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「……先輩、それゴリゴリのセクハラですよ?」
「えーだってさあ。精神的EDのこちらとしては、他の人が何をオカズにしてるのかって気になるじゃない」
「そんなの気にしないでくださいよ」

 真っ赤な顔ではサマにならないとは思いつつ、口元に手をあて香菜を睨みつけてやるが、そんな創の表情に怯むことなく、香菜の問いかけは続く。

「ねえ、築崎くんさあ。お願いがあるんだけど」
「……はい?」

 この流れでのお願いだなんて、真っ当なものである気が全くしない。身構えながら返事をすると、香菜は急に体をモジモジさせて上目遣いになりながら、創を見つめてくる。

「あのさ、築崎くんにもオススメのオカズってあるよね?それ、紹介してくれないかな?」

 ……さっきからなんなんだこの人は。
 頬を少し赤らめて、潤んだ瞳でお願いする香菜の顔を思わずまじまじと見つめてしまう。

「え、嫌ですよ。そんなん」
「えーなんでよ!」
「えーっていうのはこっちの台詞ですよ。何が悲しくて会社の先輩に自分の性癖晒さないといけないんですか」
「いやそこはまあ、おいておいて」
「おいておけないですってば」
「もうほんと、ここは人助けと思って。なんとかこの通り!この30歳を前にして早くも枯れかけている社畜を哀れに思うならば、現役バリバリ、精力みなぎる築崎くんのお力を1つお借りしたく!!」

 香菜は額を机に擦りつけんばかりに頭を下げる。
 彼女の客先での必殺技、「土下座スタイルでの交渉術」だ。こうなったらテコでも動かないのは、何年も一緒に仕事をしていれば容易に想像がつく。

「だって俺に、なんにもメリットないじゃないですか」
「今なら先輩の私に1つ貸しができるというメリットがあるよ?それにさあ……いつも仕事、手伝ってあげてるじゃん?」

 ここで仕事上のサポートという名の飛び道具を持ち出してくるとは人が悪い。痛いところを突かれてしまったと、創は思わず顔をしかめてしまう。
 しかし確かに自分の案件の納期ギリギリの時に、いつもさり気なく手伝ってくれているのは他ならぬ香菜だった。それは大いに感謝しているところではあった。
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