か使った程度の使い慣れないソフトだった。時刻は13時を過ぎている。残された時間はあとわずか。私は焦りながらも、自作のマニュアルを引っ張り出して、必死に作業に取りかかった。
 いつも心掛けている「丁寧な資料」を作る余裕はない。それでも、できる限り迅速に、正確さを心掛けて作業を終えた。

時刻は14時30分。提出の30分前に、なんとか作業を終えることができた。佐々木さんが私が作成した資料を見て、感心したように目を細めた。

「佐倉さん、ありがとう!おかげで間に合ったよ!幸崎さんは優秀な後輩がいていいなぁ。よかったら今度また手伝ってよ」

 その言葉に、胸の中にじんわり達成感が広がっていく。
 
「いえ、お役に立ててよかったです」

 私が謙遜して答えると、背後から聞き覚えのある、少しだけ低くて甘い声が聞こえてきた。
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